「――というわけで、今回の
「
「あなた達は、今回独自にこの事件を調べてたのね」
固法が、食蜂達に問う。
「ええ。私達もはじめは半信半疑だったけどねぇ」
「今回このような大きな事件に発展してしまったことから、あなた方にも協力を仰ぐべきだと、上条様が判断いたしました」
縦ロールの言葉に、固法と白井の目が上条に向く。
「ホント……限界まで自分達だけで解決しようとする癖……治ってないのねぇ」
「もっと早く頼るべきじゃありませんの?」
固法は呆れ顔で、白井はジト目で上条を見る。
上条はたはは……とでも言いたげに頭を掻く。
「いやぁ……、今回のは特に胡散臭かったからな。確証を得るまで調べたかったんだよ」
本来、上条はこの事件は出来ることなら自分だけで解決したかった。
上条の情報源は親船なので食蜂と縦ロールに知られるのは避けられないが、それでも白井達を巻き込むのは最終手段にしたかった。
しかし、今回の事件は既に大きな負傷者が出るまでに大きくなってしまっているし、それに何より、
『……上条さん。上条さんが頑張るなって言っても頑張り過ぎる人なのは知ってます。だけど、もう少し私達を頼ってください。一人で抱え込まないでください』
……すでに自分は後輩の女の子にあんな顔をさせるまで、参っているようだ。
だったら、一緒に協力して一刻も早く犯人を捕まえる。
危険がこいつらに及ぶなら、この右手で守ればいい。――そう考えた。
そして、上条をその気にさせた張本人は――。
「ところで、初春は大丈夫なのか?」
「ええ。ただの風邪だそうです。佐天さんが、学校帰りに様子を見てきてくれるそうですわ」
「……そうか」
本音を言うと、こうして177支部のメンバーに協力を仰ぐことになった時、一番頼りにしていたのは初春の情報収集能力だ。
だが、病人を無理矢理働かせるような真似が、上条に出来るはずもない。
「上条くん。他の
「……正直、すぐに信じてもらえるような話ではないですし、それに俺は他の支部で嫌われてますから」
上条も普段は自分の担当地域に力を注いでいるが、事件の根っこを探るうちに別地区のスキルアウトを殲滅する、なんてことも珍しくない。
当然、その地区の
さらに、上条は色々と特別待遇を受けている。それは、上条の右手の能力を知れば当然の処置なのだが、機密として詳細を知らされない他の支部のメンバーからすれば、不満は溜まる一方なのだ。
「それに、
「じゃあ、まずはその
こうして、風紀委員177支部は、謎に包まれていた
×××
「37.3度。まぁ微熱だけど、今日一日はおとなしく寝てな」
「すみません、佐天さん。……ゴホッ、ゴホッ」
「あ~いいから、いいから。じっとしてなって」
ここは初春の寮の部屋。初春は顔を赤くしてベッドに横になっている。
そこに学校帰りの佐天が薬を届けがてら様子を見に来たのだ。
「昨日あんなことがあったから。疲れが一気に出ちゃったのかもね」
「………佐天さんが私のスカートを捲ってばっかりいるから、冷えちゃったんじゃないんですか?」
「いや、そこは初春の親友として、毎日パンツを穿いてるか心配で」
「穿いてますよ! 毎日!」
「あはは、分かってるから寝てなって。今、冷たいタオル用意してあげるからさ」
初春は「佐天さんはまったくもう」とぶつぶつ文句を言いながらも素直に横になり、佐天はそんな初春を見てクスっと笑いながら台所へ向かう。
昨日のセブンスミストで起きた事件。自分は何も出来なかった。
誰よりも早く安全な所に避難し、みんなの無事を祈ることしかできなかった。
親友を、憧れの人を、好きな人を置き去りにして、さっさと逃げることしか出来なかった。
誰もそれを責めやしない。
だけど、この置き場の見つからないモヤモヤとした罪悪感は、一晩明けても消えてくれなかった。
……自分にも、能力があれば、何か助けになれたのだろうか?
昨日からそんなことばかりを考えてしまっていた。
佐天が濡れタオルをしぼっていると、ピンポーーンと呼び鈴が鳴った。
「初春~。アタシが出ちゃっていい~?」
「おねがいしま~す」
寝たきりの家主の許可をとり、手を拭きながら玄関へ向かう。
「は~い……って上条さん!?」
「よ。昨日ぶり、佐天」
ドアを開けると、そこには上条がいた。
部屋の奥から「え!? 上条さん!? どうしよう、どうしよう!」と大慌ての声が聞こえるが、佐天は華麗にスルーする。
「初春のお見舞いですか?」
「あ、ああ。そうなんだが、いいのか? なんか凄いバタバタしてるが? 佐天以外にも見舞い客がいるのか?」
「いいえ。なんとなく察しがつきますから大丈夫です。とりあえず、あがってください。初春~いいよね~」
「え!? あ、あの、あとちょっとま「上条さん。どうぞ~」ちょ、佐天さん!?」
上条はよく分からず「お、おう……」と言いながらオドオドと初春家へと足を踏み入れる。
「初春~。上条さん来た……よ……」
「おう、初春。具合どう……だ……」
部屋に入った二人が見たものとは――。
「はぁ……はぁ……いらっしゃい……上条さん……わざわざ……来て……くれて……ありがとう……ございます……」
――汗をだくだくと掻き、顔を二つの意味で真っ赤にしつつ、なぜか寝間着に向いてなさ過ぎるワンピースを着ている初春飾利だった。
上条は予想とあまりに違う初春の様子に「おう……気にするな」としか言えず、佐天は――。
「………上条さん」
「………ああ」
「申し訳ありませんが、十分ほど外で待っていてくれませんか?」
「…………分かった」
冷たい声で上条を外に出した。
上条が初春の部屋のドアに背をつけながら外で待つこと十分。
その間、中から――。
「何考えてるのさ初春!? 風邪引いてるのに薄手のノースリーブワンピースとか熱上がったらどうするの!?おとなしくパジャマ着て寝てなさい!!」
「だ、だって……上条さんにパジャマ姿見られるなんて……恥ずかしくて……」
「風邪を引いてるのにワンピースの方がよっぽど恥ずかしいよ! ほら、とりあえず汗拭いてあげるから脱いで!」
「や、ちょっと、佐天さん、自分で脱げますから、ちょ、どこ触って」
上条はそっと、ドアから背を離した。
×××
「……いらっしゃい、上条さん。……来てくれて、ありがとうございます」
「ああ……思ったより……大変そうだな……」
「いえ……熱は高くないので、明日には復帰できます。迷惑かけて、ごめんなさい」
「気にするな。ここのところハードだったからな。ゆっくり休め。無理はするな」
「はい。ありがとうございます」
上条が再び部屋に入った時、初春はきちんとベッドで横になっていた。布団を被っているので見えないが、少なくともさっきのようなオシャレワンピースではあるまい。
「上条さん、お茶入れましょうか?」
「ああ、頼む。アイス買ってきたから一緒に食べよう」
「わぁ。ありがとうございます♪」
「初春も食欲ありそうなら一緒に食べるか? アイスなら食べられるかと思ったんだが、冷蔵庫に入れておけばしばらく保つから無理しなくてもいいぞ」
「いえ、ちょうど冷たいものが食べたかったんです。いただきます」
そう言って体を上げようとする初春に、上条がそっと近づく。
「えっ!?」
「じっとしてろ」
上条が身を乗り出す。初春は内心パニックになりながらも、逃げずに思いっきり目を瞑る。
すると――。
「ひゃい!?」
額に冷たい感触が広がった。冷えピタのようなものを貼られたらしい。
「風邪にはこれが一番だ。熱は大したことないっていっても、用心に越したことないだろう」
「あ……ありがとうございます」
上条がこういう人なのは分かっていた。
だが、心のどこかで期待してしまった自分に猛烈に恥ずかしくなり、顔が真っ赤になる。
「うわっ、初春、顔凄く赤いぞ! 本当に熱高くないのか!?」
「はい……もう本当大丈夫です……はい……」
初春が穴があったら入りたい気持ちになっている所に佐天が「お茶入りましたよ~」と言いながら戻ってくる。
初春はある種助かったという気持ちでほっとするも、上条がアイスを取り出しに行ったのと入れ違いで佐天がニヤニヤと近づいてきて、初春の耳元でボソッと――。
「キスされるかと思った?」
と、呟き、初春はボンッと再び真っ赤になったのだった。
「これおいしいです♪」
「ホントに♪」
「そっか、ならよかった」
始めは焦ったが、初春の風邪もそこまで酷いものじゃなさそうでよかったと上条は一安心した。
初春は笑顔でアイスを食べながら佐天と楽しそうに話している。この分だとすぐに良くなりそうだ。
「あ、上条さん。そういえば、昨日の爆弾犯ってどうなりました」
「
「捕まっちゃうんですか?」
「どうだろうな。俺は自白するのを聞いてるからアイツが犯人だって確信を得てるけど、
佐天が昨日の事件の疑問を上条に尋ねる。
上条はアイスを食べながら、いつも自分の中で考えを纏めるような感じで佐天に答える。
「謎?」
「ああ。アイツは
しまった!? こいつ等……少なくとも佐天だけは絶対に巻き込まないつもりだったのに!?
上条は逆行してから思考に耽ることが多くなり、その際周りが見えなくなることはよくある。
だが、これは絶対にしてはいけないミスだった。
「でも! 実在はするんですよね!?」
「……言っておくけど、興味本位で絶対に手を出そうとするなよ。どんな副作用があるか分かったもんじゃないからな!」
「やだなぁ~分かってますよ。子供じゃないんですから」
「……それならいいが」
上条はここはすんなり引いた。上条はいまだに、この佐天涙子という少女のことがよく分からない。
前の世界では、面識はあったものの正直“御坂の友達”という印象しかない。
いうならば、御坂経由でなければ付き合いはなかった。
この世界では前回の世界よりだいぶ早く知り合いになったものの(前回は大覇星祭のときだった)、まだ初対面の時とこないだのファミレスとセブンスミストの三回しか会っていない。
そして、この少女は基本的に明るくて活発だが、本心はあまり見えないのだ。
もしかしたら、御坂たち四人の中で一番ミステリアスなのは、この少女かもしれない。
そんな風に再び思考に耽っていた上条だったが、そこに初春の声がかかる。
「あの、上条さん」
「ん? どうした?」
「こんなサイトを見つけたんですけど……」
「ん? ……これは、
「初春すご~い!」
上条は内心歯噛みした。初春に無理をさせないと決めたばかりなのに、早速使ってしまっている。
今日はずいぶんミスが多い。ずっと抱え込んでいたものを、白井と固法に明かして気が緩んでいるのだろうか。
だが、この情報を有効活用しない手はない。
「ありがとう、初春。この情報は無駄にしない。早速調べてみる」
×××
御坂美琴は、
『能力が低い奴らがみんな、頑張ってないわけじゃないんだ』
『頑張って、頑張って、頑張って、それでも結果が伴わなくて、苦しんでいる奴らはいっぱいいるんだよ』
『そのことは、わかってやってくれ』
彼女は努力に努力を重ねて、
だから、みんなも頑張れば、いつかきっと
だから今は能力が低くても、諦めずに頑張ろう!
学園都市の教師達が、それこそスローガンのように口を揃えて繰り返す言葉。殺し文句。
御坂自身もそんな言葉を信用しているわけではない。
学園都市の能力開発は、才能重視だ。
才能がなければ、ダメなやつはダメ。残酷な様だが、それは紛れもない事実だ。
鳥が海に潜れないように、魚が空を飛べないように――無能力者は、超能力者になんかなれやしない。
努力が全て実りそのままステータスに変わるRPGのような世界なら、学園都市に
それは能力開発に限った話ではない。
全ての闘争、競争の成否を、勝負を分けるのは、個々人の努力ではなく、やはり生まれ持った才能だ。
ゼロではないだろう。ある程度なら、努力が才能を補うことは出来るかもしれない。
だが、その大半は形を得ることなく水泡に帰すのだ。才能がなければ到達出来ない領域というのは確固として存在する。
頑張りが、努力が、鍛練が、修練が、積み重ねた分だけ、流した汗の分だけ、費やした時間の分だけ、正当に評価される。そのまま反映され、力となる。
流した汗の分だけ強くなれる。練習は決して嘘を吐かない。
そんな素敵な法則が適用されるほど、世界は優しく出来てはいない。
それが分かるから、理解してるから、上条のあの言葉に御坂は何も言えなかった。
だが、それだと自分はどうなる。
頑張って、頑張って、頑張って。
努力が実り、頑張りが正当に“評価されてしまった”私は異端なのか?
流した汗が、費やした時間が、“実を結んでしまった”私は狡いのか?
何で、私が、悪者のように扱われなければならない……。
弱い自分が嫌で、出来ないままでいたくなくて、昨日の自分に負けたくなくて。
走って、走って、走って、走って。
気が付いたら
代わりに、色々なものを、失いはしたけれど。
それでも、確かに願いは叶ったんだ。
私は、間違ってない。
『能力が低い奴らがみんな、頑張ってないわけじゃないんだ』
分かってる! だけど、私は出来たんだ! だから、そいつの努力が足りない! そう判断して何がおかしい!
『頑張って、頑張って、頑張って、それでも結果が伴わなくて、苦しんでいる奴らはいっぱいいるんだよ』
知らない! 知らない知らない! そいつは私より頑張ったの!?
私より努力してないのに、被害者面なんて、ちゃんちゃらおかしい!
『そのことは、わかってやってくれ』
うるさい! うるさい! うるさい!
……なんなの? なんで、私が怒られるの? 恨まれるの? 憎まれるの?
まるで、成功した私がおかしいみたいじゃない?
ああ、確かに私には才能があったのだろう。こうして
それでも、私だって頑張った。努力した。何もせずに
誰よりも頑張って“たまたま”努力が実っただけなのに……。
私は、
能力は、私の全て。
他の全てに代えて、手に入れた私の全てなのに。
お願い。
それを、否定、しないで。
×××
「ねぇねぇ、君かわいいねぇ~。俺たちと一緒に遊ばない?」
「おまっ、その子常盤台じゃん!? お前にはハードル高すぎっしょ~」
「ばっかお前、高いハードルほど飛び応えがあるってもんだろうぉ。そ・れ・に~なんか今日はいけそうな気ぃ~すんだわオレ☆」
「おまww。それこないだも言ってて霧が丘のやつに速攻フラれてたべww」
御坂の思考を、見るからに不良を気取っている奴らの下卑た声が遮断する。
彼女は今、普段はあまり行かないチェーンのファミレスに来ていた。
いつもの行きつけだと、白井や佐天や初春と遭遇するかもしれない。今はあまり知り合いに会いたい気分ではない。
だが、だからといって一人になると、どんどん思考がダウナーになりそうで嫌だった。
だからこのファミレスを選んだのだが、そうしたらこういった
しかし、外を見るともう暗かった。
こんな輩が集まる時間帯まで居座った自分にも非はあるようだと少し反省する。
「なぁ、おい無視してんなよ!」
不良が少し険のある声を出す。女子中学生だとタカをくくって少し脅かせばビビッて言うことを聞くと思っているようだ。
そういう見え透いた底の薄い考えが、今の御坂には酷く癇に障る。
「うっさいわね。さっさと消えなさいよ」
ついついこんな棘のある言葉を吐いてしまう。
逆効果だと分かっているのに。
「ああん。誰に向かって口聞いてんだ、てめぇ」
こっちのセリフだ。そもそもそっちから声をかけてきて何を言っているのか。
もういい。面倒だ。
全員まとめて黒焦げにしてやると席を立とうとした時――。
「おい。お前ら何やってんだ」
今一番聞きたくない声が、今一番会いたくない奴から発せられた。
×××
上条当麻は、あの掲示板からこのファミレスに
しかし、ファミレスの窓からあろうことか、あの御坂美琴に因縁をつけている不良グループを発見し、“不良たちを救うべく”上条は事態の収拾にあたった。
御坂は一目で見抜いた。
上条が、自分を助けにきたのではなく、不良達を助けにきたということを。
絡まれている女子中学生ではなく、“か弱い”不良たちを助けるために。
なぜか?
決まっている。
自分が彼らより圧倒的に強いからだ。
だが、今の御坂はそれが気に食わない。
心底気に入らない。
「
「ああん。うるせぇよ。俺は今、こいつと話してるんだよ」
「関係ねぇやつはすっこんでろよ!」
上条は今も、女子中学生を守る
そこに御坂は火に油を注ぐ。
「ねぇ。そこのダサいお兄さんたち。私と遊びたいんでしょう。いいわよ、遊んであげる。ついて来なさいよ。それとも怖いの?」
「はぁ!? 御坂、お前何言って「上等だこらぁ!? いくぞお前ら!」「おう! なめやがって小娘がぁ!」「常盤台だからって調子乗りやがって!」おい! お前ら、やめろ「うっせんだよ!」ぐほっ!」
不良の一人が上条の腹部に拳を叩き込む。
いつもなら造作もなく防げる一撃だったが、御坂の態度に目を奪われていた上条はまともに喰らってしまった。
無様にも呼吸が出来ずに座り込む。
その間に、御坂も不良グループも店からいなくなってしまった。
今日の上条の不幸は、全面的に自業自得だ。
×××
「はっ! てめぇ、覚悟しろ! もう逃げられねぇぞ!」
そう言って、御坂を男達が囲いこむ。
その数、六人。
さきほど威勢のいいことを吠えておきながら、相手が常盤台生ということを考慮に入れ万全を期したのか、自分達に圧倒的有利な陣形を築くのを欠かさない。
御坂は知らないが、彼らは
御坂は、こいつらに対する同情など失せていた。
その路地裏に、紫電が走る。
勝敗など、やる前から決まっていた。
「くそっ! どこだ、御坂!?」
上条が店を出た時には、すでに御坂も不良グループ見当たるところにいなかった。
そこら中を探し回ったが、どこにも姿はみつからない。
御坂は現在出会っているメンバーの中でも、特別その付き合いは深い。
魔神に挑んだ、あの最後の戦いの時も。
だが、あんな御坂は初めて見た。
止めなくてはならない。
このまま放置したら、取り返しがつかなくなる気がした。
いない。どこにもいない。
御坂と出会うのはいつも突然で、見つけるのも声をかけてくるのもほとんど向こうからだった。
だが、今回は自分が見つけなければならない。
ふと、前の世界のことが頭をよぎった。
あの時も、自分は御坂を探して走り回っていた。
記憶を失ってから、初めて御坂に会って、御坂と御坂の『妹達』を救う為に首を突っ込んだあの事件。
上条の向かう先が決まった。
場所は、上条と御坂にとって、因縁深いあの鉄橋の上。
そこに御坂はいた。
「御坂!」
上条が御坂を呼ぶ。彼女はゆっくり振り返る。
まるであの時のようだと上条は思う。御坂が『妹達』を救う為、自らの命を絶とうとしていたあの時と。
もちろん、今はあの時とは違う。
今の御坂はあの実験のことなど知らない。だから自殺などしようとしていたわけではない。
その瞳に宿る感情は、あの時のような悲壮ではなく――――明確な憤怒だった。
「何しに来たのよ。不良を守る“ヒーロー”さん。」
「御坂……あの不良たちは……」
「
「っ! なんでだ! なんでそんなことを!?」
「なんで? むしろ、私が聞きたいわね」
御坂は紫電を瞬かせながら、上条に向かって吠えるように言った。
「なんであんな自分の弱さから目を逸らして周りの人達にやつあたりしているような弱者に、この私が気を使ってへこへこしなくちゃいけないのよ!」
その言葉に、上条はぽつりと聞き返す。
「……何?」
「だから、頑張って頑張って頑張って、それでも結果が出なくて苦しんでる、
それは、上条が今まで見たことのない御坂だった。
「御坂……」
上条の脳裏に、昨日、他でもない自分が彼女に語った言葉が過ぎる。
――『頑張って、頑張って、頑張って、それでも結果が伴わなくて、苦しんでいる奴らはいっぱいいるんだよ。――そのことは、わかってやってくれ』
思わず唇を噛み締め、拳に力が入る。
(……俺か?俺の昨日の言葉が、御坂をここまで追い詰めたのか? ……俺は、また間違えたのか? 自分の意見を押し通して、その結果、誰かを傷つけたのかっ!?)
上条の顔が俯いていく。
御坂は、そんな上条を見ずに足元に向かって吐き捨てた。
「……そうよ。私は一番強くなりたかった。それが私。それでこそ私。その為に、他の全てを犠牲にしてきた」
御坂はゆっくりと顔を上げ、上条を睨みつける。
それは上条が経験した中で、御坂から向けられた最大級の敵意だった。
「勝負しなさい。上条当麻。学園都市二百三十万分の一の“天災”」
バチィッ!! と、御坂の前髪から一際強く紫電が瞬く。そして、その細く可憐な指が――まるで銃口のように上条当麻に向けられた。
「私は自分より強い奴が許せない。アンタに勝って、“私は自分の人生の正しさを証明する”っ!」
そして、二百三十万分の七の超能力者は、二百三十万分の一の無能力者に挑む。