やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。 作:普通のオタク
身から出た錆、と言う言葉がある。この言葉の由来は、刀身そのものから生じて刀身を腐らせる錆を示すものであるらしい。
また、錆とは金属の表面の不安定な金属原子が環境中の酸素や水分などと酸化還元反応(腐食)をおこし生成される腐食物(酸化物や水酸化物や炭酸塩など)の事である。中学生レベルだからここまでは分かる人も多いだろう。
つまり、身から出た錆という言葉は『何かが発生したにもかかわらず、何もしなかった結果問題が発生して損をする』言葉として扱うのが正しい筈だ。
だが、辞書を引くとこう書いてある。
自分の犯した悪行の結果として自分自身が苦しむこと。自業自得。
ここに俺は異を唱え、同時にある言葉を提唱することでこれをこの作文の締めの言葉としたい。
「……後悔、先に立たず。次はもっとうまくやって見せる……ねぇ。おい腐れ目、お前にオレっちは反省文要求したんだが、なんだコレ」
「だから反省文だろ。自分のやったことを省みて、次からの失敗を潰すのが反省だ……圏内では殴ってもHP減らないからいくら殴りかかってきてもムダだぞ?」
「知ってるヨ! でもやらずにはいられナイ!」
内心、フィードバックにビクビクしながらも俺はアルゴと交流をしていた。
贖罪のために手伝いをしていて寝てないのもあり正直なところ、頭は全然働いてないが……まぁ大丈夫だろ。お互い様だし。
ちなみに腐れ目とは俺の愛称らしい。ただの悪口だろふざけんなよ……目のこと言われるのは慣れちゃってるけど。
現状を整理しよう。
デスゲームが始まって二日目。俺、ハイキーは情報屋であるアルゴの手伝いでこの広大な始まりの街のクエストや、店で売ってる商品のリストアップを徹夜で行っていた。
なぜこのようなことをしているのか、それは初日。俺が雪ノ下と由比ヶ浜の二人と合流するために情報屋とベータテスターをエサにしたためである。
アルゴを始めとした情報屋と話をしていたプレイヤーが騒ぎに便乗して本人を補足。捕えて情報を吐かせようと半狂乱状態で詰め寄ったらしい。
もっとも、そのほとんどがハラスメントコードの生贄となり現在は牢の中だそうだ。おお、こわいこわい。
そんなパニックで遅れた情報収集の手伝いが元凶である俺に課せられたのは至極当然と言えよう。俺が贖罪した旨はアルゴが横のつながりで広げてくれるというし、リスクに比べれば安いものだ。
課せられただけのペナルティ分はだいたい働き終えたところで、俺にとっての本題を話すために朝食にしようと提案をした。
アルゴも承諾したので、雪ノ下と由比ヶ浜の二人とも合流して現在は4人。比較的安くて美味い店にアルゴの紹介で集まったところである。
店の紹介料として代金は俺持ちになったが……まぁ、いいだろう。
「まずは昨日決めた方針に関して、進捗等を報告するぞ」
そう言って昨日宿屋でやったようにインスタントメッセージで箇条書きにしていく。昨日との違いは送信相手にアルゴも加えていることだ。情報屋の意見は大切であるので、俺としては今後も積極的に利用していくつもりだ。
内容は次のとおりになる。
・当面の目標:攻略組、始まりの街のプレイヤーの支援による擬似的な奉仕部活動。ただし、始動までに相応の準備が必要
→案あり。詳しくはアルゴから情報を買ってから話を進める。
・実際の行動:レベル上げを近辺でしつつ情報収集。奉仕部の活動のためにもいろいろな武器を使って行うべきか
→後半、1の案と合わせて解決できるかもしれない。
・前提条件:安全第一。絶対に死なないこと。→維持。
「……オイ、腐れ目。奉仕部活動ってなんダヨ。イヤらしいことか? 腐れ目ハーレムにオイラを加えるつもりカ?」
「ちゃんと説明する。部長が」
「速攻で人任せだ!?」
雪ノ下に丸投げしたところ、由比ヶ浜が即座に反応してツッコミを入れた。
いつも通りの俺の言動に呆れてか、雪ノ下も頭を抱えているがこれを華麗にスルー。
俺は再びインスタントメッセージを書き進める。
その間に雪ノ下は奉仕部がどういう集まりなのかの説明をアルゴにした。
雪ノ下の簡潔な説明を聞き終えたのか、アルゴが何がおかしいのか笑いながらこっちを見てくる。なんだよ止めろよボッチに視線を向けるなよドモるだろ。
そんなことを思いながら、再び書き溜め終えたメッセージを送信する。
内容は以下の通りだ。
情報屋に聞きたいこと
1:効率のいい金策ポイント。
2:第一階層における武器分類の中での最高性能武器と、それの強化素材
3:攻略狙いのプレイヤーの情報(特にこれは常に最新の物がベスト)
「まぁこんなところか……二人は何かあるか?」
雪ノ下と由比ヶ浜に視線を向ける。
二人は顔を見合わせ少し首をかしげるが、特に思いつかないようだ。
対してアルゴは顎に手を当てて少し考える素振りを見せ、顔をこちらに向ける。
「答えてもいいケド……なんに使うつもりなんダ?」
アルゴの疑問に同調して、二人も顔をこちらに向けてくる。
……まぁ攻略を狙わないと言ったプレイヤーがこんな情報をなぜ欲しがるのか、と言う疑問は確かに一番に浮かぶものだろう。
攻略しないのであれば、俺が要求したようなリソースも情報すらも必要ではない。
金銭面も宿に泊まる程度の金を稼げれば上等だ。
だが、そこにもう一つの方針が関わってくる。
「奉仕部をやるためだ。だが、リアルと違って純粋なボランティア組織として運営する気はない……というか不可能だ」
俺の断言に奉仕部の二人共がどこか残念そうに俯く。
たしかに、利益を求めた瞬間にそれは俺達の求めてたあの場所ではなくなるだろう。
だが、金がなければ活動はできない。これが現実だ。
奉仕部も部活である以上リアルであってもコストは掛かっていたはずだ。俺達は学生という立場からそれを見なかっただけである。
アルゴは二人とは真逆に興味深そうに訊ねてくる。
「にゃハハ! じゃア答えてもらおうカ! 現実的だったラ……そーだナ。オネーサンも一枚噛んでやろうじゃないカ!」
「言ったな。そのセリフ、後悔させてやる」
アルゴの笑い声に答えるように、俺もニヒルでクールで不敵な笑みを浮かべながら応じた。
「ヒッキー、その顔キモいよ?」
「あの、ウイさん? 今テンション上がってるから茶々入れやめてくれね?」
「ハイキー君、図星を突かれたからと言って話を逸らさないで貰えるかしら?」
「にゃハハ! 凸凹! 凸凹トリオ漫才だ! にゃハハハ!」
その後、話し始めるまで数分を要した。