幼馴染の凛ちゃんがうざすぎる   作:nao.P

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その12 西木野真姫ととある会話

それから俺は西木野真姫と少しずつ会話を交わす様になった。

 

教室では周囲が気になってか席も近いと言うわけでもないので話すことはなかったが、教室の外ではそれが出来た。

 

例えば、図書室のテーブルに座って本を開いていると彼女は隣の席に座る様になった。

 

「隣、いいかしら?」と彼女は言って俺は「うん」と答える。

 

逆も然り。

 

隣、というのはそれはそれで緊張してしまうが、知り合った仲だというのに離れた席に座られるよりは意識せず、気にならなくなった。

 

むしろだんだんと落ち着けるので、彼女が最初に隣に座ってきてくれたのはそういうことが分かっていて、そうしたんだろうと思った。

 

もっとも、図書室では私語はモラルに反しているのでたいした会話は出来なかったが、それはそれで無理に話を引っ張りだす必要がないので逆にこうして、お互いに気にせず隣に座れる要因でもあった。

 

「ねえ、貴方が今読んでる本って……」

 

「うん。西木野さんが教えてくれた本」

 

「そう……」

 

話すのは大体にして一言二言。隣同士であれば声の大きさを最小限に抑えることができる。

 

その際、彼女の顔が少し近くなるので、その時はどうしてもドギマギとしてしまう。

 

同い年の幼馴染の凛や花陽には無い、大人びた顔立ち。

 

髪型も、凛や花陽は共に短か目で、花陽はまあ時折髪留めをしたりして女の子っぽいと思うこともあるけれど、やはり男子としては長髪に魅力を感じてしまうものだった。

 

西木野真姫のゆるやかに巻かれた肩より少し長く伸びた髪は、量も多くて振り向く度に肩に掛かり、それを指先で払ったりする仕草が俺の注目を引いていた。

 

高嶺の花。

 

どうしたって手を伸ばした所で手は届きそうにない。

 

実際は手を伸ばさずとも触れてしまえる距離ではあるけれど、そんなことをしてしまえば、一生軽蔑な目で、その釣り上がったキリリとした目でゴミを見るみたいにされることは間違いなかった。

 

かと言って西木野真姫は気取っているわけではなかった。

 

確かに彼女は見紛うことなく優等生であり、はたから見ればその澄ました表情や仕草は、少しお高くとまっている感じに受け取られてしまうかもしれない。

 

教室ではまだ話も出来ずにいる。

 

でも少なくとも、今こうして図書室で隣の席に座って本を読んでいる彼女は、決してそういう類の人間ではなく普通の女子だと、俺は感じた。

 

「え? どうしたの?」と西木野真姫は言った。

 

「えっと……いや、あの、何読んでるのかなって」

 

彼女を見てしまっていたことに気が付いて、咄嗟にそう言った。

 

「彼の、最新作ね」

 

西木野真姫は、彼の。と言った。俺が今読んでいるのも、彼の、作品。

西木野真姫が勧めてくれた三部作の第二部。糞難しくて、なかなか読み進めることが出来ない。

 

さすが西木野真姫。と思う。

 

「この人の書く本好きなんだ?」

 

「そうね。ここまで美しい文章を書ける人なんて、世界中探しても他にはそうそう居ないと思うもの」

 

まるで自慢するように、西木野真姫はそう言った。

 

「確かに、表現が独特な感じがする」

 

「彼にしか、書けない文ね」

 

「そうかもしれない」

 

「ええ。そうね」

 

まるで、彼に、恋をしているかのようだった。反応に少し困ってしまう。

 

彼の、文章を読んでいる西木野真姫の表情はとても真剣だった。

 

それでも時折、自分の髪の先をクルクルと指で弄っていた。

また弄っていると俺は思った。

 

そんな具合だった。

 

図書室は基本一人の空間。時々二人になって、一人になった。

 

悪く無いな、と思った。いや、明日も、こんな風に昼休みを過ごせるかな。そう思った。

 

 

 

@@@

 

 

 

「貴方、星空さんと小泉さんとは、仲がいいの?」

 

「え?」

 

図書室での帰り。教室へ戻るまでの僅かな時間。

 

俺と西木野真姫は少し、会話をする。

 

「よく三人で話してるの、見かけるから」

 

「……幼馴染だから」と俺は答えた。

 

「そう、通りで」と西木野真姫は言う。通りで。

 

「学校では気をつけてたんだけど」

 

「どういうこと?」

 

「あんまり、幼馴染って思われたくなくて」

 

あいつらが相変わらず俺のことをあだ名で呼び続けるから、通りでなんて思われたのかもしれない。そう思った。

 

「いいじゃない。別に。気にする必要なんてないと思うけど」

 

「恥ずかしいよ。クラスメイトとはまだろくに、っていうか西木野さん以外とは、凛や花陽を除けばまだ話もしたことないし」

 

「そうなの?」

 

「あ、うん」

 

「そう。私も……」

 

「え?」

 

「なんでもないわ」と西木野真姫は視線を明後日の方向へ向けてそう言った。

 

「…………」

 

「彼女達は、図書室へは来ないの?」と訊いてきた。凛と花陽のことか。

 

「あいつら、あんまり本読まないし、読んでも漫画とかかな」

 

「小泉さん? 外見で判断するのは失礼かもしれないけど、彼女は読んでそうな気がするけれど」

 

「あいつは、そういうタイプだけど、机に座って何かを読むよりかは絵を描くのが好きだな」

 

もっとも、夢中になっている趣味が花陽にはあるから、アイドルを夢見ている方がよっぽど似合っている。

 

「そう」と西木野真姫は言った。

 

凛や花陽との接点を探しているのだろうか。

 

まあ、凛の性格から言えばそう遠くない内に気が付いたら友達同士になっていました。という想像が容易にできる。

 

鬱陶しくて西木野真姫の方からお断りします、という可能性もあるが。

 

教室が見えてきた。

 

一学年は一クラスしかない、教室。

 

同じく教室へ入ろうとしたクラスメイトがこちらを少し見た。

 

もしかしたら、俺と西木野真姫が並んで歩くのを見て、恋人同士なのではと思われて、酷くこそばゆくなった。

 

彼女はどう思ったのだろう。気になったが聞ける筈もなかった。




ありがとうございました。

少しずつ打ち解けていく。そんな感じです。

なかなか難しい。でも楽しいです。

ではまた。

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