やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。 作:普通のオタク
襲われないように、軽業スキル全力で樹から樹へと飛び移る。
そんな移動手段をとっているのは試験に影響を出さないためだが、追跡には不向きだと確信したのはつい今だ。
地上を自由に動くのと、限られた条件で跳ねまわるのでは前者のほうが移動速度は上。
結論を言えば、二人は俺より大幅に前に出て戦闘を開始していた。
そして無茶な戦闘を繰り返す以上、いつ起きても仕方がない懸念していたことがとうとう起きてしまった。
ジンのスモール・ソードが折れる破壊エフェクトが響き、光の粒子が空宙に流れていく。
ジンの動きが止まる。
何が起きたのか、現実を認識するための一瞬の硬直。驚きのために生まれる硬直。
そして、敵はそれを待つほど甘くはない。そんなに甘い世界ではない。
横から振るわれるのは<リトルネペント>の鞭。
それが直撃し、ジンの体が衝撃で吹き飛ばされた。
「ジン!」コッタが声を上げ、駆け寄ろうとする。
「バカ! 前を見ろ!」
コッタに怒鳴るように声をかけつつ、木から飛び降りる。
コッタは俺の怒鳴り声に気が付き<リトルネペント>に向きあおうとするが、もう遅い。
<リトルネペント>の口から吐き出された溶解液をモロに浴びてしまった。
コッタからも破壊エフェクトの光が発生する。
「っ!」
それを見て、一も二もなく俺は<リトルネペント>に<<ピアース>>を叩き込んだ。
痛みに怯むアクションを一瞬だけした後に、振り返りざまにつるのムチを振るってくる。
後方に跳躍……だめだ。間に合わない!
その一瞬の判断で、俺は動く機会を失った。
蔓が風を切った音が聞こえ、俺の体を叩いた音が、夜闇に覆われた森で木霊した。
ペインアブソーバーが働いてるので痛くはない。
だが、痛みはなくとも衝撃はある。どこまでもリアルに作られているゲーム故のことだ。
俺は振るわれた鞭の衝撃で<リトルネペント>と若干の距離を開けることに成功した。
が、今はそれよりも優先することがある。
「ジン! コッタは!?」
そう、溶解液をモロに浴び、光のエフェクトを散らせたコッタ。その安否こそが再優先事項だ。
しかし、俺の問いかけに応えたのはギンではない。
「だ、大丈夫ですけど……溶解液で、防具が!」
コッタ本人だった。本人の言葉から察するに、削りきられたのはHPではなく防具だったようだ。それに俺は思わず安堵し……
「無事だったか……。だったら、まずはこいつを倒すぞ」
即座に切り替え、指示を出し、横目で二人の様子を確認する。
コッタは酸の直撃による絶大なダメージと不快感。そして、防具の喪失という状況が悪化する要因の3連続を受けまだ冷静になりきれていない。そのまま武器を手に取り、構えている。
対して直撃を受けていないはずのジンはコッタよりも躊躇しているのか、武器こそ装備し直しているようだが返事がない。
混乱しているのだろう。無理もない。
だが、いつまでも混乱されていても困る。
「…………怖いか?」
仕方がない。ガラではないが、必要なことだ。
<リトルネペント>のターゲットがこちらに向くように刺さずに斬りつけ、すかさず距離を置く。
短剣が単発で与えるダメージ量は他の武器より著しく低い。連続で、手数で責めない以上、<リトルネペント>を俺が倒すにはそれなりに時間がかかるだろう。
故に、その間に声をかける。
今、ここで乗り越える必要が有るのは、目の前の恐怖で脚をすくませてしまわないことだ。
アルゴが、俺達に課した条件。
それは子ども達の成長をその眼で見極めるという意味が強い。そのための森の秘薬クエストの6人パーティーでの……つまり、協力してのクリアが条件にされたのだから。
別に、連続成功の方は失敗していいのだ。
こちらは、俺が無理にねじ込んだ内容なのだから。
しかし、今のままでは片方のクリアもおぼつかないだろう。
恐怖に臆さず、一人前にプレイヤーとして戦えるようになることが……遠回しながらだが、アルゴが出した条件なのだから。
なら、今、この時にその条件を満たしていけない理由はないだろう。
課題の期日こそ今回のクエストに合わせてあるが、クエスト途中で成長しちゃいけないということはないのだ。故に、だからこそ。
ここで、『俺達』は一歩を踏み出せなければいけないのだ。
後2話で森パート終えて行けそう(慢心
現在、作中時間は2016年1/3日(メモ
攻略会議はWiki曰く1/6日サービス開始で12/2日に開催なのでサービス開始から26日後。
こちらの世界だと1/22日。
はたして、奉仕部の活躍で攻略期間はどれくらい縮まるのがバランスいいのか、こればかりは書き進めないとわからない。