やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。 作:普通のオタク
どれくらい時間が立っただろうか。
狩りの疲れもあって、うとうとしてたところで横の少女が座ったままでこちらを指先で突いてきた。脇腹は止めろよ。くすぐったいだろ。
「なんだよ……」
言いながら視線を向けた瞬間、
「ひっ……!? モ、モンスター!?」
少女は全力で距離を取り、ガタガタと震える手で剣を抜いてきた。失礼すぎませんかねー、君。お兄ちゃん泣くよ?
「誰がモンスターだ。落ち着け。剣を向けるな。視覚的に怖いんだよ。ちょっと目が腐ってるだけで普通のプレイヤーだ」
俺がそう言っても、少女は警戒を解こうとはしない……視線が周囲をチラチラ見てるけど、お巡りさん探してるの? やめてよねそういうの。雪ノ下が弁護どころか検事やりそうだから。
そうなって欲しくないため、両手を上げて降伏を示しながら、彼女が俺に告げたいことを探る。
「で、なんだよ。暇すぎて暇つぶしに付き合って欲しいのか?」
「別にそんなんじゃないし……ただ、寝るならどこか行って欲しかっただけ」
そう言うと少女は剣を仕舞い、その場でさっきみたいに俯いてしまった。
……空気が弛緩している今がチャンスだ。
本当にどこかに行って欲しいのなら、少女は今ノータッチで居るべきだった。
一度関わってしまうと、人はどうしてもその人を……どれだけ少しでも……気にしてしまう。
心が弱っているのであれば、尚更そうなる。無性に人に頼りたくなるのだ。もちろん、俺はボッチだったが、それでも小町にくらいはよく頼った。
それと同じだ。
きっと、彼女は救いを求めている。表には出さなくても、諦めていても。心の何処かで望んでいる。
助けて欲しいと、声に出せずに泣いている。
無論、これが現状彼女に限った話ではない。プレイヤーの誰もが思っていることだろう。
だから別に、俺が手を差し伸べなくてもいいとは思う。
だれか、もっとまともな人がいつか手を差し伸べる筈だ。だが、それでも。
昔、1人で。家で家族の帰りを待っていた小町の姿が俺の中でこの少女とダブってしまったのだから、仕方ない。兄として、見過ごす理由はない。
俺は開いてしまった距離を詰めずに、その場で声をかける。今のこの距離が、ぼっち同士のパーソナルスペースだ。
「お前、なんで宿屋に行かないわけ?」
「お金がかかるから。どれだけ値段が安くても……いつ開放されるかもわからないんだから、節約しないと」
大人びた口調で少女は言う。理由もしっかりとしたものだ。
だがきっと、しっかり者というわけではない。彼女も年相応なはずだ。
雪ノ下雪乃のように、弱みを見せたくないのか。あるいは孤独感に負けたくないのか。
他の何かが……理由があり、気丈に振る舞おうとしているのだろう。
それを他人である俺が分かるわけもない。もとより、人の気持ちなど
だが、俺はこの子の隣りに座った。そしてこうして話している。
なら、少しのおせっかいを焼くくらいはするべきだ。この子が自分で断れるように。
「そうしてゲームがクリアされるまでずっと野宿するつもりか。街の外にも出ずに」
「……死ぬよりはマシよ」
諦めを感じさせる口調で少女は言う。だが、それは違う。
「死ぬ方がマシだろ。そんな生活。自分が自分じゃないどころか、人ですら無い」
俺の言葉に少女は歯噛みする。ならどうしろというのか。そう言いたいのだろう。
「……また、明日。ここに来る。その時に俺の答えを教えてやるよ」
そう言って俺はその場から立ち上がり、雪ノ下の行った方向に足を向ける。
合流して、自分の思いつきを早いところ説明しなければ。
そう思い、足を進めようとし……止める。一つ、確認するべきことがあったからだ。
振り返って後ろの少女に声をかけた。
「俺はハイキー。お前は?」
「……ミナ」
少女……ミナはそれだけ言って、再びその場で俯いた。
× × ×
宿屋に戻ると、雪ノ下も由比ヶ浜もベッドで眠っていた。
寝心地が悪いのか、それとも由比ヶ浜の抱き心地がいいのか、向い合って抱きあうような形で寝ている。
「百合ヶ浜と百合ノ下は健在かよ……」
「まったくダな。なんで呼ばれたオレっちも置いてけぼりなんダヨ」
声が、唐突に聞こえた。
俺は慌てて部屋を見渡す。
「……誰もい」いない? と口に出しかけ、違和感に気がつく。
置かれている机の下で体を丸くしている奴が居るのだ。だが、それだけで気が付かないものだろうか……
「……誰だ。それに、今のは」
「情報屋サ。探してたんだろ? オレっちもお前を探していたし、少し待たせてもらった。今のに関して知りたかったら100コル」
机の下から這い出てきて立ち上がった人物は、灰色のフードをかぶり、無遠慮にそう言った。何の躊躇もなく金を要求した姿には思わず商人魂とやらを感じざるを得ない。
だが、重要なのはそこではない。
何のために俺を探していたのか。それが問題である。
そんな思いが表情に出ていたのか、情報屋はニッコリと……おかしいなー。笑っているはずなのに、額に青筋が見えるぞ?
「よくもオレっち達をエサにしてくれたな、ハイキー。お陰で商品をほとんどただで大公開するハメになったゾ?」
言われて思い出したのは、チュートリアル時の広場での出来事。
俺はあの時、二人を探すために……テヘッ。ハイキー、やっちゃった?
「情報屋とベータテスターに救いを求める。面白いやり方だったけど、真意を理解してない同業者、ほとんどお前さんを目の敵にしてるから気をつけろヨ……当然、オレっちも例外じゃないけどな」
いやその言い方、あなたは結構真意に気がついてますよね? だったら少しは容赦がほしいなぁ。
そう思わずに入られなかったが、口に出せない。行ったらソレこそ容赦されない気がした。
その後、情報屋への詫びとして日が昇るまで始まりの街の情報集めを手伝わされた俺は、結局その日は一睡もすることができなかったのであった。
2巻で話題に上がった始まりの街で暮らす少年少女達、奉仕部の脚書の活動には相応しいと思い採用です。既存キャラから出していきますけどオリキャラも混ざってしまうのはしかたないです……よね(目逸し
そして情報屋の登場です。口調難しい