「……つまり、そいつらがこの町を守っているというわけか」
「何なんだ…一体どうなってやがるッ」
雷が鳴った。
狭いアパートの一室。2人の男が対峙していた。
1人は床に這いつくばり、1人はそれを見下している。
その構図はそのまま、この場における2人の力関係を示していた。
「それで……やはりそいつらにも取り憑いているのか?あんたや、俺と同じような『悪霊』が…。いや、あんたらは『スタンド』と呼んでいるんだったか?」
「チクショウッ! なんでさっき出会ったばかりのてめぇがあいつらのことを…俺の『能力』のことを知ってるんだぁッ?」
見下された男には、到底「理解不能」の事態だった。
その右目には壊れた万年筆が突き刺さり、インクと血とが入り混じった赤黒い液体が、冷たい床へと滴り落ちていた。
ドゴォ
床に這いつくばる男の体が宙に浮く。
男は蹴られた脇腹をおさえて、ガマガエルのようなうめき声をあげた。
男を蹴りあげたのは、対峙している男ではなく、男の横に佇む『悪霊』だった。
「『順番』を守れよ、小林玉美。質問をしているのは俺の方だ。それにその質問にはもう何度も答えたじゃないか。何故知ってるかだって? 『あんたが教えてくれた』からだよ。だが…もうあんたから引き出せる情報はなさそうだ」
悪霊に取り憑かれたその青年は、小林玉美と呼ばれた男の質問に淡々と答えた。
青年の背後にいる悪霊が、その顔面に散らばった複数の目で小林玉美を睨む。
と同時に、悪霊の主である青年も、左に流した髪の隙間から、目の前の男に向かって冷たい視線を送った。
悪霊憑き。
彼らの同類からは、『スタンド使い』と呼ばれる存在。
青年が、自分と同じような存在をこう呼ぶことは、この日初めて知ったことだった。
そして、その情報は、彼の『復讐』にとっては欠かせないものだった。
青年は、小林玉美から情報を引き出すために、ただ残酷に、冷酷に、拷問を行っていた。
その瞳からは、透きとおった悲しみと、強い憎しみがうかがえた。
燃え上がるように激しく、夜明け前のように暗い。
『漆黒の殺意』が宿っていた。
男はしゃがみ込み、うずくまる小林玉美の顔を覗き込んだ。
「あんたから得るものはもうないだろうが…安心しろよ、あんたのことはまだ殺しはしない」
「順番が大切なんだよ。あんたを殺すのは俺の『復讐』が済んだ後だ」
雨が窓を叩く。
一瞬、窓が稲光を浴びて白く光る。
遅れて、地面が割れるような雷が鳴った。