上条当麻が風紀委員でヒーローな青春物語   作:副会長

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 今回は、あの兎少年との邂逅――


兎〈アクセラレータ〉

 

 上条当麻は、逆行者だ。

 

 この世界は上条にとってはコンティニューした世界。つまり二度目の人生を歩んでいる最中だ。

 

 だが、彼には複雑な事情があり、元々のエピソード記憶のストックは高校一年生の十五歳の夏から冬までしかない。まぁ、その密度が常人の比ではないのだが。

 

 

 何が言いたいのかといえば、上条当麻が食蜂操祈と出会うのは、これが初めてではないということだ。

 

 

 すでに、何度目の出会いなのかは分からない。

 

 

 だが、これまた複雑な事情が絡まって、ある時点からのこの二人の出会いは、そのすべてが初対面となった。

 

 

 それも、一方通行の初対面。

 

 

 上条当麻は、食蜂操祈に対する記憶を、保てなくなった。

 

 

 その悲劇は、その運命は、前回の世界の最期まで覆ることはなく、ついぞ奇跡が起こることはなかったけれど。

 

 

 しかし、この世界の上条当麻には、その運命は作用しない。

 

 

 記憶――つまり心はどうあれ、体の方は完全に無傷の健康体の体が新築されたのだから。

 

 

 だから、この上条当麻は、食蜂操祈のことを忘れない。

 

 

 二人の思い出は、記憶は、この世界では正常に積み上がっていく。

 

 

 これも、ある意味、小さな奇跡と呼べることなのかもしれない。

 

 

 

 上条当麻と食蜂操祈。

 

 

 

 残酷な悲劇によって、哀しき運命によって、完全に分かたれた、二人の物語は。

 

 

 

 夢のような奇跡を持って、新しい世界で、今、再び、動き出した。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 そんな二人は、運命的な出会いを――再会を――再開を果たして、今は肩を並べて仲良くお茶している――

 

 

「………………」

「…………え~と」

 

 

――というわけではなかった。というより、上条はめちゃくちゃ警戒されていた。

 

 先程、お互い名前を名乗り合い(食蜂も逡巡の末、本名を名乗った。パッと偽名も思いつかなかったし、悪い人には思えなかったからだ。不気味な人間だとは思っているけれど。いや、気味が悪い、というのが正しいか)、とりあえず何となくベンチに並んで座っているが、先程から食蜂はじ~と上条を観察し、かといって上条が食蜂の方を向くとサッと顔を背けるといった行動を繰り返している。

 

 

 前述の通り、上条は逆行者だ。

 

 見た目は子供だが、頭脳――というより精神年齢は、数万歳。大人というか普通に老師とかになれるレベルである。本来の十才児は、年下の女の子とこんな空気になった場合、余程の兄力(あにりょく)の持ち主でなければ気まずくてダッシュで逃げてしまうかもだが、精神レベル老師がそんな思春期入りたての男子みたいな醜態を晒すわけにはいかない。なんとか話題を捻りだして場を持たせようとする。

 

「あ、え~と、食蜂? お前、何か飲むか? そこの自販機で何か買ってくるけど――」

「いいわよぉ、別に。初対面の人に奢ってもらうような義理力なんて皆無だもの」

 

 そ、そうですか……。なんて言いながら席を立ち、自販機へと向かう上条。食蜂はその後ろ姿を変わらずじぃ~と見つめながら、彼の背中に向かって恐る恐るリモコンを向け、彼が自販機でジュースを選んでいる内に、えいっと再びトライした。

 

(……ん~。こっちの世界に来てから、こんなにがっつり年下の女の子と関わるのは始めてだから、対応に困るな。……なんか知らないけど警戒されてるし。……断られたけど、やっぱりジュースでも買ってやるか)

 

 読めた。食蜂は、ほっと一安心する。

 

 どうやら自分の能力に対する特別な耐性を持つ特殊な人間というわけではないらしい。

 

 

 そこで、食蜂の胸中に、ふと先程のような荒んだ気分が再燃する。

 

 

 あれだけ人間の汚い内面を嫌悪している癖に、その内心が読めなくてはこんなに不安な気持ちになるなんて。身勝手にも程がある。

 

 

 食蜂は、力なくリモコンを上げ、能力を解除しようとするが――

 

 

(あ~。でも、あの子は一体何が好みなんだ? 振る舞いとか着てる制服からしてそれなりのお嬢様なんだろうが……。こんな怪しさ満点の試作飲料が口に合うのか?……ん~――

 

 

 ブツッ と再び、食蜂が能力を解除する前に、強制的に回線が切断された。

 

 

 再び目を見開く。腕を上げたままの姿勢で硬直する。もう訳が分からない。

 

 食蜂は、目の前の少年を完全に持て余していた。八才が言うセリフではないが、今までの人生で出会ったことのないタイプの――カテゴリの男だった。

 

 

(……こんな人、見たことないわぁ)

 

 

 当の本人は いや御坂は絶対特殊例だしなぁ。とかブツブツ言いながら、右手でツンツン頭をガシガシと掻いている。

 

 やがて、よしと気合を入れコインを投入し、飲料を二つ購入してベンチへと戻ってきた。

 

「悪いな、遅くなった。」

「い、いえ、いいのよぉ」

「?」

 

 食蜂は上条の目を見ることが出来ず(照れというより困惑で)俯いていたが、上条はそんな食蜂の態度をまだ警戒されているのだろうと解釈し、「ほれっ」と缶ジュースを一つ差し出した。

 

 食蜂は、先程心を読めた部分で上条が自分の分のジュースも買ってくれたことを知っていたので(何を買ったかまでは読めなかったが)、そのまま素直に受け取った。上条もそのことに疑問を持つことなく、彼女の隣に腰かけて、プシュッと自らの分のジュースを開けて、飲む。

 

 食蜂も若干テンパっていたのか、ジュースでも飲んで落ち着こうとプルタブを開け、グイッと中身を煽る。

 

「ブファッ!!」

 

 ……ラベルを確認せずに。

 

 ゴホッゴホッと咽る食蜂の背中をさすりながら、やっぱりかと気まずげな表情で苦笑する上条。

 

 だんだんと呼吸が落ち着いてきた食蜂は、涙目&紅潮した頬のままで上条をキッと睨みつけながら、叫ぶ。

 

「ちょ、ちょっと何よぉ、これぇ!?」

「……え~と、す、『西瓜紅茶』です。やっぱり、お嬢様は紅茶かなって?」

「え、西瓜!? レモンとかアップルとかじゃなくて西瓜!? あの野菜の仲間の!?」

「さ、さすが、お嬢様。博識でいらっしゃる」

「そんな問題力じゃないわよぉ! あなた、なんてもの飲ませるのよぉ!? 思いっきり咽ちゃったじゃない!!」

「……あ~。やっぱり、口に合わなかったか?」

「……ぐっ」

 

 上条は悲しそうに目を伏せる。

 

 そんな態度をとられると、いくら食蜂とはいえど強く出れない。これは上条の好意で奢ってもらった品なのだ。それも、自分がずっと警戒した態度を取っていた故に、いわばお近づきの品としてくれた物。

 

 それに味を良く吟味したわけではない。ファーストインパクトが強すぎて思わず吐き出してしまったが(よく考えればお嬢様として完全にアウトなリアクションだった)、別に毒というわけではないのだ。……おそらく。自販機で売っているのだから商品として認められたということだろう。別に西瓜アレルギーというわけではない。この一件でトラウマになっていなければ大丈夫だ。

 

 ならば、上条の顔を立てるという意味でもセカンドチャレンジくらいはしてもいいだろう。これで口に合わないと確信出来れば、はっきりと言おう。このチャレンジにはそれくらいのリターンがあってもいいはずだ。

 

 そう思い、食蜂は生唾を呑みこみ、えいっと目を瞑って、再び西瓜紅茶を体内に取り込む。

 

 ゴクリ。

 

「………………」

「ど、どうだ?」

「…………飲めなくは、ない」

 

 そう。飲めなくはなかった。だが、本当にそこ止まりだった。

 

 これからも愛飲したい味ではないし、かといって残すのももったいない。といったまさしく五十点の味。

 

 なんだろう。ひどく、空しい。

 

「しょ、食蜂! よかったら、こっち飲むか!? 一口飲んじまったが、それでもよければ!」

 

 上条は、食蜂(こども)のそんな寂しげな表情に居た堪れなくなったのか、自分の飲みかけのジュースを差し出す。これが逆行前なら某ビリビリ中学生が顔を真っ赤にして電撃を纏うところだが、食蜂操祈はっさいは少し顔を赤くしたが、取り乱すような真似はしなかった。これは別に御坂が八才児より恋愛面で子供だとか揶揄してないよ本当だよ。

 

 だが、食蜂は先程の西瓜紅茶の一件を思い出し、上条が差し出したジュースに伸びた手をピタッと止めた。

 

 そして、若干の怯えが混じった目で(無理もないが)上条に問いかける。

 

「ち、ちなみに、これはなんて名前のジュースなのかしらぁ?」

「ああ、『ザクロコーラ』だ」

「もう! まともなのはないのぉ!?」

 

 

 八才児の魂の叫びが、高らかに響き渡った。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 その後、食蜂と上条はしばしそのベンチに隣り合って座り、何気ないことを歓談した。

 

 初めは得体の知れない上条に委縮していた面もあった食蜂だが、涙目になるくらいゲホゲホと咽るというお嬢様としてかなりギリギリ(アウト)な姿を見せてしまったことで吹っ切れたのか、かなり自然体を見せることが出来るようになっていた。元々自意識が高い子供であるが故に、一度悪い姿を見せてしまったのでもうどうにでもなれという心境だった。

 

 上条の方も、食蜂の態度がフランクになると緊張も解け、年上のお兄さんといった態度を自然ととれるようになった。

 

 

 お互い、時間が経つにつれ、笑顔が増えていく。

 

 

 そして空の色が少し橙色を帯びてきた頃――

 

 

「――あぁ。もうこんな時間か。そろそろ帰らなくっちゃな」

「――え。…………え、ええ。……そうねぇ」

 

 先程までの笑顔が一気に姿を消し、ショボーンと顔を俯かせる食蜂。

 

 それを見て上条は苦笑し、その頭にポンッと手を乗せる。

 

「――あ」

「別にもう会えないってわけじゃないだろ? 俺もこの辺に住んでんだ。見かけたらいつでも声かけていいから」

「……な、なんで、私が声かけなくちゃいけないのよぉ!」

 

 真っ赤な顔で上条の手を乱雑に振り払う。

 そしてベンチから飛び降りて、上条に背中を向けたまま夕陽をその一身に浴びて、真っ赤になった顔を誤魔化すように、言った。

 

「あ、アナタから声を掛けなさいよ! それが、殿方の礼儀力ってもんでしょぉ!……そ、そしたら、また……時間、とってあげるわぁ」

 

 そう言って、てててと走っていく食蜂の背中に向かって、上条は「……ああ。約束するよ!」と、声を張り上げた。

 

 食蜂は、その言葉を受けて、堪え切れず、自身の頬が緩むのを感じた。

 

 そして、上条の姿が大分小さくなった頃、振り向いて、ずっと気づいていながら隠していたことを、大声で告げた。

 

「それと~~~!! アナタ、いそいでたんじゃなかったのぉ~~~!!」

 

 そう捨て台詞を残し、ふふふと無邪気に笑い、今度こそ、食蜂は走り去った。

 

 必ず訪れる、再会に、胸を躍らせて。

 

 

 

 

 

 一方、上条は食蜂の最後の言葉を受けて、ハッとフリーズし、バッと近くにある時計を見上げ、サッと冷や汗を流しながら、再びフリーズし、絶叫した。

 

 

「……ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

 

 そして、上条は待ち合わせ場所の公園へと全力疾走する。

 

 

 学友達との待ち合わせ時刻は、とっくの昔に過ぎていた。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

(あぁ……くっそっ。アイツ等、まだ公園にいっかな?)

 

 今日は本来、学校帰りに公園でサッカーをする約束を同じクラスの友人達としていた。

 

 上条は、現在十歳の小学五年生である。無能力者の上条は、同じく無能力者の子供達が集まる、ごくごく平凡な学校に通っていて、そこで出会った友人達と、学園都市の中とは思えない、ごくごく平凡な日常を謳歌していた。

 

 もちろん、そこは上条当麻。日常茶飯事的にトラブルに巻き込まれてはいるが、それでも「また上条だよ」と笑い流される程度のトラブルで、上条の記憶にあるような、前世の数々の大事件とは比べ物にならないような、平和な日常を送っている。

 

 

 そう、平和。まさしく、上条当麻は平和を謳歌していた。

 

 

 まだ上条は前世の知り合い達とは誰とも会っていない。少なくとも、自身の記憶にある知り合いとは。ごくごく偶に両親と連絡を取り合っているくらいだ。

 

(よし、着いた! どうやらアイツ等、まだいるみたいだな)

 

 

 

 だが、今日この日、食蜂とはまた別の、彼自身の記憶に強烈に残っているある人物と、“再会”する。

 

 

 

(……ん?)

 

 

 

 待ち合わせの公園。

 

 その入口で、中で楽しそうにサッカーに熱を上げる上条の学友達を見つめる、一人の少年。

 

 

 

(…………あれって――)

 

 

 

 その、まるで今にも折れそうな枯れ木のごとく細い体で、全世界の女性が羨む様なシミどころか擦り傷一つない真っ白な肌。

 

 

 そして、一度その目に映したら決して忘れることの出来ない、神秘的な白髪と、爛々と輝く(あか)い瞳。

 

 

 上条当麻は知っている。覚えている。忘れることなど、出来るはずがない。

 

 

 かつて、上条当麻は、この男と命懸けで殺し合った。

 

 かつて、上条当麻は、この男と共に強敵に立ち向かった。

 

 

 学園都市最強で最凶の能力者――学園都市第一位。

 

 

 一方通行(アクセラレータ)

 

 

 上条が記憶している姿よりずいぶんと若い、というより幼いが、あの特徴的な白髪と赤い目は、人違いということはありえないだろう。

 

 

 だが、違和感があった。

 

 

 いや先程も自身で思った通り、彼は上条が知る彼よりも幼いし、何より正確には上条が知る彼“ではない”別の存在なのだから、違和感などあって当然なのだが、それでも上条は訝しんだ。

 

 少しの間、立ち止まり、一方通行(アクセラレータ)を眺めながら考える。

 

 そして、気づいた。

 

 

 彼は、尖っていない。

 

 

 上条が一方通行(アクセラレータ)に対し常に感じていた、ギラギラした感じというか、周りを拒絶し、周囲に振り撒く敵意のようなものが、抜け落ちている。

 

 というより、まだ身に付けていないというべきか。

 

 だからこそ今の彼からは、前世の彼には決して抱けないようなイメージを持ってしまった。

 

 

(……なんか、兎、みたいだな)

 

 

 自分で例えて、そのあまりに自分の知っている一方通行(アクセラレータ)とのイメージの相違に、上条は思わず吹き出す。

 

 

 

 そうだ。誓ったじゃないか。

 

 

 あの完璧な世界を、どこまでも追い求めると。

 

 

 その第一歩が、今、ここから始まるんだ。

 

 

 上条当麻のコンティニューが。ニューゲームが。

 

 

 その一人目が一方通行(アクセラレータ)というのも、なかなか意外性があっていいじゃないか。

 

 

 今のコイツは、まだ妹達(シスターズ)を一人も殺していない。あの悲劇は、生まれていない。

 

 

 あの光景のように、あの世界のように、妹達(シスターズ)を一人残らず救う。

 

 

 そんな優しい世界を、目指すことが出来る。

 

 

 

 上条は、ギュッと拳を握り、足を前に踏み出す。

 

 一歩、一歩、踏みしめるように歩く。

 

 

「……よぉ。何やってんだ、お前?」

 

 

 上条は、必死に平静を装って、声を掛ける。

 内心では、心臓がこれ以上ないくらい活発に鼓動しているが、それを押し殺して、決して表情と声に表れないように、あくまで初対面の少年を演じる。

 

 彼は、一方通行(アクセラレータ)は、上条に声を掛けられてビクッと肩を震わし、身を捩らせ、キッと上条を睨みつける。

 さっきの食蜂と似たような感じだなぁ、そんなに俺は怯えられるようなオーラを出しているのだろうか、と内心で落ち込みながら、上条は笑顔を作る。

 

「……お前も、俺達と一緒に遊ばないか?」

 

 その言葉に、一方通行(アクセラレータ)は呆気にとられて顔を上げた。

 

 瞳に表れていた怯えが、微かに期待と喜びに変わった――ような気がした。上条にはそう感じた。

 

 

 

 

 

 上条は思った。

 

 

 俺は、一方通行(アクセラレータ)のこんな表情は知らないと。

 

 俺は、アイツのことを、何も知らなかったと。

 

 

 一方通行(アクセラレータ)と初めて出会ったとき、上条は問答無用で一方通行(アクセラレータ)に殴りかかった。

 

 あの時の上条当麻にとって、あの時の一方通行(アクセラレータ)は、懸命に生きている妹達(シスターズ)を、自身の目的の為に躊躇なく殺す、倒すべき悪だった。

 

 

 上条は、どうして一方通行(アクセラレータ)がそんな実験に参加するまで“追い詰められた”のか、知ろうともしなかった。

 

 

 最初から最後まで、一方通行(アクセラレータ)を、悪だと断じて、打倒した。

 

 

 

 二度目に出会ったのは、ロシアの雪原。彼は何かに藻掻き苦しんでいた。

 

 

 打ち止め(ラストオーダー)を守る。妹達(シスターズ)を守る。

 

 ただ、それだけの為に。

 

 必死に自分の罪に苦しみ、それでも彼女等を救う――守る存在で在りたくて。

 

 

 上条当麻にとって、一方通行(アクセラレータ)は、この時、悪ではなくなった。

 

 一度罪に落ちても、そいつがずっと悪でいなければならない道理はない。なんて、上から目線で見直した。

 

 

 ならば、何故、その時にでも気付けなかったのか。思い至らなかったのか。

 

 

 そこまで必死に、彼女達を守ろうと“することが出来る”アイツが、どうして一線を踏み越えてしまったのかを。

 

 

 それからも、一方通行(アクセラレータ)とはちょくちょく顔を合わせたけれど、果たして自分はアイツのこと、知っていたか。知ろうとしたか。

 

 色眼鏡で見てはいなかったか。

 

 自分は無能力者(レベル0)で、アイツは超能力者(レベル5)――それの第一位。

 

 アイツは、俺とは違うと、どこか一線を引いていなかったか。

 

 

 ふざけんな。そんなの、超能力者(あいつら)を実験動物扱いしているこの街の研究者達と何も変わらない。

 

 

 今、こうして、俺達と一緒に遊びたがっているコイツは、普通の子供だ。

 

 

 誰かと一緒に遊びたい、ただの子供だ。

 

 自分も仲間に入れて欲しい、ただの子供だ。

 

 

 友達が欲しい、ただの、普通の。

 

 

 俺たちと同じ。

 

 

(……馬鹿野郎)

 

 

 上条は前世の自分を叱咤する。お前は何をしてきたんだ。何を見てきたんだ。

 

 

 一方通行(アクセラレータ)は、悪なんかじゃない。

 

 

 一方通行(アクセラレータ)は、最強なんかじゃない。

 

 

 ただの、不器用で、寂しがり屋の――普通の人間じゃないか。

 

 

 

 

 

 上条は先程とは違う、正真正銘の、溢れ出た笑顔と共に、左手を差し伸べる。

 

 

「さぁ、来いよ! 一緒に遊ぼうぜ!」

 

 

 一方通行(アクセラレータ)を、怪物にしてしまったのは。

 

 コイツに手を差しのべなかった、コイツの手を取らなかった、俺達だ。

 

 

 俺達がコイツを怪物だと断じたから、コイツは本当の怪物になってしまった。

 

 

 だが、今なら、まだ間に合うはずだ。

 

 

 

 一方通行(アクセラレータ)は、ゆっくりと手を伸ばす。

 

 

 上条は、待ちきれないとばかりに、一方通行(アクセラレータ)の手を自分から掴んだ。

 

 

「行こう!」

 

 

 上条は、一方通行(アクセラレータ)を引っ張って、学友達の元へと走る。

 

 

 そうだ。まだ、間に合う。

 

 

 一方通行(アクセラレータ)は、何の力もない上条の左手を、『反射』しなかった。拒絶しなかった。

 

 

 受け入れてくれた。

 

 

 だから、まだ、間に合う。

 

 

(――一方通行(アクセラレータ)は、俺が絶対に怪物になんかさせやしない)

 

 

 大幅な遅刻に対する学友達の大ブーイングに平謝りをしながら、上条はそう、改めて誓った。

 





 ようやく過去編の主要人物が出揃いました。

 さてさて、どこまで続くことやら……


 ……あれ? これ妹達編だよね?

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