女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!! 作:エマーコール
では、44Sz、どうぞ!
「…………」
「さすがに、これは耐えられんだろうな」
ダイゴは勝ちを確信したようにそうつぶやく。ネコも同意する。
「全く。私達に本気を出させるから―――」
「……いや」
遠くで観戦していたフウヤが口を開く。フウヤもタケハヤ達の後ろにいるので状態は分からないが、悟っていた。
「あいつらはこんなところでくたばるわけがねぇ。そっすよね? タケハヤさん」
「………ふん。そう思い―――」
「たいところだな、てか?」
氷塊から声が聞こえ、直後、バギッ! と言う音と共に中央の氷塊が砕け、中から三人が現れ出る。ヒカイが氷塊を砕き、ロナがそれを援護したような状態だ。
だが、消費はかなりしており、三人は大きく息をついていた、が、動ける分には問題はなかった。
「……さすが」
その三人の行動に、タケハヤは驚きもせずに、逆に賞賛の言葉を言った。
「……的確な判断だったぞ。ジョウト」
「アンタらが勝手に突っ込みまくってるからおかげでオレは空気だよ。ありがたく思え」
「ふーん。そこに俺の援護があったのにもかかわらず、なのにか?」
「はっ、お前も上等上等。じゃ、やってこい」
「あぁ」
そう言ってロナは苦無をもう一度構え、三人に切っ先を向け、息を素早くつく。
そして、上段に苦無を構え、敵を見据える。
そして――――――
「―――獄死!!」
――ビュン!
ロナは一直線に苦無を投げつけ、さらに突撃する。
「……ありゃあ、フウヤのヘッポコ技か」
だが、タケハヤはすぐに対応策を取り始め、同じく一直線に、剣で身を護りながら突撃する。
「(悪ぃけど、オレは一度これを受けたことがあるし、ダイゴも同じ技を喰らった。でも、簡単な弱点とすれば、突進して弾けりゃ―――っ!)」
しかし、もう一つの抜け目があった。
それは、ヒカイと並んで走っていることだ。
これでロナを迎撃しちまえばいいが、それだとヒカイからの一撃を喰らう。
「(けど、それでも後ろでネコがいる。攻撃してきちまえばそいつでオダブツだ!)」
タケハヤは心の中でニヤリと笑っていた。
肉を切らせて骨を断つ。まさに今の状況はそうだった。
それを読んでいないのか、ロナとヒカイは大きく構えていた。
「
「
ロナは片手に飛ばした苦無を取り、ヒカイは拳を強く握り、さらに一歩踏み込む―――
三人の距離が少しずつ縮まっていく。
「どっちでも関係ねぇ、ぶっ潰されろ!!」
「「答えは―――!!」」
さらに二人は一歩―――
大きく、
そして―――
「―――
――ドンッ!
ガラ空きになっていた、そして、二人の壁で死角となっていたジョウトがタケハヤにタックルをかました。いきなりの攻撃に防御が間に合わず、タケハヤが大きくよろめいた。その間にすぐにロナがタケハヤの隣を通り、ダイゴの元へ。
「何……!」
「俺は…………立ち止まっては、いられないんだッ!!!」
零距離でダイゴの胸部分に手を添え、マナを解放―――
「『
ロナの両手から鋭い氷がダイゴを貫く。吹き飛ばされたダイゴ。ネコもあわてて応戦しようとするが―――
「やらせねぇっつーの!!」
さらにジョウトが空いた側面からネコを突き飛ばし、スキルをキャンセルする。追撃をかけようとロナは銃を引き抜き、
ガンッ、と、何かが飛ばされた音とカラーンと乾いた音が鳴り響き、ロナはそちらの方を向いた。
ヒカイと、タケハヤの決着だ。そして、先ほどの音はタケハヤの剣。そして、タケハヤは大きく床に倒れた。
「…………」
「勝負、あったな」
ロナは黙ったままこの決着を見届け、ジョウトの声で、勝敗を決めた。
「……合格、だな」
タケハヤは倒れた体勢のまま、上を見上げてそうつぶやいた。
「さすが、ホンモノの『狩る者』ってか」
「………タケハヤさん、なんでそこまで……」
ロナはどうして、「そこまで『狩る者』に執着するのか」と言いたかった。でも、言えなかった。
たった一人の好きな人のため、タケハヤは自分の身で実力を定めてきた。分かっているのに、自分は、言えない。
「……アイテル。見てたか」
「……えぇ。タケハヤ」
どこからともなくアイテルがやってきた。アイテルはタケハヤに手を貸しつつも言葉を続けた。
「ごめんなさい……あなたに、また無理をさせてしまった」
「いいんだよ。『ニセモノ』が本物を試すのが一番だからな」
「……ニセモノ、いや、どういうことですか? タケハヤさんたちは……」
だが、ヒカイはロナの口を遮るように手を挙げる。「え?」とロナはヒカイを見た。先にヒカイは答えを言う。
「……模造品、か」
「その通り。俺達はお前ら『狩る者』の模造品、それどころか、『S級』の模造品さ」
「なっ……!?」
「何だと!?」
ロナとジョウトは声を上げて驚いた。まさか、ここまでの実力を持っているのにもかかわらず、『狩る者』でも、それどころか『S級』でもない、いわば、ドーピング。タケハヤはまだ続ける。
「人工的に作られた『力』、ニセモノの天才戦士、ってトコか」
「人工的に…………あっ!?」
ロナは声を上げる。一つ思い当たる節があったからだ。
そう。あれは夜中。寝付けなくて外に出た途端、一人の人物に遭遇。そして告げられた言葉。
『―――武術も座学も一通りこなせるうえに、研究者としても大きな成果を残してきた』
『……マジ?』
『うん。……ミイナ達も、実は―――』
………やっぱり、アイツは……アイツは………!! こみ上げる怒りにロナは両拳をギュっと握りしめた。それにも気づかず、アイテルはロナ達へ振り向いた。
「この星にはごくまれに、星の加護を受け、飛び抜けた『力』をもつ戦士が生まれてくる。それはこの星に訪れる災厄、『竜』に対抗できる、『S級』の力を持つ戦士」
「………量産物じゃなくって、天然物だけがそれをもらえる、ってか」
ジョウトはそう意見を述べる。アイテルは黙ってうなずく。
「タケハヤたちとの戦いを見て確信した。あなた達は確かに、『竜を狩る者』」
「………『狩る者』、ねぇ。実感湧かねぇや。当たり前の事ばかりしててよ。なぁ? アホ娘」
「………あ、あ? なんだって?」
「おま、ここまでボケをかますかよ。オレ達は、『竜を狩る者』だっつの。な? 実感湧かねぇだろ?」
「………関係ないよ。今はそんなこと」
ロナは少し焦った表情でそう告げる。が、すぐに「ごめん」と、自分の過ちを正して、そして、タケハヤ達を見た。
タケハヤが言う。
「お前らが竜を狩れる特別な存在なら、それを自覚してほしい、ってな。アイテルの頼みでそれを伝えに来たのさ」
「……な、なんで俺達なんですか?」
「お前たちだからだ。だから、覚悟を決め―――うっぐっ!?」
突然、タケハヤが胸を抑えて苦しみだした。あわててロナやジョウト、さらにはSKYメンバーがタケハヤに寄りだす。その中で遠くで見ていたヒカイ。
「……すまん」
その言葉は誰にも届かなかった。まるで、自分の過去の誤ちを悔やむように。タケハヤは胸を抑えつつも、ブルブルと首を振って助け入らないと示した。
「だ、大丈夫だ……ちくしょう、くやしいったらねェぜ……あの狂ったババァにいじくりまわされて押し付けられたのがニセモノの力だったなんてな……」
「………あのクソババァ……!!」
ギリッと、奥歯を強く噛むロナ。
アイツ、ここまでやるか―――!!!
「は、はは。お前も気づいていたんだな。だが、内部事情は知らねぇとみた。教えてやるよ。あの女の一族は昔からムラクモ機関って『S級』の力を管理する組織の長だった」
「けれど、その長である自分が『S級』なんかじゃないって気づいて、それが気にくわなかった」
ロナは怒りを抑えているような声でそう言う。タケハヤは黙ってうなずいた。そして、続ける。
「狂った人体実験を繰り返して、人工的な『S級』の力を作り出すことに、ずっとご執心だったよ」
「そして、タケハヤさんたちは実験台になってしまった……。そういうこと……だな!!」
とうとう怒りを抑えられずに、今いない筈のナツメに怒鳴りつけるロナ。
くそ……なんだってこんな時に………!!
ダイゴも、それに意見を付け加えるように言った。
「俺もネコも同じだ。親を失った後、ムラクモという機関に引き取られ、あの女の実験台になった。タケハヤを追って研究所を逃げ出すまで、痛みと苦しみの、地獄の日々だったよ」
「……じゃあ、アイツもか?」
ジョウトは気になったことを、フウヤを指差しながら言う。
「あぁ、オレか? 悔しいことに、オレは
「……」
アイテルはそんな風に言うフウヤを見て、そのままロナ達の方へと振り返った。だが、タケハヤは首を横に振った。
「俺が嫌ってんのはあのババァだけだ。別に、『S級』には興味ねェさ。それに、今更仲間を裏切れねぇだろ?」
「……へっ、どうもな」
フウヤは少しフードを深めにかぶってそう言った。タケハヤは今度はロナ達に向かって言った。
「…どうだ? 俺達がムラクモを嫌う理由がわかったか?」
「……だったら、なんで俺達のことを邪魔したりしなかったんですか? そんなにムラクモが嫌いなのに……」
「あぁ、今やムラクモは表は人類のための正義の組織みてぇだからな。余計なちょっかいはかけねぇ、って思ったのさ」
「……まぁ、表は……ですね」
「だが、気をつけな? あの女が望んでんのは別のコトかもしれねぇ」
「………はい」
ロナは率直に返事をした。フッ、とタケハヤは笑い、後ろを向く。仲間の元へと戻るように。
「さぁて、言いたいこと言ってスッキリしたぜ。……俺達の役目はここまでだ。『正義の味方』はお前らに任した」
「……本当に、俺達にそんな役が務まるんですか……?」
「シャキっとしろよ。俺とは違って、お前らは赤の他人すらも護ろうとしてんだぜ? 俺に比べちゃ、立派なモンだよ」
「………タケハヤさんだって、立派ですよ」
「バァーカ。こんなところで言うなって」
タケハヤはどこか照れを隠そうとそんな風に言う。ロナはそろそろ先へ行こうとしたが、「待って」と、アイテルは言ったので一度止まる。
「もし、あなた達がこの星のために戦ってくれるのなら、私は、あなた達を導くことができる。どうかしら……私達と一緒に、来ない?」
「………」
ロナは黙って、扉の先へと歩き出した。恐らく、この奥に帝竜がいると、確信して。
「……すみません、そっちには行けません。……あれだけ憤って、怒って、イラついたんですけど、俺達には、都庁の仲間がいるので。……失礼します」
そのままロナは扉をくぐって先へ進む。ジョウトも、「ま、そういうことなんで」と言って同じく先へ。残ったのは、ヒカイだけだった。
「………」
「アンタも行くんだろ。オッサン」
タケハヤは振り返り、ヒカイを見た。
「……本当に、すまなかった」
彼は頭を下げ、謝罪する。その姿勢を見て、タケハヤは言った。
「………別にアンタは悪くはねェよ。むしろ、アンタは俺達に取っちゃ、『父親』みてェなもんだった。あんな暗い地獄にいた、一筋の光、ってな」
「…………そうか」
「……んだからよ、今度はそいつらを導いてやってくれ。今更礼も言わずの親不孝共は置いて行って、な」
「……」
ヒカイは黙ったまま、扉をくぐる。残ったのは、SKYだけ。タケハヤは、小さな声で、一言言った。
「…………そりゃ、今となっちゃ、恥ずかしいだろ。面と向かって、『ありがとう』、なんてよ―――」