女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!!   作:エマーコール

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どうもです。ついに自分も休みが終わりそうです。鬱い。

しばらくは気まぐれローテーションで話を書こうかな、とは思っています。艦これも艦これでそこそこ人気ですし、この小説は初めて評価ゲージ(命名・自分)がついた作品でもありますし。

では、49Sz、どうぞー。


49Sz 俺達。

 意識が引き戻された。

 

「………」

 

 何か妙に長い夢を見ていた気がする。ただそれで、少しだけ思い出せたことがある。

 ……でもそれは、思い出したくない思い出でもあった。

 

「………ここは?」

 

 誰もいないはずの空間で俺は呟きながら辺りを見渡す。白い天井に仕切りのカーテン。どうやら医務室らしい。

 目は何とか動いたけど、身体は上手く動かせなかった。まるで麻酔かけられてたように、身体に感覚が全然ないというか。

 それでも五感は何とか働いていた。コツコツという音とか、誰かが入ってきた音とかは何とか入る。それでも詳しくは知らない。

 それに………俺は一体いつまで寝てた?

 みんなは、どこだ?

 

「センパイ……?」

 

 この声は……えっと、アオイ……アオイ!!?

 

「え、アオイ!? 何でいるん……痛っ!」

 

 慌てて跳ね起きたものだから全身が悲鳴を上げる。心配になったアオイが慌てて俺を支える。

 ……待てよ。何で俺、アオイがいたことに驚いているんだ?

 てかそもそもここ、どこだ……いや待て。普通に考えて都庁……だよな?

 

「センパイちょっと無茶しすぎですよ! もし傷口が開いたらどうするんですか!」

 

 アオイが叫ぶように俺にそういう。顔近い状態で言われたものだから俺はその声の大きさに思わず顔をしかめる。アオイは構わず続ける。

 

「いいですかセンパイ! 無茶しすぎてまた動けなくなったらどうするんですか! どれだけ心配かけたと思ってるんですか!」

「いやゴメン、俺が悪かったから……」

 

 俺はアオイの肩を押してからベッドに自分の身体を沈める。柔らかいとか硬いとか、良く言えない感覚がゆっくり押し寄せる。思わずそれで俺は本題を忘れかけるところだった。

 

「待てアオイ。今どんな状況だよ? とにかくそれは確認しないと……」

「……えぇっと」

「何で言い淀むんだそこで……」

 

 それって俺に言えないほどやばいことなのか? だったら猶更寝ていられない。沈ませていた身体を腕の力で押し上げて聞きに行こうとして……またアオイに止められた。

 

「……何で止めるんだよアオイ」

「今は、大丈夫ですから」

「それじゃ答えになってない。俺が今知りたいのは今の状況なんだ」

 

 今の、状況。

 その言葉に俺ははっとする。そうだ、キカワさんは!? ナツメは!? あそこにいた人全員どうなったんだ!?

 思わず身体が動こうとして、動きが止まる。

 でもそれは傷が怖いから、とかじゃない。

 アオイに止められていたからだ。

 

「……これ聞いたら十分ですか?」

 

 表情がよく分からない。何か怒ってるようにも、今にも泣きそうにも見えて。

 

「センパイ、返事」

「…………それは、状況次第だ」

「それじゃ教えられません!」

 

 またアオイに怒鳴られる。何でそこまで怒るんだ。逆にこっちが怒りたい。

 

 でも……俺は何となくだけど、アオイが意味なく怒るような人格じゃないことは知っている。

 そしてその怒りはきっと、感情がよく分からないから、だからじゃないかって。

 

「……分かった。聞く。聞いて大人しくしてる」

「センパイ……」

「けどアオイ。まずはお前の話から聞きたい。何で俺に対してそこまで怒るんだよ?」

 

 アオイがびっくりしたような表情になる。そんなに怒っていたのか? と言わんばかりに。いや怒ってたよ。結構。

 ふと横目で遠くを見てみる。ナースが二人、こちらを見ている。まぁここ、医務室だから騒ぐな、って言いたいんだろうな。でも今の時間帯は大目に見てください。

 視線をアオイに戻す。何故怒っていたのか。上手く言えないようだ。その間に俺は……。

 

 

 俺は……どうしたい?

 

 ……怖い。

 

 

 突然脳裏によみがえった光景。最後にはっきり覚えているのは―――。

 

 

 ……何となくだけど分かってしまった。キカワさんは―――

 

 もし、俺が「微弱な反応」に向かうと言ってたら……こんなことには。

 

「だって……」

 

 アオイのか細い声が耳に入る。今まで自分の両手に向けられていた視線をアオイに向ける。

 

「だって……これ以上誰もいなくなってほしくなんですよ」

 

 声が震えている。その言葉に、俺は視線を閉じ、自分の胸に触れる。俺自身の心も、震えていた。

 そりゃ、俺だってそうだよ。誰もいなくなってほしくない。

 それは俺のせいなんだ。俺が……あの時……。

 

――――――違う。

 

――――――いつまでも自分がこうしていればって唱えてても戻ってこない。

 

――――――受け入れなきゃいけない。

 

 次の言葉が、一度空気になって消える。もう一度、息を整えてから俺が言う。

 

「……そりゃそうだよ。誰も目の前でいなくなってほしくない」

 

 一度途切れた言葉を、もう一度続ける。

 

「でも、だからだよ。だから……俺は今の状況を知るべきだと思う。こんなところで、寝てられない」

 

 ……そうなんだ。俺が知るべきなんだ。

 

 

 

 

 …………でも。俺には分かる。『怖い』。俺自身がそういっていた。

 

 誰かに任せたい。何も関わりたくない。今までの事をなかったことにしたい。

 

 今の俺が、そう望んでいることなんだ。その言葉に嘘をつきたくない。

 

 だけど……だけど!

 

 

 

 

 

「……約束したんだよ」

 

 言葉となって出る。悔しくなって、認めたくないけど、俺は泣いていた。

 約束したんだ。俺が最後まで見届けるって。

 

 くだらない約束してしまった。って『俺』がそういっている。

 

 新たな約束や目的が出来た。って『ロナ』がそういっている。

 

 『俺』は、だめなんだ。

 『ロナ』は、頑張っているんだ。

 

 だから『俺』は『ロナ』にならなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 約束したから。

 

 

 

 上手く言葉に出来ず、それ以上は言葉が出てこなかった。

 そんな感じだったけど。アオイは気づいてくれたのか暫く無言になっていた。

 

 ………はぁ。ダサいな本当に。俺男だろ? なのにアオイが俺に気を遣うとか。

 ………これじゃ、「何で俺が女になってんだよ」って理由がはっきりしているみたいじゃないか。

 

 そんな自分に自嘲して。息をついてから再度聞く。

 

「教えてくれないか? 勿論いきなり飛び出したりはしない。ちゃんと聞くから」

「………分かりました」

 

 すごく安堵しきったような表情で、アオイは頷く。

 

 そして俺はアオイからいろんなことを聞いた。具体的にはこんな感じだ。

 

 まず一つ。『東京タワーはいびつな形になってしまったこと』。

 現在は自衛隊の皆さんが現地に赴いているかもしれない人達の救助を担っているらしい。これについては、生き残りがいることを祈るばかりだな……。

 

 次に一つ。『都庁の人達は焦りを見せていること』。

 ミヅチ(クソババァ)のせいで人々は俺達ムラクモに疑い、もしくは非難の目を向けてるらしい。それは確かに当たり前の反応だよな……。挙句に変な宗教団体まで出来上がる始末らしい。しかもそれだけではない。昨日ヒカイさん達がタケハヤさん達を都庁に連れてきたせいでさらにその目は加速している。ただ、こればかりは仕方ないと思う。そりゃ、俺達ムラクモは人命救助が主だもんな。

 

 さらに一つ。『渋谷に帝竜反応が存在していること』。

 俺も最初は信じられなかった。まさか、今までなかったはずの帝竜反応がここにきてやってくるとは思えなかった。それだけじゃない。ミヅチ(クソババァ)が勝手に目覚めさせたらしい。くそっ、余計な事しやがって……!

 

 最後に一つ。『現在はヒカイさんとジョウトがSKYとナガレさんと連携を組んで渋谷の帝竜を討伐しにかかってること』。

 タケハヤさんは怪我が危険だったけど、周囲の反対(だいたいナースだけ。他の人は見向きもしなかった)を押し切って渋谷に向かっている。

 

 で、なんでアオイがココにいるかと言うと、俺が心配でここに残ることにしたらしい。そこは素直にお礼を言わなくちゃな。

 

「……ありがとな。アオイ」

「いえ。センパイは無茶をする人、と言われてましたからね」

 

 一通り今の状況を聞いた俺は、頭の中を整理した。いっぺんに話されて少々追いつかなかったものの、なんとか上に挙げた通りの簡略的な事はまとめられた。

 それでも俺は飛び出さなかった。理由としては―――

 

「……センパイ。どうですか?」

「……うん。大丈夫そう」

 

 アオイがさらに傷の手当てをしてくれたからだ。見事にナースの目を盗んで傷をさらに出来るだけふさいでくれた。……本当に、感謝したくてもしきれない。

 アオイはふふっ、と笑って、すぐに俺を真剣な表情で見た。

 

「……センパイ。……念のため(・・・・)聞きますけど、……行くんですか?」

「……うん」

 

 俺はゆっくりうなずいた。

 どうしても、やらなくちゃいけない。

 

「……怒られるかもしんないけどさ。やっぱ寝たままで、まかせっきりはだめだよ」

 

 いつの間にか、『俺』はそんな風に整理できていた。

 腕はまだ震えていたし、まだ恐怖は残っている。こう言ってしまえば、試験の時と同じだ。

 でも、今の状態じゃ、それで立ち止まってはいられなかった。

 ふと、あの時言われた言葉を、復唱して見る。

 

「………死にたくない、と思っているからふさぎ込んでしまう。だから、『生きたい』と思って、前を歩くしか方法はない」

 

 そう復唱して、『俺達』の違いが改めてよくわかった気がした。

 

 『俺』は死にたくないと思っていた。

 『ロナ』は生きたいと思っていた。

 

 ……はは、ホント、ださいな俺。

 

 その言葉を聞いたのか、アオイは黙って立ち上がり、そして小声で「本当に待ってくださいね」とだけ聞いて、俺は素直に待った。

 そして一分ぐらいした後、アオイが静かに戻ってきた。カバンを持って。

 

「……分かりました」

「何が?」

「センパイがそう思うなら、私もそれを手伝おうと思います」

 

 そう言いながら、アオイはバックの中から衣服を取り出した。

 

「あっ……」

 

 その服を見て、俺は声を上げた。

 いつも着ている服一式プラスニット帽、さらに苦無と銃の装備一式だ。でも、服はどことなく新品な気がする。

 俺が驚いたのを見てか、アオイはクスクスと笑い出した。

 

「実はこの服、ジョウトが縫ってくれたんですよ。一部をわざわざ新調して」

「ジョウトが?」

「本当は、『あのアホ娘の傷が完全に治るまでは絶対に持ち出すんじゃねぇぞ!』って言ってて」

「……それジョウトのモノマネか。似てないなぁ」

 

 俺も思わず笑ってしまう。……やっべぇ。その光景が簡単に思い浮かんでしまう。

 しかもわざわざそんなこと言って、分かりやすいこと言い出すもんだな。……心配、かけちまったかな。……後で謝っとかないと。

 

「あっ! それと、これも!」

「ん?」

 

 そう言ってアオイは自分のポーチから…………

 

 なんと! チョコバーが9本も出てきたではないか!

 いや、いくらなんでも多すぎだろ!? 俺は心の中で盛大にツッコミつつ、ちゃっかり受け取っていた。……そりゃ、腹も減ってたしな。何か食える物は素直に受け取っとかないと、行ってる間に倒れそうだしな。

 

「本当はこれ、補給部隊の人達からセンパイに渡すように、って言っていたんですけど、それどころではなかったですからね」

 

 そうアオイが言った途端、俺の脳裏にフラッシュバックが起こった。

 

 あの時と同じ、三人称視点。四角の小包に、手紙。

 差出人は、『アオイ』。

 その文字を見て、『俺』はなんか泣きそうになった……気がする。

 

 ……なんだろうな、一体。……いや、今は……いいか。

 

 一通り受け取った俺を見て、アオイは笑った。不思議と俺も笑顔を作る。

 そして、アオイは俺に耳打ちしながら言った。

 

「……ではセンパイ。いいですか?(ゴニョゴニョ」

「――――――分かった。ありがとう」

「礼にはおよびませんよ。……いいですか。……必ず帰ってきてくださいよ!」

 

 そう俺に小声でつぶやき、俺はこっそり、ベッドの下へ隠れる。

 そして―――

 

 ガチャン。

 

「あ、あー!? センパイ飛び出さないでくださいよー!?」

 

 と、典型的でスッゲー引っかかりにくそうな(オマケに棒読みつき)のアオイがバタバタと病室を抜け出す。それに合わせてか、ナース二人もバタバタ駆け出していなくなる。囮なのに。

 素早くベッドから出るとさっさと着替える。

 

 ……うん。自分の身体を見るのは普通に恥ずかしいからものすごい速さで。

 

 

======しばらくお待ちください======

 

 

 

 完全に俺は赤面になりながらも都庁を抜け出す。

 

 ……もう抜けてしまえばこっちのものだ。なるべく急いで都庁から離れ、渋谷へと急ぐ。

 もう、だれも失いたくない。この気持ちは、『俺』も、『ロナ』も一緒だ。

 

 これ以上、誰か失うなんて、もう、嫌だ。

 

 理屈でもかまわない。犠牲なくちゃこの世界は存在できない。そんなの、俺は分かってる。

 

 でももう、これ以上ない犠牲が出たんだ。もう、犠牲なんて出させたくないんだ。

 

 綺麗事なのは分かってる。でも、綺麗事でいい。そうしなきゃ、いろんなものを見失いそうだから。

 

 一本のチョコバーを取り出し、袋を破って食べ始める。空腹が少しずつなくなっていく。その味に、どことなくアオイの思いが宿っている気がする。

 

 ……よし。一本食べたらなんか頭もスッキリしてきた。そんな頭で―――

 

 『俺達』は、必死に前へと進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




9/1追記。
「あ」と思ったところがあったのでアオイとロナの絡みを増加。
特にあのアイテムには印象深い人もいたのでは?

12/30追記
話を(前半部分を)大幅に変更。

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