幼馴染の凛ちゃんがうざすぎる   作:nao.P

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その1

階段を駆け上ってくるリズミカルな音に俺は目を覚ました。

 

まるでスキップの様な軽快さと陽気さを兼ね揃えた音だった。

 

朝からこんな音を立てて階段を上がってくる奴など家で飼っている犬か幼馴染のあいつぐらいしか思い付かず、犬にしたって4つも脚がついているので違いは明らかだった。

 

俺の部屋のドアには「Please knock on the door」と書かれたプレートが付けてある。

 

だがあいつはこれを読まない。

 

プレート自体は俺が中学の多感になった時期に買ってきてわざわざ取り付けた物なのだが、取り付けた初日に

 

「なんか貼ってあるにゃー」

 

と言いながら、あいつはそのままドアを開けて入ってきたことを今でもよく覚えている。

 

どうやら読まないと言うより読めないと言うことを読めなかった自分が馬鹿だったと悟った。

 

プレート代860円(税込)は忘れることはないし後悔進行形である。

 

そんなわけであと5秒もしない内に部屋の扉は俺の許可も無く勢いよく放たれるわけだがさてどうしようかと考える。

 

 

ガチャッ!

 

「おっはよー☆ 早く起きないと、学校に遅刻しちゃうよー。」

 

入ってきたのはやはり凛だった。

いつも通りに凛は朝っぱらから☆マークを付けて話すような脳天気ぶりを発揮していた。

 

「……。」

 

俺は寝たふりをした。

 

「あれれー? まだ寝てるのー? ねえねえ。起きてー?」

 

揺さぶられた。

 

「もう〜。相変わらずナオくんはなかなか起きない困った寝坊助さんなんだにゃ」

 

そう言えばこの光景は久しぶりだ。

 

小学生以来だった。

 

凛は相変わらず出会った頃と同じ呼び方で俺を起こしにきた。

 

もう高1になったことだしアダ名で呼ぶのはやめて欲しいと思っているのだが何度言おうと「無理にゃ」で終わる。

 

なにが無理なのだろうか。俺はやめたのに。

 

十秒ばかり揺さぶられた後、急に凛の匂いを強く感じた俺はまさかと思い薄目を開けた。

 

「なっ!!!!?」

 

真ん丸に開かれた大きな凛の瞳に俺の顔が映し出されるくらいになるまで至近距離に、顔を近づけられていた事に驚き俺は思わず仰け反った。

 

「へへ〜ん。やっぱり起きてたにゃ☆ 凛を誤魔化そうったってそうはいかないんだにゃ☆」

 

「な、なんなんだよ。何しにきたんだよ」

 

凛は既に音ノ木坂学院のまだ真新しいブレザーとチェック柄のスカートの制服を着ていた。

 

「何しにって、起こしにきてあげたんだにゃ。同じ学校に通うんだしまた一緒に行こうって思って」

 

「中学ん時は一緒に行ってないだろ」

 

「だって、ナオくんが中学のときに一緒に通ってた友達は皆別の学校選んだでしょ? だからね、また昔みたいに、凛とかよちんと一緒に学校に行こう!ね!イイよね!ほら早く起きるにゃ☆」

 

そこは「一緒に行っていいかな?」って疑問形で聞いてくるべきだろう。

 

こう言ってくる場合、嫌だと言っても俺が首を縦に振るまでなかなか退かないことを知っているので一つ溜息をこぼした。

 

凛は布団をひっぺ剥がすと小さい手で俺の腕を掴むや強引に引っ張って俺を起こした。

 

「待てよおい。だからってな、部屋まで起こしに来るなよ。今は携帯があるだろ」

 

「それじゃつまらないもん。それにナオくんは新しいゲーム買った時は目覚ましで起きないくらいに寝坊助だってこと、凛知ってるにゃ」

 

「いや、起きれる」

 

「嘘にゃ。中学生の時に遅刻回数ダントツのナオくんが何を言っても信じられるわけないもん。かよちん言ってたんだけど高校生で遅刻が多いと留年するんだって」

 

「大丈夫だ。上手いこと調整して……」

 

「ハイ!凛は宣言しまーす!」

 

「……なんだよ。いきなり」

 

選手宣誓をするように凛は片手を天に伸ばした。

 

「凛は高校生になったらもう授業中に眠らないことを宣言します!」

 

「は?なに言って……」

 

「そして! ナオくんを学校に遅刻させないことも誓います!」

 

「うるさい」

 

「うるさくないにゃ。昨日帰るときにナオくんのお母さんに頼まれたんだにゃ」

 

「マジかよあの野郎……」

 

うちの両親はこちらに引越ししてきてからも度々家を空けることが多く俺は小学生の頃からちょくちょく寝坊してしまうことがあった。

 

それから近所と言うか隣に住むクラスメイトである凛は俺を起こしに来るようになった。

 

親はそれならと凛にあろうことか家の玄関の鍵を手渡し「ナオくんをお願いね」と半ば育児放棄をし続け、越したばかりの隣人の子供に面倒を押し付けたのだった。

 

おそらく今日ももうどっちも居ない。俺一人。

 

 

「ほらほら。着替える間に昔みたいに凛が食パンぬりぬりしておいてあげるにゃ☆ 喜ぶにゃ」

 

そうして凛は喜々として部屋を出て行った。

 

 

凛の作った(塗っただけの)食パンは小学生の頃と変わらず溢れるジャムとマーガリンで食べるのに一苦労するのだった。

 


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