幼馴染の凛ちゃんがうざすぎる   作:nao.P

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その7 図書室

西木野真姫(にしきのまき)

 

 

同じクラスのその子と初めて目が合ったのは、教室ではなく学校の図書室でのことだった。

 

偶然。

 

もしかしたら。いや、やっぱり偶然。

 

そう思う。

 

必然と言うには、彼女とはあまりに住む世界が違いすぎると感じた。

 

それは俺が、根っから独りを好む性格で昼休みに一人でその様な空間を求めていたことが彼女との巡り合わせへと導いた。

 

別に、その子とは同じクラスなわけだから遅かれ早かれいづれの内に目を合わすことになっていたのだろうけど、出会い方の問題だった。

 

探していたわけではなかった。

 

誰もが振り返ってしまう程の美貌を中学上がりにして既に持っていたその子と、例え教室で隣の席になったとしてもこちらから話し掛けるきっかけや勇気も見出せなかったに違いない。

 

赤色を帯びたボリュームのあるセミロングでふんわりと毛先を巻いた髪型は優しさが溢れ出てくるかの様だった。

 

でも、その表情から読み取れる彼女の雰囲気は全くの別物だった。

 

キリリとつり上がった目付きが強い印象的で、それなのに彼女の瞳は常に悲し気を帯びて憂いているようだった。

 

つまらなそうで退屈な表情で、学校そのものがくだらない。と言った感じで近寄りがたい……いや近付いてはならない雰囲気を漂わせていた。

 

それは単に学校が面白くない、と言った風ではなく、くだらないと言ったニュアンス。

 

俺が感じている学校のつまらなさとは多分、ベクトルが違っていた。

 

彼女のその容姿と雰囲気は自分よりも3つか4つくらい歳上なんじゃないかと感じさせた。

 

授業中では、教師の求めている答えを指名されれば間違いなく答えるし、前に出て黒板に字を書いたときも、誰よりも大人で清楚な字を書いた。

 

隠しても溢れ出てくるその知性と美貌で、始業式から3日とせずに彼女の名前を俺は記憶してしまった。

 

どうして、こんな良くも悪くもない普通すぎて廃校寸前の高校を選んだのか。

 

俺は気になった。

 

 

そして、その日。

 

 

昼休みに、俺は購買で買ったパンを天気も良かったので中庭のベンチで、少し散り始めた桜でも見ながらゆっくり食べようと考えていた。

 

だが余りにも恵まれた天候のせいだったのか、数多くの生徒があちらこちらで楽しく昼食を取っていた。

 

独りなのは俺だけ。

 

しかし空いてる所に既に座ってしまった俺はそのまま購買のパンを胃の中に押し込んだ。

 

教室に行けば凛と花陽が弁当を広げているのだから、きっと一緒に食べようと言ってくれるのだろうけど独りでご飯くらい食べられるので、俺は教室には戻らなかった。

 

それから独りで落ち着ける場所を探しに俺は校内を練り歩く。

 

そして図書室。

 

必然的に図書室に辿り着くことになる。

 

やっぱり必然的じゃないかと思うけど、日本にいくつの学校の図書室があるのかと考えると、この図書室に辿り着いたことは偶然なのだと思った。

 

図書室の扉を開ける。

 

ガラリ。

 

本の匂い。

 

やけに静かで、騒がしい校内とは裏腹に穏やかな時間が流れていたその空間は、どこか俺の部屋に似ている、と思った。

 

それだけの為にある、他には何もない自分が独りになれる空間。

 

独りの世界を求めて集まって来る場所であれば、例え周りに人がいても、全く気になるはずがなかった。

 

俺は数ある本棚から、興味の引く本題の小説を探した。

 

そして手を伸ばす。

 

偶然。

 

やっぱり、偶然。

 

俺の手が、隣から伸ばされた誰かの手と危うく触れてしまいそうになった。

 

わずか紙一重分くらいの距離。

 

触れることなくどちらの手もすぐに弾けるように引っ込んだ。

 

「あっ、ごめんなさい」と聞いたことのある女子の声がした。

 

「こ、こっちこそ、ごめん」と無意識にその子を見た。

 

ふわりとした赤がかった髪が揺れる。

 

引っ込んだ指先をその子はゆるく巻かれた髪の毛にからませ、つり上がった瞳を横目で僅かに俺に向けていた。

 

西木野真姫。

 

彼女と初めて目が合った瞬間だった。

 

やはり俺を見るその瞳は、深海へと引きづり込む様な奥深い目をしていた。

 

俺は彼女に見て()れる。

 

沈黙が流れる。

 

元より無音の空間。時間が止まってしまったんじゃないかと俺は錯覚した。

 

人付き合いが苦手な俺は、緊張で胸が高鳴った。しかし、それはいつも以上であるとはっきりと分かった。

 

苦しい。中途半端に引っ込んだままの手を微動だにすることも出来ない臆病者がそこにいた。

 

やがて彼女は「ふう……」と一息ついて視線を本棚へと移すと再び手を伸ばした。

 

俺が取ろうとしていた本の一つ右隣りの本を彼女は手に取ると、そのまま椅子が並ぶ方へ消えて行った。

 

俺は少しして、なぜか自分が取ろうとしていた本の一つ左隣りの本を手に取った。

 

その場でパラパラと本をめくる。

 

今の出来事はなんだったんだろう、と考える。

 

もしかしたら夢だったんじゃないかと思った。

 

本棚をみると、確かに一つの本を挟んで両隣りの本が抜かれていた。

 

俺は手に取った本をあらすじも読まずに借りることにした。


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