女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!! 作:エマーコール
ではどうぞ。2話目です。
……結局、思い出せなかった。重要な疑問の筈なのに。尋常じゃないほどもどかしい。それ以前に、なんで転生先の情報があるんだ?と疑問に思う。………
きっと神様がサービスとして情報を勝手にインプリントしたんだろう。そういうことにしとこ。
……でもおかしい。だったらなんで俺は『ムラクモ機関に入る』なんて思った?試験は厳しく難しいはずなのに。いや、今は目の前だ。聞いてからでいい。
俺は一度、今ある現状の問題を見ようとして顔を上げる。同時に声も、非常に大きく聞こえた。
「んじゃあ安全を期すためにも三人一チームを組め!!二人でも一人でもかまわんが、死にたくなければ三人だ!俺は入口で待ってるからな!!」
ガッハハハハ!!と、顔についた傷が以下にも軍人を思わせるおじさん…………いや、違う。たしか、ガトウ、って聞いたな。ガトウさんはその場を後にして県庁の入り口で仁王立ちを思わせるように立つ。
……ガトウさん、か。
やっぱり、何かおかしい。俺は思い出そうとしたが、思い出せないのでやめた。
とりあえず、どうしようか。このまま帰るのもいい、………でもよく考えると帰る宛てもない。となると…………。
「……………………デスヨネ」
とりあえず、三人、三人だな………。俺は辺りを見渡す。……個性的な人たちだらけだ。そういうと俺は普通の人間と言わんばかりだが、俺だって、『ルシェ』っつう種族になってるから、俺が一番浮いてることになる。何てことだ。
そのためか、なかなか言い出せない。言い出そうとしてもどこか行っちゃたり、俺自身がどういう訳だが拒否をして勧誘できなかったりしてなかなかチームは組めなかった。と、
「やぁ。そこのお嬢さん」
「……ん?」
そこに一人。黄色のスーツ姿の老年が俺の前に立った。
………あれ、このおっさん、見たことあるような………。
「お嬢さんはムラクモに入るのかな。それとも、立ち去るかね?」
そりゃあ、今すぐ立ち去りたいし、なんか嫌だし。でも、ここで引きたくはなかった。というか元より一本道。進むしかない。
「……もちろん。ムラクモに入る」
「ほう。それはなかなかだ。………どうだい?私と一緒にチームにならないかい?」
「それは、あなたの能力を見てからです」
くくく。とどうやら気に入られたような顔と声で答えて、ポーチからメリケンサックを取り出す。
………やっぱり、どこかで見たことがある気が……。
「私のは汎用的な『デストロイヤー』でね。若者の壁となり、マモノを討つ、そんな感じだ」
「デストロイヤー………」
それをつぶやいた直後、さっきと同じく、頭に見えない文字が打たれて聞こえない声が響く。
デストロイヤー。攻撃と防御に重点をおいた者で、S級となると攻撃を無効化してそのまま反撃に持ち込む、自己強化による重い一撃すらもできる、まさに物理面においては無類の強さを発揮する。だが反対に特殊な攻撃に対しては弱く、常に前線に出ないといけないために体力の消費も多くなる――――――。
……とりあえず、おっさん無理すんな。と心の中でつぶやいた。
「ところで、あまりレディーの能力を見るのは好きではないが、お嬢さんの能力は何かね?」
「……俺、ですか?……俺は……」
同じく、ポーチから武器を取り出した。ナイフだ。戦闘にはもってこいと言わんばかりの、小さなナイフ。つまり、近接戦が主になるのか?………まじで?
「お嬢さんは……なるほど。『トリックスター』か……」
「トリックスター……あ、あぁ。それそれ……」
トリックスター。素早さに長けており、S級になれば敵への大きな痛手と俊敏な動きで華麗なヒットアンドアウェイによる攻撃を仕掛けられる。また短剣による敵への異常攻撃も得意としており、まさに暗殺者。けれど攻撃力が多少低いのが難点で、異常攻撃が効きにくい敵に対しては多少苦手とする――――――。
「………なるほどな………大したお嬢ちゃんだ」
「…俺はお嬢ちゃんじゃなくって、ロナです。えっと、あなたは……」
「私は
おじさんて……。えっと、ヒカイさんは手を差し出してきた。仲間にならないか?の合図だろう。もちろんだ。俺は無言で手を取り、固い握手をした。ひどくしっかりした手だ。同時に、何千匹も屠ってきたような感じもする。
「……そうだな。あと一人………あいつがいいか」
ヒカイさんは一点を見た。コンクリにタイルを埋め込んで簡素な花壇にしている部分に腰掛けているでかいハチマキを巻いた、ちょうど俺より上な感じのする男子。
……やっぱり、この人も見た気がするな…。
「いこうか」
ヒカイさんは俺に一緒に行くことを促した。ついていく。
「…お久しぶり、かな」
「あン?」
うわ声おっかねぇ。……まて、お久しぶり?どういうことだよ。
……どうやら、見覚えある、聞き覚えのある、と言ったことは今回はないらしい。神様がインプリントし忘れただけ、とも取れるが。
「……んだよおっさん。俺に何の用だ?」
「見てわからないのかね?…君も来ているということは、君もS級だった、ということだね」
……あれ?知ってるのかヒカイさんは。この二人知り合いなのか?
「どうだい?私と彼女……ロナの力になってもらえるかい?君がいればきっとどんなマモノも倒せるさ」
「あぁ?」
「それに、君には一向に勧誘が来てないようだね。ムラクモの給料はかなり高いらしいから、なっておいて損はないはずだぞ?」
……交渉術うまいなこのおじさん。武術にも長けていそうで逆に怖いな。こんな人が味方なのか。そう思うとどうも苦笑してしまった。
それにしても給料高いかぁー………一体何千くれんだろうな?なんてな。
「………別に」
「ふむ?」
「そろそろ金が欲しいって思ったころだ。さっさと二人組見つけて仲間になった方が効率良いと思っただけだ」
人、それをツンデレと言う。
「まぁ構わんさ。………だが君は跳ねたり殴ったりするのはあまりできまい?」
え、どゆことっすか?
「簡単に言えば、『戦力外』だ」
なぜに!?なぜに戦力外呼ばわりされる!?つーか、なんで戦力外言われたS級がいるの!?わけがわからないよ!
「いや、ちょ、マジで待ってください。つかさっき『どんなマモノも倒せる』だの言ってなかったでしたっけ?あれ一発嘘だったんですか!?」
「あぁ嘘だ」
嘘だッ!!!
思わず自分とおじさんを突っ込んでしまった。って、ペース巻き込まれ過ぎィ!兎にも角にも、何か長所はないんですか!?と俺は言った。
「あるにはある。だが使いこなせるかな?」
何を?そう思った矢先にどこからか、チャクラムと呼ばれる円盤状の投げ刃を取り出した。それを男子に手渡す……と見せかけてなげたぁ!?キャッチ失敗したら出血するぞ!?
「チッ」
男子は舌打ちをして、そのままチャクラムをキャッチした。……手から血は出ていない。うまく持ち手の方を持ったらしい。お見事、としか言えない。俺だったら多分切ってるな。
「…やっぱり、最低限の『ハッカー』としての能力はあるな」
「ハッカー…って、確か……」
ハッカー。基礎体力は低いが、相手を
「……でしたよね?」
「その通り」
の割にはいきなり投げられたチャクラムを受け止めたんですが。意外と身体能力高いんじゃないのかと突っ込みたいぐらいに。いやまぁ、S級って言われるぐらいだからこれぐらい昼飯前なんだろうな。
俺もそのS級、ってのになってるっぽいけど。
「試してみるか?」
「結構です!」
無理無理。止められないはず。というかいきなり怪我したくない。そんな表情を見たのか、ヒカイさんはほそく笑んだ。気を楽にするためだったのだろうか。あえて口にはしない。
「……あぁ、ところで名前…俺はロナね。んで……」
「
…つれねぇやつ。とにかく大変だ。……でも、それでもなんだか安心する。
「……それじゃあ、ガトウのところいこうか。ロナ。ジョウト」
「はい」
「あいよ」
…これで、俺達の、デコボコチームが完成した。
……不安だった。本当に大丈夫なのかって。
………いや、杞憂、だよな―――――――――。
「ところでロナ。君は何で『俺』口調なんだ?」
「ギクッ!?」
「あぁそりゃあ気になったな。男っぽい話し方だしよ。なんだおめェ?」
え、えーっと……………………
「………あ、兄の影響でー……」
はい棒読み!やべぇごまかせねぇ!!
「なるほど。兄さんの影響か。ならば仕方あるまい」
…………いやー…。おじさんだまされやすそうだねぇ………
「あっそ。じゃあなんでもいいや」
……そしてジョウトは無関心か。
………えーっと。こんなチームで大丈夫か……?
……今更ながら、勧誘があっさりしすぎたかな……?