幼馴染の凛ちゃんがうざすぎる   作:nao.P

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その4 幼馴染みについて

俺の幼馴染である凛と花陽について少し話す。

 

と言っても俺が彼女達をどれだけ知っているのかと改めて考えてみるとそう多くは無い。

 

名前と生年月日と血液型と身長、それから好きな食べ物ぐらいなものだ。

 

凛はラーメンが、花陽は白米がそれぞれ好きだが、何ラーメンが好きでどこのブランドの米が好きなのかまでは知らない。

 

その程度だ。

 

彼女達と出会ったのは小学2年の春からだからかれこれ8年の付き合いになる。

 

無駄に長い。

 

だけど俺は幼い頃から友達よりゲームの方が好きだったし、ましてや当時の俺は女の子と話をすることに酷く抵抗があった。

 

最初に出来た友達……と呼べるかも分からないが話しかけてくれたクラスメイトだったのが凛と花陽だったのだけれど、俺は最初の頃彼女達を避けていた。

 

女子と仲良くすれば男子にからかわれる。

 

そんな恐怖心やら羞恥心がごちゃ混ぜにあったんだと思う。

 

でもそれだけじゃない。

 

本当は、転校で一度友達を失った悲しみをもう二度と味わいたくないとずっと思っていたからだ。

 

だから誰とも話がしたくなかった。

 

誰も居ない家で一人閉じこもりゲームをする、というのがこっちに引っ越してきて俺の日課だった。

 

だが隣に住んでいたばっかりに星空凛と言う女の子は、そんな俺を無理やりに外に引っ張りだした。

 

「俺は行きたく無い」と何度も言ったけど、凛は「だめ。凛と遊ぶの」と何度も言った。

 

酷くお節介な奴。当時の俺はそう思った。

 

男の俺を差し置いて、いやクラス中の男子と比べても引けを取らないくらいに凛はやんちゃと言うか活発だった。

 

見かけもショートヘアーだし日焼けした肌をしていたし常に膝は絆創膏を貼り付けているもんだから、近所の人からは何度も男子に間違われるほどだった。

 

むしろそう言われることを凛は、少なくとも当時の凛は嬉しがっていた。

 

そんな訳で凛は男子とか女子とか関係無く遠慮無しに俺の領域に勝手に入りこみ心を掻き乱していった。

 

友達を作りたく無いという心情は、凛が勝手に騒ぎ立てて帰った後の一人きりになった時の耐え難い孤独感に苛まれ大きく揺らいだ。

 

怖かった。

 

このまま仲良くなっていったらどうしよう、と。

 

また親の勝手な都合で引き裂かれ傷を負うことになったらどうしよう、と。

 

なるべく距離を置いて。

 

そんな俺の感情を凛は知らなかったのかもしれないが、いつも凛の後ろにくっついていた花陽は俺の気持ちに気付いていた。

 

「大丈夫だよ」

 

いつだったかの花陽の言葉だ。

 

出会った頃はそれまで花陽と会話らしい会話なんてしたことなどなかったのに、少し躓きながら彼女は凛が居ない時そっと俺の心に入ってきた。

 

「何が?」と俺は聞いた。

 

「凛ちゃんは、世界で一番優しいから」

 

「優しい? どこが? いっつもイタズラばっかりするし、今日だってゲームしてたのに勝手にリセット押した。って言うか花陽…ちゃんだってよく意地悪されて泣いてるじゃん」

 

「うん……。そうなんだけど、でもね。凛ちゃんは待ってくれるの。花陽はうじうじしてなんでもいちいち立ち止まっちゃってクラスの皆においてかれるけど、凛ちゃんは大丈夫だよって言っていつまでも諦めないで待ってくれる、から……」

 

「凛ちゃんはナオくんともっとお友達になりたいって言ってたから……、ナオくんがイヤって言っても応えてくれるまで、凛ちゃんはいつまでも諦めないと思うよ」

 

「ずっと?」と俺は聞いた。

 

「うん。ずーっと」

 

「……困ったなぁ」

 

「凛ちゃんのこと、嫌い?」

 

「え? ううん。そんなことない。確かにイタズラばっかりするけど、本当は……」

 

本当は友達が欲しかったに決まっていた。

 

花陽の前ではなぜだか素直な気持ちにさせてくれた。

 

「……そうだね。うん。わかった。教えてくれてありがとう花陽ちゃん。花陽ちゃんは優しいね」と俺は言った。

 

「凛ちゃんには敵わないよ」と花陽は言った。

 

思えば、その日から俺はだんだんと心の鎖みたいな物が解けていったと思う。

 

 

8年経った今、凛は相変わらずうざいし花陽もいつまで経っても臆病なままで、かく言う俺も人付き合いが苦手なままだった。

 

もうこの先もずっと3人このままなんじゃないかって思っていた。

 

でも、誰かの心の中に芽生えたたった一つの感情で簡単に今の関係が変わってしまうだなんて、俺は想像もしていなかった。

 

 

 

 


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