実況パワフルプロ野球 -三日月の約束- 作:もす代表取締役社長
めっちゃ期間空いちゃいました。
今回は場面がコロコロ変わって読みづらいかも・・・
東條の目の前には一人の男が立っていた。
帝王実業の蛇島桐人と同じ制服を来た男が。
「久しぶりだな、東條」
東條は言葉が出なかった。
なぜだ。なぜこいつが俺の目の前に・・・
「俺さ、帝王実業に進学したんだ。あそこにいる蛇島先輩に連れてきてもらった」
その男は『猛田慶次』。
東條はこの男のことを知っていた。
「で、東條。部活には参加しなくていいのか?」
東條は猛田と目を合わせられない。
少しの間、その空間に静寂が広がった。
そして二人の間に風が走り、静寂が破られる。
「やっぱり、あの事気にしてるのか?」
猛田は言った。
「俺はもう野球はしない・・・できないんだ。お前も知っているだろ・・・俺に野球をする資格は無いんだから・・・」
東條は、そう言ってこの場から離れようとした。
猛田に背を向け足を前に出す。
「まだやりたいんだろ?野球」
東條は歩みを止め、猛田の方を仰ぎ見た。
「言っただろ。資格が無いって」
東條は再び進みはじめた。
「おい!」
次は振り返らない。決して。
「おい!東條!」
東條は何の反応も見せず歩き続ける。
「おい!」
突然腕を掴まれた。
そして腕を引かれ、身体が回る。
目の前には猛田が立っている。
そして猛田は東條の胸ぐらに掴みかかった。
「何だよ、突然」
猛田の顔には先程までの穏やかさはなかった。
「お前が一番辛いみたいな顔しやがって!一番辛いのはあいつに決まってんだろ!それなのにお前が、あいつの夢を託されたお前が、何野球辞めようとしてんだよ!お前が野球辞めたら、あいつはどうなる?あいつが知ったらどうなる?自分の夢を捨てられるんだぞ!それだけじゃない。お前という親友の夢も、自分のせいで捨てさせた。そう思うだろうよ。あいつがどれだけ自分を責めるかお前なら想像できるだろ!」
「なら!なら俺はどうすればいいんだよ!あいつの夢を壊した俺が、自分の夢を追う権利があると思うかよ!」
「無い!権利なんかねえよ。お前には、あいつの夢を受け継ぐ義務と責任があるんだろうが!」
東條は言い返せなかった。
猛田の言う通りだった。
自分は責任から逃げていただけだ。
それに気づいた時、東條は酷く胸が傷んだ。
「なあ東條」
猛田は東條から手を離した。
「それ、何であいつがお前に渡したか分かるか?」
東條は黙って聞いていた。
自分の手の中にある『それ』を見つめていた。
「夢を形として俺に渡したんだろ」
「違う」
「違うって、それじゃあ何なんだよ」
「自分で考えな」
猛田は東條に背中を向け「じゃあな」と言いながら歩いていった。
ああ、分かっているさ。明日、その答えを出そう。
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「お前が投手としての俺を殺したんだろ!」
蛇島はニヤニヤ薄ら笑いを浮かべたまま何も言わない。
そこに猛田が現れた。
「蛇島せんぱーい。って何すか!この状況!」
蛇島は笑みを崩さず返答する。
「友沢君が変な因縁つけてきて困ってるんですよ」
すかさず友沢が口を開く。
「変な因縁だと!?ふざけるのも大概にしろ!」
友沢は蛇島を睨みつける。
それに対して、蛇島の口角は常に上がっている。
「友沢、一旦落ち着け。何があったかは知らんが暴力沙汰は問題だからな。蛇島を放してやれ」
佐賀が友沢を嗜める。
友沢は「クソッ!」と言いながら、胸ぐらを投げ棄てるように放した。
「友沢には悪いが、練習試合の件は受ける。まあ顧問間でも話し合いは終わってるようだし、断れもしないだろう。だからもう帰ってくれ。部活も終了時間だ」
「片付け!」という佐賀の掛け声と共に全員が動き始めた。
蛇島と猛田は背を向け、校門の方へ歩いて行った。
「友沢君、練習試合楽しみにしてますよ」
そう言いながら、蛇島は去っていった。
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「すみません。さっきは感情的になってしまって」
友沢が頭を下げた。
「何があったのよ。あんなに血相変えちゃって」
みずきは遠慮もなく聞いた。
完全にアンタッチャブルな雰囲気だったのにも関わらず、どストレートに。
「別に話す必要はないぞ」
佐賀が一応一言加えた。
しかし友沢は返答した。
無駄なことは一切喋らなかったが、ただ一言だけ、事実のみを伝えた。
「俺の肘は、あいつに壊されたんだ。直接な」
大体予想はできていたことだった。
だが、実際にその言葉を聞いた時、皆が固まった。
あまりに無機質な言葉だった。
その言葉と蛇島のあの薄ら笑いが頭を過ぎり、聖は身震いした。
友沢は意外にもあっさりと、過去を語り始めた。
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友沢・中学三年生 冬
高校受験も近づき、皆が勉強に勤しむ頃。
俺は月姫学園の推薦を通り、勉強もほぼ必要ない手持ち無沙汰な日々を送っていた。
そんな俺が毎日部活に参加することは自然なことだろう。
後輩の指導から自分の練習まで、引退前と変わらないメニューをこなしていた。
そしてある日、俺は耳にしてしまった。
部活が終わり、部室に入ろうとした時。
「友沢先輩さあ、毎日部活来るとかだるくね?」
「ホントそれ、俺ら指導とか求めてねえっつーの」
「あの人の練習メニューのせいで疲れとれねー」
「天才が俺らに同じレベル要求すんなっての」
部室の扉の前で俺は放心した。
それから、俺は部活に顔を出さなくなった。