女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!! 作:エマーコール
割と楽にいけるかな、と思ったchapter6だったのですが、やはり話建てるのは難しい、ということを実感してしまいました。
とりあえず、60Sz、どうぞ!
『―――13班、および10班の方々は会議室に集合してください』
っと、そろそろだな。俺は通信に無言で頷いて、何となく伸びをした。
しばらくはただアオイと色々話してただけだし、その間に俺の心も不思議と軽くなってきたような気がする。
今まで、ずっと焦っていたからかもしれない。いろんなことが絶え間なく続いていて、そのたびに俺たちは立ち向かっていって、休憩とかそれは見せかけのものだったのかもしれない。
それを実感してしまうほど、何故だか楽観的な考えになっていた。こうして、何かを話すってのも、あんまりしてなかったからかもしれないからだ。
「……ところでさ、アオイ」
「はい? 何ですかセンパイ」
会議室があるフロアに行こうとして、エレベーターの前で来るのを待っていた俺は、同じく隣のアオイに聞けなかったことをぶつけてみる。
「……怖くないの?」
「え、何がですか?」
「いや、だからさ……戦うのが怖くないのかって」
はっきり言ってしまうと、俺はまだ怖かった。あれだけ帝竜とかぶっ倒していた割には実際はまだ怯えていた。
今までそういった感情を押し殺していたのは多分、仲間が絡んでいたからなんだと思う。今の状態で、それは何となく感じていた。
ウォークライ。二人が吹き飛ばされて、ナガレさんも殺されそうになって、それで俺は戦った。
ジゴワット。ガトウさんとか自衛隊の人たちとか殺されて、それでみんなで意志を確かめ合って、無駄にしないために戦った。
ロア・ア・ルア。二人がとにかく前に進んで、俺も帝竜のことが許せなくって戦った。
トリニトロ。タケハヤさんとかにいろんなもの託されて、それを裏切ることが出来なくて戦った。
スリーピーホロウ。あれだけ怪我してたのにとにかく休みたくはなくって、アオイに背中押されて、タケハヤさんが目の前でピンチだったから戦った。
多分、俺は理由がなければ戦っていなかっただろう。それがたとえ意識的だったとしても、無意識だったとしても。
エレベーターはまだ来ない。妙に長いように感じる時間の間、アオイはクスリと笑った。その笑いに、俺は思わず驚いた。理由を聞く前に、アオイは答えた。
「そりゃ、私は怖くありません! だって私が怖がってたら、誰が戦うんですか!」
「……う、うん、そりゃ、そうだな……」
何となく分かる気がする。大胆な例えだけど、ここの世界の人たち全員が怯えていたらそりゃ誰も戦わない。俺だって戦わない。
でもその中で、アオイは戦おうとしている。……多分、多分だけど、俺も一緒に戦うことを言ってるかもしれない。それが所謂『ヒーロー』……あぁいや、女性だから『ヒロイン』かな。そういう気質なんだろう。
エレベーターがやってきて、アオイが先に入って俺も後に続く。ボタンを押し、フロアまで待つことにした。
「それはもう、困っていた人がいたら助けなくてはいけませんし! 私はそういう生き方しかできませんから!」
「…………」
「……センパイ?」
俺はアオイの言葉に聞く耳を貸さないほど、考えにふけっていた。
困った人を助けて、それがお節介だとしたら? 自分は何となく嫌だった。でも……。
今の行動、それはまさに今の自分……なんじゃないか? いや、でも……。
もどかしくなった俺は、言葉にして訳の分からない感情を吐き出してみる。
「それが、お節介だとしたらどうなのさ? 正直、俺はそこでやめてると思う」
……驚いていた。今の、自分の言葉に。なんていうか、グレているというか、経験してるというか。自分でも訳分からないまま、気づいたらいつの間にか、俺はいろんな言葉が出ていた。
「それがもし、人を傷つけるようなことになって、そいつが辛くなって、……自殺とか図ったりしたら……?」
「その時も助けます」
はっきりとした声に、俺は思わず言葉を失った。まっすぐで、迷いもなくって、一本の細くて暗い道でも進んでしまいそうな声。
扉が開く。会議室のあるフロアだ。俺たちは無言のまま、エレベーターから出る。
「……センパイも、今までそういう生き方してたから、こうしているんですよね?」
「……俺は、そんな立派なものじゃない」
正直、アオイが眩しく感じて、目を背けながら俺は呟いた。
実際、俺は巻き込まれる形で今居るし、何かのためとか、そういうのはその時起こった状況で無意識に決めて、突っ込んでいる。そうやって、俺は今を生きているんだろう。
「……そうなんですか?」
「あぁ」
「それでも、センパイはセンパイですけどね」
「どういう意味だよ」
アオイの言葉に、俺は思わず笑いながら言った。同時に、ギスギスした感覚も少しだけ抜けたような気がする。
でも……何となく気になっていた。自分のそういった、俺でも分からなかった、所謂『裏』。失ったってのに、こういった悲観的な考えをしてる。
「ところでセンパイ?」
「ん?」
「夢って、あります?」
「…………」
そう言われると困るんだが。しかも会議室目の前でそんなこと言われても困るんだが。大事なことなので二回思った。ってかそもそも記憶喪失状態の俺にそんなこと聞かれても困るんだが。あ、これで三回目だな。
とにかく、俺は「ない」と告げて扉を開けようとする。
「それって、寂しくないですか?」
「そりゃ寂しいに決まってるだろ。………これからどうするか、とか、ほっとんど決まってないんだからよ」
咄嗟な嘘をつきながら俺は今度こそ開けようとして……動きを止めた。
いや、思い出したわけじゃないんだ。ただ、これが夢なのかは分からなくって、どちらかと言えば……目標なんだから夢じゃないと思う。けど、俺はあえて言い切った。さっきの俺と決別するかのように、そして少しでも前に進むために、力強く。
「すまん嘘だ。……夢はドラゴンを狩って、平和を少しでも取り戻したい。目標って言われちまえばそれまでだけど、ないわけじゃないさ。それに、今なくっても、後でじっくり考えりゃいいんじゃないか?」
「後で……じっくりと?」
「そーだよ。こんな状況じゃ、夢とか叶えられないだろ? だったら少しでも戻さなきゃ意味ないしな。さ、とっとと集合しようぜ」
「………そ、そうですよね!」
今のアオイは、俺には何となく焦っているように見えた。何というか、分かりやすいからだ。そう言った『夢』が、本当はないんじゃないかって。
実際今のも咄嗟の嘘だし、本当の夢とかじゃないし、色々間違っているんじゃないのか、って言われたらそりゃそうだけど。
「……なにやってんだお前ら」
「あれ、ジョウトじゃないか。お前こそ何やってたんだ?」
「別に」
そう言ってそそくさと入ろうとするジョウト。しかし俺は(一旦、近くに立てかけられていた時計を確認してから)それを阻害する。目の前で仁王立ち。ご丁寧に目の前で止まったジョウトは息を吐くように呟いた。
「……絶壁が」
「てめぇは山派か!!」
「うるせぇアホ! つかどけ!」
「どけない」
「何でだよ!?」
「どけませんから!」
「アオイも邪魔してんじゃねぇよアホコンビ!!」
嫌だ、邪魔してやる。ついでに絶壁でいいんだよ。俺元々男だし。流石に大きいのは勘弁だ。ははは、何がとは言わなくても伝わるだろう。
そして数秒、諦めの早くジョウトはまた息を吐くと、教えてくれた。
「……奥義、って知ってるか?」
「ん、えーっと……」
奥義って……多分、『普通は習得できないけど、熟練度が上がれば使えるようになる』っていう、ゲームとかでよくあるシステムっぽいあれかな。
そう言おうとしたときに、アオイが元気よく手を上げて答えた。
「はい! 暑い日に持ち運べる団扇みたいなものです!」
「それは扇だ! ジョウト、座布団全部もっていって!」
「何で俺がそっちなんだよ! ってかマジでお前らアホコンビか!」
「うるせバカ。……とりあえず本題に戻すぞ。……で、それを習得しようとしてんのかジョウトは」
恐らく誰でも分かるような、簡単な理由を俺は答えると、ジョウトは間を置いてから「あぁ」と、頷いた。
……意外と努力家だよな、ジョウト。内心、俺は驚いていたが、なるべく表情には出さないようにしておいた。
とりあえず、俺はそのまま続けた。
「で、習得しようとしてたら呼び出しを喰らい、それで今に至る、と」
「………何でそこまで分かんだよ。エスパーかお前は」
「サイキックだっての。まぁいいさ。……で、どうしたいんだジョウト?」
「は?」
「いや、だからどうしたいのか。このまま会議聞くか、習得したいか。正直、俺は後者だと思うけど」
ぶっちゃけ、俺も何か強い技を習得できるならそっちに専念したい、気がする。まぁ状況とかにもよるけど、そんな感じではある。
仲間守れるなら、多分頑張れると思う。それは今までだってそうだったんだ。そして、これからも。
「……流石に今回は必要ねぇと思うし、会議聞くことにするわ」
「いいのか?」
「どっかのアホと一緒にはなりたくねぇしな」
「お前マジでぶっ飛ばすぞ」
からかわれてるように聞こえるジョウトの言葉に反論しながらも、俺は扉を開ける。
何となく……気になっていた。俺が、俺らしくないような言い方をしていた時。
いろいろ疑問に残ってるけど……今は今の問題を解決するしかない。そう思っていた。