御坂美琴に
「デート、デート! ヒーローさんとデート~! ってミサカはミサカははしゃいでみたり!」
「はは。おい
上条は
ぶっちゃけ子守だ。
この日は、昨日の宣言の通りに御坂が朝から上条家を訪れてなぜか同じくらい早く来ていた食蜂と一悶着を起こしたり、騒ぎを聞きつけたのかそれとも別口で遊びに来たのか佐天とインデックスも現れたり、ならばついでにと昨日のこととこれからのことも兼ねて白井と初春も呼んで
結局彼女らはみな上条家を(なぜか住人のはずの上条も纏めて)追い出され、しょうがなく隣の佐天家へと場所を移すこととなったのだが、ここで遊び盛りの
けれどまだ白井達に詳しい事情を話終えていなかったので上条はどうしたもんかと苦笑いだったのだが、そこで食蜂がそっと助け船を出してくれた。
どうせ長い話になるのだから、自分がそれを代わりに話すので、その間は
ここ最近、上条は中々忙しかったので、
上条はそれを了承し、こうして
(後で他の
楽しそうにはしゃいでいる
ちなみに
退院後、はじめてのお出かけの時に、なぜか上条のYシャツのみといういろんな意味で危なすぎる格好で外の世界に飛び出そうとしたときは、上条と食蜂は全力で止めたものだ。
たまの日曜日を家族サービスに使う全国のお父さんもこんな気持ちなのだろうかと、上条がゆったりとした足取りで
「わっ!」
「にゃっ!」
どんっ! と、
「
上条は急いで駆け寄る。どうやら怪我はないようだった。
「いたた……ってミサカはミサカはちょっと反省してみたり」
「まったくだ。少しは落ち着け」
よっ、と
「ごめんな、大丈……夫……か……?」
そして、ぶつかってしまった子に謝ろうと目を向けると――
「……にゃあ、大体、お姉ちゃん、痛い……」
「もう! 何やってんのよ、フレメア! 結局、前を見ないで走り回るからこうなるって訳よ!」
「そうよ、フレメア。後先考えずにその場のノリで生きてたらフレンダみたいになるわよ」
「ですね。その時になって後悔しても超手遅れです。超フレンダです」
「ちょっと!? オフの日くらい姉の威厳ってものに気を遣ってよ!?」
「大丈夫。私はそんなせめてフレメアの前でくらいはいい恰好をしたいフレンダを応援してる」
そして。そしてそして。
その後ろからぞろぞろと現われたのは、その金髪少女と瓜二つの見覚えのある少女と、茶髪で白のTシャツにノースリーブの赤のパーカーともうそれ下着なんじゃねぇのってくらいの足の付け根ほどしか丈のないショートパンツのこちらも見覚えのある少女と、上はくたびれたよれよれのTシャツに下はピンクのジャージのやっぱり見覚えのある少女と、ボディラインが下品にならない程度に強調される紫色の服を着たウェーブのかかったロングヘアの忘れたくても忘れられない見覚えしかない美女。
「あ」
「げ」
「ん?」
ぶっちゃけ『アイテム』の皆さんだった。
「……チッ」
「…………」
そして、目が合うなりいきなり絹旗に舌打ちをされた上条はちょっと傷ついていた。
×××
なんだこれは? と絹旗最愛は思った。
「だから絶対にハンバーグセットこそファミレスメニューの王道にして至高なの! ってミサカはミサカは何もわかっていないお子様なあなたに宣言してみたり!」
「にゃあ! 大体、お前こそ何もわかってない! このフワフワのオムライスこそが真のファミレスの頂点にして帝王なのだ!」
場所はいつものファミレス。
アイテムのみんなでたまのオフの日や、仕事前や仕事終わりに集まったりするいきつけのファミレスの、いつもの六人用のテーブル。席順としては一番奥の窓際の席に滝壺、その隣に自分。そして自分の向かいにはフレンダ、その隣――滝壺の対面の向こう側の窓際の席に麦野といつもの配置。
そして、フレンダの隣にフレメア。まぁ、これはいい。たまにあることだ。
ある時、偶然が重なってアイテムのメンバーに存在が露見した、フレンダの妹のフレメア。フレンダは複雑な表情をしていたが、バレてしまった後はこうしてたまにオフの日に集まるときに、家で一人寂しい思いをさせるよりはとフレンダが連れてきたりするようになった。
そんなことは昔のフレンダ――昔のアイテムではありえなかっただろう、などと絹旗は考えて、すぐにそんなことを考えている場合じゃないとその思考を振り払う。
問題なのは、そのフレメアの対面――自分の隣に座り、テーブルに身を乗り出しながらフレメアと熱いファミレス談義を繰り広げているフレメアと同じくらいの年のアホ毛が特徴的な少女――幼女?
こいつは誰だ。なぜ、アイテムの女子会に普通に混じっているのだ?
そして、何より――
「ほら、ドリンクバー行ってきたぞ。さすがに七人分は多いな。初めてこのお盆使ったよ」
「遅いわよ、さっさと寄越しなさい」
「上条、一番サバ缶に合いそうな奴は?」
「ヒーローさん! ミサカはヤシの実サイダーがいい! お姉さまが好きなんだって! ってミサカはミサカは好奇心に突き動かされたり!」
「にゃあ、なんだ、飲んだことないのか? 大体、私はあんなものは三年生の時には卒業して――」
「はいはい、喧嘩すんな。
「……なんでもいい」
「じゃあ、とりあえずアイスコーヒーで。そんで絹旗はなにがい――」
「ってか超何やってんですかアンタはぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!」
絹旗最愛は激怒した。
夏休みのファミレス。
それなりに盛況だった店内は一瞬シーンと静まり返ったが、そこは学園都市。
一秒後には何事もなかったかのようにそれぞれの会話に戻り、息を荒げた絹旗に上条は平然と話しかける。
「なんだ、ドクターペッパーは好きじゃなかったのか? なら、こっちのメロンソーダを――」
「超そういうことじゃないんですよ! どうしてアンタがここに――ってか、なんでドリンクバーにドクペが!? これも相当な超ギリギリドリンクでしょう!?」
「嫌なら俺が飲むけど」
「貰いますよ! 超大好物です!」
この我が道を行くC級感がたまりません! と、絹旗が変なテンションで上条からドリンクをひったくると、麦野が鬱陶しそうに、フレンダが心配そうに声を掛ける。
「うるさいわねぇ、絹旗。久しぶりの休日だからってはしゃいでるんじゃないわよ、フレンダじゃあるまいし」
「……大丈夫、絹旗? 暑いから、水分補給だけはしっかりした方がいいって訳よ」
「私!? 私が超おかしいんですか!?」
なぜだ。なんで私がツッコミポジションなんかやらされているのだ? 本来、このポジションにはもっと相応しい世紀末帝王がいるはずなのに。
混乱し過ぎて自分でもなんだかよく分からないことを考えてしまっている絹旗は、とりあえず上条が持ってきたドクターペッパーを口にする。氷を入れすぎることも入れ忘れることもなくばっちり絶妙な量を入れている心遣いが逆に憎たらしい。
「――って、なんでこっちに超座るんですか、アンタ!!」
「え? だって向こう側いっぱいだし」
元々このテーブルは六人掛け。
すでにアイテム+幼女コンビが座っている以上、上条はこうして絹旗の隣に座って――
「わ~い、ヒーローさんの膝の上~! って他の
――
はしゃぐ
間違いなく、満員御礼のこの店内でも最も存在感のあるテーブルだった。
「――さて」
そんな中、上条がドリンクバーを往復している間にフレンダと同様に堂々と飲食店に持参した自前の
「――久しぶりね、壊れ物のヒーロー」
その麦野の言葉に、フレンダはごくっと(サバを)呑み込み、絹旗はドクペを吐き出しかけるが何とか耐える。
フレメアと
そして、上条は――
「――ああ。久しぶりだな、麦野さん。再会できて光栄だ」
――と、微笑んでみせた。
それを見て、麦野は「――ふぅーん」と笑い、好戦的な笑みを深めながら続けた。
「――アンタは相変わらずみたいね。
「いえいえ、上条さんは正真正銘のノーマルですのことよ。……そっちも相変わらずみたいですね、麦野さん。あれだけ言ったのに。マゾなんですか?」
「あぁん?」
「なんでもないです」
麦野がとんでもない表情で睨み付け、上条は条件反射で謝罪した。
そして何事もなかったかのように麦野が話を再開する。その目線は一瞬、
「……それが、第三位のクローンってわけ」
「まぁ、その中でも特殊ですけどね」
上条が
クローンと聞いてフレメアが首を傾げたが、それを察した上条が「
その様子を上条が見送っていると、麦野が呟くように言った
「……正直、アンタが第一位に勝ったのは予想外だったわ」
「麦野さんにも勝ちましたけどね」
「黙れ、殺すぞ」
「すいません」
本気で殺気を向けるのはやめて欲しいと上条は思った。
「――だが、それでも尚、学園都市の闇は、些かも衰えちゃいない。奴等にとって、アタシら“能力者”は、ただの駒で、ただの道具で、ただのモルモットに過ぎない。――それが、例え
その麦野の言葉は、学園都市の闇にどっぷりと浸かり、それでもなお『アイテム』という組織を率い続けてきた者が放つ重みに満ちていた。
フレンダも、絹旗も、ズシンと重たい何かが全身に圧し掛かるのを感じる。
「――それでもお前は、この学園都市の闇の底知らなさを思い知った今でも、あんな戯言を真顔で吐けるのか」
麦野は上条を真っ直ぐに見据えた。
その眼光で、上条の瞳を貫いた。
上条は、間髪入れずに答えてみせた。
「――ああ。学園都市の闇は、絶対にぶち殺すさ」
上条は、微笑んでいた。
あの時のように絶叫するわけでもなく、ただ淡々と。
それが当たり前のことのように、気負わず、堂々と。
フレンダと絹旗が呆気にとられる中で、上条はなおも麦野に言う。笑いながら、不敵に言いのける。
「だから、早めに麦野さん達も再就職の為に就活でもしてた方がいいですよ。俺が闇をぶっ殺したら、うちの第一位みたいにニートになりますよ」
その言葉には、ついに麦野も呆気にとられた。
顔を俯かせ、くくくと笑いを零し、そして――
「――ははははっはははっはははははははっはははっはは!!!!」
と、高笑いした。
絹旗の時のように店内の注目が集まり静まり返ったが、なんだまたあのテーブルかと流され、今度の沈黙も短かった。
麦野もそんな背景の反応などどうでもいいとばかりに思う存分笑い続け、息が整ったところで、再び上条に好戦的な笑みを向けて、言った。
「本当に救えない奴ね。一皮剥けても狂ってるなんて」
「別に俺は狂ってても、壊れてても、救えなくても構わないよ。あなた達が救われればそれでいい」
二人は笑う。
上条当麻と麦野沈利は、不敵に、好戦的に、笑みを交わし合う。
フレンダと絹旗は、そんな二人をただ眺めていた。
「――行くわよ、アンタ達」
そして、麦野は立ち上がる。
それに慌てたようにフレンダが麦野に言った。
「む、麦野!?」
「ほら、アンタはあっちで馬鹿やってるフレメアを連れてきなさい。ったく、姉妹揃ってフレンダなんだから」
「どういう意味!? もう完全に私の名前が蔑称って訳よ!?」
「げ、
「アンタにまで言われるともう内輪ネタですらなくなってるって訳よ!?」
うがー! と荒れるフレンダと一緒に上条は、ソフトクリームコーナーで一体どれだけの高さのソフトクリームを崩さずに作れるかという謎の勝負を繰り広げている二人のロリっ子を回収に向かう。
その後ろ姿を眺めていた絹旗は、ふと麦野を見る。
麦野は首に手を当て「ったく、最悪のオフだわ」と呟いているが、その顔には好戦的な、凶悪な微笑みを浮かべていた。
麦野ともすでにそれなりの長さの付き合いになる絹旗は、麦野の機嫌が言葉ほど悪くないことを察した。
そして、二人のロリっ子は店員さんに笑っていない笑顔で窘められ、店員さんはぐるんっと上条とフレンダの保護者コンビにその笑顔を向け、帰れと噴き出す黒いオーラで言外に告げた。麦野が言い出さなくても、どちらにせよお茶の時間はここで強制終了なようだ。
そのままフレンダと何やら言い争いをしながら(フレメアは
「またいつか会うでしょう。とびっきりどす黒い闇の中で」
そしてそのまま先に店を出ようとして、首だけ振り返って言う。
とびっきり凶悪で、とびっきり妖艶な笑みで。
「その時は、ぶ・ち・こ・ろ・し・か・く・て・い・ね♪」
そして、そのままもう振り返ることなく、第四位はファミレスを後にした。
その後ろを滝壺、絹旗、そしてフレメアが続いた。
滝壺は眠そうにしながらも上条に小さく手を振り、フレメアは
絹旗は一度立ち止まって、鋭く上条を睨み付ける。
「…………」
「…………」
だが、お互い何も言うことはなく、絹旗は先にファミレスを出た麦野達を追った。
そして、その後に続こうとフレンダが歩き出す。
「……さて、それじゃあ、結局私も帰るって訳よ。……もうアンタも私達にはかか――」
「――待て」
上条は麦野や絹旗達とは違って、フレンダのことは肩を掴んで引き留めた。
「な、なによ」
フレンダはそのことに戸惑い、恐る恐る振り返って上条を見上げる。
上条は、フレンダのことを真剣な瞳で見下ろしていた。
(……え? 何? まさかの私ルートって訳? あの流れじゃ普通麦野か絹旗じゃ…………け、結局私の美貌が何よりの罪ってわ――)
フレンダは、何かを覚悟したように真っ赤に頬を染めてギュッと目を瞑った。
そして上条は、右肩だけでなく左肩にも手を添えて、そしてはっきりと言い放った。
「――あいつ等の分もドリンクバー代払ってくれよな」
×××
フレンダ=セイヴェルンは激怒した。
必ず、あのツンツン頭のあん畜生に吠え面をかかせてやると決意した。
「あ~~~~~もう~~~~!!!! 絶対いつかアイツぎゃふんと言わせてやるって訳よ!!!」
フレンダは肩を怒らせながらずんずんと第十五学区を歩いていた。
ひとりぼっちで。
突然、五人分のドリンクバー代を請求されたフレンダは、もちろんファミレスのドリンクバーなのでそこまで高いわけではなかったが、アイテムのフレンダのポジション的に会計を待ってくれてるとかそんなことはやっぱり全然なかった。
普通に置いてかれていた。麦野や絹旗ならまだしも、普通に最愛の妹にも置いてかれてた。
おかしい。私の妹がこんなに薄情なはずがない。
なんかだんだん麦野達に染まってきた気がする。これだから絶対に麦野達にフレメアのことは知られたくなかったのに。
(……別にそういうわけじゃないか)
フレンダは冷静になり、頭の後ろで手を組みながら、オシャレスポットである第十五学区を歩く。
別にフレンダの秘密主義はいまに始まったことではない。
それがたとえ命を預ける同僚でも、たった一人の家族の妹にさえ、フレンダは多くのことを隠している。
アイテムのメンバーに妹の存在を隠していたり、フレメアに自分が学園都市の暗部で働いていることを話していなかったり。
いや、そんな重い事柄に限らず、もっともっと単純なこと。
例えば、こうして仕事のないオフの日、フレメアが友達と遊んでいたりしていて自分の時間がとれる時、どこでどんな風に過ごしているのか、とか。
どんな“友達”と、どんな“日常”を過ごしているのかとか。
フレンダは歩きながら携帯端末を起動し、ふと気まぐれにメモリーを眺める。
自分は、個人としてはそれなりに顔は広い方だとは思う。
連絡先を知っている数は四桁に上る。
携帯のメモリーに入っている数=友達の数という新時代の悪しき慣習に則るなら、自分は相当に友達が多い部類なのだろう。
だが、断言できる。
その中の誰一人として、本物の、真っ白で真っ新なフレンダ=セイヴェルンを知っている人間など、存在しないと。
全員に何かしらの秘密を抱え、全員に何かしらの嘘をつき、全員に何かしらの隠し事をしている。
もれなく全員だ。全員が全員、それぞれ違った『フレンダ=セイヴェルン』を見ているのだろう。
そんなものが、はたして友達と呼べるのか?――などと考えて、らしくない、柄じゃないとすぐさま思考を断ち切る。
あの男のせいだ。あのツンツン頭のふざけた輩のせいで、こんな自分らしくない考え事をし、知らず知らずの内にフレメアや麦野達と合流に向かうわけでもなく、第十五学区などに足を進めている。
見えてきた。
目的地は学園都市で最もおしゃれなスポットであるここ第十五学区の『中心地』――ダイヤノイド。
その上層のマンションエリアは、莫大な財産と一緒にたくさんの知られたくない秘密を抱え込んでしまったVIP達が、最も欲する『安心』を提供する空間。
その、ある意味で最もフレンダに相応しいその場所は、世界で唯一、フレンダが無防備になれるシェルターだ。
その場所に、無性に行きたくなってしまった。
あの少年に、今日ふいに出会ってしまったから。再会してしまったから。
半年ほど前のあの日、フレンダは上条の言葉を、差し延ばされた手を弾いて、拒絶した。
少年が語り掛けてきた言葉の内容自体は、確かにフレンダの心に届き得るものだった。
だが、いかんせん、その言葉には重みがなかった。心に触れはしても、まるで響かなかった。逆に、己の心の大事な部分に不用意に侵入され、荒らされた気がしてすごく不快だったことを覚えている。
そう、覚えている。少年が自分に――自分達に向かって放った言葉を、その一言一句を、不覚にもこの半年間、忘れずに記憶し続けている。
そして、少年は結果を残した。あの第一位を撃破し、『木原』の企みを打倒した。
さらに、今日再会した少年は、変わっていた。
まるで生まれ変わったかのように、一皮剥けていた。
あの麦野に真っ向から対峙し、微塵も揺らがなかった。
その姿を見て、その言葉を聞いて――――まさか、揺らいだのか? この私が?
「……超、戯言って訳よ」
だから、これは再確認だ。フレンダという存在が揺るがないように、鏡を見て、自分を見つめ直すのだ。
あの部屋で。唯一自分が、きちんとフレンダになれる、あの場所で。
明日からも、無数のフレンダを作る為に。その場に合った、その場に適したフレンダである為に。
これが、それが――――フレンダ=セイヴェルンなのだから。
その時、ふと前に人影が見えた。
この十五学区という空気に当てられているのか、不安げにきょろきょろと回りを見渡す小柄な少年。
セミロングの茶髪の髪が、真夏だというのにすっぽりと被った耳付フードからこぼれている。それと対比するように下は生足を出したショートパンツで、パッと見はまるで少女のようだ。
その小学生か中学生の狭間くらいの外見年齢の少年は、フレンダ=セイヴェルンが見知った、四桁を超える携帯のメモリーのデータの一つに名を連ねる少年だった。
あの日、あの時の言葉で、どうして自分は、あの無垢なる最愛の妹と同時に、彼の姿を思い描いてしまったのだろう。
今まで会ったのは数度。フレメアと比べてはるかに交流は少なく、あの膨大なメモリーの知り合い達の中でも知り合い度のランキングは低い方の少年だろう。
「…………」
フレンダは気が付いたら、少年の元へと歩み寄っていた。
フレンダは少年の後ろから近づいているので、少年はまだ彼女には気づかない。
まぁ、ここで会ったのも何かの縁だし、別に自分はコミュ障というわけでもないし、ましてや嫌いな相手であるとか全然そんなことではないわけだ。
……というか、友達。うん、友達だ。友人。ダチ公。フレンダ‘sフレンド。
あの四桁メモリーの全員が友達とかはさすがに言うつもりもないけれど、目の前のこの少年は、間違いなく友達と言っていいだろう。少なくとも自分は、それくらいにはこの少年のことは気に入っている。
なら、オフの日にばったりこうして街中で出くわしたら、挨拶くらいはした方がいいよね。
うん、違いない。間違いない。QED、証明完了。
フレンダはそんな自分の中の結論にうんうんと納得し――――素早く腰を落として、クラウチングスタートを決行した。
「かぁぁぁぁぁああああのぉぉぉぉぉおおおおおおちゃぁぁぁあああああああん!!!!!!!」
「きゃぁーっ!?」
大好きな友達に思わず全力疾走して飛び掛かって抱き締めたら、あろうことか悲鳴を上げられてしまった。
なんてことだ。怖がらせないように、もっと積極的に愛を伝えねば。
「加納ちゃぁん! 会いたかったよ! 超会いたくて堪らなかったって訳よ! だからもっと触らせてもっと抱き付かせていっそ舐めさせてぇぇええ!!」
「きゃーっ! ぎゃーっ! ぎゃーっ!」
なぜか少年の悲鳴が止まらない。加納はよく見たらなんだか瞳が潤んで震えていた。
やべ、なんか興奮してきた。フレンダの中の何かのスイッチが入った。
フレンダの手が涙目の少年の身体を淫靡に撫で回す。学園都市最強のオシャレスポットのオシャレストリートというバリバリのオシャレ屋外で。少年は頬を赤く染めて羞恥をじっと耐えた。
「ふっふっふっ。結局、加納ちゃんも男の子って訳よ。さぁ、お姉ちゃんと一緒にちょっとそこのダイヤノイドのマンションエリアまで行こうか。ぐへへ」
「ぎゃああああああああああああああっ!?」
その後、その地区の優秀な
だが、そんなオフの日まで逃亡劇を繰り広げるフレンダは、とても楽しそうだった。
その日、フレンダは加納神華を十五学区内の色々な店に引っ張り回し、時々スイッチが入りかけてその度にその地区の
結局、フレンダの足が、その日ダイヤノイドに向かうことはなかった。
こんな騒がしくも馬鹿馬鹿しい―――まるで青春を楽しんでいるかのような日常を、フレンダはその日、友達と過ごしたのだった。
まだだ……まだ(エピローグは)終わらんよ……
エピローグとはなんぞや。