御坂美琴がコンビニからの帰り道に目撃したのは、また新たな女性とフラグ構築中のツンツン頭の
「それで、目印とかは覚えてないんすか?」
「……近くに横断歩道があった気がするんだが」
「学園都市に無数にありますね、それ。……あんまり目印としては期待できないなぁ……」
「アンタ!!」
御坂が大声で呼びかけると、上条は片手を挙げて応える。
「おう、ビリビリ。今日は良く会うな」
「ビリビリじゃない! 御坂美琴!! アンタ、ここにいるってことは用事は終わったんでしょ。なら勝負しなさい! 今日こそ決着つけてやるんだから!」
「悪いな、仕事中なんだ。それじゃあな」
「即答!? いや、ちょっと」
「それじゃあ、歩いて探しましょうか。大まかな場所とか覚えてないですか」
「あの、ちょっ」
「ああ。確かあちらの方だったと思うんだが」
「ねぇ、聞いて」
「分かりました。一緒に行きましょう」
「無視するなぁーーー!!!!!!」
×××
その後、足を使って色々探し回ったものの――御坂もぶつぶつ文句を言いながらも一緒に探した――なかなか見つからず、自販機でジュースを買ってベンチで休憩することとなった。
「へぇ~。木山先生って研究者さんなんですか」
「ああ。大脳生理学を専攻していて、主にAIM拡散力場の研究をしている」
「AIM拡散力場ってあれでしょ。能力者が無自覚に周囲に漏らしている、人間の五感では感じ取れなくて機械を使わなければ計測できない微弱な電波。アンタ、分かるのぉ?」
「失敬な! 上条さんもそれぐらい知ってますのことよ! なんていったって、うちの担任がそういうことに詳しいからな」
知らないはずがない。忘れるはずもない。
なんといったって、上条はAIM拡散力場の結晶ともいうべき少女と出会っている。出会っていた。
あの悲しい運命を背負っている、救うべき少女。
この右手が今もAIM拡散力場を破壊し続けて、彼女に危機意識をもたらしている限り――彼女は、この学園都市に存在する。
いまだ、この世界で会えたことはないけれど。
また会えたら、必ず救ってみせる。
そして、彼女と友達だったあの少女とも、まだ再会していない。
彼女はもうすぐ、この
――『インデックスは、とうまのことが大好きだったんだよ?』
あの泣き出しそうな、それでも必死に希望に縋るように告げられた、“前”の上条への告白。 “今”の上条の、始まりの言葉。
今度は絶対に、あんな顔はさせない。今度は絶対――。
「――っと、ちょっと!」
「っ!」
上条が我に返ると、御坂が上条に怪訝な顔をしていた。
「アンタ、何怖い顔してぼぉとしてるのよ」
「いやいや、ごめん疲れてて。それで、何の話だっけ?」
上条は落ち着こうと、先程自販機で購入したヤシの実サイダーを口に含む。
「だから、木山先生に“どんな能力も効かない能力”って本当にあるのかって――」
「ぶぅふぉっっ!!!」
一秒で噴き出した。
「ちょっ、あんた何してんの!?」
「ゴ、ごホッ、ごほっ、ぐほっ……はぁ、はぁ……何でそんなこと聞いてんだ? さっき、オカルトだって馬鹿にしてたじゃないか……ごほっ……」
上条が涙目で咽ながら、御坂に問う。
「何よ、いいじゃない。こうして専門家の人に聞ける機会なんてめったにないんだから。それで、木山先生。そんな能力者なんて本当にいるんですかね?」
「ふむ……面白い発想だな。それは、例えばどんな能力が効かないんだね?」
「
「ほお。それは例えば避雷針のようなものかね? 何らかの方法で電気を地面に逃がしているとか?」
「そういうのではなくて……そう、まるで打ち消しているかのような」
どんどん理詰めで、
この間、上条は澄ました顔で聞いたふりをしていたが、目は二人に合わせられず虚空を見ていて、冷や汗もガンガンにかいている。ちょっと顔色も悪い。
元来、嘘を吐くのが苦手な男なのだ。よくこんな調子で前の世界で記憶喪失だとばれなかったものだ。
「――先程から、やけに具体的だが、知り合いにそういう能力の人がいるのかね?」
「っ! ……それは――」
御坂が恐る恐る上条の方を見ようとすると――。
「そういえば、俺も木山先生に聞きたいことがあったんです!」
上条がひきつった笑みを浮かべながら割り込んだ。
「ちょっと、まだ私が――」
「“AIM拡散力場”の専門家からの見解で――」
御坂と上条が木山への質問権をかけて争いつつ、木山の方へ目を向けると――
――木山は白衣とシャツを脱いで、ブラジャーのみになっていた。
「あ……あ……」
「な……な……」
「いやぁ、今日は暑いな。そうか、もう七月だしな。ん? そういえば、話の途中だったな。質問とは何かね? 私に答えられる範囲であれば答えよう」
「あ、あのですね、あのう……」
「その前に服を着ろお! お前も見るなー!!!」
「ぐはぁ!」
テンパって顔を真っ赤にしたまま質問を続行しようとする上条に、御坂の見事なハイキックが後頭部に決まった。
そして、その際――。
「「あ」」
御坂の缶ジュースが、木山のスカートにかかってしまった。また脱ごうとしたが、上条と御坂が全力で止めた。
×××
結局、近くのファミレスでトイレを借り、そこのジェットタオルで御坂がスカートを乾かすことになった。
その間、木山は個室でおとなしくし、上条は一人で木山に車のナンバーと特徴を教えてもらい――駐車場の場所は忘れたのに、ナンバーは覚えていた――単独で探すことになった。
「あいつはもうっ! いっつも女にへらへらして!」
御坂は木山のスカートを乾かしながら、上条への文句をぶつぶつと呟いていた。
「すまないね。こんなことまでさせて」
「いえ。ジュースを零したのは私ですし、悪いのはアイツですから」
ジュースを零したのは自分と認めながらも、あくまで悪いのは上条だと言い切る御坂。
いっそ清々しいまである。
「だいたいアイツはいつもああなんですよ。会う度に女の子といるし、そこら中でフラグ建てまくるし! こないだも佐天さんにフラグ建てて、湾内さんと泡浮さんも怪しいし! そ・れ・に! アイツいっっつも食蜂の奴と一緒にいるし!! なんでよりにもよって食蜂なのよ! 胸か!? そんなに巨乳が好きなのか!? あんなのただの脂肪じゃないっ!」
始めはブツブツ文句だったのに、最後の方が完全に私怨が表に出ていた。
途中、巨乳の下りのあたりでトイレに入ろうとした胸部が豊満なだけで何の罪もない女学生が「ひっ、ごめんなさい!」といって逃げ出してしまった。この店の評判に傷がつかないのを祈るばかりだ。
しかし、そんな御坂のヒステリックも、木山ぐらいの大人になると微笑ましく聞こえるらしい。
「ずいぶん楽しそうだな。好きなのか? 彼の事が」
真っ直ぐにからかってみせた。
その表情は、いつも顔色が悪く不健康そうな木山にしては珍しい、慈愛を感じさせる微笑み。
しかし、御坂には個室の中の木山の表情は見えない。
「な……な……な……」
というより完全にテンパっている。こういう話に御坂はとことん免疫がない。
「君のような子のことをなんというのだったかな、最近の若い子は? たしか……つ、つんだら? ああ、ツンデ――」
「あ――」
その時、御坂の前髪がバチッと鳴いた。
「ありえねぇから!!」
ビリビリッ! と紫電が瞬き、ジリリリリリッと甲高い音が鳴り響く。
御坂の足元から流れ出した電流により、照明がショートし、警報が作動したようだ。
今頃、この喫茶店の店主はこう叫んでいるだろう。
「不幸だーー!!!!」
×××
「………何してんだ、お前?」
その後、何とかやり過ごし店を脱出した、御坂と木山。
タイミングよく店の前に戻ってきた、見ず知らずの店員に自身の十八番のセリフを使われたことを露も知らない上条と合流したが、上条はなぜか息が上がっている御坂に怪訝な表情を向ける。
「はぁ!? 何でもないわよ!! それより、アンタこそここに戻ってきたってことは車は見つかったんでしょうね!」
「何キレてんだ、お前?……まぁ、いいや。ちょっと先の駐車場でそれっぽい車を見つけたよ。それより、店の中がずいぶん騒がしいな。どうしたんだ?」
「え、え~と、それはねぇ……」
「何でも、警報が誤作動したらしい」
「そうなんですか? 一応、見てきた方がいいかな?」
「いや、大丈夫だろう。どうやら、
「……そうですか。そうですね。木山先生が先客です。こっちは警備員に任せましょう。じゃあ、案内しますね。こちらです」
そういって、上条を先頭に歩きはじめる。
御坂が木山の方を見ると、木山は軽く片目をウインクをした。どうやら庇ってくれたらしい。御坂は声を出さず、口の動きだけでありがとうございますと告げる。
見た目と脱衣癖で、この人も頭のいい人にありがちな変人なのかと思っていたが、どうやら面倒見のいい一面も持っているらしい。
「今日は色々ありがとう。おかげで助かったよ」
「いえ、これも風紀委員の仕事ですから」
ここは、喫茶店から歩いて五分程度の場所のコインパーキング。
上条が見つけた車は木山の愛車と判明し、上条の仕事は無事終了した。
「もう駐車場の場所忘れたりしないでくださいね」
御坂の言葉に、木山は苦笑する。
「本当に二人とも世話になった。後日また会う機会があったら、その時は本格的にお礼させてくれ」
「そんなに畏まらなくていいですよ」
「そうです。車を一緒に探しただけなんですから。それに、おバカな上条さんには研究者の方にお会いする機会などないでしょうし」
そんな二人の言葉に、木山はボソッと呟いた。
「いやいや。案外、君達とは近い内にすぐ再会することになるかもしれないよ」
「「え?」」
「……ふふ。なんでもない。今日は本当にありがとう。それでは、これで失礼させてもらうよ」
そういって木山は車を発進させ、去っていった。
「……最後、木山先生なんて言ったんだ?」
「……さあ?」
上条と御坂は木山の最後の言葉が気になっていたが、やがて上条が「まぁ、いいか」と歩き出す。
「それじゃあな、ビリビリ。俺は一応、喫茶店の騒ぎが深刻じゃないかどうか覗いてから帰るわ」
「っ! ちょ、ちょっと待ちなさい!」
上条が来た道を引き返そうとするのを、慌てて引き留める。
今、上条をその喫茶店へ戻すわけにはいかない。今頃は、警報は電気ショックによるものだと調べがついているだろう。
すると、こいつは間違いなく自分が原因だと断定する。主に日頃の行いが原因で。
そうなると待っているのは、177支部での上条&白井&固法によるお説教タイムだ。それは嫌だ。
それに――。
「なんだよ?」
「き、決まってるでしょ! 勝負よ! 勝負しなさい!!」
こいつとは、決着をつけなくちゃいけない。
バシッと宣戦布告すると、上条は深いため息をつく。
「またそれか……」
「何よ! いいじゃない! 仕事手伝ってあげたでしょ!」
「……お前がやったことは上条さんの後頭部にハイキックを喰らわせたことと、木山先生のスカートをびしょびしょにしたことだけだろうが」
「う……と、とにかく勝負よ! このまま引き下がれるものですか!」
聞く耳を持たない御坂。
上条は、今日も家に帰るのは遅くなりそうだ。と、すでに夕暮れを過ぎ暗くなり始めている天を仰ぎながら本家本物の「不幸だ……」を呟いた。
×××
こうして、上条は御坂と決闘すべく、夜の河原へ赴いていた。
「はぁ……河原で決闘とか、これ何ていう青春ドラマですか?」
「うるさいわね! さっさと準備しなさいよ!」
とはいっても、この二人の戦闘準備に特別な装備など必要ない。
片方はそのポケットに忍ばせたコインを手触りで確認し。
片方はその右拳を握りしめるだけで事足りる。
「いつでもいいぜ。かかってきな」
「言われなくても。こっちはこの時をずっと――」
それは、ただし、御坂美琴が。
「――待っていたんだから!!」
その学園都市第三位の能力を発動する前の話。
バチィッッ!!!と、御坂の放った電撃は、砂塵を巻き起こしながら上条へと襲いかかる。が――。
キュイーン!!!と、上条は瞬き一つせず、難なくその右手でそれを打ち消す。
「どうした? ただの電撃じゃあ、俺に何のダメージも与えられないぜ」
「分かってるわよ! 効かないんでしょ! ――
ゾクッと、上条の磨き抜かれた危機感知能力――第六感が警報を鳴らす。
上条がとっさに仰け反ると――。
――御坂の砂鉄の剣の一閃が通過した。
煙で身を隠しながらの一撃。
自信をもって放った攻撃なだけに、御坂は一瞬フリーズするが、すぐに切り換え攻撃方法を変更する。
「それなら……これならどうよ!」
砂鉄剣は己が身をしならせながらその刀身を伸ばす。
螺旋を描きながら変幻自在に上条を襲うその姿は、まさしく鞭。
上条当麻が御坂美琴の能力で最も恐ろしいと考えている形態を、御坂美琴は咄嗟に編み出した。
回避を続けていた上条だったが、やがてその懐に鞭が入る。
(やったか!?)
御坂が勝利を予感した。だが――。
キュイーン!! 鞭がその右手に触れた途端、強制的に砂鉄に戻される。
「いいアイデアだったが……これで、おしまいか?」
上条は不敵に笑う。その姿から、余裕は微塵も薄れていない。
しかし、その姿を見ても御坂は笑みを崩さない。
「……ここまでは予想通りよ」
上条は御坂の姿を見て、まだ終わっていないと戦闘態勢を続行する。
「アンタはどうやってるのかは知らないけど、能力を打ち消す。だけど、砂鉄は空中を漂ったまま、消されてない。なんでも打ち消すわけじゃない。だったら、まだ、方法はある!」
御坂の周囲の砂鉄が渦を巻く。そのまま勢いを増し、砂鉄の嵐を形成する。
「風に乗った砂鉄も操るのか……さすが
上条が砂鉄の嵐に右拳をぶつける。
あれほど荒れ狂っていた渦が問答無用で沈められる。
その時、御坂が砂鉄のカーテンを突っ切り上条に突っ込んできた。
「な!?」
さすがに不意を突かれた上条。力いっぱい右拳を振りぬいたので、体勢をすぐに変えることができない。
御坂は上条の右手を掴んだ。
(勝った! さすがのアンタも、飛んでくる電撃を打ち消せてたって――直接流せば、その能力も使えないでしょ!!)
御坂は電流をその手を介して上条に流す――が、1秒、5秒、10秒が経っても、何の変化も起きない。
「……え? そんな――」
(電流が……流れていかない!? 確かに演算はしてるのに! どうなってんのよ、コイツ――)
御坂が現実を受け止められずにいると――。
「おい」
上条の鋭い声が届いた。御坂はびくっと体を震わせる。
「終わったか?」
目を見れない。御坂は能力を使えない。すると、後に残るのは、女子中学生と男子高校生のどうしようもない体格差だけ。
「なら、こっちから行くぞ」
上条が左拳を振り上げる。
御坂は必死で目を瞑り、ビクビクと怯えている。
上条は、そんな御坂に――。
「いたっ!」
御坂の額にデコピンをした。
「はは。何、ビビってんだよ」
「は、はぁ!? ビビってないし!!」
「嘘つけ。涙目で可愛くビクビクしてたじゃん」
「か、かわっ……と、とにかく! ビビッてなんかない!!」
御坂が四方八方に電撃を振りまく。
上条はニヤニヤ笑いながら、それを打ち消す。
「とにかく、今日の勝負は俺の勝ちだな」
「はぁ!? なんでよ! 私、負けてないわよ! 一発も攻撃もらってないんだから!」
「喰らったじゃねぇか。最後のデコピン。あれだって立派な“一撃”だよ」
「な……認めないわよ! 無効よ、そんなの!」
「往生際が悪いぞ、御坂」
顔を真っ赤にして捲し立てる御坂に、上条はポンと頭を撫でる。
「今日はもう遅いからここまでにしとけって。また暇な時、付き合ってやるから。あんま遅いと白井に余計な心配かけるぞ」
「こ……こ……子供扱いするなぁ!!」
御坂は上条の手を払いのけると、上条に背を向け走り出す。
「きょ、今日はこれぐらいで勘弁してあげるわ! 次は絶対、私が勝つんだからね!!」
そうして走り去っていく御坂を、上条は優しく苦笑しながら見送った。
×××
とある鉄橋の上。ここからは先ほどの河原の決闘が特等席で見渡せた。
その場所に、一人の女性徒が佇んでいる。
「よぉ、縦ロール」
その女生徒に上条は話しかける。
縦ロールとは、上条は食蜂の次に“この”世界の付き合いは長い。
「上条様」
「どうしたんだ? こんな時間に、こんな場所で?」
「いえ、食蜂様は今夜、親船様とご夕食をお済ませになると伺ったので、お迎えの時間までこの辺りを散策していましたら、上条様と御坂さんが素晴らしい戦いをなさっているのを拝見しましたので、思わず見入ってしまいました」
「……見られてたことにとやかく言うつもりはないが。こんな時間に女の子が一人でふらつくな。……まぁ、お前がそんじょそこらのスキルアウトにどうこうされるとは思わないが」
上条は呆れたように、縦ロールに言う。
縦ロールはクスリと笑い「ご心配していただいて、ありがとうございます」と返した。
上条は苦笑いしながら肩を竦めて「相変わらず、堅苦しい奴だ」と呆れる。
これが、この二人の完成された距離感だった。
縦ロールは、ふと視線を河原に向け、そっと呟く。
「……それにしても、御坂さん、強くなられましたね」
「まぁな。だが、まだまだだ。御坂はもっと強くなる。元々、御坂の能力の強みは、その応用性の高さだ。今日の戦いみたいにアイデアが生まれれば生まれるほど、御坂はどんどん強くなる」
「ふふふ。
「まぁ、俺にとっちゃ御坂も食蜂も可愛い後輩だ。もちろん、初春も白井も佐天も。もちろん縦ロール、お前もな♪」
「……う~ん。その台詞は嬉しいような、悲しいような、ですわね」
「え? なんで? 結構、いい事言ったつもりなんだけど?」
「……上条様は本当に罪作りなお人ですわね」
こんな風にしばし雑談を交わす二人。
上条は前回、縦ロールとは親しい交流はなかった。
だからなのだろうか。楽なのだ。彼女といるのは。
ふとした時に
そして、そんな風に考えている自分に気づき、嫌気が差す。この繰り返し。
「……上条様? どうなされました? 顔色が優れないようですが?」
「ん? いや、なんでもない。それより、縦ロール。お前、食蜂から連絡が来るまで暇なんだろう? 家に来て夕飯食って行かないか? 今日は大分遅くなっちまったからアイツ機嫌が悪いと思うんだ。うまい飯作ってやりてぇから、手伝ってくれると助かる」
「ふふ。なんだかんだであの方とはうまくやれているようですわね。一時はどうなることかと思いましたが」
「なんとかな。それで、どうなんだ」
「ええ。もちろんお呼ばれいたしますわ。……ふふ。食蜂様、悔しがるでしょうね」
「何言ってんだ。食蜂は今頃、もっといい飯食ってるよ。俺の方が羨ましいくらいだ」
「…………」
噛み合っているようで噛み合っていない会話を重ねながら二人は上条家へ向かう。
後日、この話を聞いた食蜂がサプライズで上条家へ突入し、それを聞いた御坂も突入しようとするが上条家の場所を知らない為、悶々とすることになるのだが、それはまた別のお話。
「そういえば、縦ロール。お前、うまいコーヒーの淹れ方って知ってるか?」
「コーヒーですか? 食蜂様もわたくしも紅茶派なので詳しくは存じませんが……何故、また?」
「いやぁ、アイツ飯にはそんなに拘らない癖にコーヒーの味にはやたら拘るんだよ。それにつられて俺もすっかりコーヒーにハマっちまってな。支部にもコーヒーメーカーを買ったんだが、思うような味が出せなくてな。やっぱり豆なのかな?」
「ふふ。本当に仲良くなられたようで何よりです♪」
×××
深夜、どこかの研究所。
真っ暗な部屋の中で、唯一の光源となるディスプレイの怪しい光が、大きな隈を持つ不健康な顔を照らしている。
彼女――木山春生は、ディスプレイに表示される二人の人物の画像を見て呟いた。
「あれが噂の“光の世界の超能力者”……そして、“幻想殺し”か」
×××
次の日、風紀委員一名が“爆弾”による重傷を負った。
これは、それまでイタズラとされてきた謎のアルミ爆弾事件と同一犯と推定。
彼女――
こうして、
×××
「ぐはぁ!」
介旅初矢は、自分よりも体格のいい不良三人に囲まれ、なすすべもなくリンチに遭っていた。
「なんだよ、これっぽちかよ!」
不良少年の一人は仲間に殴られる介旅に目もくれず、介旅の財布を無許可で荒し持ち金を押収した。
目的を終えた彼らは倒れ込む介旅の存在など無視し、この場にいない
「
「大丈夫だろ。あいつらが来るのはいつも“事件の後”だし」
「いまだに一回も止められてねぇしな」
「「「ハッハッハッハッハ」」」
介旅は顔を俯かせ、彼らが去っていくのを見送ることすら出来なかった。
(ちくしょうっ……何をしてるんだ
ズタズタに切り裂かれる自尊心は、標的を、原因を、落ち度を、自分以外の誰かへと、別の何かへと向けなければまともな形を保てなかった。
そしてそれは、学園都市の治安維持を謳う――
(あいつらが悪いんだ…あいつらが無能だから、僕がこんな目に遭うんだっ…)
介旅は、表情を憎々しげに歪め、地面を掻き毟った。
(見てろっ!!)
一人の少年の憎悪が、種火となって大きな事件への燃え移る。