女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!! 作:エマーコール
その後は、覚えていない。
一度全員作戦を中断して、そして、気づいたときには都庁だ。
……なんで、こんなことに……。
……俺は、気づいていたはずなのに……
「………緊急会議だそうだ。会議室に集合」
…ヒカイさんがそう言う。
……なんでだよ。
「……何が……だ?」
「………なんでアンタは、前向いていられるのさ………」
「…………」
………
「……さぁな……」
……
俺は、それ以上何も言えなかった。
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……会議室。
……やはりと言うべきか、ここも沈黙だらけだ。
たった一人の、死によって。
「……来てくれたのね」
まるで、ナツメがどこか悲しんでいるような声で言っているが、彼らにはただ、偽りの仮面をかぶっているようにしか思えなかった。
「失態だわ……私の作戦ミスね」
……
……
……
「……どういう意味だよ」
「……何かしら?」
「どういう意味だっつってんだよクソババア!!!」
叫んだのは、ロナだ。
「作戦ってなんだよ!!あんな犠牲を伴った作戦で、それで俺達が納得できるのかよ!!」
「そうだよ……あんなの、作戦じゃない!!」
ロナの言葉に同意するように、アオイが言う。
だが、ナツメは冷静に言う。
「みんなで手を取り合って仲良く勝利できたら、いいでしょうね」
………それも、確かに同意だ。
その言葉に、反論するような、でも、力なく告げたのはリンだ。
「ガトウは……アタシ達のために……」
「アナタ達のせいではないわ。もっと、徹底すべきだった」
さらに、言う。
「伝えるべきだった。犠牲を伴う作戦だと。
自衛隊は、捨てゴマだと……!!」
その時。
ナツメの身体が大きく吹き飛ばされた。
いきなりすぎる光景に、全員が驚く。
「……もう1回、言ってみろよ」
何かを蹴ったような体勢で、ロナはドスを聞かせて言う。
「もう1回言ってみろよ……あぁ!?」
さらに飛び出す。倒れ込んでいるナツメに、追撃をかけるように。
立ち上がろうとしたナツメに、ロナの鉄拳が打ち出される。
整理された机へと、また吹き飛ばされる。
「ろ、ロナ……!!」
あわてて抑えようとしたヒカイだが、ロナは動かないナツメに向かって言葉をぶつける。
「テメェのほうがよっぽど悪魔だよ!!マモノより、ドラゴンより、帝竜より!!!じゃあなんだよ!!人の屍で築いた道をお前は平気で歩けるのかよ!!答えろクソババァ!!!!」
「ロナ!!!もういいだろ!!!」
ヒカイが怒鳴って、ロナを押さえつけようとする。けど、ロナは止まらない。近づきながらも、さらに続ける。
「あいつらにだって、あいつらにだって!!!家族や友達がいたはずなのに、反論することなくテメェのくそったれな作戦に乗ったんだよ!!!何でか分からねぇだろうよ!!テメェにはよ!!!」
「いい加減にしろ!!!」
ヒカイが二人の間に立って、ロナを止める。
「……どけよ」
「どけない」
「………アンタはこの作戦、納得できたのかよ」
「…………」
「答えろ。…………答えなかったら、この場にいる全員殺すぞ」
ロナは短刀を取り出しながら、ヒカイに告げる。
眼は、嘘を言っていなかった。
「………嘘偽りなしで答えたら、殺さないか?」
「あぁ」
「………正直に言おう。『仕方なかった』」
言った。
やはり、アンタも悪魔だったか。そう思っていた、ロナ。
けど、ヒカイは続けた。
「……だが、ロナの言葉、そして、ガトウ隊長の言葉で、自分のは間違っていると思う。そうだろ?」
「………」
黙って、短刀をしまうロナ。その間に、ナツメは立ち上がっていた。咳き込みながらも、ナツメは自分の
「…けど……自衛隊にはS級はいない……知ってる……?……S級1人には、何十人もの力があることを……」
「………ヒカイ……」
「分かってる。だが、ロナの幕じゃない。充分だろ?」
腹の虫がおさまらないロナだが、ここはヒカイに任せるように、うなずいた。
「……それでも、我々は1人の人間で、1つの命がある。それは、力だけじゃない。絆があるからだ」
「……そして、オレ達の『意思』をつなげた結果でもある……だろ?」
さらにジョウトが、仲間たちの肩を貸すように言った。
「そういや、オレ達が試験にいるころ、ガトウがこういってたぜ。『3人1組でチームを作れ』。これはなんでだと思うか?……恐らくだが、『1人1つ』だからだ」
「……そうだな。もし、何十人もの力があるS級だとしたら、たった1人1人だけで進むことになっただろう」
「でも、ガトウさんはそんなこと言わなかった。それは、人間、どんなやつでも、1なんだ。けど、その中には2も3もある。10もある。100もある。けど、1なんだ」
ジョウト、ヒカイ、そしてロナが。
自分たちが、生きて感じた証拠を、提出した。
ロナ達の、意思で。
「…………」
「……総長。作戦を提案します」
そこに、キリノが入ってくる。
「………帝竜ウォークライの『生体サンプル』を使わせてください。帝竜から得た素材を加工し、自衛隊の兵装を強化しましょう」
「キリノ……!」
ロナの顔が、どこか輝き始めた。
今まで暗く、何かを恨んでいた顔から、希望の顔へと。
「それであのレーザーにも多少は耐えられるはずです」
「………却下します」
だが、ナツメは首を横に振った。
「あれはムラクモの切り札よ。……ガトウに……与えるはずだった」
「でしたら!!」
そこに、ナガレが挙手する。
「だったら、僕にください!!ガトウさんの『意思』を引き継いだ……僕に!」
「ナガレさん……」
「それに、ガトウさんだって望んでいないんです。住んでくれる人がいなくては、東京を取り返したって意味がない。……きっと、ガトウさん……いや、我々10班は、そのために戦っているんです」
「……そうですよ。みんなが犠牲になったのに、それに目をつぶるわけにはいかない。……私も、目の当たりにしたから」
ナガレ、アオイがそう言う。
「……ガトウさんは言ってたわ。後悔のないように生きろ、と。何もしないより、何かしたほうが、良い」
キカワが言う。
「……………」
「まだアンタは拒否するのか?」
ロナが、全員の前に立って、ナツメから護るように、そう言う。
「これだけの、作戦や決まり事よりも大切な、『俺達の意思』があるのに、アンタはそれを拒否するのか?……そんなの、違うだろ」
「…………
分かりました。承認します」
その言葉に、いたるところから声が出る。
「私が間違っていたのかもしれません……今回の作戦、私は外れます」
「ナツメさん……」
「キリノ……あとはお願い」
それだけ言うと、ナツメは何処かへと、歩き、この会議室を後にした。ダメージは残っているものの、支障はなさそうだ。
「……え、えーっと、ともかく、作戦は承認されました。自衛隊の強化開発も含め、1日で結果を出します」
「1日?大丈夫なのか?キリノ」
ロナの言葉に、キリノは力強くうなずく。
「……みなさん、どうかお待ちください!」
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「……」
夜。俺は都庁の広場にいた。
寝転んでいた。地面は固くて、寝にくいけど、なんか、休めておきたかったからだ。
だったら、ベットで寝た方がいいのかもしれないんだけど、でも、外の空気にも当たりたかったからだろう。
「………ガトウさん」
無意識に、俺はガトウさんの名前を言った。
………意思。か。
「……ロナ?生きてる?」
うわっ……って、キカワさんか。いきなり覗き込まないでくださいよ。
「あーよかった。……どうして寝てたの?」
「えっと……ちょっと、外の空気を吸って、ついでになんとなく寝転んでいました」
「ふーん。………ちょっと、会話、いいかな?」
……?なんだろ。俺は起き上がりながら、キカワさんの会話に乗り始めた。
「……ロナはさ。……すごいんだよね。……どんな相手でも、恐れず立ち向かう。ナツメさんだって、そうだったでしょ?」
「……う、あれは……ただ単にキレただけですよ。そりゃあ……俺達と同じように、命がある、人間ですから」
「でも、それを、最高責任者のナツメさんに言ったんだよ?蹴りと拳をつけて」
「だ、だから!あれはただ単にキレただけですって!……さすがに、反省してますけど……」
「本当に?」
「………半分以下は」
その言葉に、キカワさんは笑った。……ちなみに本当だ。殴ったことは反省してるけど、でも、許せなかった。今でもな。
ひとしきり笑うと、キカワさんはどこか悲しそうな顔で、言った。
「……私はさ、そういうのが出来ないんだ。まるで、自分を変えちゃうようでさ」
「……それが、普通なんじゃないんですか?」
「ううん。……ねぇ知ってる?大勢に印象つけられたら、最後までそれをやり抜き通さなくちゃいけないこと」
「……え?」
「……私はさ、そんな環境に生まれたから、そうならなくちゃって無意識に思っているの。……だから、ロナのことがちょっとうらやましい」
「………」
「似ているんだよね。私の知っている人と。だから、ロナのこと、親近感湧いちゃうのかな……」
そんな……辛い過去だったのかな……?けど、……誰に似ているんだろ?
「ふふっ、男の子、って言えばいいかな?」
「……俺女っすよ」
「あはは!!分かってるって」
……まぁ、心は男なんだけどな。
……けど、どこか、キカワさんもある人に似ている気がする。……うーん、分からん。
「……さて、そろそろ寝よっか?明日のためにもね」
「……えぇ」
「……おーいガトウさーん!!私たちの事、見守っててくださいよー!!!」
天に向かって、キカワさんが子供っぽくはしゃぎながら叫んだ。
……そうだな。大事な物に気づかせてくれた、ガトウさんに、感謝、そして、宣言しなくちゃな。
「ガトウさーん!!!俺達、絶対、世界を取り戻しますからね!!!」
……だから、見ていてください。ガトウさん―――
俺はそう思いながら、明日を待つことにした。