「新曲を作るのはどうかしら?」
放課後、練習前のミーティングで、絵里から提案がありました。
もちろん反対するメンバーも出ず、賛同の声が上がります。
「生徒会の引き継ぎも一段落したし、そろそろモチベーションを高める意味でも、ね」
「さっすが絵里ちゃん!名案だね!」
音ノ木坂の廃校を阻止することが出来た今、μ'sとしての具体的な目標がない状態です。
絵里の言うとおり、精力的に活動するためにも何か起爆剤が必要ですね。
「そしたら、どんな曲にしましょうか」
「それはもちろん!この宇宙一可愛いにこにーがセンターのキュートな曲にこ!」
「やっぱり寒くないかにゃ?」
「ぬあんですってぇ?!」
「はいはい、にこも凛も落ち着いて」
いつものように、にこと凛がじゃれ合っています。
見る度に思うのですが、こう見えて実はにこもノリノリのような……
「ぼんやりとでもいいから、テーマが決まるとええなぁ」
「むぅ、わかってるわよ。花陽、なにかアイデアある?」
「わ、私?!そうだね、ええっと……」
アイドルに詳しい花陽の意見に、メンバーの期待が高まります。
花陽はアタフタとしながらも考えている素振り。
「せ、せっかくだから、今までにない感じの曲が良いんじゃないかな……?」
「さすがかよちん!いいこと言うにゃ」
「それもそうね、予選のための曲とかじゃないし、変わったことしてみるのもいいかも」
「ことりも、花陽ちゃんに賛成♪」
『今までにない感じの曲』、ですか。ちょっと曖昧ですが、良いテーマですね。
真姫と私の作詞作曲組としても、いいチャレンジになりそうです。
◇◇◇
「真姫、ちょっといいですか」
「どうしたのよ、いきなり」
ミーティングが終わり、メンバーは着替えて練習のために屋上へ。
その途中で、気がかりだった真姫を引き止めました。
「いいのですか?あんなこと言ってしまって」
「あんなこと?……あぁ」
先ほどのミーティングで、にこに煽られた真姫は、
『2週間もあれば完成できるわよ!』と約束してしまいました。
売り言葉に買い言葉でにこにも悪気はなさそうですが……
今までにないような曲、を1から創り上げるにはいささか短すぎる気がします。
「大丈夫よ。私を誰だと思ってるの?」
「ですが……」
「それに、今とってもやる気に満ち溢れてるの」
真姫の瞳はいつも以上に自信あり気で、説得力があります。
語気からもかなりの意欲が窺えます。
「大丈夫なら、いいのですが」
「ええ。海未の歌詞作りのためにも、良い物を仕上げるわ」
「ふふ、じゃあ私も気合いを入れないといけませんね」
自信満々の真姫を見ていたら、杞憂のような気もしてきました。
とはいえ、この間の穂乃果みたいならないように注意しましょう。
真姫に限って、そんなことはないと思いますが……
「それでは、みんなにも宜しくお伝え下さい」
「弓道部、よね?」
「えぇ、大会が近いものでして」
「海未こそ、身体には気を付けるのよ」
ふふ、これではさっきとは立場が逆ですね。
したり顔の真姫が屋上へ行くのを見送ります。さて、私も頑張りますよ。
◇◇◇
6限終了のチャイムが校内に鳴り響く。
午後の授業はいささか眠い。ただでさえ眠いのに、おまけに古典ときたものだ。
とは言え授業中に眠るのはポリシーに反する俺は、必死で色々なものと格闘した。
「さーて、帰りますか」
毎週この曜日は、軽音部は休み。
クラスの友人の大半は部活動があるため、この日は趣味に充てることにしているのだ。
今日は何しようか、などと考えを巡らせながら校門へ続く並木道を歩く。
「……ん?」
何やら、校門のほうが騒がしい。
何事かと視線を投げると、遠巻きに女子生徒の姿が2人ほど窺えた。
おいおい、ウチは男子校だぞ。
学校の前に女友達を待たせるなんて、羨まけしからん。
そりゃ、サワザワしていてもおかしくないな。
外していたイヤホンを元に戻すと、思考は再び今日これからの予定に。
日課の勉強をこなしたら、やっぱりいつも通りギターかな?
この間のセッション以来、ギターを弾くのが楽しくて仕方ないからな。
「……くん!……」
やはりもっと演奏の引き出しを増やしたいから、アドリブの練習かな?
「……のくんってば!」
いや、でもやっぱりいつも通り基礎の練習を多めにする方が……
「おーい!無視しないでよー!」
ん?さっきから呼ばれているような気が……しかも女子の声?
でも俺に学校前で待たせてる友達なんて……
「あ、やっと気付いてくれた!」
「あはは……」
視線を上げると、そこには予想外にも程がある2人。
海未の友達で、μ'sのメンバーの高坂さんと、南さんだった。
◇◇◇
校門周辺を賑わせていた犯に……張本人がまさか自分の知り合いだったとは。
よくよく見れば、2人の着てる制服は海未で見たことがあるものだった。
気付いた瞬間、2人とともにそそくさと全力でその場を立ち去った。
今なら、海未と再会したあの日、全力で俺の手を引いて逃げた海未の気持ちもわかる。
いや、手は引かなくてもいいか。にしてもこれは相当恥ずかしいな。
すまなかった、海未……
事態は一件落着し、2人とともに喫茶店に。
表通りは同じ高校の生徒に見られると何となくアレなので、裏通りの静かな店を選んだ。
「改めて、2人はこんなとこまでどうしたの?」
「あはは、お騒がせしてごめんね~」
「実は、茅野くんに折り入ってお願いがありまして……」
色々と慌ただしくなってしまったけど、2人の申し訳無さそうな困り笑顔を見たら何でも許せてしまいそうだ。
と言うか許した!!
「連絡先が分からなかったから、この間会った時に聞いた高校に行けばいるかなぁって」
「それで、二人して校門で待ってたのか……」
「こんなに注目されるなんて、予想外だったかな……」
そりゃあ、これだけ可愛い女子高生2人が男子校の前にいたら、ねぇ。
と思ったけど、口には出さないでおくことにしよう。
「それで、お願いって?」
「実は、今週の日曜日、海未ちゃんが弓道の大会に出るんだけど、茅野くん知ってる?」
「いや、初耳かな」
高校では弓道部に入っているってこと自体は本人から聞いていたが、
大会がどうとかいう話はそういえば聞いていないな。
「やっぱり……まったく海未ちゃんってば……」
「まぁまぁ、穂乃果ちゃん」
「それで、こっそり応援に行こうってなったんだけど、茅野くんもどうかな……?」
「きっと、茅野くんが来た方が海未ちゃんも喜ぶと思うの」
高坂さんはその小さなサイドポニーを揺らしながら、そんな案を持ちかけてくる。
なるほど、話が掴めてきた。
どうせ海未が、間近になって大会のことを話して、応援には来なくていいみたいな事を言ったのだろう。
アイドルを始めたといえども、変なところでシャイなんだよな。昔のまんまだ。
「いいね、その話乗った!」
「おっ!さっすが茅野くん、話がわかる!」
「穂乃果ちゃんの言った通りだったね♪」
2人とも、いい笑顔をしている。
いい幼なじみに恵まれたなぁ、海未は。
海未を驚かせたいといういたずら心ももちろんあるし、純粋に彼女の弓道姿も見てみたいしな。
ここで行かずにいつ行くんだ、って感じだ。断じて悪だくみではないぞ。
「わざわざ教えに来てくれてありがとうな、高坂さん南さん」
「いえいえ!……あと、私のことは穂乃果でいいよ?」
「私も、ことりでいいんだよ?」
うーん困った、昔から女子を下の名前で呼ぶのに少し抵抗があるんだよな。軽い感じがするし。
海未くらい仲が良ければいいんだけど、出会ったばかりだと少し……
真姫は……どうしてだろう。あまり違和感が無かったな。
「名前呼びか、ちょっと馴れ馴れしくないかな?」
「そんなことないよ!ねぇ、ことりちゃん!」
「うん♪……さん付けよりも親近感があるし」
参った、二人ともお願いを請うような視線を向けてくる。
特に南さんのそれは破壊力のメーターが振りきれているぞ。
「じゃあ、高坂と南でどうかな?」
「「むむ……」」
今度は二人とも、何やら考えている様子。
仕草がシンクロしているあたり幼なじみなんだなぁ、と思う。
「いいよ!今はそれで!」
「すまん、昔からの癖みたいなものなんだ」
なんとか納得してくれた様子。
両手をグーにして『いつか呼ばせてみせるぞー!』とか恥ずかしげもなく言ってるあたり、
高坂が勘違いさせちゃった男子、相当多いんだろうなぁ……
「じゃあ、名前で呼んでる海未ちゃんとは、かなり仲良いんだね!」
「あっ、その話ことりも詳しく聴きたいなぁ」
「うーん、別に普通だと思うけどなぁ」
「そもそも、海未ちゃんに男の子の友達がいるのにビックリだったなぁ~」
「まぁ、ぱっと見だとお堅い子ってイメージだもんな」
その後も色々と質問攻めにされて、なかなか体力が消耗した。
でも、なかなか話せる機会のない2人だし、海未の弓道姿を見に行く計画も立てられたし、良い1日だったかな?
この間はなぜか海未に止められた連絡先の交換も出来たしな。
初登場のキャラもちらほら出て来ましたね。
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