僕の生まれ育った町。
M県S市杜王町。
S市のベッドタウンとして1980年代前半から急速に発展した町で、人口は5万人弱。
その歴史は古く、縄文時代の住居跡があったり、侍の時代には別荘や武道の訓練場があったりしたらしい。
町の花は「フクジュソウ」。特産品は「牛たんのみそづけ」。
町のシンボルマークは杜王町のイニシャルであるアルファベットのMを変形させた形のようにも見えるし、二人の人が向かい合って握手を交わしているようにも見える。
僕はそのマークに「町民みんなで手を取り合って頑張ろう」みたいな意味が込められているのかなと勝手に解釈していた。
僕の名前は
楓という名前は女の子みたいな名前だけれど、僕は気に入っている。
外見的な特徴をいうなら…と言いたいところだけれど、これといって特徴のある容姿はしていない。
身長だってチビだし、自分で言うとなんだか虚しくなるけれど、女の子にモテるような顔でもない。
周りからみればごくごく普通の高校生って感じだ。
たまに中等部の子に間違えられるけれど、文句は言えない。
それでもやっぱり、物語の主人公になるのだから、僕は普通の高校生ってわけじゃない。
いや、この場合『僕も』と言ったほうがより正しい言い方なのだろうか。
それに、この町では寧ろ僕のような人間が『普通』なのかもしれない。
僕は超能力者だ。
ところで、みなさんがもっている超能力ってどんなイメージ?
スプーンやフォークを捻じ曲げる?
手を使わずにものを動かしたり浮かせたりする?
はっきり言ってそんなものは『僕たち』の能力にしてみれば、入門編みたいなもんだ。
それに、普通の人はそれが見えないパワー、言ってみれば念力のようなもので行われていると思っているのだろうけど、僕たちにはフォーク捻る『それ』や、ものを掴んで動かす『それ』がはっきり見えていた。
『それ』は人のような姿だったり、動物のような姿だったり、時には機械のような姿だったりする。
僕たちは、僕たちだけが見えるそのヴィジョンを『スタンド』と呼んでいる。
まあ僕自身、自分の超能力にこんな呼び名があるなんてことはつい最近になってから知ったのだけど……
まるで守護霊の様に使い手の「傍に立つ(Stand by me)」ことから『スタンド』。そう呼ぶらしい。
誰がそう呼び始めたかなんてことに興味はない。
ただ重要なのは、そんな呼び名があるくらいだから、僕と同じような能力者、つまり『スタンド使い』は世の中にたくさんいるってことだ。
そう、僕と同じような能力をもった『仲間』が。
この物語は、僕がそんな仲間と『出会う』物語。
今だからこそ言えることなのだけれど、出会いは人を成長させてくれるものだと僕は考える。
出会いはその人の魂のステージを引き上げてくれるものだと僕は考える。
その出会いは偶然なのか、はたまた何か目には見えない引力のようなものによって引き起こされる必然なのか、それは僕にはわからない。
だけど、もしそれが人間を成長させるキッカケになるのであれば、出会いは僕の『スタンド能力』に少し似ている……。
さて、 物語を始める前にもう一度整理しておこう。
僕の名前は片平楓。
ぶどうヶ丘高校3年生。
僕は超能力者…いや『スタンド使い』だ。