女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!!   作:エマーコール

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どうもエマコです。今回は外伝としてあの二人の過去を少し。

そのため、今回は外伝と言う位置づけでこうなりました。こういったクールな物語は作者は好きですので少々気合入れて書いたような気がします。

ではでは、16.5Sz、どうぞ!


16.5Sz 過去の代償

「はぁ……疲れた」

 

 俺達が帰ってきたのは夕方のころだ。太陽が沈みかけ、月が現れそうなこんな時間に。

 

「……二人は休んでいてくれ。私はミヤのところへ行って素材を渡してくる。……お疲れさん。先に休んでくれよ」

「え、……あぁ、すみません。先に休ませてもらいます」

 

 そう言って俺らは先に自室へと戻った。どことなくちゃんとした部屋が落ち着かせてくれる。俺は近くの椅子に座ってゆっくり息をついた。ジョウトは少し遠くにある椅子へと。

 ……あぁ。アオイはケガしているから簡易医務室に行ったところだ。……でも、なんだ、これ……。

 アオイって言葉を紡ぐたびに、俺の心は酷い寒気に襲われていた。……もしかして、ナガレさんと同じ条件なのか……?

 

 ……いや、考えるのは早い気がする。それに疲れたし……。寝てスッキリしたいところだな………。

 

「しっかし、初日からいきなりハードなことやらかしやがってあのバァさんよぉ。オレらだって疲れていたってのに」

「はは……まぁ、仕方ないよ。前の作戦じゃ俺らはあくまでも後方支援だけだったんだし……」

「つまりあれか。お前のせいで俺らは休みなしか」

「……ごめんなさい」

 

 うう、本当に申し訳ないな……。二人の休みを奪ったようでさ……。もう単独行動は慎みたいな……。

 

「……ん、お前のマントほつれてないか?」

 

 マジ?俺はジョウトが指差した方のマントの端をつまみあげて見てみる。……見事に端から中へと少し切れ目があるな。

 

「……あー本当だ。樹海に引っかかったりドラゴンと戦ったせいかな?」

 

 しかしよく気づいたなジョウト。……まぁ、気になる程度じゃないから別にいいけどさ。

 

「……マント着て寝てるのかお前?」

「……まぁ今日はそうだったな……取り忘れてたし。ま、今日は取って寝ようと思う」

「あっそ」

 

 つれない顔だなお前。……まさか、縫ってくれるのかな。そうじゃなきゃ些細なこのほつれは見逃せないだろ。

 

「そうだなー。今日はマントをここに置いて寝ーようっと。……腹も減った。ジョウト、なんかない?」

 

 俺はマントを取りながらジョウトにそう言う。……ちなみに前者は棒読みだけど、後者は本当だ。

 ジョウトは、ねぇよ。とだけ言うとゆっくり、天井を見上げる。俺もゆっくり息をついて、上を見た。

 

 ……結局、あの子のお母さんは見つからなかったから、ある意味失敗かもしれない。大丈夫かなあの子……俺はそう思って、でも、まぶたがどんどんと重くなってきて……

 もういいや、ねよ……俺はゆっくり立ち上がって自分のベットへ入る。……やっべぇ。本当に寝心地良いなこれ……むにゅ……おやすみ~………。

 

===============

 

 ガチャ。

 

 ヒカイが三人分の弁当を持って部屋へ帰ってくる。

 

「帰ったぞ……って、ジョウト?お前……」

「バッ、帰って来たなら帰って来たって言えよオッサン」

 

 思わず大声を上げそうになったジョウトだが、ある人物の事を思い出して言葉を飲んで小さな声で言った。そのジョウトだが、今はロナのマントのほつれを直しているようだった。

 

「いや、帰ってきたのはほんの数秒にも満たないんだが、まぁいい。……ところで、ジョウト……」

「アホ娘はそっちでもう寝てる。……んで、オレは見ての通りだ。……文句あるか」

「ないさ」

 

 とヒカイはそう言うとジョウトの近くに弁当を置き、遠くの丸いテーブルの近くにあった椅子に座って弁当を一つ開ける。「いただきます」と一言言うと食べ始める。ジョウトは黙々と作業を行う。少しの時間、二人は何も話さずに自分の動きを進めるだけであった。

 ふと、ヒカイはジョウトに対してこういう。

 

「……悔やんでいるのか」

「あ?」

「……はいかいいえだけでいい。……悔やんでいるのか?」

「……ちげぇな。多分」

 

 ジョウトは手を止め、だがヒカイの方を見ずにそう告げる。ゆっくり、マントの端を見ながらさらに言う。

 

「これはオレが間違えて『気づいちまった』からやってるだけだ。どうも、本能的にってところか」

「それは、はいとは言わないのかね?」

「悔やんでいる意味じゃねぇよ。言葉のまんまだ……」

 

 けど、とジョウトはその言葉を一度切る。マントの端をなで、他にほつれがないか調べる。ジョウトは続けた。

 

「……どことなく、『アイツ』に似ちまってんだよ」

「ふむ、そうなのかね」

「……それなりの付き合いだったオレが見間違うはずがねぇよ。ただ、アイツと似ている気がするだけだ。目のあたりとかな」

「……なるほどな」

 

 そう言い、ジョウトはまたほつれを見つけたので近くの裁縫セットから針を取り出してまた縫い始める。遠くから見ても分かる、あまりにも器用な手つきに、ヒカイは感心していた。

 

「しかし、キミがそんなことをするなんて最初は驚いたよ」

「あぁ。アイツも驚いてたな。お前がそんなことできんのかって。それで一度中断しかけたけど、まぁやめる理由もねぇし続けたさ」

「……その続きが、今に至るのか」

「はっ……ザマァないね。このオレがここまで続けてんなんてよ」

 

 ジョウトは自分をあざ笑うように笑い、針を縫い終える。……よく見ないと、気づかないぐらいに精密に縫われたソレは達人芸のように思えてくる。とヒカイはそう思う。

 

「けど、アイツのおかげでオレはなんとなく生きる意味が見えてきた気がすんだ。こんなクッソ忌々しいオレのこれでも……な」

 

 ジョウトは右手をギュッと握りしめ、決意するように左手で叩いた。

 

「ま、オレの辛気臭ぇ話はおしまいだ。オッサンだってこの結末を見たんだろうが。……これ以上、そり返してもらいたくないね。……オッサンだってそうだろ?」

「……まぁね。私だって、過去の事はあまり見たくないさ」

「オレは見たくないんじゃなくって、逃げてるだけだと思うね」

「………」

「………」

 

 二人の間に沈黙が訪れる。重苦しいその間は二人のそれぞれの回想を思い出すのに十分な時間だったかもしれない。

 やがてジョウトが弁当のフタを開けるのを機に、ヒカイは席を立って外に出る。ガチャリと音がして、一度も向いていないジョウトでも、ヒカイは外に出たって分かる音だ。

 

「………」

 

 弁当を食べ、ふと、マントに目が映る。そして、一旦手を止めると、なるべくカスがマントの方へ飛び散らないように一度、丁寧に折りたたんでから机の端へ置く。誰一人、自分しか聞いてない部屋でつぶやいた。

 

「………何か、隠してるのか、アンタらは……」

 

 

 そして、外の廊下で月を眺めていたヒカイ。

 今夜は満月だ。

 そして……ヒカイは満月が苦手だった。理由は、本人にしか分からない。

 

「………」

 

『オレは見たくないんじゃなくって、逃げてるだけだと思うね』

 

「………逃げてるだけ………か」

 

 そうかもしれんな。とヒカイはそうつぶやき、だが、月に誓いを立てるように手をゆっくりかざす。

 

「……そのために、今こうして縛られ、どうするか考えている。……過去、現在、そして未来と……な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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