「ことりちゃん!今から追いかけようよ!」
「そ、それはダメぇ!」
こんにちは、南ことりです。実はさっき、凄く貴重なシーンを見てしまいました。
今日はμ'sの練習はお休みで、ことりは家庭科室で穂乃果ちゃんに手伝ってもらいながら衣裳づくりに励んでいました。その休憩中、窓の外の景色を見ながら穂乃果ちゃんとお話していると、校門の方へ歩いて行く海未ちゃんの姿が見えたんです。
それを見て「今日は弓道部、早終わりなんだねぇ」なんて話をしていたら、なんと海未ちゃんが……男の人と待ち合わせていたんです!
もう穂乃果ちゃんも私もビックリ。
おまけに海未ちゃんがその人の手を引いて走りだすもんだから余計にビックリ。
穂乃果ちゃんは急いで追いかけようとしてたけど流石にそれはダメだと思ったからなんとか止めて、今に至ります。
「ことりちゃん!『海未ちゃん会議』だよ!」
「『海未ちゃん会議』??」
「そうだよ!一大事だよ!まず他のメンバーも呼ぼ……」
「それもダメぇぇ!」
携帯電話を取り出して他のみんなも呼ぼうとする穂乃果ちゃん、さすがに止めた方がいい……よね?
「あんまり
「むむむぅ……」
やっぱりまだなにか考えてる様子の穂乃果ちゃん。もうひと押しかな?
「それに海未ちゃんだってあまり知られたくないかもしれないし……」
「むぅ、確かに……」
ふぅ、なんとかおさまったかな?
「でも!ことりちゃんは気にならないの?!海未ちゃんがデートだよ?」
「で、デート?! まだ、そうと分かったわけじゃ……」
それは、ことりだって気になります。海未ちゃんが男の人と話しているのなんて、
中学のクラスでの事務的な会話くらいしか見たことないし、ましてや手を繋いでるのなんて……
「でも、そうじゃないとも分からないよね?!」
「う~ん、確かにそうだけどぉ……」
「だから、会議だよ!海未ちゃん会議!」
こうして穂乃果ちゃんと私の謎の会議が始まっちゃいました。2人だけなら大丈夫だよね?
~~~
「やっぱりわからないよー!」
2人だけの会議が始まってしばらく経ったけど、結局なにも分からず、ますます謎は深まるばかりです。
今はμ'sをやっているから9人でいることが多いけど、昔はほとんどの時間を幼なじみの3人で過ごしてきました。だからこそ、海未ちゃんが男の子と話しているのなんてほとんど見たことないし。
海未ちゃんはやっぱり綺麗で可愛いんだけど、私たち以外には壁を作りがちで周りからはちょっと怖く見られてしまうこともあるみたいで。だからことりの知る限り、海未ちゃんが男の子から声をかけられることもほとんどありませんでした。
「うぅぅ~……」
幼なじみが2人集まってもこんなに分からないなんて……ことりも穂乃果ちゃんもモヤモヤしています。
「大体、あの海未ちゃんが男の人と手を繋ぐなんて、考えられないよ!」
「遠くからだったけど海未ちゃんから繋ぎに行ったように見えたよねぇ」
「穂乃果の知ってる海未ちゃんはどこに行っちゃったのー!」
「ほ、穂乃果ちゃん……」
結局この日は何も分からず、衣裳づくりにも手がつかず解散になっちゃいました。穂乃果ちゃんは本人に訊くと意気込んでましたが、しばらくは観察するだけにした方がいい、ってことに決めちゃいました。
いきなり質問攻めにしても可哀想だしね……?
~~~
翌朝
「おはようございます穂乃果、ことり」
「おはよう、海未ちゃん」
「……(ジィー)」
ほ、穂乃果ちゃん……おはようも言わずにいきなりじっと見過ぎだよぉ。
「穂乃果?どうかしましたか」
「なんでもないよー。おはよー海未ちゃん」
「今朝はちゃんと時間通りに起きれたのですね、えらいです」
「う、海未ちゃんがそれだけで褒めた?!」
「……? おかしいでしょうか?」
「お、おかしくないよぉ!ねぇ?穂乃果ちゃん」
穂乃果ちゃん、流石に疑いすぎだよ……でも、いつもより海未ちゃんの機嫌が良い気もするなぁ。
ことりも疑いすぎなのかなぁ?
「それじゃあ行きましょうか」
すると海未ちゃんが先頭を切って歩き始めました。やっぱりなんだか機嫌が良さそうです。
「~~♪」
「「……?!」」
う、海未ちゃんが鼻歌を歌いながら歩いてるよ!やっぱりおかしいかも!穂乃果ちゃんと目を合わせて確かめ合います。案の定穂乃果ちゃんが訊きたそうにウズウズしてる。
これは今後しばらく海未ちゃんから目が離せないかもです。……あと穂乃果ちゃんからも。
ことりちゃんは語り手に向いている気がします。