幼馴染の凛ちゃんがうざすぎる   作:nao.P

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その8 特別なこと

星空凛が言った。

 

「高校生になったんだし、なにか特別なことがしたいにゃ」

 

時刻は夜7時。

 

俺の部屋で、ゲームに飽きたのか凛はソファーの上で伸びをしながら俺にそう言った。

 

…………。

 

俺に言ったわけではなかったのかもしれないが、凛はもう一度「特別なこと」と言った。

 

俺は、「特別なこと?」と聞く。

 

「うん! 特別で、何かドキドキすることがしたいんだにゃ!」

 

「ドキドキすることか……」

 

俺はベッドの方で少し横になって本を読んでいた。

 

今日学校の図書室から借りてきた本。

 

昼休みの時間に、クラスメイトの西木野真姫が本棚から手に取っていった本の一つ間を挟んだ隣の本。同じ作者が書いた、小説。ハードカバー。全26章。

 

難解過ぎな文章で、酷く読みにくい。

 

西木野真姫は、こんな難しい本を読んでいるのだろうか、と思った。

 

西木野真姫。

 

と彼女の名前を頭の中で反芻する。

 

あのとき西木野真姫は俺をクラスメイトの俺として認識したのだろうか。

 

もしかしたら、ただのどこぞの男子。そう思われただけかもしれない。

 

「ナオくんも高校生になったんだし何か特別なこと、したくない?」

 

「特別なことって言われても。具体的には?」

 

「うーん……。わかんないけど、何かしたいなぁって……」

 

要領を得ない。憂鬱そうに凛は溜め息をつく。

 

「ナオくんわからない?」

 

凛の言葉に、読んでいる小説の抽象的な文章がさらに頭に入ってこなくなる。

 

俺は本を読むのを諦めて凛を見る。

 

凛は制服姿のままでソファーに横になっていて退屈そうな顔を浮かべていた。

 

「うーん……」

 

特別なこと。と俺は考える。

 

高校生になったら出来る事。

 

バイト。原付の免許。後はまぁ、まだしたことはないけれど、恋愛とか。

 

「……恋とかか?」と俺は答える。

 

「こ、恋〜!?」と凛が素っ頓狂な声を上げる。

 

「こ、恋なんてまだ早いんじゃないのかな……? り、凛たちまだ高校1年生だし。だし……」と凛が少しうろたえて言う。

 

「早いってことないんじゃないか。むしろ遅れていると思う」

 

中学の時は、俺も幼馴染である凛も花陽も誰かと付き合ったという事は一切無かった。

 

淡い恋心なんてものがひょっとするとあったのかもしれないが、明確に好きな人が出来たと言う話もなく中学時代を過ごした気がする。

 

「遅れてないもん。好きな人くらい凛にだっていたもん」

 

むっとするように凛はそうつぶやく。

 

「誰?」と俺は思わず聞く。

 

聞いておいてすぐに、やっぱり聞かなければよかった、と思った。

 

よくわからないがなんて言うか、凛の口から誰かの男子の名前が出てきたら一体どんな反応をしていいのかわからない。

 

だけど、幼馴染として気になることは気になった。

 

「かよちん」と凛は言った。

 

「ああ。」と俺は言う。

 

何故かほっとした。

 

だが花陽は女の子だ。

 

「だってだって、かよちんをギュッて抱きしめるとね! 柔らかくて気持ちいいしとってもいい匂いがするんだもん」

 

と凛は頬を緩ませて百合みたいなことを言い始める。

 

「知ってる? かよちんを抱きしめるとね。ふにゃふにゃって力が抜けるんだよ、かよちん!」

 

「そうか」

 

「後ろから突然驚かすようにしてギュッて抱きしめるのが一番いいんだよ、わっ!、て一瞬ビクッてなるところが可愛いよね、かよちん!」

 

「わかった」

 

「かよちん! かーよちん!」

 

「うるさい」

 

「うるさい!? かよちんの何がうるさいの!?」

 

「お前がうるさいんだって」

 

かよちんと結婚したらいい。

 

「えへへ」とか言ってる。のろけ過ぎている。

 

間に入り込む余地無し。

 

「そういうナオくんこそどうなの〜? 今の学校女子が多い学校だし、もしかして好きな人出来たんじゃないかな〜」

 

「いないよ」と答える。

 

西木野真姫の顔が脳裏をよぎっていく。

 

「本当〜?」

 

「うん」

 

「そっか。じゃあよかった」と凛は言った。

 

何がいいんだろうか。

 

それだけ言ってしまうと凛はゲームに戻ったので、俺は本を再び開いた。

 

閑話休題。

 

確かに無下に高校生活を送るのは少しもったいないとは思うけれど、ほっといていたって体育祭や文化祭などのイベント事は必ずやってくる。

 

その時々で、なんとなく盛り上がればいいんじゃないかと思っていた。

 

修学旅行だってある。

 

まだ何も始まってすらいない。あと三年もあるんだ、と思う。

 

と、そんなふうにぼんやり考えていると、ベッドの枕元に置いてある小時計がすでに8時を回っていることに気が付いた。

 

「おい。門限過ぎてるぞ」と俺は言う。

 

「えぇ!? ウソにゃ! なんでもうこんな時間なの!? ママに怒られちゃうにゃー!」

 

「お前がかよちんかよちん言ってるからだよ」

 

ソファーから凛は飛び上がって部屋を出ていこうとしたところで、振り返る。

 

「かよちん! ナオくん久しぶりにかよちんって言ったね」

 

「え? 」と俺は言う。

 

「別に今のはお前の言ったことを真似ただけで……」

 

「かよちんって言ってくれなくなったって、かよちん寂しがってたよ」

 

「知らないよそんなこと」

 

「ついでにたまには凛のことも昔みたいに凛ちゃんって呼ぶといいにゃ?」

 

「言わないよ」

 

「けち! ナオくんのけち!」

 

と凛は部屋を飛び出していった。

 

 




10話まで書けました。

久しぶりに凛ちゃん書けました。

ありがとうございました。

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