幼馴染の凛ちゃんがうざすぎる   作:nao.P

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その6 花陽とCD

次の日の休日。

 

花陽が一人で俺の家に来た。

 

インターホンの音が家の中に鳴り響く。

 

携帯には「今着いたよ」という文字のメッセージ。

 

階下でワンワンと犬がしきりに吠えている。

 

俺を呼んでいるのか、それとも訪問者に対して威嚇しているのか。

 

俺は階段を降りて「わんわんうるさいぞ」と叱りつける。

 

だがしかし叱られながらも尻尾の振り方が尋常ではないので、やれやれ……と俺は諦める。

 

久しぶりの来訪者の匂いをかぎつけてしまったんだろうと思った。

 

良いことか悪いことなのか分からないが、無尾と思われる犬種のこの犬にはちゃんとフサフサとした尻尾が付いていた。

 

フリフリフリ。

 

ワンワンワン。

 

 

玄関の扉を開ける。

 

「おはよー」と女の子は言った。

 

はっきりと口に出すのではなく、柔らかな、いつもの喋り方。

 

目覚めたばかりの朝には丁度いいモーニングコールになりそうな声。

 

俺は「おはよう」と返す。

 

久しぶりに家に来た花陽は音ノ木坂学院の制服では無く、私服姿だった。

 

「なんだ? 勝手に入ってきていいって言わなかったか? 鍵開けておいたのに」

 

「う、うんっ、そうだよね。でもやっぱりためらっちゃって……」

 

 

花陽は薄黄色の上着に、フリルの襟と胸元にリボンの付いた長袖のブラウスを着て、春らしい緑色の水玉模様のスカートを履いていた。

 

肩に赤いポーチを掛け、下には白いニーハイソックス。

 

普段制服の下に履いている黒タイツとは対象的で、見違えてしまうくらい少女らしい少女の服装をしていた。

 

そんな花陽の体を少しばかり眺めていると花陽はもじもじとし始める。

 

「な……なにかな」と花陽が我慢出来ずに言ったので俺は「何でもない」と答える。

 

小さく「もぉ……」と抗議の様な声と目を向けられた。

 

俺は言葉を探す。

 

さすがにこのままにしておけない。

 

考えたあげく、正直に「可愛いと思う」と言う。

 

花陽の顔が赤くなる。

 

また、小さく「もぉ……」と抗議の様な声と目を向けられた。

 

結局おんなじ反応だった。

 

 

 

 

「とりあえず中に入りなよ」

 

「う、うんっ。お邪魔するね」と花陽は俺の後に続いて家に入った。

 

ガチャリ。

 

ワンワンワン。

 

「わあ! ノブナちゃん久しぶりだねっ! 相変わらず可愛いね! わっわ、わわっ」

 

ノブナと省略されて呼ばれた犬は花陽を見るなり足元に飛びついたり、嬉しいのかその場でぐるぐると回り始めた。

 

この犬は、メスだった。

 

女の子に男の子の名前を付けるなんて変じゃないかな、と花陽はこの犬のことをノブナと呼んでいた。

 

どこかで聞いたような名だ。

 

気にしてもしょうがない。

 

犬の名を名付けた当時の俺はどういうわけか、犬は全部オスしかいないと思っていたし、猫は皆メスだと思っていた。

 

「二階でいいよな? じゃないとCD聴けないし」

 

「うん。ナオくんの部屋だね」

 

綺麗に花陽は靴を脱ぐ。スカートと同色のグリーンのスニーカー。

まだ真新しい。この春に買ったと思われる汚れ一つない靴。

 

花陽は自分の靴を端の方に揃えて、俺の靴も一緒に揃え直した。

 

俺はその様子を眺める。

 

最近、妙に花陽の動作を眺めている。

高校生になって心境の変化のせいかもしれない。

 

授業中の花陽はまだクラスに慣れていないせいで教師に当てられた時、とても小さい声で受け答えするので俺は心配になってしまっている。

 

なんとなく、気にかかる。

 

「じゃ、先行っててくれ。飲み物持ってくから」

 

「気を使わなくても大丈夫だよ?」

 

と、花陽に気遣われたので俺は軽く花陽の頭に手刀を入れる。

 

「痛い……」と花陽は目をつむって言った。

 

俺は階段の上を指さすと、花陽は納得したのか階段を登っていった。

 

「お前はこっち。ハウス」

 

俺は花陽について行こうとするノブナガをゲージに誘い入れ、ガムを与えた。

 

 

 

コーヒーカップを二つ持って部屋に入ると、花陽はソファに座ってポーチからガサゴソとCDを取り出そうとしていた。

 

「そのポーチ、まだ使ってたんだな」と俺は言った。

 

花陽が中学の頃からずっと愛用している四つ葉のキーホルダーが付いている赤いポーチ。

 

「えっ? あ、コレね。うん。だってこのポーチ、花陽の大事なお気に入りだから……」

 

長い期間使用しているにも関わらず全く傷みが無かった。

 

俺はコーヒーカップをTV台の上に置いて、他に座る場所も無いのでそのまま花陽が腰掛けているソファに並んで座ることにした。

 

肩が微妙に触れる。

 

花陽の体は、温かい。

 

「えっ? あっ!? ナ、ナオくん……?」と花陽が俺を見る。

 

「ん? どうした?」

 

「な……なんでもない……」

 

花陽の横顔を見るとまた顔が赤くなっている。

 

相変わらず恥ずかしがり屋のようだ。

 

今日の髪留めは学校の時には付けていない可愛いらしい花柄の物だった。

 

 

「コ、コレ……昨日ナオくんが聴きたいって言ってたCDだよ」

 

と言って俺にCDを差し出した。

 

 

A-RISEの最新CD。

 

タイトルは「Private Wars」

 

先日、朝の登校時間に凛と花陽と一緒に観にいったUTX学園の大型モニターでA-RISEが初披露したばかりの新曲だ。

 

ジャケットにはA-RISEのメンバーの3人が得意そうな顔をして白いミニスカートのドレスを着て写っていた。

 

今日、花陽を家に呼んだ理由はこれで、昨晩音ノ木坂学院にもスクールアイドルがいることを知った俺は少し興味を持ったのか、花陽にスクールアイドルのCDを貸して欲しいと頼んでいた。

 

俺はTVモニターの横に置いてあるデスクトップPCの電源を入れトレイを開けてCDを入れ、PCが完全に立ち上がるのを待った。

 

その間コーヒーを飲む。ずずず。

 

花陽もカップに口を付けて音を立てずに飲む。

 

その様子を俺はまた少し眺めた。

 

……もしも今花陽の飲んでいるコーヒーに睡眠薬が仕込まれていたらどうなってしまうんだろう、と俺は一瞬想像する。

 

そして、やめる。

 

「この真ん中のデコの子は何て言う名前なんだ?」

 

ジャケットを見ながら俺は質問する。

 

「綺羅ツバサちゃんだよ」と花陽は答える。

 

「源氏名みたいな名前だな」

 

「私は、可愛いと思うよ?」

 

俺はうなずく。

 

「そりゃそうだ。スクールアイドルで一番有名なんだよな? 可愛くないわけがない」

 

「で、隣にいるのが優木あんじゅちゃんで、こっちが統堂英玲奈ちゃんだよ」

 

花陽がジャケットに指をさして教えてくれた。

 

パソコンが立ち上がりCDが自動的に再生される。

 

クラブ系ミュージックの曲調で流れ始めたそれは、次に英語でそれから日本語が続いた。

 

「カッコよくて、いいな」と俺は言った。

 

「うんっ!そうなの! とっても可愛い歌声なのに、クールに歌った時のギャップがね、花陽は大好きなんだぁ。DVDもあるから見たらもっと良さが分かると思うよ!」

 

花陽は興奮していた。アイドルのこととなると花陽は、すぐ興奮する。

 

肩が触れている花陽の温かい体温がさらに熱くなる。

 

そのせいか、花陽の匂いがする。

 

俺は、花陽の匂いを、嗅ぐ。

 

花陽はDVDを取り出しコレ観たいな、と目で訴えてきた。

 

俺は「やれやれ……」と言ってトレイを開けてDVDを受け取り挿入した。

 

画面には先日UTXの大型モニターで見た彼女達のMVが流れる。

 

「わぁ……、わぁ……」と花陽が声を上げている。

 

何度も観ている筈なのにどうしてそこまで感動出来るのか俺にはまだ分からない。

 

「音ノ木坂学院の方のスクールアイドルはどんな感じなんだ?」

 

「えっ? うーん。実は花陽もよくわからないの。結成したばかりらしくてグループの名前もまだ決まってないみたい……」

 

「そうなのか」

 

「うん。学校の掲示板にね。彼女達の手書きのポスターが貼ってあってライブしますって書いてあっただけなの」

 

「写真とかもないのか?」

 

「うん」

 

「そっか」

 

A-RISEのMVが終わる。

 

その後もA-RISEの他の曲を聴いたり、別のスクールアイドルの曲を聴いたりした。

 

その間、花陽が一生懸命に語るスクールアイドルの話を俺は頷いて聞き続けた。

 

相変わらず花陽はアイドルのことが大好きで憧れを持ちつづけていることを俺は再確認する。

 

 

「あっもうこんな時間、それじゃ、そろそろ花陽、帰るね」と言った。

 

俺はうなずく。

 

「あ……あの、ナオくん。」

 

「うん?」

 

「なんだか私、アイドルの話に夢中になっちゃってて……、その、退屈じゃなかったかな?」

 

「いい子守唄になったな」と俺は言った。

 

「えっ? えぇ!? 寝てたの……?」

 

「冗談だよ。スクールアイドルも良い歌あるなって思った」

 

「本当?」

 

「うん。またCD買ったら貸してね」と俺は言った。

 

花陽は「うん! 絶対貸すね!」と嬉しそうに言った。

 




更新スピードあげられたらなあ……。

頑張ります。

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