女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!!   作:エマーコール

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27Sz 二人の二重能力者

 

 ……という訳で、俺達は例の車で、首都高のある場所まで来た。

 ……やっぱここもひどい。ドラゴン襲来直後のように、車が散乱してる……。臭いがそんなにしないのが幸いか……。

 

『コール、13班』

 

 っと、ミイナだ。……あ、ちなみに新しくトランシーバーもらいました。……インカムの方がいいけど、なんかトランシーバーになれちゃったし、いいや。

 

『補給部隊は多分この辺りにいるはずです』

「うんわか………って、あれ……?」

 

 ……補給部隊……?の、割には非常に見た目がチャラ……ん?

 

「……あれって……」

「カツアゲ集団か」

「ヒカイさん撤回してください!!それ一部だけです!!」

 

 またおちょくり始めたよこの人は!!

 

「って、なんでSKYがここに……」

「「「「ゲェー!?あいつらー!?」」」」

 

 なんで○本びっくりの驚き方でシンクロしたんだよお前ら!!!

 意外と悪い集団じゃないかもな。うん。

 

「……こいつらまたカツアゲか?」

「残念だが、食べ物はないぞ?」

「アンタら……」

 

 だめだこの二人……はやくなんとかしないと……

 って、言ってる間に勝手に道開いてる。……よほど俺らの事恐怖の対象にされてるみたいだな……。言っちゃ悪いけど、あっちのほうがチンピラな見た目なのに。

 

 …

 ……

 ………

 

 …………ん?悪い見た目……?

 

「……」

「なんかあんのかよ?」

「別に」

 

 ジョウトの方がよっぽど悪な気がする。根はやさしいけどね。

 

 ……でも、こいつらが渋谷を離れているってことは……。

 

「……なんだ、一体……?」

 

 俺達は疑問に思いながらも礼も言わずに(失礼?気にするな)進んでいく。

 

 ……あっ、遠くに三人……

 

 ネコとダイゴと……それから……

 

「……フウヤ……」

「あん?……って、お前……」

「……あの時以来だな……」

 

 ……つか、なんでこいつらがここに……?渋谷をシマと言ってたはずなのに……。

 

 まさか、何か事情があって……?

 

「な、なぁ!……なんでSKYのみんなが……」

「こ、こいつらが『医療物資』を奪いに来たんだよ!!」

 

 必死に守っている補給部隊の一人がそう言う。

 ……ほんと……か?

 

「いんや。俺らだって最初は話し合いで解決しようとしたが」

「そっちがまるで取り合わないから仕方なく奪うハメになっているんだっつーの!」

 

 ……どういうことだ?俺はフウヤとネコの言っている言葉が本当なのかたずねようとして―――

 

「ま、そっちの言い訳もあるかもしれんが、俺達にも事情があってだな……お前らがこのまま引き下がってくれたら手荒な真似はしないで済むんだが…」

「……」

「……最後の言葉がなけりゃ、ハイそうですかって引き下がったかもしれんが……」

「ジョウト……?」

 

 ……え?まさか、やる気……?

 いや、待て待て!!事情あるならそれを聞いてから―――

 

「戦線布告確定。……んじゃ、ロナ。リターンマッチといこうか!!」

 

 っ!!!

 くそっ……やっぱりこうなるのかよ―――!!

 

 

======視点切り替え(三人称)======

 

 

 フウヤが一直線にロナへ弾丸のように突撃してくる。

 ロナはそれを飛び退きながら避け、なるべくジョウトとヒカイからフウヤを遠ざけるように誘導し、なるべく開けた場所に。

 

「ほう?やっぱり、お前も心待ちにしてたのか?」

「違うって!ただ、話し合いで解決するなら……」

「……チッ。そういう優等生発言がイラつくんだよ。なんか知らねぇけどな」

「え……?」

「けどまぁ、こっちにも事情があるもんで、ちょいとオイタをつけとくぜぇ!!」

 

 フウヤがさらに特攻。ロナも防衛気味に短刀を取り出し、防御する。

 刃と刃。二つの金属がぶつかり、互いの顔が近くなる。

 フウヤは楽しんでいるような顔。

 ロナは焦っているような顔。

 両者はまったく似通っていなかった。

 

「おらよっと!!」

 

 あの時と同様に、ロナに回し蹴りを喰らわせようとするフウヤだが、それを見越してロナはすぐにバックステップ。その勢いで車と激突したものの、大したダメージは負わない。

 

「ヒュー!学習したってわけか!」

「だから!何でそんな……」

「楽しんでいる……ってか?」

 

 ロナの言葉を読み取るようにフウヤはヘラヘラと笑いながら言った。意外と、驚いた顔をしないロナ。分かっているからだろうか。

 

「だって、楽しいだろ?特に、タイマンってのはさ。マモノだけじゃあ、全くもって飽きる。だからまたお前が渋谷にヒョッコリ顔だしてくれりゃあ、いいなって思ってたんだよ」

「………何で俺との戦いがそんなに楽しめるんだ」

「おう?つかお前、一人称が『俺』ねぇ。意外と、男の子だったりか?そりゃねぇよな?」

「俺は男じゃねぇよ。女だよ。……さっきの質問に答えろよ!」

「やだね」

「は?」

「質問は一人一回まで!残りは……どっちかが倒れるまでだ!!」

 

 そう言ってフウヤは一本の短刀を投擲。ロナの方へと、一直線に。

 ロナは一度喰らっている攻撃故に、素早く分析した。

 フウヤは……来ない。

 恐らく、回避を誘っての投擲だろう。

 

「けど……!」

 

 不本意ながらも、ロナは一丁のハンドガンを取り出して、空中に飛ばされた短刀に向かって乱射。短刀は大きく逸れる。

 

「チッ、さすがに二発目以降はバレるってか。…別にかまわねぇけどな!!」

 

 それを読みこしてか、フウヤが大きく回り込みながらもロナに勢いよく近づいてくる。ロナもそれに応戦するように、もう一丁の銃を取り出して撃ちこみ続ける。だが、フウヤは卓越した動きで銃弾をかわし、一歩を大きく踏み込んでロナにやってくる。

 

「くそっ………『空穿の疾槍(エアスピアー)』!!」

 

 だが、簡単にはやられるわけにはいかないのか、ロナは下に『エアスピアー』を撃ちこんでその風圧で大きく飛び上がる。

 この突風に、フウヤは一度止まるものの、まるで獲物を見つけた虎のように、宙に飛んでいるロナを見つけるや、たった一、二歩の助走で飛び、ロナに一気に接近する。

 

「死亡フラグ……ってか?」

「それは……こっちのセリフだ!!」

 

 ロナは空中で接近してきたフウヤに向かって両足で蹴って距離を大きく離す。急な攻撃だが、フウヤは冷静に防御して、受け身を取る。

 フウヤが着地したころには、ロナとフウヤの間には、見事に横転している車が存在し、どちらからも姿は見えない。

 

「……」

 

 それをフウヤは逆手に取り、音もなくステップで車との距離を詰め、その車を蹴り飛ばす。

 以前の戦いに似ていた。『フレイム』で、出来た火壁にロナはしゃがみこんで反撃に移っていた。だからこそ、同じくカウンターを狙っていると確信していた。

 

 だが。今回はロナはそこにはいなかった。

 

「ほう……」

 

 感心したようにフウヤは一声上げるが、一歩も動かずにフウヤは目をつぶって精神を集中させた。

 

 聞こえる。風の音、遠くからの戦闘音、そして、自分の息遣い、そして、相手(ロナ)の準備音が。

 彼にはもう一つ。S級とも言っていいほどの能力を持っていた。

 

 絶対音感。

 

 どんな音でも聞き分けることができると言われる、人の特徴の一つであるが、フウヤはそれ以上に音を聞くことができ、しかも、どこから音を出しているのかがある程度分かる。

 そう。彼もロナ同様に二重能力者(デュアルスキラー)であった。

 

 音を聞き逃さない探知機(レーダー)

 獲物を逃さない始末屋(トリックスター)

 

 彼に『獲物』と認識されたら最後、逃げられることは不可能。と、自分も、この二重能力を知っている一部の者も、言っていた。

 

「……」

 

 一部の、山のように積み重なった複数の車の方向を見たフウヤ。目にもマナを宿らせて、『アサシンアイズ』を発動し、服の裏にこっそり隠し持っていた拳銃を取り出す。

 フウヤは銃は嫌いだった。理由としては、戦闘のやりとりがつまらないことと、音を出す際に、自分の『絶対音感』が邪魔をしてくるから。

 けれど、この状況では使った方がいいと思ったから、引き抜いた。

 

「あばよ」

 

 それだけ言って、一発だけトリガーを押し込んで銃弾を発射。

 エンジンへ狙い定めたソレは、車を爆発させた。

 裏にいたロナも、ダメージを負ったはずだ。音が邪魔していて、確認は取れなかったが。

 

「……」

 

 燃え盛る車たちを見つつも、とりあえずネコとダイゴ(オカン)の様子を確認しようかなと思って後ろを向いた直後。

 地面を何回か蹴る音がして、だが、焦った様子もなく待ってましたと言わんばかりに振り返り、飛んできた人を短刀で

 

 

 刺した。

 

 

「………あり?」

 

 だけど、感覚はなかった。

 むしろ、『精命力(マナ)』を突いたような、あっけない感覚―――

 

「―――足元注意!!」

 

 その声を()から聞いた直後、フウヤの体勢が崩され地面と激突。誰かが乗ってきた感覚に動揺しつつも見る。

 ロナだ。

 ロナは、フウヤの首元にナイフを当てていた。

 

「……ちっ、フェイントかよ」

「あぁ。今フウヤが刺したのは『デコイミラー(俺の写し身)』。……けど、まさか車を爆発させにかかるとは思わなかった」

「……なーるほど。さっき裏の方で準備やってるなと思ったらお前の写し身を形成していたってわけか。一本取られたぜ」

「こっちもだよ。まさか、居場所が分かったとは思えなかった。かなり意識を薄くしたはずなんだけどね。……でも、今回は俺の勝ちだ。……質問に答えてもらうぜ」

 

 ……しゃーねーな。とフウヤは諦めたように息をつく。

 そしてフウヤは気づいた。ロナの両腕、そして全身が震えていたことに。それは恐怖の一点張りだったのだろう。

 そんな奴に、俺は負けたのかと、自分の力の無さを改めて感じ、こりゃ、どんな奴でも逃がさない、はしばらくの間言えないな。と思っていた。

 

======視点切り替え(ロナ)======

 

「……マジか」

「……あ、あぁ……」

 

 意外な光景だ。俺にとっても。

 ……どうやら、決着はついてたらしい。

 ……ネコさんとダイゴさんが、膝をついていた。

 

「悪いね……本気でやっちった」

「だが、こちらはいくつもの死戦を潜り抜けてきた。その結果だ」

 

 ……そうか。俺達もいつの間にか力をつけていたのか。自覚なんてないぐらいに。

 

「ん、ロナ。……まさか……」

「……とりあえず、事情は聴いてきた」

 

 フウヤから聞いたことを話した。

 SKYにも、病人や怪我人もいたことを。そのために、仕方なく盗みにきた、とのこと。

 全く……何でこんなことを先に言わなかったんだよ。それだったら俺もハイそうですかで渡してたのに。

 

「……おーい。ミイナー。聞こえる?」

『は、はい。聞こえています』

 

 俺はトランシーバー越しにミイナに通信を取った。

 物資を少し分けてもいいか。と。沈黙がわたる。しばらくして、ミイナから通信が帰ってくる。

 

『判断はロナ達にゆだねます。……本部には黙っておきますから』

「ありがとな。……それじゃ少しばかり拝借してっと……」

 

 俺はトランクの中からそこそこ使えそうなものや、量が多くてこっちも困らなそうな量を適当に取る。

 

「ロナ、これも渡してもいいかもしれん」

 

 と、途中でヒカイさんの的確なアドバイスを受け取りつつも、薬などを取った。まるで悪党だな。と、心の中でつぶやいたのは言うまでもない。

 ……けど、なんか慣れているような口調だったなヒカイさん……。まぁ、熟練者なんだから薬の知識ぐらい当たり前ってか?俺は何も言わなかった。

 

「はいこれ。……もし量が足りなそうだったら、ごめん」

「いや、十分すぎる量だ。……助かる」

 

 ダイゴさんに、だいたいヒカイさんの説明で厳選した薬たちを渡した。……ダイゴさんは表情変わってなかったけど、どこか安心したような表情だ。

 

「ん……タケハヤさんじゃないっすか」

 

 と、フウヤが言ったのでそっちの方向を見ると、別になんともなさそうなタケハヤさんが遠くにいるのを確認できた。

 

「だ、だいじょーぶなの!?ムリしちゃだめだって―――」

「るせぇな。平気だっつの」

 

 ……ムリ……?どういうことだ?こんなにピンピンしてるように見えるのに……?

 俺がそう疑問に思ってる時、俺の方にタケハヤさんは向いてきた。

 

「それより、池袋の戦い……見てたぜ」

「え!?どこで!?」

「んなの内緒だ。しっかし、あのバァさんらしいゲスい作戦だな。全く、ホレボレしたよ」

「……確かに、あれは酷いものだった」

 

 聞くだけで思い出す。犠牲になった人達のことを。

 あと少し、あと少しで届くはずのものが届かない。絶望に、俺達は負けた。けど―――

 

「はぁ……お前さぁ、そう思うんなら、辞めようとか思わねぇの?」

「それは……確かに辞めようとは思いましたけど、でも、俺には仲間がいたし……」

「バァさん殴ってきた」

「言うんじゃねぇジョウト!!」

 

 ジョウトの言葉に反応したように、タケハヤさんは目を丸くして、やがてすごく愉快なぐらいに大笑いした。……近くでフウヤがうるさそうに耳を抑えながらしかめてやがる。……確かにちょっとうるさいけど、そんなほどでもないよな……?

 

「ったく、お前最高だよ!!……お前、名前は?」

「俺は……ロナ。河城野ロナ」

「ロナな。ロナ……と。覚えた。まぁ、それでも?2匹の帝竜を狩ったのは大したものだ」

「そんな……俺やジョウト、ヒカイさんだけの力じゃないんですし……」

「ま、そんな過小評価してるやつでも、お前らが、アイテルの探しているヤツらなら、俺達とはまた会うことになるかもな」

「あ、アイテル……?」

 

 だれだ、それ……?俺が質問しようとする前に、タケハヤさんはSKYの三人を見る。

 

「んじゃ、ダイゴ、ネコ、それからフウヤ。帰るぞ。―――あばよ」

 

 そういって俺達とSKYの人達は別れてしまった。

 ……アイテルって、だれ?

 

「……まぁ、いいか」

「んじゃ、オレ達は先に帰ろうぜ。後は念のためにこのトラックの後ろについて護衛ってところか?」

「そうだな……。疑問に残る部分はあるが、よしとしよう」

 

 と、言うことで俺達は都庁に帰ることになった。

 ……特に、何もなくって、非常に、どこか穏やかな時間だ。

 この時間、いつまでも続けばいいな、と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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