「スクールアイドル?」
教室で昼食をとっていると、聞き慣れない単語が入ってきた。
「そうそう、最近流行ってるらしいぞ」
「へぇ」
「
クラスメイトの太一は鼻息を荒げながら話を続ける。
どうやら、スクールアイドルとはその名の通り学校の中で結成されたアイドルで、
近年ジワジワと人気が上昇しているらしい。
その証拠か、『ラブライブ!』と冠したスクールアイドルの大会まで開催されているようだ。
「なるほど、アイドルの部活版みたいなものか」
「んまぁ、その認識でいいと思うぞ」
『アイドル』という文化は、個人的には今まで通ったことのない道だ。
テレビを付けて適当にチャンネルを回せば、誰かしらアイドルが出演している時代だが、
これまでそこに傾倒することはなかった。
「こう、『同年代のJKが一生懸命頑張ってるなぁ!』って感じでアツいんだよ!あと可愛い!」
「わかった、わかったから声デカイって」
気が付くと太一のテンションがうなぎ登り状態だったので、落ち着かせなければ。
いくら男子校だとはいえ、大声でアイドルの話をされたら周りの目が気になる。
「おぉすまん……で、昨日見つけたμ'sってグループが良さ気なんだ」
「ミューズ……薬用石鹸?」
思わず浮かんだことをそのまま口に出してしまう。
「言うと思ったよ……そうじゃなくて、ギリシャ文字のμにアポストロフィ、sでμ'sだ」
「μ'sか、シャレた名前だね」
「だろ!あの音ノ木坂学院のグループで、なんでも廃校を阻止するために……」
「音ノ木坂?!」
突如飛び込んできた耳馴染みのある単語に、思わず声を上げてしまう。
それにしても、久々に耳にした気がする。
「ど、どうした急に?悠人らしくない」
「いや、気にしないでくれ」
普段大きなリアクションを取ることは殆ど無いため、怪しまれてしまったかもしれない。
いや、見るからに怪しげな顔をされている。
「まさか、音ノ木坂に知り合いがいるとか、じゃないよな?」
「……そ、そんなわけない……じゃん?」
「うおおおお裏切り者かああああ」
「いや、一人だけだから!それにもう一年以上連絡してないし……」
嘘は言ってない。というか連絡先も知らないから
もう一度会えるかどうかもわからないというのが実際のところだ。
「……μ'sのサインを……頼んだ……」
「期待しないでくれ……」
太一は先程までの元気が嘘のようにトボトボと自席へ帰っていった。
ちゃっかり貰えるかどうかもわからないサインを頼んでいくのが流石だった。
~~~
その日の夜、いつものように部屋で一人エレキギターを生音で弾いていた。
ギターは数少ない、唯一と言ってもいいかもしれない趣味でかれこれもう8年くらいになる。
小学校低学年の頃、父親の部屋にあったアコースティックギターを借りて触り始めたのがきっかけだ。
運動がそこまで好きじゃなかった俺は、そのせいもあってか、みるみるとのめり込んでいったらしい。
「そういえば、μ'sだっけか」
適当に弾いていると昼休みの出来事を思い出した。実はあの騒動(?)の後、太一オススメの曲とやらをDVDとCDに焼いて貰ったのだ。布教することに余念がないのは流石だなぁ。
そんなことを思いながらDVDの方をプレイヤーにセットすると、PVらしき映像が始まった。
「『これからのSomeday』、か」
……
…………
………………
「すごい……」
ものの数分の映像を見終わった俺は、無意識のうちにもう一度再生していた。
正直、少しだけ舐めていた。
スクールアイドルという響きから、学芸会の延長、くらいのものを想像していた。
しかし、目の前に流れてきたのは息のあったダンス、凝ったPVと衣装。
そして何より、楽曲の完成度に驚いた。
アイドルソングらしい可愛らしさを持ちながら、耳に残る痛快なポップソング。
王道でありながらもさりげなく凝ったコード進行と、しっかり頭に入ってくるキャッチーなメロディ。
しかも、急いで太一に確認を取ったところ、このメンバーが作詞作曲をオリジナルで製作している模様。
ますます興味が湧いてくる。
「作曲者に会ってみたい……!」
久々に心を撃ち抜かれた楽曲、しかもそれを同世代の子が書いたなんて……
今夜は眠れそうにない。
まったりいきます。よろしくお願いします。