やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。   作:普通のオタク

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こうして、奉仕部は業務を開始する

ミナの説得から3日目……つまり、ゲーム開始から5日目のことだ。

さすがに宿に籠もるだけでは何も進まないとわかったプレイヤーや、冷静になったベータテスターが街を出て狩りをする姿が結構な頻度で見えるようになっていた。

俺達がこの3日間で行ったことはそう多くはない。

ミナを含めて4人となった俺達は、2チームに分かれての行動をとった。雪ノ下とミナ。俺と由比ヶ浜で別れての行動である。この分け方の理由は単純で力量別以外の理由はない。

午前は俺が由比ヶ浜の指導をしながらレベルを上げ、その間に雪ノ下とミナが街の子供を探す。午後になったら交代し、俺と由比ヶ浜がビラを作り、宿屋などに張り紙として掲示する。

そのついでに子供プレイヤーを探した。

予想外の働きをしたのは他でもないミナだ。

同じ子供の視点から、発見したプレイヤーへの説得をしてくれる彼女のお陰で着実に人手は集まりつつあった。

 

だが、それは同時に俺達に別の問題をもたらしている。

 

「収入が足りねぇ……」

二人も俺と同様のため息を俺の隣席で漏らした。

給料を高めに見積もりすぎたというのもあるが、なによりも子供プレイヤーとの合流が早いのが痛い。現在その人数、なんとミナ含めて11人。しかも着々と増えつつある。

ミナに話した給与条件で、まだ増えるとして15人で計算し、さらに俺達の宿代も含めると……えっと、15000コルのー、契約金4500コルのー、……一月30日で計算して3人で1000コル前後。契約金を考えると今月は20000コル、以降一月あたり15000コルは収入が欲しい。

ワーム1匹30コル。子供たちに指導するためにPT組むと金は自動分配で6人パーティーだと……5コル。効率のいい狩場を使えるようになるまで鍛える期間を考えると血反吐が出そうだ。早いところ鍛えて森の秘薬クエストとやらをこなせるようにならななければ……。報酬の武器の大量入手と、クエストによる経験値獲得。そして大量に戦う必要のある<リトルネペント>とやらのドロップやコルのために。

そう重い、再びため息をつく。

こうなった原因を撒いてしまったのは他でもない、俺達自身なのだから泣けてきた。

 

順を追って、どうしてこうなったのかを考える。

 

まず、一番の原因は宿屋に貼り付けたビラであった。

部屋を出てきた子供プレイヤーが自分から接触してきたり、ビラを見た、外に出始めた良識あるプレイヤーが子供を連れてきたり……といった積み重ねた努力と良識ある人の善意が俺達の首を絞める用な状態になってしまっているのだ。働くと仕事が増えるとかなにそれマジブラック。

 

幸いなことに、子供たちの中には数人ほど、戦闘に適正のある子も居た。

特に目覚ましいのはシリカという子だろう。同じ短剣使いとして今は俺が監督役をしているが、狩ることに抵抗が無いというのが大きかった。

なにより、天使である。

俺の目を見て怖がりはしたものの、すぐに良い人と認めてくれたし。他の子が誤解しないように気を使ってくれたりまでしてる。妹天使小町、永遠の天使戸塚と並べても遜色のない天使っぷり。このデスゲームで汚してはならない物に違いない! いや、まぁ年月は残酷だからこの天使っぷりもいつか消えるかもだが。うん、監督役してる間は守ろう。

今はその適性の高い子たちを軸に少し遠出の狩りを行い、金欠を解消している。

俺と由比ヶ浜の担当はその戦える子供たちだ。連携とかの技術とかの指導がメインになっている。

 

「スイッチ、いくよ! ギン君!」

「ハイ!」

由比ヶ浜がそう言うと片手直剣ソードスキルで宙を飛ぶハチ型モンスターに一撃を入れ、後方に下がってきた。

それと入れ違いにギン……新しく入った少し年長の子供プレイヤーが片手直剣の突進系スキルで攻撃に入る。

無事にスイッチを終えたのを横目で確認しつつ、自分の班のメンバーのステータスを確認。こちらも問題はないようだ。

「シリカ、お前は次はスイッチを受けて突撃する側だ。タイミングをミスるなよ。ジンはもう少し落ち着いてスイッチする隙を作れ。毎度毎度雑だぞ」

「ハイキーさんよりは成功してますから!」

「はーい……」

頬をふくらませてシリカが言う。可愛い。大してジンはしぶしぶといった感じだ。可愛くねぇ。ソロで倒せると分かっているだけにこういう連携行動を不満に思っているのだろう。アルゴの懸念する力を持って調子に乗る子供の代表といったところだ。

 

今練習しているのはPOTローテと言う、回復にかかる時間は後ろで下がって他の人に前衛を任せる集団戦闘の練習である。そのため、攻撃力が少し高く、その上毒を持つハチ型モンスターの相手をしていた。

ハチ自体は耐久力が低いモンスターなので1回スイッチするくらいで戦闘が終了するため、現在はお互いに視認できる距離で3:3のチームに1PTを分けて練習をしている。

宙を飛んでいるので攻撃は当てにくく、難易度は割と高い。

練習にはちょうどいい相手と言えるくらいの難易度はある相手と言えよう。

 

今現在の俺のレベルが4、雪ノ下も4で由比ヶ浜が3。シリカ達が2。俺としては安全に狩りが出来る範囲だが、子供たちからしたら同格の相手。少し危ないところである。

それでも適正が高かったり、好戦的だったりする面々は喜び勇んでハチに斬りかかっていた。

「……よくやるなぁ」

思わずそう漏らしてしまう。どれだけ頑張っても攻略組に参加する気はないことは既に説明してあるのだ。このモチベーションをどうやって維持しているのか、少し気になるところである。

そんな調子で今日の狩りを終え、始まりの街に戻る。ビラ配りなどはしばらく停止、子供探しも止めておくという結論が出たので、このメンバーはその他雑事を……金策とか、適正低い組の指導とかを任せることにした。

俺達、奉仕部3人はアルゴに用事があるしな。

 

✕ ✕ ✕

 

「3日ぶりだナ、腐れ目」

「おう、鼠。今日もいくつか頼むぞ」

そう言ってコルを渡し、現状を伝える。

アルゴは、暫くはおとなしく聞いていたが、話が一段落した当たりで茶々を入れつつ情報を渡してくる。

俺達とアルゴの会話はいつもこんな感じである。

「腐れ目、お姉さんが悩みを解決してやろウ」

そう言うと始まりの街のマップを取り出し、いくつかのクエストと……教会の位置がマークされているそれを紙にする。

「これは?」

「一泊あたりの宿代は高いが、コルを支払うことで宿泊施設として使える場所があル。教会はその一つなんダ。人数が増えたら宿よりは安く済むし教えようと思ってたが、思ったよりも早かったナ」

ニャハハと、笑いながらアルゴが言う。

「気になるお値段は?」

「ナント、1日全部の部屋を貸しきって100コル。身を清めるとか教会らしい機能付キ」

瞬間、俺の近くの女子勢がガタリと反応した。

やっぱり、気にしてたのね……まぁ俺も現代日本人として気にはしていた。

「……助かる。これを理由にあいつらの給料も宿代分必要なくなったからって下げれるし、なによりあいつらに集団生活送らせて生活の管理もできる」

「ヒッキー小狡い!」

「その分食費に回すだけだ。人聞きの悪い事を言うな」

事実、食事は重要な問題だ。

この世界に……少なくとも一層には娯楽はほぼ存在せず、食事だけと言っても過言ではない。

故に、食事というのはモチベーションを維持するのに必要不可欠なのだ。断じて、MAXコーヒー並の甘さを満喫したいだけではない。

「ついでにウイの調理スキルを鍛える修行にもなるしな……なるよね?」

「私がしっかり監督しておくから、安心してちょうだい」

「ヒッキーもゆきのんもひどい!」

二人が談笑に入ったのをスルーして、俺は再びアルゴを向く。

「で、以前出された条件についてだが……そろそろやってみようと思う」

アルゴは……アルゴだけではない。他の二人も、その言葉に表情が固まる。

「もうそこまで戦えるようになったのカ?」

「基本的な連携は大丈夫だから、あとは以前教えてもらった通り、実付きに警戒だな」

アルゴが俺達に情報を売った際の条件。それは、森の秘薬クエストを『子供たち6人のパーティーで』成功させることだった。

俺達が金欠に陥ってまでメンバーを集めたり、子供たちの連携を再優先した理由はそこにある。いわば、これまでのは無事に子供たちを俺達が集め、育てられるかのテストであった。

 

先ほどの談笑の雰囲気が消え、全員が沈黙する。

俺はアルゴの返事を待つ必要があるし、由比ヶ浜と雪ノ下も子供を死地に送り込むのには抵抗があるだろうし、勇気が必要なのだろう。

葛藤していた二人よりも先に沈黙を破ったのはアルゴだ。

鼠はため息混じりに頷く。

「分かっタ。明日移動して明後日テストにすル。パーティー6人の編成はそっちの判断でナ」

「了解だ」

 

その夜、俺達は子供たちに一時的な引っ越しと、二日後に受ける初めての本格的なクエストを……その詳細の説明をした。

奉仕部の本格始動まで、あと少しだ。




次回が零章最後だと言ったな。あれは嘘です。

イベント一つ忘れていたわけではありませんよ?(眼そらし

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