やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。   作:普通のオタク

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やはりハイキーは悪目立ちし、全てを任せる

部長も決まり、俺とミナは段取りを打ち合わせた。

会場の下見は前日に済ませており、荷物は子どもたちが運び終えているので、後は、始まるのを待つだけである。

会場に集まっているプレイヤーは俺達を除いて40数人。その中にはキリトとアスナの姿もあった。

そんな人々の合間を縫うように歩きながら声を出して歩く。

「ラッシャーセー。会議の間の軽食にサンドイッチ、ジュースはイカッスカー」

深夜のコンビニ語を交えつつ、会場を由比ヶ浜が作った料理を売りながら歩く。というのが正確なところだ。

なんだこいつ。という視線が半分、その手があったかという反応がもう半分といった具合だが、なかなかに売れ行きは良いほうだと思う。

「ハイキー。こっちも頼むよ!」

周囲に俺の名前が聞こえるような声でキリトの声が会場に響く。

これで俺という個人の名前が薄っすらと広まったことだろう。少なくとも、商売ッ気のあるプレイヤーが居る程度には。

当然、これは演技であり、キリトには事前にショートメールを送っておいた。一種の売名行為だ。顔見知りということもあり、快く承諾してくれた。

「毎度ー」

オブジェクト化されたコルを受け取りつつ、サンドイッチとジュースを1つずつ渡す。勿論、ジュースの容器の中に受け取った額より少し多い額のコルが隠してある。手間賃だ。

キリトへの受け渡しを終え、俺は少し驚いた。

キリトの隣のフードを目深に被ったプレイヤー……アスナも、おっかなびっくりといった様子でだが手を上げているのは先ほどの邂逅を考えると態度が柔らかくなったと思う。

「いくら?」

「あ、ああ。単品ずつのセットで300。サンドイッチ2つなら400だ」

アスナから400コルを受け取りつつ商品を渡す。

由比ヶ浜が作った……と言えば個人的には超不安だが、雪ノ下が側で作る姿を監修していたのを俺は知っている。しかもこのゲームの料理は手順が大幅カットされているらしく、あれなら由比ヶ浜でも失敗することは……少なくとも今の段階で作れる料理の中では……ないだろう。

受け取ったアスナは少し躊躇いながらもサンドイッチを口に運び……すごく嬉しそうに二口、三口と食べ進めていた。なんか動物を連想する食いっぷりで可愛い。

会場を見渡すと、そこら中で同じような光景は目に映る。食事に飢えてるのはこのゲームのプレイヤーで共通の事項なのかもしれない。

そんなことを考えていたらそろそろだと判断したのか、重装甲のゴテゴテした鎧を着たプレイヤーが前へと出る。

イケメンなので会場にどよめきが走ったが、俺は気にしない。イケメンに動じるようなボッチではない。それよりもどこかで見たような顔だという方が気にかかっている。少し考えてみるが……思い出せない。だれだあれ。

そんなことを考えているとその男が会場によく響く声で宣言する。

「奉仕部の人ごちそうさま! 美味しかったけど、攻略目的じゃないなら少し下がってくれ! 他の参加者はもう少し前に……そこ、もう3歩前に出ようか!」

どうやらあのイケメンはこの会議の主催者のようだ。アルゴから情報は買っていて名前は事前に知っている。たしかディアベル……だったか。この情報を買った時もどこで聞いた名前だったのか、首をひねった覚えがあるが、どうにも思い出せない。

ともかく、戦闘員以外は下がっているようにと言われたが用事があるのだ。そうも行かない。

俺は商売道具をストレージに収納してメンバーに加わった。

 

 

✕ ✕ ✕

 

 

「ちょお待ってくれへんかナイトはん」

ナイトを自称するディアベルの演説を聞き流していた俺の耳にダミ声が混ざる。

協力を呼びかける流れに一波乱。という流れはライトノベルや少年漫画でよくある雨降って地固まるの流れを踏襲してるとは思うが、これは現実。そんな策略が……自作自演以外であるとは思えない。

つまり、あの高潔な騎士様(大爆笑)とこの関西弁のサボテン頭はきっと関わりないだろう。

そう判断し、こちらも立ち上がる。

必然、こちらにも注目が集まるので、会場に聞こえる声量で、関西弁の人に言う。

「関西弁の人。要件は先に済ませてくれていい。こちらは別に会議の後でも良かったが、途中で介入していいのならと思って立ち上がっただけだ」

俺が攻略組の面々の前に立つのを合図に、物陰に隠れていた子供プレイヤー……そのうち、森の秘薬クエストをクリアした6人を代表として連れて来ている……と、雪ノ下、由比ヶ浜が様々な武器の詰まった箱を持って俺の隣に並び、床にそれを置いていく。

どうしても注目を集めてしまうのは仕方ない。

黙りこくってしまったトンガリコーン頭に対し俺は「どうぞどうぞ」とトリオ芸人の用に手を向ける。ディアベルもグダグダになった雰囲気に苦笑いを浮かべているが、特に口を挟まない。

お、おう。と戸惑った様子ながらも、トンガリ頭は咳払いを一つしてから、再び口を開いた。

「あー……ワイはキバオウってもんや。ここにいる面々と仲間として肩を並べる前に、ハッキリさせんとかんことがある」

ここまでいうと、その目つきは鋭く変わる。本題に入るのだろう。

その鋭い目つきで会場を……敷いては俺達の事も時間をかけて睨めつける。子供が怯えるだろうがこら。

俺のそんなヘイトを乗せた視線に怯むこともなくそのまま続いて言葉を作った。

 

「こん中に、五人か十人、ワビぃ入れなあかん奴らがおるやろ」

 

一瞬、何を言ってるのかが分からなくなる。

周囲の理解が追いついていないのを冊子てか、あるいは本人もわからなかったのか。ディアベルはキバオウに声をかけた。

「詫び? 誰にだい?」

この疑問に対して鼻を鳴らし、さも当然だというように、キバオウは口を開く。

「はっ、決まっとるやろ。今までに死んでいったニ千人に、や。奴らが何もかんも独り占めにしたから、一ヶ月でニ千人も死んでしもうたんや! 違うか!!」

……ああ、そういうことか。

キバオウの怒りの矛先が向いているのはベータテスターに対してだ。

全てを独占し、うまい汁を吸い、生き延びようとする……そんなことを可能とする「情報」という特権を持っている存在を。ここでどうにかその優位性を剥ぎ取りたいのだろう。

 

なんて都合のいい展開だろうか。

 

「待った」

「またお前さんかい! なんや!」

俺は一切の躊躇なく言葉を挟んだ。さすがに二度目となるとテンションが上がっていたこともあってか怒鳴られるが気にせずに前に出る。後ろに立つ8人は予定とは違う展開にもう、なに? すっごい俺を睨んでる。後で軽業スキルを最大限利用した芸術的な土下座を披露するしか無いですねこれ。

「いやな。ベータテスターに対してどんな謝罪を要求するかわからないが……それは見当違いだ」

「なっ……!」

一切の躊躇なく断言する。全くの、見当違いと言わなかったあたりが少しは肯定しているのだが、そこ含めて説明せねばなるまい。

「出だしはそうだろう。だが、攻略開始から一週間ちょっとの時点で俺達の集まりはもう動き出してるんだよ。全体の戦力値をプラスにするために。情報の伝達をより早くするために。より多くの死者を出さないために」

言いながらアイテムストレージから本を取り出す。

アルゴの作ったアインクラッドの情報書、通称、鼠のガイドブック。

「これの出版に、俺達は情報屋と提携を結んでいる。より早く、より正確に。出版にかかる費用の殆どを負担して、無料配布できるようにな」

視界の隅でキリトがガタリと動揺していた。アルゴはフロントランナー用に署名版を作るとか言っていたからたぶんそれだろう。合掌。

内心で哀れみつつ、言うべきを言い切るために思考を切り替える。

「それだけじゃない。一番分かり易いのはホルンカの村での行動か。なぁ、この中にも居ると思うが、アニールブレードを今ここにいる子供プレイヤーから貰った奴。いるだろ」

俺の呼びかけに、互いに視線を合わせるプレイヤー達。何人かはその場で頷いたのを確認する。

あと一押しだろうか。そう判断し、口を開く。

 

「今あのクエストをクリアするのには一日ほど費やす。分かるか? それを代替し、先に動いたベータテスターとの格差……時間というリソースの壁を少しでも短縮し、戦力として均等にする。俺達はその為に動いているんだ。確かにベータテスターに罪はある。だが、奴らは俺達の組織という時短かつ安全確実な手段を持たずに、もはや現実となったこのアインクラッドという未開地を切り開いた功績もある」

そのことを忘れるな。

そう言って、キバオウを黙らせる。このまま、イニシアチブを手放さずに話を進めたいが……主役は主催者だ。一度主導権を返す。

「すまんな」

「いや、なに。君達の事は知っている。だけどガイドブックにまで手を回していてくれたとは知らなかった。ありがとう」

ディアベルが手を差し伸べてきた。が、その手を取るのだけは出来ない。

ここで手をとっては、俺が代表という印象が……でしゃばり過ぎた分も含めて、確定してしまう。

だが、このでしゃばりの理由を……功績を。全て一人の人間に擦り付ければ……しかもそれが、年端もいかない少女であるなら。

 

人は、どういった感想を持つだろうか。

 

「俺達は子供の保護をしただけだ。その後の展開は、全部、あの子の意思を組んでやっている」

「あの子?」

ディアベルの疑問を聞き、後ろにいるミナを手招きで呼び寄せる。

合図を受け取り、ミナは全員の注目を浴びる最前に姿を出し、頭を下げた。

それを見て、俺は後ろに下がり、雪ノ下達と肩を並べる。

「あなた、ミナさんを支えなくていいの?」

「ああ」

雪ノ下の疑問に対し、俺は一つしか解答を持っていない。

「ミナとの段取りはしたが、それは全てより多く注目を稼ぎ、興味を稼いだことで壊した。これで段取りは意味を成さない」

故に、俺の手伝いは意味が無さなくなる。

事前に考えたスピーチも意味がなくなる。

つまり。

「全て、ミナの言葉と熱意にかかっているわけだ」

奉仕部が主導するなら俺が支えた。だが、ギルドマスター……部長はお前だ。ミナ。

小さな背中を見つめつつ、俺は耳を傾けた。

 


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