上条当麻が風紀委員でヒーローな青春物語   作:副会長

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 妹達編、クライマックス。
 vs一方通行、決着。


ヒーロー〈孤独な怪物を抱擁する友達〉

 

 上条当麻が一方通行(アクセラレータ)の『黒い翼』と相対するのは、これが初めてではない。

 

“前”の世界――“元”の世界で上条当麻は、第三次世界大戦時のロシアの雪原で、『一方通行(アクセラレータ)』が激情のままに振るう黒い翼と戦い、そして勝利している。

 

 あの時の『一方通行(アクセラレータ)』はすでに黒い翼を使うことが初めてというわけではなく、激情に駆られていたものの、きちんと自分の意思をもって、その黒い翼を武器として使っていた。

 

 そういう意味でいえば、黒い翼に呑み込まれかけ、その力を制御できずに、その力に使われている目の前の一方通行(アクセラレータ)は、かつてのそれよりも大きな脅威ではないのだろう。

 

 

 だが、今はそれ以上に、上条当麻の状態が悪かった。

 

 

 縦横無尽に暴れる黒い翼。そんな中、上条はその右手で、その黒翼を払い、祓い、吹き散らす。

 

 先程までと同じように、無数の土石流と戦った時のように、とにかく前へ進む。

 

 黒い翼が作り出す闇の中を、右手で掻き分けながら、少しずつ、少しずつ前へ。

 

 

“前”の戦いの時、上条は打ち消しきれない量の圧倒的な破壊力を持つ黒い翼を、掴み、ひねり、安全地帯を作り出すことで打倒した。

 

 そのことは上条が意図して行ったことではなく、前兆の予知も合わさった本能の行動の結果だったが、それ故に上条は、この極限状態でも無意識に同様の行動を選択することが出来た。

 

 

 今の一方通行(アクセラレータ)は黒い翼の力に目覚めたばかりなので、その翼の数は巨大な一対――二翼のみ。分裂させるなどの細工は出来ない。

 

 ならば、一本を掴み、もう一本にぶつける。そうすれば、あとは一気に近づき、再びこの右拳を以て一方通行(アクセラレータ)を叩き起こすことで、全てが終わる。

 

 

 そして、今度こそ言葉を届けるのだ。一方通行(アクセラレータ)に届くような言葉を。己の中の確固たる想いを。

 

 

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 上条当麻目がけて、横薙ぎに振るわれる左の黒翼。

 

 

 そして、少しの時間差を置いて、袈裟斬りのように斜めに振り下ろされる右の黒翼。

 

 

 上条は迷わなかった。本能で選択した。

 

 

 左の黒翼を、掬い上げるようにして掴み、もう一方の翼に叩きつけようとする。

 

 

 

「――ッ!!!」

 

 

 

――が、その時、上条の膝の力がガクンと抜けた。

 

 

 

 それは、必然だった。

 

 

 上条当麻は認めたのだ。ここは、紛れもなく“現実”の世界だと。

 

 夢でも、幻でも、ましてや異世界でもない。

 

 魔神オティヌスが作り上げたものか否かは未だ判別がつかないが、それでも、ここは懸命に生きる人間達が、その温かい命を以て、しあわせになる為に戦っている、正真正銘の現実世界だ。

 

 

 ならば、当然そこでは、当たり前のことが、当たり前のように起こる。

 

 

 例え、上条当麻がヒーローであろうと、彼を主人公にした物語が紡がれていようと。

 

 

 彼を中心に、世界が回っているわけではない。

 

 

 幾つもの奇跡が起ころうと、それと同等以上の悲劇も生まれていて、それは平等に振り撒かれる。

 

 

 不幸を呼び寄せる右手を持つ少年にも、奇跡のような幸運が訪れることもあるだろう。

 

 

 それでも、例え物語のクライマックスでも、最終決戦でも、白雪が舞う聖なる夜だろうと、迷いを断ち切って覚醒しようと。

 

 

 

 限界は、ある。

 

 

 

 膝の力が抜け、バランスを――支えを失った体は、当然のように黒い翼の軌道をずらすことなど出来なかった。

 

 

 

 黒い翼の闇が、上条の右手首の下――――幻想を打ち消せない、何の変哲もないただの人間の身体へと侵食する。

 

 

 

 なんてことはない。ただの必然だったのだ。

 

 

 

 今日という日。十二月二十四日の聖夜。きよしこの夜。

 

 

 上条当麻は、数々の強敵と激闘を繰り広げた。

 

 

 

 絹旗最愛。

 

 フレンダ=セイヴェルン。

 

 

 そして、二人の超能力者(レベル5)

 

 

 第四位――麦野沈利。

 

 

 第一位――一方通行(アクセラレータ)

 

 

 

 その戦闘のダメージは、確実に上条の身体に蓄積していて、そして、当然のように限界がきた。むしろ、ここまでもったことが、一つの奇跡だったのだ。

 

 

 

 そのツケが、当たり前の限界が。

 

 

 たまたま訪れたのが、この、絶対に負けられない、クライマックスだったという、ただそれだけの話。

 

 

 ただ、それだけの悲劇。

 

 

 いつも通りの、不幸だった。

 

 

 

 ずばばっ!! と、切断音が響いた。

 

 

 

 否、それはむしろ潰す、呑み込む(・・・・)といった方が近いかもしれない。

 

 あまりのも鋭く呑み込まれたことで、そのような音が聞こえたのかは分からないが、とにかく――

 

 

 

――上条当麻の右手が、右腕が消えた。

 

 

 

 破壊され、千切れ、潰された。

 

 

 これまで、数々の幻想をぶち殺してきた、上条当麻の唯一無二の能力(ちから)であり、武器であり、相棒であり、文字通りの右腕だった、上条の右手が――

 

 

 

――幻想殺し(イマジンブレイカー)が、敗北した。

 

 

 

 それを、上条は蓄積したダメージに加え、その右手を失った激痛から薄れゆく意識の中で、漫然と理解した。

 

 

 

 ヒーローが、負ける。

 

 

 

 それは、物語の中ではあってはならないことで、それが起こり得るということが、上条のいる今ここが、まぎれもない現実であることを示していた。

 

 

 

 けど

 

 

 でも。

 

 

 それでも。

 

 

 

 

『それで?/escape 君は諦めるの?/escape』

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 上条当麻は、すでにその時、意識を失いかけていた。

 

 

 だから、自信がない。

 

 その言葉を、そんな言葉を聞いたかどうか、この戦いが終わった後、この物語が終わった後に思い返しても、いまいち自信が持てなかった。

 

 

 それでも、例えこれが幻聴だろうと、夢であろうと、妄想だろうと、それでもいいと思った。

 

 

 

 なぜなら、『彼女』とのその『会話』は、一言一句、自分の返答も含めて――――“心”に刻み込んでいるんだから。

 

 

 

『ようやく“出てこれた”と思ったらずいぶんとまぁ情けないことになってたり/backspase、ちょっとはマシになったと思ったらいきなり死にかけるし/return。まぁ、上条ちゃんらしいといえば上条ちゃんらしいのかもしれないけどさ/return』

 

 

 

 よく喋る『声』だった。その声は上条の後ろから聞こえてきたが、当然ながらこの時の上条に背後を振り向く余裕などあるはずもなく、ただその『声』に耳を傾けた。

 

 

 

『それで、上条ちゃん/escape? どうするの/escape? このままカッコ悪く死んじゃうの/escape? それともカッコ良く逆転劇を見せてくれるの/escape?』

 

 

 

――決まってるさ。

 

 

 

 上条はその時、背後の『声』に向かってこう返した。

 

 

 

――諦めない。諦めてたまるか。例え、右手が潰されようと、俺は絶対に一方通行(アクセラレータ)を助ける! 妹達(シスターズ)も一人残らず、絶対に救い出す!!!

 

 

 

 その上条の返答に、背後の『声』の主は、嬉しそうに口角を吊り上げる。

 

 

 

『もしここで死んだら/backspace、オティヌスとかいうヤツにもう一度会えるかもしれないよ/escape? あの『しあわせな世界』に――――もしかしたら、“元の”世界にだって、帰れるかもしれないんだよ/escape?』

 

 

 

 その『声』の問いに、上条は少しの間を空けて、こう返した。

 

 

 

――それでもだ。俺は助ける。……正直言って、俺はまだ、“あの世界”を求めている。当たり前だ。自分が死んでも守りたかった景色なんだ。そう簡単に忘れられるはずがない。

 

 

『…………』

 

 

――でもさ、今ここで、俺だけ退場してその世界に逃げるのは、違うと思うんだ。この世界だって、みんな一生懸命に生きて、悩んで、苦しんで、それでもしあわせを求めて戦ってる、本物の世界なんだよ。だったら俺は、この世界にしがみつくさ。俺にどこまで出来るか分からない。オティヌスみたいに、全員残らず漏れなく最高の形には出来ないかもしれない。でも、少しでも、あの世界に近づけたい!! あの世界を目指したいんだ!! それを途中で放り出したままじゃ、俺は帰れないよ。

 

 

『……それは、誰のため/escape?』

 

 

 上条は、ふと笑いながら答えた。

 

 

 00001号に対して言ったのと、まったく同じ言葉を。

 

 

 まったく違う心境で。

 

 

 

――自分のためだ。

 

 

 

 上条は言った。堂々と、言ってのけた。

 

 

 その答えが、歪で、狂っていて、気持ち悪いものだと分かった上で、認めた上で、それでも言った。

 

 

 自己満足の綺麗ごとを、それでも貫くと。

 

 

 

――この先、この世界が俺の歩んできた“未来”へとつながっているのなら、これからたくさんの悲劇が起きる。……俺がいなくちゃダメだ、なんて思い上がるつもりはないけど、それでも、悲劇を知っている人間がいれば、少なくても回避できる悲劇はあるはずなんだ。なら、俺はそれをしたい。悲劇が起こらない未来を、俺は見たい。俺が見たい。

 

 

 

 上条は語る。新たなる、己の幻想(ゆめ)を。

 

 

 

――俺がいなくても大丈夫な世界を、俺が作りたい。……そうすれば、その時初めて、俺は胸を張って、この世界からいなくなれるような気がするんだ。その時初めて、俺は元の世界に帰ることを、自分で許すことが出来るような気がするんだ。

 

 

 

 それは、ある意味で究極の自己否定。

 

 

 

 上条当麻という存在の、全面否定。

 

 

 

 己がいなくても成り立つ、上条当麻が存在しない世界の創造。

 

 

 

 上条が、いまだにあの『しあわせな世界』に憑りつかれていることを、如実に現している幻想(ゆめ)だった。

 

 

 

『……そ、っか/return』

 

 

 

『声』の主も、それを感じ取ったのだろう。

 

 だが、その声には落胆よりも、懺悔の思いが込められているように感じた。

 

 

 今の上条には、何を言っても届かないだろう。

 

 

『しあわせな世界』を、失う覚悟もなく、むしろ究極に肯定した上で、予期せず失ったことで、上条はあの世界を、さらに己の中で美化し、神聖化している。

 

 

 あの世界を作り出すことが、究極の幸福だと信じている。

 

 

 だからこそ、この上条当麻は揺るがない。

 

 壊れた状態で、定まってしまった。固まってしまった。

 

 

 それも、全ては、あの時、自分が間に合わなかった(・・・・・・・・・・・)から。

 

 

 だからこそ、『声』の主は、こう返した。

 

 

 傷つき壊れた少年の幻想(ゆめ)に、歪であろうとも前を向こうとしている少年の、無垢であるが故に悲しい幻想(ゆめ)に。

 

 

 

 

『それじゃあ、いつか『元の世界』でまた会おう、上条ちゃん/return』

 

 

 

 

 その『声』に、上条はただ一言、こう答えた。

 

 

 

――ああ!

 

 

 

 そして、一瞬にも満たない、一刹那の会話は終わり。

 

 

 上条は、ぎりっと歯を食いしばって、その黒い翼を睨み付ける。

 

 

 

 

 

 そして、上条の右腕から――巨大な竜が飛び出した。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 それをはっきりと目撃したのは、その戦いを見守り続けていた少女――食蜂操祈。

 

 縦ロールとカイツを、研究所の倒壊に巻き込まれた他の研究者達の救助に行かせ、自分は残る四人の妹達(シスターズ)の護衛も兼ねて、上条当麻と一方通行(アクセラレータ)の戦いを見守り続けていた。

 

 

 上条があの黒い翼に突っ込んでいった際に、急に四人の妹達(シスターズ)が意識を失って倒れこみ、慌てていたところに――――その竜は姿を現したのだ。

 

 

 天を貫く黒い翼に引けを取らない巨大さのドラゴンは、まさしく上条の右腕から飛び出していた。

 

 

 そのドラゴンは、一方通行(アクセラレータ)の黒い翼を、文字通り食らい尽くす。

 

 

 死肉を貪るように、生々しく、豪快に、食らっていく。

 

 

 その様を、食蜂操祈は、茫然と眺めていた。

 

 

(……あれは、何? あれは、上条さんの能力(ちから)なのぉ?)

 

 

 目の前の光景が、とても現実とは思えない。

 

 

 闇の中、白い悪魔の黒い翼を、巨大なドラゴンが食らっているその光景は、例えこの街が学園都市だとしても、現実感に欠ける光景だった。

 

 

 だが、揺るがないのはこれは間違いなく現実で、そのドラゴンを繰り出したのは、自分の想い人であるということだ。

 

 

「………………ッ」

 

 

 食蜂は、上条に目を向けて、何かを堪えるようにギュッと胸を押さえる。

 

 

 だが、決して目を逸らさなかった。

 

 

 一瞬でも目を逸らしたら、二度と上条と近づけないような、そんな気がしたから。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 そして、その光景を眺めていたのが、もう一人。

 

 

 00001号の身体を借り受けた、ミサカネットワークの『大きな意識』――通称『総体』。

 

 

 彼女は、上条が身投げしたあの『しあわせな世界』において、管理者オティヌスの支配外にいた、上条当麻以外の数少ない存在の一人だった。

 

 

 だが、彼女はその世界で大きな失敗をした。

 

 上条が高層ビルから身を投げる時、彼を助けようと伸ばしたその手が――――届かなかったのだ。

 

 

 そのままビルの下を覗くと――――すでに上条の姿はそこにはなかった。

 

 念のためにビルを降りて、その落下地点を探しては見たけれど、上条当麻の死体はなかった。

 

 あの悲劇のない世界においては、死体はすぐさま消失するシステムなのかとも思ったが、オティヌスと直接的な関わりがない『総体』には確認しようがない。

 

 

 そして、この『総体』には、上条当麻を探す時間はなかった。

 

 

 この『総体』は、先程上条に言った言葉の通り、『元』の世界の『総体』だ。一万人以上の妹達(シスターズ)が殺された上で、その殺害の結果も“学習”した上で構成されている“大きな意識”。

 

 ゆえに、二万体全てが生き残っているあの『しあわせな世界』では、今いる『総体』の形を保てなくなり、別の何かに書き換わってしまうのだ。

 

 

 それは、今のこの世界にも同様のことが言える。

 

 

 全ての妹達(シスターズ)を、一人残らず助けようとしている上条当麻。

 

 その思いが遂げられたら、きっと、この『総体』はこの世界で二度と発現することはないだろう。

 

 

 今ここで、こうして発現できていることが、何かによって引き起こされた大きな奇跡だ。

 

 

(……もしかしたら、この00001号(からだのこ)の願いのおかげかも/return)

 

 

 そんなロマンチック(ごつごうしゅぎ)なことを思ってしまうくらい、有り得ない出来事なのだ。

 

 

 だからこそ、再び会うのであれば『元』の世界だと、そう『総体』は言った。

 

 

 そんな『総体』は、右手にドラゴンを携えて、今まさに漆黒の翼の闇から白い少年を助け出す上条の背中を見て、悲痛に表情を歪める。

 

 

 上条は今回の物語で、この世界のかけがえのなさを認めた。

 

 

 それは確かに上条に再びヒーローとして立ち上がる力を与えたが、それは同時に、この世界に上条当麻というヒーローを生み出したことと同義だ。

 

 

 皮肉にも、上条の思いとは裏腹に、これからたくさんの人間が、上条当麻というヒーローに救われていくのだろう。

 

 

 そして、たくさんの人間達にとって、上条当麻はかえがえのない存在になっていく。

 

 

『元の世界』の、彼ら彼女らのように。

 

 

 上条当麻は気づいているのだろうか。

 

 

 自分が、『元の世界」で、どれほどの人達に慕われ、想われているのか。

 

 

 上条当麻という人間を失うことで、いったいどれほど嘆き悲しむことになるのか。

 

 

 そして、上条はこの先、この世界でも同様の存在になっていくのだろう。

 

 

 だが、それでも、自分という『総体(そんざい)』が『元の世界』にしか存在できないように、いつか、上条は決断しなくてはならない。

 

 

 

『元の世界』に戻るのか、それとも、この世界に留まるのか。

 

 

 

 上条は、この世界を自分が必要ない世界にして、『元の世界』に帰るという答えを出したが、はたしてそんな結末(エンディング)は訪れるのだろうか。

 

 

 上条当麻というヒーローは、そんなことが可能な存在なのだろうか。

 

 

 

「……それでも私は、あなたに『元の世界(わたし)』を選んでほしいな/return」

 

 

 

 間に合わなかった自分には、そんなことを言う資格はないのかもしれないけれど。

 

 

 

 そして、上条の右手のドラゴンが、完全に黒い翼を食い尽くした時、『総体』は目を瞑った。

 

 

 00001号(この子)は、上条当麻(かれ)を救ってみせた。なら、安心して、彼のことを任せられる。

 

 

 

 そして、次に目を開けた時、00001号と共に、他の四人の妹達(シスターズ)もその意識を覚醒させた。

 

 

 

 その時には、全てが終わっていた。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 上条当麻の右手から現れたドラゴンが、黒い翼を喰らい尽くしていく。

 

 

 その咢が黒を喰らうごとに、一方通行(アクセラレータ)は、自分が何かから解放されていくかのように感じていた。

 

 

 己を戒めていた闇が、より強大な何かに蹂躙され、呑み込まれていく。

 

 

 そして、完全に黒い翼が消滅すると、暴れ狂っていた悪魔のような怪物は、白い少年へと戻っていた。

 

 

 先程まで叫び散らしていたのが嘘のように、穏やかな顔でゆっくりと倒れ込む。

 

 

 上条は、それを右腕で受け止めた。

 

 

 黒い翼に呑み込まれたはずのその腕は、その部分の制服はなくなっていても、人間の腕として元通りとなっていた。

 

 

一方通行(アクセラレータ)

 

 

 上条は、怪物だった少年に言った。

 

 

 

 

「俺と友達になってくれ」

 

 

 

 

 白い少年は、上条のその右腕に己を委ねた。

 

 

 もう立っていることも出来ないということもあるが、それでも、委ねようと思った。

 

 

 傷つけるのが嫌だった。失うのが怖かった。それでも――――やっぱり、求めていた。

 

 

 一人で立っていられないのならば、誰かを頼ってもいいのかもしれない。

 

 

 許されるのならば、委ねたい。

 

 

 こんな自分でも、こんな化け物でも、こんな、怪物でも。

 

 

 弾いても、拒絶しても、何度その手を振り払っても。

 

 

 

 こうして自分を助けてくれる――――友達と言ってくれる、この存在(ヒーロー)にならば。

 

 

 

 

「――ありがとう」

 

 

 

 

 白雪が舞う聖夜。きよしこの夜。 

 

 

 白い悪魔は、真っ白な怪物は、この日――――生まれて初めて、本当の友達を得た。

 




 次回から、妹達編のエピローグ。

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