女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!!   作:エマーコール

57 / 74
どもです。……ついに発売まで一週間切ってしまった。わぁ大変だ。

今回のchapter5は軽く見積もっても残り2話かと。帝竜、というか渋谷編をさっくり終わらせたからなぁ。

では、52Sz、どうぞ。


52Sz 二面性

「……これで全員、なのかな?」

「はい……」

 

 とりあえず、生存者は全員車に乗せ、俺達はタケハヤさん達が戻ってくるのを待っていた。

 弔うのは、俺達の役目だ、って言って。

 

 ……十数分後。タケハヤさん達は帰ってきた。

 その間に、俺達は一言も言葉を交わさなかった。

 事態は……確実に悪化している。そんな状況で言葉を交える、というのは無理なのかもしれない。

 

 …………なぁ、俺、どうすりゃいいんだ……?

 

 

=====数時間後======

 

 

「………雨」

 

 都庁の屋上。俺は何もせずに床に倒れていた。ポタリポタリと小粒が降ってくる。

 耳もしゅんと垂れている。……今まで実感湧かなかったけど、動物の動きが少しわかった気がする。

 いや今はそんなことどうでもいい。

 

 ……結局俺はヒカイさんとは一言も交わせなかったし、顔を見ようとすると目を背けてしまう。

 俺は、何をやっているんだろうな。

 

「……よっ」

 

 と、そこに誰かがやってきた。……声からしてフウヤだろう。俺は起き上がってフウヤを見る。……やっぱり、なんか表情は分からないけど、今はそれがいいかもしれない。

 

「まぁ先に礼は言っとくわ。どうもな。タケハヤさんを救ってくれるわ、1フロアわざわざ使って俺達の居所を作ってくれるわ、感謝しか思い浮かばないぜ」

「……しばらくはそこを使った方がいいよ。まだSKYを見る目は疑ってないみたいだし、それに……」

 

 ……言葉を続ける事が出来ずに、俺は黙ってしまう。

 フウヤは口がニヤリと笑うと、俺の近くに座る。

 

「それに、なんだ?」

「………安全なところは、今のところそこしかない」

「まるで牢獄だな」

「……かもしれない」

 

 俺はフウヤを見ずに、遠くを見る。………光がほとんど灯っておらず、あるとしても多分自動点灯か何かなんだろう。

 もしかしたら、まだそこに誰かいるかもしれない。俺はそう考えていた。

 

「……お前さぁ」

 

 突然フウヤに声をかけられる。俺の返事を待たずにフウヤは続ける。

 

「なんでもかんでも背負いすぎ、って思うのは俺だけか?」

「……え?」

「え、ってことは言われるまで自分でも気づかなかったって訳か」

 

 背負いすぎ、って、俺が……?

 

「なんつーか、生気を感じられねぇし、あの溶岩工場で出会ったときの気迫もねぇ。かといって誰か失った落ち込みも確かにあるが、でもちょっとしか感じられねぇ、となると初っ端から感じていた一つ、背負いすぎなんじゃねぇのかって」

「……え?」

「んじゃあというわけで、構えな」

 

 ……は?

 いや待て、なんでいきなりそう言う理論になってんだよ!? つか、何!? 背負いすぎって!? 全く分からないんだけど!?

 

「安心しろ。緊張感を高めるためにマジモノだ」

「安心できないに決まってるだろ!? お前バカだろ!?」

「以前言ったじゃねぇか。とにかく俺はもう一度お前とサシでやりあいたいんだよ」

「だから何でそこまで!? 本気で訳が分からないんだけど!?」

「んなのお前が楽しいからに決まってるだろ。オカンは無愛想だし、タケハヤさんはまだ傷癒してるし、ネコちゃんは議員と出会ってからなんかおかしいし。となるとお前しかいないだろ」

「そう言う意味じゃないっての! とにかく、俺は嫌だ!」

「何でだよ」

「そりゃ決まってるだろ。間違えて人を殺しちまったら、そんなの嫌に決まってるじゃん」

 

 途端に、俺の腕が拒絶するように震えだす。腕の振るえはいつしか全身に回っていた。

 そして………あの悲劇………

 震えは止まらない。俺はその震えを止めるように手を地面に押し付け、なるべく震えを抑えながら告げる。

 

「……嫌だよ。人を傷つけるのは。なにより目の前で殺してしまったら。……俺は一生その罪を付けられることになるし、人にも恨まれる。………人の命を奪うなんて、そんなの―――」

「の、割にはあの時もあの時もやる気だったな。本当は楽しくて、今のは演技なんじゃないのか?」

「そんなわけないだろ!!!」

 

 怒鳴った。

 数秒だけ、時間を感じられないように俺は止まっていたし、フウヤも動きを止めていた。ゆっくりと、震えがまた始まる。

 フウヤは一旦息をつくと、俺を見る。いつもとは違った、落ち着いた声が聞こえてきた。

 

「……じゃあミヅチは何だよ」

「アイツは、………アイツは………」

 

 倒すべき存在だ。

 ………そう言えるのに、俺は口を閉ざす。

 ………何で、言えないんだよ。……アイツは、俺達が倒すべきやつなんじゃないのか……?

 

「………人間、か」

「―――!」

「まーだお前はそう思っているのな。間近で見て、残忍な光景を見たのに言い出せず、終いにはそれがトラウマになる、か」

 

 そう言ってフウヤは立ち上がる。………手には武器を持っていない。

 雨も、いつの間にか強くなっていた。

 

「で、正直なところはどうなんだ? どうせここには俺しかいねぇんだし、カミングアウトしたところで言いふらすことはないぜ?」

 

 俺の口は鋼鉄のごとし、ってなぁ。とフウヤはいつもの調子で言ってくる。

 ……正直、不安なんだけど、でも、俺は今思っていることを率直に言う。

 

「……怖い。でも、同時にアイツは復讐しなくちゃいけない。………なのに、怖いんだ。……忘れもしない。赤く染まったあの場所、それで、人が死んでいることを心に刻まれて、その傷痕が全身に渡っている……。正直、もう、人を失いたくない……それは、ミヅチ……いや、ナツメも同じなんだって、『俺』は…そう…思っている……みたいなんだ……」

 

 ……全部を言い終えた後、俺は涙が出始める。

 背負っていたのか………いろんなもの。トラウマとか、使命とか、そして……復讐とか。

 

 ………全身が震えだす。心臓も飛び出るかと思うぐらいに強く叩いていたし、嗚咽も止まらない。

 

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 

 早く、帰りたかった。もうこんな世界と別れて、さっさと自分の世界に平和に暮らしたい、って思ってしまうぐらいに。

 

 ………雨の音と、自分の声しか聞こえなくなる。

 

「………で、そこまで吐き出して、なんで、お前の目は暗くないんだ?」

 

 ………え?

 

「どんなに弱音吐いて泣いて落ち込んでトラウマつけられて。でもお前の目は死んじゃいない。嘘はついていないと思うが、でも思っていることは心の中では違うんじゃねぇの?」

 

 ………心の、中?

 

「………………」

 

 ………違う。『俺』じゃない。……『ロナ』だ。

 

 『ロナ』は………『俺』じゃない。

 

 この身体の本当の持ち主のロナは………怖くないのか?

 

 それとも、俺がおびえてるだけなのか?

 

「………ごめん、分からない。でも………怖いのは事実だ」

「だろうな。でも………なんとなく分かる気がする」

「え……?」

 

 分かる、ってどういうことだ? 俺は聞き返す。フウヤは雨を鬱陶しく感じていそうに顔をゆがめ、空を見る。

 

「仲間、がいるからじゃねぇの?」

 

 

 …………あ。

 

 

「………仲間?」

 

 答えを折角見つけられたのに俺は信じられなかった。

 仲間………それだけで、怖くないのか?

 

「仲間とかダッセぇような気がするけど、でもなんか分からなくもない。今までの活動を見ると、お前は全部仲間のために戦ってる気がするんだぜ?」

「………こんなに、臆病で傷つきやすくて落ち込みやすくて、泣き虫な俺が……?」

「そーいうことじゃねぇの? 意外と俺と戦ったときも危険から身を離すために自分から引き寄せた気がするし、タケハヤさんが戦った時だってなんか急いでいた気がする。それも仲間のため」

「………そうなのか?」

「俺に聞くんじゃねぇよ。そういうのはお前しか答え持ってないだろ。俺は人様の回答を聞き出すのダリぃし」

 

 ………俺も持ってるわけないだろ。俺は心の中で反論した。

 口に出すのは……さらに否定してしまう気がしたからだ。

 

 ……仲間、か。

 ……今、信じられるのは……それだけかもしれない。

 

「……少しはガタりが治ったか?」

 

 フウヤの口が笑う。

 俺はフウヤの言葉に驚いて両手を見る。……確かにさっきまで震えていた手が少し治まった気がする。

 

「……はは、そう、かもな」

「じゃあ構えろ。付き合ってやったんだからな」

「だから何でそう言う理論になるんだよ!? とにかく、さっきも―――」

 

 瞬間、俺の身体の血の気がさっと引いた。

 

 ………首元に、冷たい鉄が当たっている。

 

 ……問わなくても分かる。フウヤが、ナイフを当てにかかった。

 

「……今度弱音抜かしてみろ。今一度首を掻っ切ってやるからな?」

 

 声は、笑っていた。

 

 でも、笑っていたせいでそれ以上は読み取れなかった。

 

「……分かった」

 

 俺はそれだけ言うと、フウヤの行動をうかがう。……マネキンのように動かず、ただ俺の首元にナイフを当てているだけだ。

 ………もしかして、抜け、ってことか……?

 

「……どうしても、だめか?」

「いっぺんリベンジしないと気がすまないんでな?」

「……しょうがな―――」

 

「せ、センパイ!!! 大変です!!!」

 

 い、と言ってしまう前に突然横から声をぶつけられる。アオイだ。確実に。

 

 アオイは俺たちの前までやってくると、ぜぇぜぇ息を切らして呼吸してから俺を見る。

 

「み、みんなが……! 大変な作戦を立てようとしてるんです!!」

「な……」

 

 何だって!?

 

 ……想像はつく。……きっと、あのでかい帝竜を……!!

 

 俺はそう思うより早く、急いでみんなの元へ向かう。

 

 くそ……キリノいるはずなのに、何やってんだよあいつ!?

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。