女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!! 作:エマーコール
というのも、こちらも15Szに搭載予定でしたが、思いのほか長く書きすぎて半分に分けざるを得なかったのです。ある意味、15Szの後半部分ですね。
さてさて、それでは16Sz、どうぞ!!
「しかし……本当にドラゴン多いな……」
俺は『スモウドラグ』って言う、黄色のトリケラトプスみたいなドラゴンにとどめを刺して、一息つきながらそう言った。その言葉に反応してか、ジョウトが嫌味そうにボソリとつぶやいた。
「今ガトウのおっさんたちの隊は休養中って聞いたぜ。……たっく、そんな暇あるんかねぇ」
「……けど、都庁を取り戻せたのはガトウさん達のおかげだよ。それに、あのウォークライは並じゃなかった。だから、必然的に消耗も激しかったんだよ」
ただ、前に都庁でキカワさんを見た限り、体力自体は問題なさげだった。ただ単に有休みたいなものだろう。…まぁ、それで俺は怒るのかって言うと、全く違う。むしろ感謝している。都庁を取り戻したのは、大半がガトウさん達の隊の筈だからね。
「……ん?」
突然、右腕に違和感が生じた。……いや、この現象……
「……戦闘?」
「何?」
「……多分、あっち」
俺はその方向だと思った方に指を差して、急ぎ始めた。……足場が悪い。……間に合ってほしい。俺はそう思いながら樹海を進んでいく。
……そして、見えた!あそこだ!二人の女性……に、スモウドラグか!
「くっ……!ジョウト!ヒカイさん!先手取ってきます!!」
「了解だ!」
そう言って俺は短刀を装備して突撃、相手は今油断している……!!
「『タランテラ』!!」
横から一直線に、マナを麻痺性のある特殊なマナに、自分でも驚くぐらいに簡単に扱うように変換して一突き。
突然の横槍に驚いたスモウドラグはこちらを振り返るや、突き飛ばした。
「ぐあっ!!」
いっつ……!くっそ、いつでも痛いんだよドラゴンの攻撃……!でも、そこから出る恐怖はあまり感じられなくなっていた。
今までの経験が、流れ込んでいたからかもしれない…!
「チッ、やっぱこいつは危険か……なら、コード強化、DEF……start!!」
ジョウトも危険を察して、『ディフェンスゲイン』を掛けてくれた。俺が吹っ飛んでいる隙に、ヒカイさんはもうもぐりこんでいた。
「うオラッ!!」
顔面へ、強烈な一撃。能力をあまり使ってない筈なのに、その威力は重戦車と言わんばかりの一撃だ。
……でも、こいつの攻撃が終わってないのは、分かる……!
「ヒカイさんっ!!」
「分かってる!!」
ヒカイさんが防御を固めた直後、スモウドラグが一直線に突撃してきた。桁違いの威力にヒカイさんは吹き飛ばされる……!
「くっ!『
とっさに俺は『キュア』を発動して、ヒカイさんの傷を治す。……くっそ、こいつの攻撃は桁違いすぎる……!!
その時だ、横で、赤髪のサイドテールの女の子が、こちらに気が引いているスモウドラグに攻撃するように手を突き出していた。……まさか……!!
「『
その女の子がスキルを発する。スモウドラグの上空から、一直線に紫の電撃が落とされる。突然の攻撃にスモウドラグは驚いて動きを止めた。……いや、こっちにとってはチャンスだ!!
「ジョウト!!」
「あぁ!!しくるなよ!!」
「分かってる!!『アサシンアイズ』!!」
素早く俺はマナを右目と短刀に集中。……そして、脆そうな箇所が数か所。一番いけそうなのは……!
「ここだぁ!!!」
俺は素早く、スモウドラグの背中まで飛んで突き刺す。急所に入ったのか、大きく雄叫びを上げるスモウドラグ。……これなら、入りそうだ!!
「今だ!!」
「ふん!!コード介入、HACK……go!」
そこにジョウトがすかさず、電子でできたような鞭を振るって『ハッキングワン』を決める。……一瞬、スモウドラグの動きが止まり、周囲の温度が冷えた感じがする。……よし、ハッキング成功だな…!
そう。ハッカーの本領は相手への介入。これが決まれば後は自由自在に動かせる、と言っても過言じゃない。さっき習得したばかりだけどな。
そして、その本領がこれだ。
「コード改変、POW…start!!」
ジョウトが右手を突き出して小さなマナを飛ばす。だが、今のコイツにとっては痛手だ。ハッキングされ、さらに一時的とはいえ、身体能力を低下させると同時に攻撃もできる『ロストパワー.X』。……これが、ハッカーの力だよな。
「おっさん!」
「了解した!!」
ヒカイさんが突撃、迷いもなしに突撃するそれはデストロイヤーらしい動き。そして、俺達の中で一番戦闘経験があってもおかしくないからこそできる動き……!
「『正拳突き』!!」
一直線に突き出された、マナをこめられた一撃は吹き飛ばすのには十分すぎる威力だ。スモウドラグは数m吹き飛ばされると、壁に激突。そのままゆっくりと倒れ、動かなくなった。
「ふぅ……なんとかなったか……二人とも無事かね?」
「はいこっちは」
「オレは無傷。……お疲れさんっと」
ジョウトは俺とヒカイさんに『メディス』を投げ渡しながらそういった。
……おっと、忘れるところだった。そのサイドテールの女の子がこっちにやってきた。
「あ、あの…ありがとうございました!ひとりじゃ、たぶんムリでした……」
「ううん。無事でよかったと思う。……けど、今の『エレキ』って……」
そう。ドラゴンすらひるませたそれはS級としか思えない威力だ。……でも、候補生の中に、この子はいなかったはずなのに……。
「……えっと、はい。私S級らしいんです。でも……いろいろあって……」
「まぁ、しょうがないよね。……あ、こっちもお礼言わなくちゃ。……ありがとうございます。その人を助けてくれて」
「いえいえ。わたしにしかできないことだったので。……あ!名前言い忘れてました!わたし、
「雨瀬……アオイ……うっ……!」
つっ……くそっ!!なんだってんだよこの頭の痛み!!
前以上に、縛り付けられるような痛みは何かを無理やり思い出そうとしているようだった。
……あぁちくしょう!!どうせ記憶ないんだし、今急に思い出さなくていいだろう!!俺は自分に無理やりそう言い聞かせて、いつの間にか座り込んでいたらしく、ゆっくり立ち上がった。
「……おいロナ。何だ今の」
「あ、あぁ……気にしないでよ。発作だよ発作」
と、ジョウトの少し焦っているような声に適当に返事をして大丈夫な事を伝えた。……なんだかんだで、ジョウトはジョウトらしく心配してくれたらしいな……。後で感謝しとこ。
あと、ヒカイさんも心配していたらしい。俺は黙って手を振って無事な事をちゃんと伝えた。
……そして、その間にいつの間にか通信があったらしい。……無機質なキーボードをたたくような音と、それを完了したような音がトランシーバー越しに聞こえたからだ。
『―――サーチ完了。声紋、虹彩が99.8%一致…第74回ムラクモ選抜試験の候補者だ』
「……あ、やっぱり?……でも、74回って……」
俺らって、いつだ……?俺はヒカイさんの方を振り返った。ヒカイさんも感づいていたらしく、「ふむ」と一声上げて考え込んだ。
「……少なくとも、我々の回ではないことは確かだ。……このお嬢さんは見かけなかったからな」
なるほどな……つまり、ある意味先輩ってところか。……え?でも候補者ってことは……まさか、
「……試験、受けなかったの?」
「え?あ、あははは……ちょっといろいろあって……」
……何か言いたくない理由でもあったのかな?アオイは。……まぁ、プライバシーに介入するのもどうかと思うし、この話は切り上げとくか。俺は黙ってうなずいて、大丈夫って合図をした。
と、どうやら俺ら抜きでミロクとナツメさんが相談していたらしく、突然ナツメさんが通信で俺らに指示を飛ばしてきた。
『―――13班、聞こえる?今からその子を連れて帰還しなさい。私はその子を迎える準備をしておくわ。……ナビ、後は頼むわね』
……まるで、掌が返ったようにナツメさんはそう言って通信を切った。……やっぱり、どうもこの人は好きになれない。
……まるで、道具として扱っているかのように。
「……ん?なんだ?」
突然、ヒカイさんがある方向を見ながらそう言った。俺らも思わず警戒する。
樹海から来たのは……大男と……ネコミミパーカーの女の人だ。
……あれ?どこかで見たような……どこでだ?
そう考えにふける俺を置いて行って、話は進んでいく。
「ふ~ん……こいつら結構やるじゃん。イノとグチが手抜きしたって訳じゃなさそうだね」
大男はネコミミ女の言葉に黙ってうなずいて、俺達を見た。
「……さっきはウチの仲間が迷惑かけたな」
「……いんや、本当に迷惑かけたのはこいつだと思うがな」
……ジョウト後でぶん殴ってやろうか。
「先に仕掛けたのはウチの仲間だ。それに、カツアゲの件はこっちの統制ミスだ。今はウチの大将がガッツリ説教している」
「……あはは、ほどほどにしてくださいよ」
まぁ、イノとグチだっけ。あえて同情しとこっと。俺だって説教喰らったからね。ヒカイさんに。
だけど、無表情な眼で大男は俺の方を見ると、こういった。
「……だが、渋谷は俺たちのシマだ。これ以上、介入するつもりなら容赦はしない」
「特にウチらはムラクモってやつが大っきらいだからね~」
そうネコミミ女が告げると、大男は黙って後ろを向いて、元来た道を歩いていく……と、同時にまた言った。
「今回は警告だけにしておく。……分かったらさっさと消えろ」
「……分かりました」
……確かに、迂闊に触れてはいけない問題だと思う……けど、どこか、ひっかかるような……。
そう思ったけど、でも、さわらぬ神にたたりなしっていうし……まぁ、入らなきゃいいかな。
「……ふーん」
……あれ?何でネコミミ女がこっち見てるんだろ……。
「なぁ~んにも覚えてないんだ。まぁいいけど。じゃあね~」
そう言って元気に帰って行った。……なんにも覚えてない……?どういうこと……
「あ」
……そういや、『あの時』、誰かに助けてもらったはずなんだっけ。……でも、そのあれが一向に見つからなくって……
「まさか……あの二人が助けてくれたのか……?」
「んなアホな。渋谷をシマっていうほどの奴らがだぜ?」
「……う~ん……でも、今のを考えるとつじつまが合わないか?ジョウト」
「……言われてみりゃ確かにな」
『おい13班。お取込み中悪いが、一旦都庁へ帰還してくれよ』
そうミロクは言って、通信を切った。でも、俺らは俺らで考えるべきことがあった。
「……ヒカイさん。……あなたも、ですよね?」
「うむ。まぁな……だが、次に会ったら恐らく敵だ。恐らくな。……それに、やるべきことがあるだろう?」
あ、そうか。この二人を都庁まで無事送るんだっけ。
「よっし。じゃあ、帰りましょうか」
ま、つじつまがあっただけ良しとしようか。それに、やるべきことがあるし。
……そして、また会えたら、お礼を言いたい。ヒカイさんが敵同士って言ってたけど、でも、悪い人じゃない筈だよな―――