女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!!   作:エマーコール

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……ごめんなさい! いつの間にか半年以上もかかってました!!

実はとりあえず書いてはいたのですが、話が予想以上にダラダラしてること、緊迫感のある事件で緊迫感のないシーンを書いていたらガチでおかしな方向に飛んでっていたことがあって一度話を改稿、その話に1か月ぐらいかかってました。本当に申し訳ありません。

次の話もこのままじゃ絶対結構かかりそうなのでなるべく早めの投稿をしていきたい、と思いつつ……

お待たせしました! 59Sz、どうぞ!


59Sz 届かぬ想いは未来へと

「……分からぬな」

 

 彼はそう呟いた。

 こうして救援活動と称して社会的に問題のあるSKYを連れてきたこと。

 そしてナツメの手下であるムラクモの一員。

 

 それなのになぜ、こうして都庁にとどまっているのだろうか。

 

 理由は簡単だった。今の我々に、都庁から移動する手段がないとは言えないが、あまりにも危険すぎるからだ。

 候補としては、国会議事堂があるものの、上記の問題がそれを邪魔をする。仮にも国の支える一人なのだから、安全策は必ず取りたい。しかしその安全策というのが、ムラクモしかない。彼は苦虫をかみつぶすような顔をした。

 

 その時だ。ドアが突然ノックされる。

 

「……入れ」

 

 彼はそう言い、入ることを許可をする。間もなく扉は開き、中から一人の人物が現れる。

 そんな人物の容姿を見て、彼は思わずため息をついた。

 

「貴様……人に会うときにそんな若者の服を着る愚か者がいるか?」

「…………ごめんなさい。どうしても見せたくない傷があるので」

 

 その人物は赤のフード付きパーカーをかぶっていてやはりイラつかせる。しかしその人物の声はやや低めで、風邪でも引いているんじゃないのかと思うぐらいだった。

 

「……ふん。まぁいい。ところで何の用事だ?」

「…………いえ。疲れているかと思って、少しばかり差し入れを持ってきたんですけど」

 

 そっと、その人物は丁寧に箱を置く。彼はゆっくり目を細める。

 

「食べ物も今は必要ない」

「そうですか……残念です」

「で……なぜここに来た」

 

 一瞬だけ、フードの人物は動きを止めるとゆっくりと彼の方に振り返る。

 

「………なぜ、捕えようとしたのですか?」

「聞いていなかったのか」

「………実はその時まで医療班の人たちにお世話になっていたので、聞いていないんです」

 

 彼は息をつく。全く忌々しく、苛立たしい。

 よく分からない感情が押し寄せてくるが、それを押し殺し、説明した。

 

「……簡単なことだ。もしドラゴンに襲わせる兵器だとしたらどうする? 人の安全を守れないと思わないのか?」

 

 正論。何も間違ってはいない。我々こそ、国際社会の上に立つべき存在だからだ。それを脅かす連中は必要ない。

 間違ってなど……いない。

 

「………いや、造っているのはただのライトだったらしいですよ?」

 

 が、フードの人物の一言でその信念は砕けそうになった。

「何?」

「聞いた話なんですけど、今回の攻略のカギを握っているらしいですよ。ですから―――」

「………分からんな」

「何がですか?」

 

 その人物は彼に疑問を持った。彼は目をつぶり、やがてこう答えた。

 

「……聞けば、ムラクモの総司令であるナツメが人類の絶滅を願っていると聞いている。何故その計画の邪魔をする? こうして集めているのであれば、我々を簡単に殺すことだって可能だ。だが、私たちは……」

「殺しませんよ! ……少なくても、私はそう思います」

「ふざけた事を……」

 

 冷笑するように彼はそうつぶやく。

 こいつも、ムラクモに唆された哀れな一人なんだろう。救出だが何だが知らないが、その過程で何かしら考えが変わってしまったのだろう。全く、哀れだ。

 

「退出したまえ。これ以上、お前と話すことなどもうない」

 

 淡々とした口調で彼はそう告げる。その言葉は、『自分は何も間違ってはいない』。そういうような声だ。

 フードの人物は少しだけ考えるかのように動きを止め、何か独り言をつぶやいてはいた。彼はあえて何も言わずに次のリアクションを待っていた。

 そして、フードの人物が口を開いた。

 

「…………私、目の前で大切な人が死んだのを何度も見たんです」

「……何?」

「…………ある人は私を、ある人は私のセンパイを、身を挺してかばってくれて……でも、そのおかげで、今の私がこうして生きているんです……もう、お礼とか言えないんですよ……」

 

 フードの人物の涙がこぼれ落ちる。本当に、辛い思いをしたことが、今の彼でもよく分かるぐらいに、フードの人物の悲しみが伝わってくる。

 フードの人物は続ける。

 

「だからもう、これ以上……誰一人死んでもらいたくないんです……夢のような出来事かもしれないんですけど……それ以上に、ムラクモの人たちは死んでいった人たちを見ているんです。だから……!!」

「解放しろ。か。……理由がなっていない」

「あの人たちの力が、必要なんです! みんなが安心して、手を取り合って生きていくためにも!!」

 

 涙ながらに訴える人物。その迫力に、彼も一瞬だが、怯んだ。

 

 ……何をすればいい。国民を護るためには……どうすればいい?

 

 そんな感情が、彼を渦巻く。

 

「………退出したまえ」

 

 彼は、弱みを見せないようにそう一言告げる。

 

「………いい返事を、期待してます」

 

 それだけ言うと、フードの人物は出て行った。

 

 部屋に残ったのは、たった一人。

 

 その中で、どうするべきか、最善の手を打とうとしていた―――

 

==========

 

「………遅いな」

 

 トランシーバーをじっと見つめながら、俺は屋上で自分のマナを再確認していた。

 無理のない範囲で、足手まといにはならないようにするにはどうすればいいか。まるで元から持っていた力のように俺は右手に浮かんでいる白く透明な気を浮かばせながら考えていた。

 あれから、数時間が経つ。正直、ショックは抜け切れてないし、もしかしたらまた暴走するかもしれない。そうしたら二人……いや、みんなの足を引っ張っちまうかもしれないし、迷惑をかけちまう。

 それだけは……嫌だった。

 

 実際、俺が『俺』として生きていた記憶なんてほとんど忘れてる。はっきりと分かってるのは『委員長』との微かな記憶ぐらいだ。

 キカワさん……いや、『委員長』は確かにあの時、あの雨の日に昇降口を飛び出していった。理由は、やっぱり分からない、いや、記憶してないだけかもしれない。

 

 ……何が言いたいのかっていうと、どうして『みんなと一緒に戦いたいのか』、その根本的な理由がまだちゃんとしてないからだ。ぶっちゃけ、俺はそこまで積極的な性格じゃなかった気がする。

 

「……まぁ、いいか」

 

 今はそんなこと、どうでもいいか。自分で選択した事なんだしな……。

 それよりも……一つやっておかなくちゃいけないことがある。『あの技』をきちんと出すことだ。

 初日、無意識にぶっ放した、おそらく大技であるアレ。あれがあれば少しずつ戦闘が有利に運べるはずだ。もちろん、それだけ負担はかかるはずだけど、やらないよりはまだましだし、もし本気で危ないなら使わなくていい。そんな感じだ。

 

 けど、実際に的(ムラクモ用に作られた練習用の丈夫な的らしい)に向かって何度か試してみたけど、相殺されて全く使い物になってない。なにやら風が少しだけ吹き飛んできただけで、特に強いって雰囲気ではない。

 どうすればいい? 俺はそんな風に考えてたけど、諦めたかのように寝転がって空を見上げる。青空がぽつぽつとあるだけの曇り空だ。

 

「………」

 

 俺は一体、生きている間は何をやっていたんだろうか。もしかしたら、『委員長』と一緒に、空を見上げて笑っていたりしたのかもしれない。

 それで……『委員長』が死んだのがショックだった。けど……何だかんだで生きていたのかもしれない。

 

 ……もし、俺が神様の流れ弾に当たっていなかったら、どう生きていたんだろうか。

 

 その時だ。突然トランシーバーから音が出る。と、同時に誰かがこっちにやってくる。俺はトランシーバーを手にしつつ、その人物を見た。

 

「……アオイ! どうだったんだ?」

「えへへ……バッチリ! です! 釈放されていた開発班の人たちがちゃんと帰ってきましたよ!」

「本当か!?」

 

 俺は通信のことなんて気づかずに大喜びした。よかった。分かってくれたんだ。……いや、そうじゃない。

 

「お前……どんな説得をしたんだよ?」

「聞きたいですか?」

「あぁ!」

 

 俺は頷く。だって、正直言って滅茶苦茶不安だったんだ。アオイが本当に説得できるのかって。でも、こうしているんだから、杞憂だったらしい。

 アオイは悪戯っぽい笑みを浮かべた後、そっと俺に言った。

 

「内緒、です!」

「なんだよそれ」

 

 思わず俺は笑ってしまった。いやまぁ、何となくわかってた答えなんだけどさ。聞きたい事は何か聞いてみたいし。でもまぁ、理由はどうあれ、こうして何事もなく解放されたんだから別にいいよな。俺は一人で納得しながら、そんな風にまとめていた。

 

「ただ、あと少しだけ、時間がほしいとのことです。それまでセンパイは……」

「身体を休めとけ、だろ? 無茶はしないって、分かってるから大丈夫だって」

「もう……そうやってセンパイはいっつも無茶するんですよ? たまには、頼ってくださいよ。ちょうど、この案を発案して拒否されることなくやってのけた私のように」

「……あー……そういえばそうだな」

 

 事の発案は全部アオイがやってのけたことだ。何か、妙にその辺りは的確だったし、俺も案自体は否定してなかった。ただ、やるのがアオイだったから不安なだけだったんだ。

 ……仲間に、頼る。か。そういえば、ずっと焦りまくってて、仲間って存在を忘れかけてた。ちょうど、今の訓練だってそうだ。全部、俺一人でやってのけようとしようと思っていた。

 ………焦っている理由はよく分かってないけど、でも、確かにそんな感じがする。俺はアオイに言われたことを頭の中で復唱しながら、ゆっくり頷いた。

 

「分かった。それじゃ……俺は何をすればいい?」

「も・ち・ろ・ん、次の作戦までに身体を休めておくことですよ!」

「りょーかい」

「ついでに、センパイとお話したいなって! ここ最近は忙しすぎてなかなか話す機会がありませんでしたから!」

「えー……俺の話?」

 

 ……まぁ、そんな風に他愛のない話で、時間を過ごした。ほとんどのことをはぐらかしまくってたから、その辺りは妙な罪悪感があった気がするけど。

 

 ……あぁ、因みに後で知ったことなんだけど、通信の理由はただ、今回の件についての報告だった。つまりアオイが言ったこととほぼ同じ内容だ。

 それでもアオイは自分が自ら俺のところまで来てくれた。……何でなのかも、聞かなかったけどな。

 

 

 

 

 


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