女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!! 作:エマーコール
チームを組んだロナ、ヒカイ、ジョウトはどうなるのでしょうか。
では、3Sz、どうぞ!
「………ふむ、いいだろう。先に他の候補生たちは中に入ったからお前らも急げ」
そう言われて俺らは都庁内に入って行った。
中そのものは…………うん、やっぱり普通の光景だ。俺都庁なんて初めて入ると思うけど、普通の都庁ってこんな感じじゃないか?これのどこがマモノがいるってんだよ。
………いや、待てよ。何で人がいないんだ?他には俺らと同じ候補生と、自衛隊の数名に、ガトウさんと同じ格好をした二名………………。
…
……
………
…………
……………待て………二名?……二名?…二名?あれ…なんだこの違和感の正体は…。
「……これで全員ですかね?キカワさん?」
「んー…そうなんじゃない?今日のは収穫だし、なんとかなるなる」
キカワさん……だれだそれ?俺は何故か初対面の人に対して変なリアクションを取っていた。まるでイレギュラー入れていました。なように。
キカワさんは青い髪をしていて、野球帽をかぶっている女の人だ。…それで、隣の赤い髪の人は……。
「ようキカワ。ナガレ。とりあえずこいつらで全部だ。後の奴らは多分拒否したんだろうな」
と、俺らの後ろからガトウさんがやってきた。俺らの前に立つと、一旦俺らを見渡した。
「…ちょうど6、7チームできるか…。上出来だ。今回のは収穫だな。よォしお前ら!これから今回の試験について説明するぞ!」
試験開始か……どんなんだろ。筆記試験かな。
………それも勘弁だな。筆記は……アカン。
「なぁに、今回のはちと簡単だな!今回はマモノを倒しながら昇るだけだ」
…それのどこが簡単だよ…。俺はちょっと泣きかけそうになった。だって、つまりそりゃあ………
「あの……マモノって、なんですか?噂では聞いたことありますけど…」
俺の隣の見知らぬ誰かがマモノについて訊ねる。……マモノってそりゃあ……
と、突然、どこからともなく、ウサギが来た。恐らくそれがマモノなんだろう。……刃に伸びた牙がそれを教えている。
………まじかよ……。やばくないか……?
「ヒィっ!?」
「な、なにあれ!?」
他の候補生たちも驚いた様子だ。…驚くだけならいいだろ。…俺は驚くこともできない。むしろ恐怖だ。
死んだらコンティニューもできない。ゲームなんかじゃない。…死にたくない。
「ガハハハハ!!!お前らよかったな!実物が見られてよ!!」
やべぇ…ガトウさんはこの状況を楽しんでいる。どうして楽しめるんだ…!どうして………。
「…よし。折角だ。挑む奴いるか?」
いねぇよそんなの…。俺はそっぽを向いた。その視界にはジョウトだ。ジョウトも同じく、驚いた顔でマモノを見ている。
「…私達のチームがいこう」
は?
「折角の実戦だ。早い方がいいだろう?」
なっ……えっ……?ヒカイさん……?
「おう!んじゃあ、いってこい!」
そう言って俺ら二人を後押しするように、ヒカイさんは行くようにうながした。
……マジ…で?
「………いくぞ」
…ジョウトも覚悟を決めたようにチャクラムを持つ。
……俺も、行くしかないか………
「…分かりました」
そういって、俺らはマモノ二体に突撃した。
本当は俺は行きたくなんてなかった。嫌だよ。痛いのとか、そのまま死ぬとか。だってみんなそうだろ…?
でもよ、何故か俺は承諾したんだ。何故かは、この時は分からなかった。
「…私が前に出て囮になる。ロナは残りの敵を横から斬れ。ジョウトはなるべく喰らわないようにしてロナの援護しろ。いいな?」
簡素かつ、的確な指示で俺らに作戦を伝える。…やるしかねぇ。ヤケクソだ…!!
「う、うおおお!!!」
突撃。思いっきり、短剣を振る。
ザシュリ。斬る感覚が全身に伝わる。
どうなっているのかは分からない。目をつぶっていたからだ。…怖い。目を開けるのは無理だ。
瞬間に、反撃と言わんばかりに腹に衝撃が伝わる。吐き気がする。めちゃくちゃ痛い。
ヤバい……死ぬ…?い、いやだ…死にたくない……!
「こんにゃろうが!!!」
ジョウトの声が聞こえたかと思うと、今度はまた何かを斬り裂く音が聞こえる。CDを突っ込んだ時の音を大きくさせたような。その音が聞こえてはっとして目を開ける。見えたモノ、それは何処かへと、役割を果たしたように飛んでいく銀の円盤だ。
「やるなぁ…おじさんも負けられないな…!」
一体の攻撃を引きつけてくれたヒカイさんが敵に向かってフックを仕掛けるような動きで思いっきり敵を殴る。
こっちにも伝わる。達人級の武術で、俺やジョウトとは比べ物にならない、いわばプロの動き。
「ロナ!いけ!!」
お、俺……!?
呼ばれてる。ご指名だ。俺が呼ばれているんだ。他の誰でもない。俺が…!!
……いくんだ……いくんだ、
「……あぁくそっ!!!」
反射的に、俺の身体が弾丸のように飛び出す。あまりにも、自分でも認知できない動きで一秒がおかしくなるぐらいの速さだ。
これが、トリックスターの速さか…………。俺はどうでもいいことをこの一瞬でそう思った。
そして、思いっきり突き刺す。……見ることはできなかった。見たくないだけだ。
気づいたときには、空間に向かって短剣を突き刺していた。………つまり、マモノは消滅していたんだ。
「……上出来だな」
「え……あ、あぁ……」
その場で、俺はペタンと座り込んだ。
これが………実戦…………。
周りで拍手が起こってたらしいけど、俺はその音が聞こえなかった。バンダナのせいか、あるいは――――――。
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まだ、マモノを突き刺した感覚が残っている。数分したのにもかかわらず。いや、数分たったのか分からないぐらいだ。
俺らは、絶対俺のせいで、まだ一階にいた。他の候補生は多分、昇って行った。俺らを見て、自分たちだってできると自信を持ったのもいたはずだ。それは、ある意味嬉しくも、逆に呆れもしていた。でも、それ以上に恐怖が付きまとっていた。
一階のどこかで俺はまだ座っていた。動いていないだけなのかもしれない。ヒカイさんは俺を黙って見ていたし、ジョウトはどこにいるか分からないが、少なくとも、俺の近くにいることは認識できていた。
やがてヒカイさんは今の俺に呆れたのか、立ち上がる。……置いていくつもりらしい。……そりゃそうだよな。ずっと恐怖で俺は動いていないかもだし。一回だけ肩を並べて戦った、赤の他人だから―――。
「ロナ」
ヒカイさんは俺の
「…キミは、『死にたくない』と思ってるのではないか?」
……当たり前だ。俺は黙ってうなずいた。
死んだら、本当に元も子もない。確かに俺は一度死んだ。死んだ、っていう実感もわかず、しかもただの巻き込まれだけで死んだ。それを神様は哀れだと思って俺に転生を促して、俺は承認してここに来た。
となると、死にたくないと思うのも当たり前だろ。誰だってそうなるはずだ。
「…だからだめなんだ」
…何でだ?俺はゆっくり、顔を上げて、ヒカイさんを見た。ヒカイさんは真剣な表情でこういった。
「死にたくない、と思っているからこそふさぎ込んでしまう。
だから、『生きたい』と思って、前を歩くしか方法はない」
……『生きたい』?
「死は誰だって恐怖する。そして誰だって直面する。それをおびえる者はいる。そうしてふさぎ込むのは人としては恥ずかしくない。
だけど、外に出てる間は『生きたい』と思うしかない。どうなるか分からない『死ぬ』より、ある程度分かる『生きる』のほうが何倍もましだろう?」
……………………確かに。
俺は今まで『死にたくない』と思っていた。さっきの戦いだってそうだ。俺は『死にたくない』と思って戦った。…本当にそれだけだったのか?
……違う。多分だけど、『死なせたくない』と思ったんだ。それは『生きさせたい』ともとれる。
だから俺はあの小さな戦場に出ることになった。『生きさせたい』ために。
…………確かに、『死にたくない』じゃなくて『生きたい』と思った方が前向きだ。
「…『死にたくない』なら下がれ。そう思う奴から死んでいく。ロナ、お前はどうだ?『死にたくない』か?『生きたい』か?」
「………俺は……」
…答えは、決まっている。覚悟は決まっていた。
神様、もしまたアンタの前に出たら一発ぐらいぶん殴らせてくれよ?全部、アンタの責任だからな
「『生きたい』!!そして、ムラクモに入るんだ!!!」
死なないために…違う。もう一度、生きるために!!!
「……いい答えだ。…ジョウトも、いけるな?」
「ったりめーだ。…今ので実戦は掴めた。少しこえぇが……こいつよりは怯えてねぇはずだ」
失礼だな…いや、当たり前だ。俺はずっと怯えてたさ。死にたくないから。
もう覚悟は決めた。進むしかない。
気づいた時には俺はもう立ち上がっていた。まだ恐怖は残っている。歩きたくもなかったけど、それは全てここに置いていく。
「…行こう。試験官も上で待っている!!」