やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。   作:普通のオタク

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ハイキー、スノウは片手剣の変態と出逢う

結局、その日の間には件の迷宮ヒッキー(仮称、命名は俺)を見つけることは叶わなかった。

夜は俺達二人のレベルでは苦戦するモブもPOPし出すこともあり、夕方にはトールバーナの街に戻った。

由比ヶ浜や子どもたちに要らない心配をかけるわけにも行かず、長時間出かけていた事情を説明。由比ヶ浜はカンカンに怒ったがなんとか説得することが出来た。

その説教で雪ノ下が目で見えるほどに狼狽していたのでやはり安定の百合ップルだ。お似合いだよホント。

子ども達には……いい機会なので指示出しまで含めて自分たちで2,3グループに別れて半日ほど狩りをしてもらうことで決まった。

あくまで素材集めがメインなので無理はしないと思うが、不安だ。

一応リーダーとして指名したのはシリカ、ミナ、ケインの3人。ここに補佐として森に最初に足を運んだ残りの3人を配置したので、大問題には発展しないことだろう。

それくらいには、成長している……筈だ。

明日からはどこの迷宮を何時から捜索するかだけを雪ノ下と話し合い、その日は床についた。

眠りにおちるまでの時間でふと、MAXコーヒーを飲まずに一月が経過と考えてしまい、ホームシックに陥りそうになったが、一日でも早く飲むために攻略は必須だ。今はあまり考えないようにして、布団を深く被った。

 

 

✕ ✕ ✕

 

 

俺とスノウがトールバーナから50分くらい……敏捷メインである俺達が体力を気にせずにスペック任せに急いで走れば半減くらいはできるだろうけど……の位置にある迷宮に向かおうと足を運んだのは翌日の昼過ぎくらいになる。

アルゴの情報によればこの迷宮はあまり詳細にマッピングされていないようだ。

時間的にここのマッピングと捜索を終えるのが精一杯だろうとそのつもりで訪れたが、異様な光景を目にして俺と雪ノ下は足を止めざるを得なかった。

ダンジョン付近の森で一旦休憩しようと開けてる場所をアルゴの地図に従って探した所……。

 

なんか、灰衣装ずくめの剣士が寝袋引きずってこの広場にやってきた。

 

俺と雪ノ下は思わず足を止め、その様子を凝視する。

相手も気配探知のスキルを持っているのか、このエリアに入ってすぐにこちらのいる方向に視線を向け、剣に手をかけている。

「誰だ」

鋭い声は、外見から思わせる年齢とはあまりに一致しない。構えもムダがなく、洗練されている。俺とは違い、戦えるプレイヤーなのだろう。

だが、そんな警戒心バリバリの立ち回りも……一点を横目で確認するとシュール以外の何物でもない。

思わず、口からポツリと本音が漏れる。

「寝袋引きずってる不審者に誰だって言われてもなぁ……」

「なっ!? ちょ、ちょっとまってくれ! これは誤解だ!」

不審者が必死に何か言い繕い始めた瞬間、俺達の間に生まれたシリアス空間は瓦解した……

 

そのように、思った瞬間が俺にもありました。

 

隣に立っていたはずの雪ノ下が一目散に駆け出し、その手に握るウィンドフルーレ……この階層で手に入るレイピアではかなりの上物だ……によるソードスキルを繰りだそうとしていた。

 

「待て、スノウ!」

俺が静止の声を出すよりも早く、片手剣の男はアニールブレードを構え、スノウの<<リニアー>>を弾き、後方に飛ぶ。

俺は真っ先にスノウのアイコンを確認するが……よかった。黄色に変色はしていない。

これはそれだけ男のプレイスキルと装備が上ということ。あとはレベル差だろうか。

つまり、総合的にこちらの技量が劣っていることを示していた。

しかし、スノウはそんなことを気にする様子もなく片手剣の男が距離をとったため無防備となった寝袋のプレイヤーに視線を向ける。

一瞬、驚いたような表情をした。しかし、即座に切り替え……むしろ更に怒気を強めて片手剣の男を睨みつける。

「ハイキーくん。二人がかりで捕縛するわよ」

「待て。たしかに不審者だが事情がわからん」

雪ノ下と片手剣の男の間に立ち、互いに落ち着くように手を伸ばす。

対して雪ノ下は武器を収める気配も見せず、寝袋の中身を指差した。

「なんだってん……」

釣られて目を向ければ、とても疲れた様子で眠る……どことなく、雪ノ下と似た雰囲気の女性プレイヤーが熟睡していた。

思わず頷いてから一言、あー、とか、うんとか口から漏らしてから俺も結論を出す。

「……これはギルティだわ」

「ま、待て! 落ち着け誤解だ!」

「どこの世界に眠っている女性を寝袋に押し込んで、わざわざ安全圏である街から遠く離れて、かつ敵の居ない安全圏に運ぶ紳士が居るのかしら」

言い逃れのしようがない。状況証拠は完全に揃ってしまっている。

未だに言い逃れしようと口を開こうとした片手剣の変態に、俺は精一杯の温情で声をかける。

「押してダメなら諦めろ。誤解は、もう解が出てるから解けないんだ」

「頼むから、話を聞いてくれ!」

アニールブレードを地面に置いて……それはそれはとてもキレイな土下座をする男の姿が俺達の目の前にはあった。

 

 

✕ ✕ ✕

 

 

片手剣の男……名をキリトと言うらしい。

そのキリトの言う言葉が真実だとするなら、俺達はとんだ誤解から襲撃を仕掛けたことになる。

なんでも、この寝袋で寝ているプレイヤーこそが俺達の探す迷宮ヒッキーこと雪ノ下の探していたプレイヤーらしい。

迷宮の最深部近くでソードスキルの使いすぎによる精神疲労からぶっ倒れたのを放置するわけにも行かず、キャンプ用の寝袋を使って運んできたというのだ。

もし本当なら、ではあるが。キリトはむしろ、彼女の命を救ったヒーローということになる。

「ごめんなさい。女性プレイヤーに発情した変態だと……」

「いや、確かにこっちも誤解されても仕方なかったけど…………なぁ、これは謝罪されているのか?」

こちらに困惑した様子で問いかけるキリト。謝罪してるんですよこれでも。ただ基本毒舌なんですこの人。

しかし……俺は一つ気になることがあり、キリトを見る。

「……アルゴはこういった豆知識は披露していない。なぜなら、PKなどの悪用を避けるためだ。自力で発見したにしては、お前はこれを検証する知り合いが居ないように思える」

後者はこんな迷宮に一人で潜ろうとしていたという自供からの推測と、ボッチ特有の感覚からだがあながち的外れでもないと思う。つまり。

「……お前はベータテスターか」

俺の一言に、キリトは所在なさ気に視線を逸らす。つまり、暗に肯定したということになる。

「勘違いするな。責めるつもりはない。最前線付近にいるのだからむしろ攻略する側で居るんだろ。だったら、俺達にとっては心強い相手だ」

言いながら、ストレージから自己紹介がてらに以前作ったチラシのあまりを取り出す。

キリトはそれに目を通すと、見覚えがあるのか「ああ、あのチラシの……」と呟いた。

迷宮のモブからこのプレイヤーを守りつつ、危険を犯して救出してきたことと言い。基本的に善性なのだろう。こういった相手を支援するつもりの俺としてはとても……心から思う。とても、報われる話だと。

こんな危機的な状況にとらわれても諦めず前に進むプレイヤー。

その存在は俺達にとって、とても心強いものだ。

 

そんなことを思っている間、雪ノ下は寝袋のプレイヤーを凝視している。あの……? 雪ノ下さん? 雰囲気ってものがですね? 普段空気読まずに台無しにする側ながらも、さすがにこればっかりはちょっと引いた。


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