杜王町の、とある小学校。
黒板をチョークが叩く音は、教室のざわつきにかき消されていた。
かといって、その教室にいる子どもたちの素行が悪いとか、学級崩壊が起こっているというわけではない。
そのざわつきは、出された課題に対して、真剣に考え、悩み、議論を交わす子どもたちの声だった。
「だからそうじゃなくって…」
「いや、僕は賛成だな」
「そうかな? でもこんな考えも…」
どうやら『道徳』の時間のようだ。
個性豊かな子どもたちがぶつかる議論は止むことを知らない。
事実、個性的すぎるそのクラスは、今の担任がくるまでただのやんちゃものたちの集まりで、『このクラスをまとめるのは不可能』とまで言われていた。
だが、今の担任になってからそのクラスは、この大きな小学校一の団結力を誇るクラスとなった。
板書し終えた担任の先生が、子どもたちの方に体を向ける。
そうして、パンパンと2度手を叩いた。
すると、ざわついていた教室が一瞬で静まりかえった。
「さて、みんなならこんな時どうするかな?」
黒板には、何が正解で何が間違いなのか答えのない、どうとでもとれるような、いかにも『道徳的な』議題が書かれていた。
だが、子どもたちは物怖じもせず、次々と手を上げていく。
そしてとうとう、手を上げていない子はクラスで1人になった。
先生は、あえてその手をあげていない子を指名した。
別に意地悪をしようというのではない。
先生にはその子がきちんと自分の意見をもっていて、『自信がない』から言えないだけだということがわかっていたのだ。
足りないのは、きっかけだけ。
それを知っていたのだ。
「間違ってもいいんだよ、自分の思ったことを言ってごらん」
先生が優しく言う。
しかしその子は、もじもじとしてうつむくばかりだ。
「よし、じゃあ先生が意見を言いたくなるおまじないをしてあげよう」
先生がそう言うと、その左手がパァっと明るくなった。
子どもたちに、その温かな光は見えていなかったが、左手からはテントウムシが飛びたち、うつむいている子の肩に止まった。
テントウムシは、少女の肩でさらに眩しく光り輝いた。
「『あなたは意見が言いたくな~る』、どうかな?」
そのおかしな呪文に、周りの子たちはドッと笑ったが、指名されたその子は何か『心』に決めたような顔つきになった。
そして、
「私は…ーーーだと思います」
声は小さいながらも、はっきりと自分の意思で言った言葉だった。
対したことのない意見だったかもしれない。
だが、クラスのみんなはその意見に温かい拍手を送った。
発表した子は顔を真っ赤にしながらも、どこか吹っ切れたような、すっきりとした顔をしていた。
先生はその子のそばまで歩いて行き、頭をくしゃっとして一言こう言った。
「グレートだぜ」
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スタンド名【ギヴ・イット・アウェイ】
本体ー『片平楓』
破壊力 E スピード B 射程距離 約10~50m
持続力 B 精密動作性 C 成長性 B
能力ー
装着型スタンド(左腕)
触れたものに『精神エネルギー』を与える。
触れるのは直接左手でも、『テントウムシ』ででも構わない。
対象がスタンド使いの場合、そのスタンドを一時的に成長させる。
『精神エネルギー』とは『自信』や『勇気』、あるいは『覚悟』と言い換えることができる。