どれくらい漂っていただろうか…
倫吾は波に揺られるように、宇宙空間に浮かぶように、漂い続けていた。
光もない。
音もない。
時間が流れているのか、止まっているのかもわからない。
時空の狭間で。
最初は、この空間を抜け出すことを考えた。
だが、それが能力を失った今となっては不可能だということがわかった。
階段もない。
扉もない。
自分の計画が間違っていたのだろうか?
そんなことを自問自答したが、今となっては意味がない。
感覚もあるのかわからない。
寝ているのか起きているのかもわからない。
それからは、姉のことを考えた。
優しかった姉。
大好きだった姉。
もう少しで、幸せにしてあげられたかもしれない。
でも、もうそれもできない。
感覚はないが、はっきりとわかる。
自分の腕にはもう、あの時計はないのだと。
あの時、片平楓が掴んでいた時計が外れたのは、きっと姉の意思だ。
倫吾はそれを確信していた。
姉は暴走する自分を止めようとしたのだろうか。
それとも、ダメな弟をとうとう見放したのか。
それは誰も知る由はない。
――――――
遠く、何もないはずのこの空間に小さな光が見えた。
倫吾自らそこへ行くことはできなかったが、漂っていればいつかつくだろうと考えていた。
光は近づいて来るようであり、離れていくようでもあった。
そうして、いつしか倫吾の手元にやってきた。
光だと思ったものは、小さな時計だった。
丸い文字盤。
白い花柄のベルト。
見覚えのある時計だった。
「どうしてここに…」
ここにあるはずの無い時計。
その時計は、時の流れなど無いはずのこの場所で、カチカチとたしかに時を刻んでいた。
倫吾の目からは、知らぬ間に涙が溢れていた。
倫吾は時計を両手で包み込み、抱きしめた。
……
やがて…
鞍骨倫吾は漂い続け…
姉の愛情に包まれながら…
考えるのをやめた
――――――――――
スタンド名【ワン・ホット・ミニット】
本体ー『鞍骨倫吾』
破壊力 B スピード C 射程距離 2m(能力はその限りではない)
持続力 A 精密動作性 C 成長性 A
能力ー
『1分間』だけ時を戻すことができる。
1分以内であれば戻す時の長さは自分で調節できる。
戻した時の中の記憶は倫吾だけがもち、他の人は戻されたことには気づかない。
戻した分の時間がたたなければ、能力を繰り返し使えないので、過去に戻ることはできない。あのころに戻ることはできない。
【ワン・ホット・ミニット・アザーサイド】
過去への扉を開く能力。
だがやはり、『運命』は変えられなかった。