女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!!   作:エマーコール

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えーはい。今回からchapter5.5到達です。……実際、自分はオリジナルの話が苦手なのに、こうした話を持ってきてしまったことを心から後悔しています。

さて……今回のこのChapterは前の宣言通りに2,3話で終わるかと思います。そうしないと自分さらにサボりますし。ちなみにガチでサボってました。Ⅲの転生マラソンで(オイ

では、Ⅲ発売後初になるルシェかえ、55Sz、どうぞ!


Chapter5.5 『二つの顔』と『きまぐれの風』
55Sz 創られた存在


「………ここは……」

 

 現在、四ツ谷病院。そこに俺とヒカイさんは足を踏み入れていた。……一応通信は切ったままだ。どうやら、「知られても構わないけど、なるべくならロナにだけ聞いてほしい」らしい。……そんなに、重要な事なのだろうか?

 かといって俺は訊ねることはなかった。……いや、俺だって気になったけど、でも、さ。……きっと教えてくれるし、それに、ヒカイさんはこうして連れて来てくれた、ってことは何か重要なことかもしれない。

 さて……と。俺とヒカイさんは、秘密の階段から地下へ突入。

 懐中電灯で照らすとそこは、不思議と無機質で何も飾られていない、まるで、無人の研究施設の様だった。

 

「………なんだよ、これ」

 

 ……俺は、何故か見たことあるような、なのにこんなのおかしいような感覚に見舞われていた。

 覚えていない筈なのに……覚えている?

 

 ……答えは聞けないまま、俺はヒカイさんについていく。どことなく、速度は遅い気がする。

 ……ヒカイさんも、本当は行きたくないと言わんばかりの速度、なのかもしれない。言い換えると、「自分の嫌な過去を見る」のかもしれない。

 

 ……嫌な過去、か。

 

 俺にも、ある。『委員長』を失って……さ。

 ……そういや、俺は……あの日以外、ほとんど覚えていない。何故かは分かんないけど……でも、今はいいかも、な。覚えていても、この世界じゃ意味ないはずだし。

 

「ここだ」

 

 と、俺が回想にふけっているときに、ヒカイさんが止まる。……少し大きめで、中が分からない。

 

「……もう一度聞く。……本当に、大丈夫か?」

「大丈夫です。……もう、足を引っ張りたくありません。だから、こうしているんだと思います」

「分かった」

 

 そう言って、ヒカイさんは扉を開ける。

 錆びた鉄が、ゆっくりと開いていく。

 ……中は異様に静かで、光が差さってない。あまりにも、気味が悪すぎる。

 

 ……心臓が打つ。腕も振るえる。緊張、そうだと思っていた。そう、思っている間は。

 

 ヒカイさんが先に入って、電気をつける。部屋に明かりがともって………

 

「………ここは?」

 

 ……ひどい荒れ模様だ。いろんなものぶっ壊されてて、原型を留めてるだけマシなのかもしれない。

 でも……ここ、『見たことある』……?

 

「……あの、ヒカイさん……ここって……」

「……研究室だ」

「いや見れば分かりますけど、でも何かに襲撃されたんですかこれ?」

「…………」

 

 ……もう一度確認する。奥には一つだけ、半壊しているガラス状の筒、周りには資料やテーブルとかが無造作に散らばっていて、襲撃された跡が確認できる。

 いや……襲撃……されたのか、これ? つか、どういう理由で?

 

「……てか、これなんで襲撃されたんですか? 何か、重要なことがあったんですかヒカイさん?」

「………重要、か。そうだとよかったんだがな……」

「……えっと、あの、ヒカイさん。……言いたくないなら、言わなくてもいいです。そりゃ、嫌な過去を堂々と言えるわけないですし、だから、そんな無理して言わなくても……」

「……以前までの記憶、あるか?」

「え?」

 

 ……思わず、何言ってんだこの人って言いたくなってしまったが、ぐっと抑える。……記憶あったら堂々と言えたかもしれない。でも……今は記憶なんてない。はぁ……裏目に出ちゃったかな。

 ……いや、ぼやいても仕方ない。俺は正直に、言う。

 

「いえ、ありません。いや、正確には、ある程度はあるけど、思い出すことができないと言うか……」

「……その中に、この中で暴れた記憶はあるか?」

「……何言ってるんですか。そんなこと――――――」

 

 ズキッ

 

 突然、めまいのような感覚に襲われる。視界がゆがむ。

 

『――――――あ、アアアアアアア!!!!』

「……っ!!」

 

 今の声は!? ……いや、言わなくても分かる。感じられる。

 

 ……これは……『ロナ』の声……?

 

「……やはり、記憶は……」

「……ま、待ってください……まず……まず先に、結論を言ってください!」

 

 聞きたくない。『ロナ』が拒否をしていた。

 でも、聞かなくちゃいけないだろ。『俺』はなんとか聞こうとしていた。

 

 聞いてみるしかないんだ。この状況で、俺が……いや、『ロナ』が来なくちゃいけなかった理由。

 

「……」

 

 沈黙が、重い。

 

 ……ごめん。『ロナ』。ただの……『俺』の興味本位だ。

 

 でも、聞かなくちゃいけないだろ……? 今じゃなくちゃ、意味がない気がするんだ。

 

 ……待て。何で? どうして聞きたいんだ? 俺……転生したはずなのに、どうしてこんなことを?

 ……分からない。けど……

 

「………」

「……」

 

 ……俺は、ヒカイさんが言い出すまで、ずっと、震えを抑えながら待っていた。

 

「……ロナ。……お前は……

 

 ………………

 

   ここで、『創られた』んだ」

 

「…………え?」

 

 ……つく…られた……?

 

 ……ちょっと待て!? 神様嘘ついてたのかやっぱり!? いやどんな理論で!? つか何で嘘をつかなくちゃいけないんだよ!?

 ……いや、とりあえず、どういう理由なんだ一体?

 

「……あの、どうして? 俺は創られたんですか?」

「…………ナツメだ」

「……どういう理由で?」

「………最初の頃は、人を生き返らせるために、だ。……いや、そう聞かされたんだ」

「聞かされた?」

「……あぁ」

 

 ヒカイさんは俺の方を向いたまま、淡々と語る。

 

「……いつの頃かは忘れてしまった。とにかく、前からこの企画は始まった。私は医者でありながら、研究員としても活躍していてな。そんなある日、ナツメがやってくると、『病院の地下に研究室を設けたい』とやってきた。多額の金を持ってきたさ。そして……我々はいつの間にか地下室を改装してこんな風にした。そして……ある日女の子がこの計画に『身体』を貸してくれた。元々、病弱で、余命ももう半年すらないと言われていた子でな」

「………まさか、その、女の子って……」

「……」

 

 ヒカイさんは、うなずいた。

 ……待て。待ってくれ。いや、俺男だよ!? なのに、どういう理由なんだよ!?

 ………くっそ、分からないことだらけだ。……でも少なくても、ロナは女だ。それだけは、分かる。

 

「……だから、か。記憶ないのは、俺が生き返ったから……そうなんですね?」

「……かも、しれん」

「でも……だったらこの惨事は? わざわざ地下室に作ったってことは……知られたくなかったって、ことですよね?」

「……実験中、キミは暴走した」

「暴走?」

「何かに触発されたように、な。原因は今でも分からない。とにかく暴走したキミは、忽然とおとなしくなって一度気を失った。……見て何も、思い出せないか?」

 

 俺は一度、周囲を確認する。……頑丈に造られた壁のためか、いろんなところに損傷痕があるのにどこか壊れた、と言うことはない。この辺りは、用意周到と言うかなんというか。

 でも……思い出すことは……ないな。俺は首を横に振って思い出せないことを示す。

 

 ……そもそも、何で俺なのか? 間違っているんじゃないか……?

 

 言おうと思ったけど……言い出せなかった。本当に、自分は何一つ知らないし、ちゃんと『転生した』って理由があるから、自分とは違うんじゃないか。って言いたかった。

 

 でも……過去を振り返ってみると、いや、過去を振り返る必要もない。

 

 たった一つ。たった一つだけど……他人とは思えない理由がある。

 

 俺の名前。ずっと使ってたから特に違和感もなかったけど、その違和感のないことが、違和感なんだ。

 

 本当は……何か関わりがあるんじゃないか? 今、そう思いたいぐらいに。

 

「………そうか」

「で……おとなしくなった後は……俺はどうなったんですか? どうやら、この辺りの記憶はないみたいで……」

 

 他人事、なのかもしれないのに、俺はその事実をあえて言わずに、聞いてみた。

 

「……いなくなった」

「いなくなった?」

「あぁ。突然な。我々も消息をつかめず、実験も……おわった。そして、私は……」

「……ムラクモに入ることになった、んですよね?」

「……ナツメに促進されてな」

 

 ヒカイさんは自傷するように笑う。

 ……なるほど。だからヒカイさんは俺に当たったんだな。多分……監視するために。そりゃ、俺は実験体だったんだし、ナツメも大助かりだったんだろ。……本当に、いろいろとな。

 ……だから、か。「実験体『418』」って言われたのは。それで、折角もう一度人生を堪能できる恩すらも言わずにいなくなって。……なるほど、な。

 

 でも……まだ分からないことが多すぎる。だったらなんで俺は車の中にいた? いきなり脱出してしまうぐらいに、多分ムラクモのこと嫌っていたのに、どうしてわざわざ戻ってきたんだ?

 そして……俺は、転生したはずなのに、他人事であるはずなのに……どうして?

 

 ……マジで訳の分からないことだらけだ。これじゃ、キリがない。

 

 ……でも、さ。それでも俺達は必死にあがいてあがいてあがきまくって、今できる目の前のことに向かわなくちゃいけない。それだけは確かだ。

 そしてその障害には……ナツメがいる。

 それで―――

 

「……俺の決意が揺らがないように、ここに来たんですね」

「あぁ……余計なお世話だったか?」

「……むしろ、逆に硬くなりましたよ。こんな風に身体いじくりまわされて、それで感謝しろっておかしいですよ。……人は一度しか人生を楽しめない。だから、その一度にどこまで楽しめるか、だから人生は楽しいんだと思います」

 

 今はルシェだし、これが二度目の人生だけどな。まーそれは言わないお約束だ。そもそも違う人なのかもしれないけど、俺はあえて道化として演じる。

 

 ヒカイさんはやっと、ちゃんとした笑みを見せてくれて、俺もほっとした。……やっぱ、こういう大人の人こそ、笑ってくれないと俺らはどう動かなくちゃいけないんだ、って思う気がするんだ。

 

 だから俺は敢えて嘘をついた。今更、他人だ。って言えるわけがない。

 

 ……でも、本当に他人事ではないような思いが渦巻いていた。でも、それでもいい。もし万が一、『ロナ』が本気でその実験体でもいい。

 

「……ヒカイさん。……この戦い。俺達で終わらせましょう」

「……あぁ。……私は、自分の過去のことにケジメをつけるためにな……」

「俺は……とにかくこの戦いを終わらせたいために」

 

 俺達は互いの手をしっかり握って、決意を再確認する。

 ……やっぱり、熟練者の手だ。俺には……到底届かない気がする。

 

 ………勝たなくちゃな。この戦い。必ず―――


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