女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!! 作:エマーコール
初のドラゴン戦、彼らはどう立ち向かう?
なんだか内容が少なくなった感が非常にある話ですが、5Sz、どうぞ!!!
「で、でけぇ……」
ジョウトの言うことも無理はない。実際に、下手をすれば一発で頭と胴体がおさらばしそうな顎はでかく、俺らはこいつにとってちっぽけな存在だろう。身長も、能力も。
「二人とも油断するなよ。先ほどの通りの作戦で構わない。……ただ、今回ばかりはちと面倒かもしれんがな」
俺はふるえる全身で無言でうなずいた。その瞬間にヒカイさんは前に出て囮になる。
この動きがあるからこそ、俺らの被弾率が少ないのに直結しているんだろうな…。俺はその背中を見ながらそう思い、右へ思いっきり走り込む。
「援護する!…候補生。お前らが主役だ!!」
ガトウさんがどこからか叫ぶ。俺らのことを信頼している証だろう。だったら、それ相応に答えなくちゃ意味ないだろ…!
「そこだぁっ!!!」
ドラゴンの真横から、首元に向かって飛び出して斬りつける。だが、生半可な短刀のためか、今まで斬ってきた感覚と違う。
固い。
本当に……勝てるのか…?
その思考がよぎった直後、俺は防御することすら忘れていて、思いっきり衝撃が伝わる。牙で喰われなかったことに幸いと言うべきだ。けど、すげぇ痛い。普通なら骨折れるんじゃないかと言わんばかりに頭でたたきつけれらて地面に激突する。
「ロナッ!!!」
誰の声が聞こえているのか分からない。思考がめちゃくちゃだ。
痛い。すごく痛い。普通、このまま意識ぶっ飛ぶんじゃないかと思うぐらいに。
でも………動けるッ!!!
とっさに、犬にでもなったように両手両足で地面を強く打って飛ぶ。直後に振動。今まさに俺のいたところに向かってドラゴンの踏みつけが襲い掛かったところだ。
あぶねぇ。あれ喰らったらひとたまりもない。絶対死んでいただろう。
素早く受け身を取って勢いを殺す。ヒカイさんの後ろ、ジョウトの前の立ち位置だ。…と、いうかなんかすごいなこの身体。俺が生前(といったらおかしいけど)では絶対できない受け身、身のこなし。強敵と戦って経験値を多くもらうってこういうことだな。……いや、それはどうでもいいか。
「さすがに…一筋縄ではいかんか…!」
今度はヒカイさんが突撃。俺も後に続く。どこが柔らかいか?その部分を狙って攻撃した方がよさそうな気がする。ダッシュしながらも敵を見る。きらびやかな青い鱗、その部分は攻撃をしないほうがいいかもしれない。となると、ノドの部分とかのほうがいいか…?
「……ッ!」
また身体がビクリと反応した。危険信号だ。こいつはまずい。身体がそう言っている。だけど、ヒカイさんは気づいていないのか……!?
「ヒカイさんッ!!ガードしろ!!!」
興奮してタメ口で叫ぶ俺。気づいたのか、ヒカイさんは今まさに攻撃しようとしたところで寸止めし、身を固める。
直後に熱気と、強烈な衝撃が俺達を襲った。ドラゴンお得意とも言える『炎ブレス』だ。
「ぐあっ…!あっつ、あっつ!!!」
やべぇ熱いって!!!燃えるし、やっぱりいてぇし!!急いでぶるんぶるん振るって延焼を止める。
「…今完全にあっちのペースか。……ジョウト。君の力が必要だ」
「チッ。ずっと影にでも隠れようとしたがだめか。…しゃあねぇな」
え、なにコイツ、今まで攻撃してなかったのか?気づかなかった…じゃねぇよ。何で俺らが頑張ってるってときにこいつ攻撃すらもしてないのか――――――
前言撤回。ジョウトは自分のスキルのための下準備をしていたところだったらしい。空間にホログラムでできたようなキーボードが写っていて、ジョウトはそれを普通に操るようにカタカタと両手を動かしていた。
エンターキー部分をジョウトが押した途端、俺らの身体に違和感が生じた。…いや、強化だろうな。前の動きはそのままに、防御だけをうまくあげた…
えっと、『ディフェンスゲイン』………だっけな。何でスキルネームが思いついたのかは今はどうでもよかった。
「オラっ!完了!こいつでましになったろ!」
「上出来。それじゃ、もう一度いくぞ!!」
「了解っす!」
もう震えはかすかに感じる程度になっていた。……まだ怖いさ。あんなに強い攻撃をぶっこまれて戦意喪失しない一般人なんていない。そもそも死ぬ、っていうつっこみが正しいけどな。
でもさ。ここで逃げ出すのはばかげてるだろうよ……!!
「……!!」
もう一度、突撃。俺らが準備している間にガトウさん、ナガレさん、キカワさんの三人はうまくフォーメーションを組んでドラゴンにダメージを与えていたようだ。……武器を見る限り、ガトウさんはデストロイヤー、キカワさんはトリックスター、そしてナガレさんはサムライっぽいな……。
サムライ。剣術に長けた、全てにおいて平均的な職業。S級となると自身の力を増幅、回復ができるようになり、抜刀、納刀の大技を扱えるようになる。どんな状況でも対応しやすく、それゆえに幅広い対応に適応することが条件となる―――。
やっぱり、響く。それほどまでに俺の頭は変にこの世界を知っていることになるっぽいな…。
はは、今はどうでもいいだろうけど。
「ふっ!!!」
思いっきり跳躍。天井すれすれまで飛ぶともう一度ドラゴンを凝視する。
見えた。三人のおかげでできた、ドラゴンの頭にできた傷痕が。
違う。感じていたんだ。頭の一部分に開かれた傷痕が。
だったら、そこを狙うしかない!!
「いっけええええええ!!!!」
天井を足場にして思いっきり三角飛び。目標はドラゴンの頭。短剣を逆手に持って傷痕目がけて、俺の持つ渾身の力で振り下ろして突き刺す。
めり込んではいない。俺はまたやけくそになるようにさらに強く押し込む。痛みを感じたのか、ドラゴンは雄叫びをあげて俺を振りほどこうとした。
耳が壊れかけそうになった。意識も一瞬ですっとぶかと思うぐらいに。でも、それだけだ。さらに無理やり押し込む。思いっきり、脳天をえぐるぐらいに。
またドラゴンが雄叫びをあげる。ものすごい勢いで俺を今度こそふりほどいた。散らかった机に思いっきり、背中から激突した。
「ロナ!」
「俺は大丈夫、撃ちこめ!!!!」
けど、短刀はまだヤツの頭に突き刺さっている。どうぞそのままめり込ませてくださいと言わんばかりに。
「…了解したッ!!」
ヒカイさんも大きく飛び跳ねる。拳を弓のように引く。…まずいな。強敵と戦っているほど、ヒカイさんは輝いて見える。
「ハアァッ!!!」
ドラゴンの脳天に、俺が突き刺した短刀に向かって重い一撃。グチョっと、こっからでもよく聞こえる、勝利を確信した殺戮の音。
断末魔。その音と共にドラゴンはドスンと倒れた。
………倒したのか?
…いまいち実感がわかねぇ。俺は恐る恐るドラゴンに近づく。……俺自身は怪我はしているけど、重傷レベルではない。…ジョウトがかけてくれたスキルのおかげだな。
ゆっくり、ドラゴンに触れる。………動かない。……つまり、これって………。
「……や、った………」
………はは、なんだかあっけねぇ。でも、信じられねぇ。あのドラゴンを倒したんだぜ?神話の中でも凶暴で、俺が転生する前に、覚えている範囲内で遊んでいたゲームでも基本的にドラゴンは強敵だ。
それを、倒した、だって?……いまだに信じられねぇよ。いきなり立ち上がって喰いちぎるとかもありえるだろ。
でも、動かない。動いてない。長くも、短くも感じられた時間。一体今の戦闘はどれだけ経ったんだろうな、って思うぐらいに自分で自分たちが起こしたことにまだ疑問を持っている。
「おう」
トンっ、と誰かに―――声からして多分ジョウトだな―――肩を叩かれる。…いつの間にか、最初の時と同じようにまた地面にへこたれていたっぽいな俺。情けねぇ…。
でも、前と今では状況が違う。前は恐怖からだ。
今は……まだ、恐怖かな。…でも、恐怖は恐怖でも、違った意味の恐怖だ。多分な。
「……お疲れ」
「…お前もな」
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現在俺らはただ通路を歩いているだけだった。
あの後、ガトウさんチームとは別行動になった。と言っても、俺らは当初の目的を果たしに、ガトウさんチームは他にもドラゴンがいるかもしれないから別のフロアを見てくる。自分たちの目的に変わりはない。
「……少しいいか?」
突然、ヒカイさんが立ち止まって俺らの事を見た。……非常に真剣な表情だ。…一体、何が…?
「…このまま、ムラクモに入るのかね?」
…意味は、分かっていた。
今の戦い、それに前の戦いからして俺らは素人だ。それに比べてヒカイさんはいわば武人。俺とは、絶対ジョウトとも、鍛え上げた年数は全く違う。
………違うな。絶対。そっちじゃないんだ。多分と思うけど、このまま進んでいくともう後には戻れない。ムラクモに入ったら最後、マモノ討伐などに参加する羽目になる。それはつまり、同じような、いや、それ以上に俺らにとって酷な運命を何度も見せられる。
ずっと、恐怖とも戦うことになる。実際に、少なくとも俺は恐怖心がまだどこかしらにある。これは一生治んないかもしれない。
でも、治さないと、いつしか死へとものすごい勢いで近づく。
これはもう、訓練とかじゃなくなる意味だ。
「答えを聞かないと、私は君たちをこれ以上行かせられないな…。君たちはまだ若い。だからこそまだ他に生きるべき道があるはずだ」
「野暮じゃないんですか?」
…俺はそういった。やっぱり、何故だ?って顔するよなヒカイさん。俺は心のままに答えた。
「俺らはもう仲間じゃないですか。それに、ヒカイさん言ってましたよね。『生きたい』って思うから前に進めるって。前に進むためにも生きなきゃいけない。それは絶対に壁にぶつかる」
「………」
「…正直、まだ怖いですよ。でも、俺は戦わなくちゃいけないんです。生きるため、そして、二人のため」
たった数十分の付き合いだけど、俺はもう二人の事を信頼している。
俺らじゃなかったら、今頃バラバラで命を落としてもいる。だから、信頼できているんだ。
ヒカイさんがいたから、俺がいる。ジョウトがいたから、俺がいる。そして、俺がいたからこそ、今のヒカイさんやジョウトがいる。
「逆に聞きますけど、俺らってそんなに信用ないですかね?」
笑った。ずっと聞きっぱなしじゃ飽きるから、逆にこっちが聞いてやるって口調で。
その顔を見てか、参った降参と言わんばかりに両手をあげるヒカイさん。……なんだかすがすがしいな。言っちゃなんだけど。
「そこを言われちゃ、お手上げだ。……答えは、『力になってあげたい』。だ」
「…じゃあ、力になります。俺に、『生きる』を与えてくれた人だから」
力になる。絶対。……さて、ジョウトの答えだ。俺はとっさにジョウトを見た。無表情すぎだこいつ。一体何を聞いていたのか。
「俺だって、まだこえぇよ。正直。さっさと逃げたっておかしくはねぇ。でも、おっさんは俺に手を差し伸べてくれた。……こいつと同じだ。俺を信頼してくれてんなら、力貸す」
わお、ぶっきらぼうなツンデレだ。誰得だよ。俺は冗談を心の中で言った。…あと、笑顔になっていたんだろうな。俺の顔。
「……あぁ。信頼している。戦力外だけどな」
ひでぇ。まだ戦力外かよ。信用あるのかないのか分からねぇな。……それがヒカイさんの面白さなのかもしれないけどさ。勝てるすべあるのかって思う。
「フン、じゃあ、力貸してやらァ。……さっさといこうぜ」
そういって一人で先行するジョウト。俺とヒカイさんは顔を見合わせて、笑った。
「ぶっきらぼうですねぇ」
「あぁ。……あいつにも信用できる人が出来て何よりだけどな」
「きこえてんぞお前ら!!さっさと試験に合格しちまおうぜ!!!」
はいはい。分かってますとも。
俺らは前に進む。試験に合格して、互いの力になるために。