上条当麻が風紀委員でヒーローな青春物語   作:副会長

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佐天を――そして全ての幻想御手(レベルアッパー)被害者を、お前が救うんだ。


ヒーロー〈助けたいという気持ち〉

 

 警備員(アンチスキル)は、幻想猛獣(AIMバースト)に発砲を続けていた。

 つい先程、目の前の怪物に対する実弾の使用が許可され、目を覚ました警備員(アンチスキル)計五人体制で絶え間なく銃弾を撃ち込み続ける。

 

 しかし、銃弾は幻想猛獣(AIMバースト)の肉体を抉り、弾き飛ばしながらも、かの怪物は瞬く間に再生し続ける。

 

「くそっ! 木山にやられたせいで、ただでさえ動ける人数がこんだけだってのに……」

「ぼやく暇があったら撃ち続けろ! この先の“アレ”にコイツが突っ込んだらとんでもないことになるぞ!!」

 

 幻想猛獣(AIMバースト)は暴れ回る。

 いや、こいつからしたら、ただ耳元でうっとうしい蠅を追い払うような感覚だったのかもしれない。

 しかし、無闇矢鱈に振り回される触手は、元々少ない動ける警備員(アンチスキル)を一人、また一人と戦闘不能にしていく。

 

「がっ!」

 

 眼鏡の警備員(アンチスキル)――鉄装綴里は、触手の一撃をまともに喰らい、高速道路の柱まで吹き飛ばされた。

 

「鉄装!」

 

 他の警備員(アンチスキル)が全て撃破され、ただ一人戦闘を続行する黄泉川愛穂。もう動ける警備員(アンチスキル)は彼女しかいない。

 鉄装は頭を打ったのか、焦点の合わない目でふらついていた。

 

(何……私は……木山を……なのになんで……化物を……あ、そっか……夢か………はは、そうだよね………あんなのいるわけないもん……幻………まぼ……ろし……)

 

 ぼうっとする鉄装の目の前には、幻想猛獣(AIMバースト)の触手が接近していた。

 その先端からギョロっと、生々しい目玉が出現する。

 

「鉄装っ!」

 

 黄泉川は間に合わない。

 

 触手の先から、強力な衝撃波が発せられた。

 地面に大きなクレーターが出来上がる。

 

 しかし、そこに鉄装の死体はなかった。

 

「ったく。何ぼうっとしてんのよ。死にたいの?」

 

 ガクガクと震える鉄装の首根っこを持って、御坂美琴は参上した。

 

「っ! お前、何してる!? 子供は早く逃げるじゃん!」

「何言ってんのよ。あなた一人でアレを止められるなんて思ってるわけじゃないんでしょう?」

「……ッ! でも、ここは危険じゃん! 子供を守るのが、大人の仕事じゃんよ!」

「だったら一緒に避難しましょう。もう少ししたら応援も来るんでしょう? 一人で特攻してやられるより、そっちの方が「ダメですっ!!」」

 

 御坂の一時撤退せよというアドバイスを鉄装は大声で却下する。

 黄泉川の「バカっ!」という声も届かず、錯乱しているのか、声のボリュームが振り切った怒声で畳み掛ける。

 

「あの先には、原子力実験炉があるんです!! だから私達は、退くわけにはいかないんです!!」

「…………なるほど。そういうこと」

 

 黄泉川は掌で顔を覆いつくし、呻いている。

 鉄装は一般人を焚き付けかねないセリフを口走った自分に気づき、顔を青褪めた。

 

「分かったわ。なら、アイツは私が止める。あんた達は下がってなさい」

「バカっ! そんなことできるわけないじゃ――」

 

 御坂はなお食い下がる黄泉川に、自分の指さす方を見るように促す。

 そこには、非常階段を上って高速道路本線に向かう上条と初春がいた。

 

「っ! 上条!?」

「アイツを知ってるの? なら話が早いわ。今、アイツと初春さんが幻想御手(レベルアッパー)のネットワークを破壊しようとしてる。そうすれば、あの化物は止まるわ。だから、あなた達は向こうの援護に向かって。その間の足止めは私がするわ」

「無茶よ! あなた一人であんな化物を「……わかったじゃん」隊長!?」

 

 ごねる鉄装を強引に連れて行く黄泉川。

 

「……無茶はするな。すぐに戻るじゃん」

「……そっちもね」

 

 悪いことは重なるものなのか。

 明確な意思を持っていないと思われる幻想猛獣(AIMバースト)だが、よりにもよって進行方向は原子炉に向かっていた。

 

 御坂は先回りするように、幻想猛獣(AIMバースト)に向かって走りだした。

 

 

「いいんですか!? あんな少女の言葉を鵜呑みにして! 一般人を守るのが! 私達警備員(アンチスキル)の仕事じゃないんですか!? 隊長!!」

「そんなこと! 言われるまでもなくわかってるじゃんよ!!!」

 

 びくっと体を震わせて怯える鉄装。

 黄泉川の表情には悔しさがにじみ溢れていた。

 

「……それでも、今の私達には、あの化物を止めるどころか、進行を遅らせる力すらない。それに、アイツは超能力者(レベル5)――『超電磁砲(レールガン)』だ。下手に私達がうろちょろしてたら、逆に足手纏いだ」

超能力者(レベル5)……超電磁砲(レールガン)……」

 

 鉄装は絶句した。

 御坂美琴の名は有名だが、まさか彼女がそうだとは思わなかった。

 

「悔しいが、任せるしかないじゃん。……それに上条が動いているなら、きっとその行動には意味があるはずじゃん。アイツはいつも騒動の核心にいるからな」

 

 ボロボロの体を無理矢理動かし、黄泉川は走り出す。

 黄泉川にとっては、子供は守るべき存在。

 

 超能力者(レベル5)だろうと、風紀委員(ジャッジメント)だろうと、それは変わらない。自分達大人が、守るべき子供達だ。

 しかし、今の自分達は、そんな少年少女らに守られ、その手伝いしかできない。

 

 どうしようもなく、悔しかった。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

「初春!」

「上条さん!」

 

 二人は高速道路上へと昇る階段下で合流した。

 

「どうして上条さんがここに?」

「そんな話は後だ。それよりも初春、木山先生から幻想御手(レベルアッパー)をアンインストールするプログラムを預けられたって本当か?」

「は、はい。えっと……これです」

 

 初春は手元のポケットから小さなチップを取り出す。

 このチップに一万人の無事が懸かっている。

 

「……よし、初春。そのチップを持って上がるぞ。警備員(アンチスキル)がこれだけいるなら、連絡用にそれなりの機器を載せた車両があるはずだ。木山先生との戦いで壊れていなければいいが……」

「えっと、上条さん?」

「初春。今すぐそのプログラムで、幻想御手(レベルアッパー)のネットワークを破壊する。…………やれるな?」

 

 上条は初春に真剣な目で問いかける。

 その目に籠められるは、信頼。そして、期待。

 

「佐天を――そして全ての幻想御手(レベルアッパー)被害者を、お前が救うんだ、初春」

 

 上条の目は、紛れもなく歴戦の戦士の目。

 その目から発せられる眼力は、時に世界を転覆させうる力を持つ者たちでさえ、圧倒されてきた。

 込められる感情が敵意や闘気ではなく、期待や信頼でさえも、中学一年生の女生徒に向けられるには、あまりにも重い。

 

 上条当麻と肩を並べ、戦う。

 そのことの過酷さは、こういった場面でも現れる。

 

 佐天涙子が感じたことは、あながち間違いではない。

 上条当麻と近しくなるには、そういった資質が必要なのだ。

 

 だからこそ――。

 

「……はい! 任せてください!!」

 

 初春飾利は、逃げない。

 その圧倒的なプレッシャーを正面から受け止め、上条当麻の側へと歩み寄る。

 

 当然、怖い。重圧が凄い。自分は今、一万人もの運命を背負っているのだ。

 

 これが、ヒーローになるということ。

 

 悪い敵をやっつければいいというものではない。

 幾千万の人々の想いを背負ってこそのヒーロー。

 

 上条当麻や御坂美琴は、それらを力へと変えるのだろう。

 自らの内から溢れ出す思いに従って行動し、結果それがヒーローとなりうる彼ら彼女らは、ひょっとしたら重圧など感じないのかもしれない。

 

 それが、本物のヒーローなのかもしれない。

 

 だが、重圧を感じ、背負うものの重さに恐怖し。

 しかし、それでも逃げず、向き合い、受け止め、大切なものの為に行動する人間が。

 

 偽物のヒーローかと言えば、断じてそんなことはない。

 

 震える手足を奮い立たせ、必死に階段を駆け上がる。

 涙が溢れそうになっても、唇を噛み締め、前へと進む。

 

 親友の為、今も苦しむ全ての幻想御手(レベルアッパー)使用者を解放する為。

 持てる力を振り絞り、与えられた役目を全うすべく、戦う。

 

 そんな彼女が――初春飾利が、ヒーローでないはずがない。

 

 上条当麻は、今回ばかりは彼女の引き立て役だ。

 上条は、ここまで届く御坂と幻想猛獣(AIMバースト)の戦いの余波から初春を体を張って守ることに徹する。

 

 通信車両を探すが、いくつもの車両が横転していて、どれがそれだか判別できない。

 

「上条ぉ!!」

「っ! 黄泉川先生!?」

 

 途中、黄泉川と鉄装が合流する。

 

「事情は御坂美琴から聞いた! こっちに来るじゃん!」

 

 黄泉川は上条と初春を通信車両に案内する。

 幸い――万が一に備え特別頑丈に作られているのか――車両は横転すらしておらず、中の通信機器も健在だった。

 

「初春、大丈夫そうか?」

「はい。この機器のスペックなら、十分ここからアンインストールワクチンを流せます」

「……そうか。初春――頼んだぞ」

 

 初春は、一度目を瞑り、大きく深呼吸する。

 そしてカッと目を開き、キーボードに指を走らせる。

 

「はい!」

 

 その声は、いっさい震えていなかった。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 幻想猛獣(AIMバースト)が放つ幾つものエネルギー弾。

 

 御坂はそれを時に避け、時に弾き返しながらやり過ごす。

 そうして距離を詰め、気が付けば御坂は原子力実験炉を背に、幻想猛獣(AIMバースト)と対峙する構図になっていた。

 

「……はぁ……はぁ……もう! キリがないわね!」

 

 幻想猛獣(AIMバースト)は、一万人分の能力者によるネットワークの産物。

 その性質故か、先程の木山のように多種多様な攻撃を放ってくる。それも木山のように戦略的にではなく、駄々っ子が手近にあるおもちゃを手当たり次第にぶつけてくるかのようにメチャクチャに。

 

 そういった攻撃に対処するのは、ある意味綿密に練られた作戦に対処するより難しい。戦い慣れている人間にとっては特に。

 しかし、御坂は自身の能力とセンスのみで、その全てを捌ききっていた。

 

 だが、この構図は少しまずい。

 これで御坂は、避けるという選択肢を失った。

 

 さらに、自身に当たらなくても頭上を越えて施設を襲うような攻撃も叩き落とさなくてはならない。

 

「くそ……厄介ね。なにより、いくら攻撃しても復元するってのがメンドクサイわ」

 

 いくら御坂でも、無限に能力を出せるわけではない。

 限界はある。御坂の場合、使う能力からしてバッテリーといったところか。

 

 つまり、相手が無限に回復するのであれば、御坂に勝ち目はない。

 

 無限に回復するのであれば、だが。

 

(なんかアイツ……私の攻撃とは関係無しに苦しんでる?)

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

「あ~~~~~~。もう究極的に退屈って訳よ」

 

 とあるファミレス。ここでは、見た目的にも、個性的にも、派手な四人の美少女が豪華過ぎる女子会を開いていた。

 

 その中の一人の金髪碧眼の少女が、背もたれに全力でもたれかかり、天を(というより天井を)仰いで、あに濁点を付けそうな勢いで呻いた。あまり美少女にふさわしくない姿だ。目の前にあるサバ缶がそれに拍車をかけている。

 

「そんなこと言って、どうせアンタは仕事が来たら来たでぐちぐち文句言うんでしょうが」

 

 金髪少女の愚痴に、律儀に隣の美女が返す。金髪少女とは最低でも5歳は離れて見える、まさしく美少女より美女が似合う女性だが、これまた目の前の食べかけの鮭弁が一見清楚な美女に見える彼女の一筋縄ではいかない個性の片鱗を匂わせている。

 

「どうせこの時期はレジャー施設も超めちゃ混みですよ。家で映画でも見てた方が超有意義です」

 

 金髪の少女の真正面に座る少女が言う。

 金髪少女とほぼ変わらない年頃の茶髪ショートカットな彼女は、赤のタンクトップに超ミニスカートと夏らしい、だが思春期男子には眩しすぎる格好で「AクラスにC級な映画50選」という選ばれるのが名誉なのか不名誉なのかよく分からない雑誌を読んでいた。

 その手に持つ雑誌からも彼女の強烈な個性は現れているのだが、それよりも周囲の視線を釘づけているのは彼女の雑誌を読む姿勢だった。

 先程も触れたように彼女の恰好は超ミニスカート。にも関わらず、彼女はファミレス特有のソファーに両足を乗せて(一応靴は脱いでいる。しかし、靴下がボーダーのハイソックスでさらなる需要に応えていた)けしからん太腿で雑誌を支える体育座りのようなポージングをとっている。すなわち、真っ白な太腿剥き出しでガードが緩い大変危うい体勢になっているのだ。

 現に彼女達の右斜め前のテーブルの奥の通路側に陣取る高校生か中学校高学年くらいの少年。夏休みにも関わらず律儀に制服を着ている彼には、先程から自身の右斜め前方にいる彼女――彼女は通路側に座っているのでばっちり見えるのだ。珍妙な雑誌のタイトルも見えるが、そんなものより彼の視線を惹きつけてやまないものがあった――の、セキュリティが甘くなっているそのスカートの中の桃源郷が見えそうだった。顔の前に不自然にメニューを持ち上げて下心を隠すという哀れ過ぎるカモフラージュをしながらも、彼はここ二十分程、果敢に桃源郷を覗き見ようとチャレンジするが、なぜか見えない。見えそうで見えない。見えないが見えそうだし見たいので見ようとするがやっぱり見えそうで見えない。その少年は諦めなかったが、あまりに真剣過ぎて、ずっと注文をしない彼を不審がって傍にやって来た店員にまったく気づかなかった。某高校生探偵が幼馴染の少女と遊園地へ遊びに行って、黒ずくめの男の怪しい取引現場を見るのに夢中になっていた、あの状態だった。彼はその後、風紀委員(ジャッジメント)のお世話になるのだが、そんな哀れな思春期少年を暴走させた張本人は知る由もない。また彼女が意図的に計算して見えそうで見えない位置をキープしていることも、少年は知る由もなかった。

 

 すまない。彼女の説明だけとんだ長文になった上にいらないエピソードまで挟んでしまった。次に行こう。

 

「zzzzzzzzzzz」

 

 残る一人は完全に熟睡して会話に参加していなかった。

 彼女も他の三人に負けないくらいの美少女なのだが、現在テーブルに突っ伏して寝ているのでその顔は周りからは見えなかった。しかし、ファミレスという一応公共の場で、死んだように眠る彼女は他の三人に負けないくらいの存在感を放っていた。服装は真っ白のTシャツに下はジャージ。お洒落に無頓着というレベルではなかった。

 

 そんな自宅クラスに寛いでいた彼女は、店内に流れ始めた不思議な曲で目を覚ました。

 

「ん? 不思議な、曲」

 

 その曲は彼女だけではなく、他の三人。ひいてはファミレスの他の客や店員達まで、それぞれの作業を止めて、耳を傾けてしまうような、不思議な曲だった。

 

 

 そして、その曲はそのファミレスだけに流れた店内ソングではない。

 

 その曲は、今現在学園都市中で流されていた。

 

 

 一人の花飾りの少女が。

 

 親友を、幻想御手(レベルアッパー)の全ての被害者たちを救う為に。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

「何だ……この曲は? まるで、五感全てに働きかけているかのような……」

「先生!」

 

 その医師は先程まで馬車馬のごとく働いていたが、突然院内アナウンスから曲が流れた途端ピタリと動きを止めた。

 

 その曲によるフリーズが解ける前に、病室に別室を担当していた看護婦が息を切らして駆け込んでくる。

 

「突然っ……患者さんの発作が、止まりました!」

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 異変はこちらでも起こっていた。

 御坂があくまで敵の注意を自身に誘導し直すための威嚇として放った電撃が、敵の触手の一本を破壊した。

 ここまでは、幾度となく繰り返された光景。

 

 だが、その触手は再生されなかった。

 

「…………やっと、来たか♪」

 

 おそらく、上条と初春が上手くやったのだろう。

 御坂はにやけながら、両手を天にかざす。特にポージングに意味はないが、これは気分の問題だ。

 

 幻想猛獣(AIMバースト)の真上に巨大な電撃の塊が形成される。

 そして、御坂が両手を振り下ろすと、幻想猛獣(AIMバースト)に強烈な電撃のシャワーが浴びせられた。

 

 いや、もはや滝と言った方がいいかもしれない。

 力任せ、だが、だからこそ、この街の他の電撃使い(エレクトロマスター)でこの攻撃を真似できるものはいないだろう。

 

 幻想猛獣(AIMバースト)は、真っ黒焦げに焼きあがった。そして、ゆっくりと――。

 

――倒れなかった。

 

「!!」

 

ギェッェァァッァアシャァァァアァァァァァァァギャアアァァァォォォォォォ

 

「うそっ!あれ喰らってまだ動けるの!?」

「アレはAIM拡散力場の塊だ。普通の常識は通用しない」

 

 御坂が振り向くと、そこには足を引きずっている木山春生がいた。

 

「ちょ、アンタなんで――」

「体表をいくら焦がしても、本質には影響しない」

「ねぇ! そんなことよりアン――」

「力場の塊を自立させる、コアのようなものがあるはずだ。それを破壊できれば」

「聞きなさいよ! っていうか前もアンタとこんなやりとりをした気がするわ!」

 

 御坂が木山のマイペースっぷりに翻弄されていると、何か呻きのようなものが聞こえてきた。

 

『ntsk欲gdt』

『d羨kn苦j』

『wb遭dnhだけbp』

 その言葉は、徐々に言葉として、しっかりとした形を成していく。

 

 

『努力は積み重ねてきた……。けど、幾千幾万の努力が、たった一つの能力に打ち砕かれる! ……これがこの学園都市(まち)の現実だッ…!!』

『どれだけ慕ってくれてても……自分が相手の能力を超えたら、もう用無し。もう格下。……この学園都市(まち)では、人の優劣がはっきりと数値化して現れる。……上に上がったら、下には用無し。もう、おしまい』

『本物の超能力。それは馬鹿馬鹿しいまでに無茶苦茶で、悪い冗談としか思えない出鱈目な力。そこに行くには突破の足掛かりすら掴めない高くて厚い壁がある。……それを目撃した、あの瞬間。それを実感した、あの日から。上を見上げず、前を見据えず、下を見続けた。……それしか、出来なかったッ』

 

 そして、それは、御坂に届く。

 

 それは、力の無さに絶望し、禁忌の手段にその手を染めた、少女の慟哭。

 

『私、何の力もない自分が嫌で……でも、どうしても、憧れは捨てられなくてっ!』

 

『どうしても……諦められないんだ』

 

『特別になれるくらい……大事な人になれるくらい……強くなりたかった』

 

 

「…………………」

 

 御坂は、前に進む。

 一歩、前に。掌に紫電を纏わせながら。

 

「下がってて。巻き込まれるわよ」

「いや、私にはアレを産み出した責任がある。このままでは、あの子達に会わせる顔が――」

「だったら、“私に”巻き込まれないように、おとなしく下がってなさい。五体満足で居たかったらね」

 

 引き留めようとする木山に、御坂はそう笑って告げた。

 

「な……」

「アンタを巻き込んだら、間違いなく“アイツ”怒るから。……べ、べつに、アイツが何言おうと関係ないんだけど! 私の目覚めが悪いからねっ!」

「あ――」

「そ・れ・に!!」

「助けたい人達がいるんでしょ」

 

 その笑みは、自身の敗北などまるで考えていない、傲慢な――強者の笑み。

 

「ッ!!」

「詳しいことは分かんないけど、アイツは何とかする気みたいだし。今回みたいな方法とらないんなら、私も協力するわよ」

 

 それは――問答無用で、何とかしてしまうのだと思わせる、見る者を惹き付ける、ヒーローの笑顔そのものだった。

 

 

「だから。あなたがすべきことは、ここで体を張ることじゃなくて。――罪を償って、前を向いて、生きることよ」

 

 

 御坂は木山に、まっすぐ見据えてそう告げた。

 

 その背中に、幻想猛獣(AIMバースト)は触手を飛ばす。

 木山が危険を告げる前に。

 

 触手は御坂に触れることすらできずに、木端微塵に吹き飛んだ。

 

 そして御坂は片手を挙げて、振り向きもせずに、振り下ろす。

 先程と同様、いや、それ以上の威力の雷柱が幻想猛獣(AIMバースト)に降り注いだ。

 

 5秒……10秒……まだ終わらない。

 電磁バリアを張り地面に逃がすことで直撃を避けていた幻想猛獣(AIMバースト)だったが、電気抵抗の副産物である熱までは防げない。

 

 徐々にダメージが蓄積し、体表が消し飛んでいく。

 

「…………ゴメンね。気付いてあげられなくて」

 

グァァァアァアッァァァアァァァァァギィヤァァァァアァァアア

 

「…………でもさ。パーソナルリアリティを他人に任せちゃダメ。だって“自分だけ”の現実なんだから。あなたの、あなた“だけ”の能力なのよ。――例え超能力じゃなかったとしても、あなたの『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』は、あなただけの特別な力になる。なっているはずよ」

 

 そして、ついに、そのコアが剥き出しになる。

 

 その瞬間、宙に一枚のコインが舞った。

 

「だから、さっさと“元の場所(いえ)”に帰んなさい。みんな心配してるわよ」

 

 優しい、慈しむような、微笑みと共に。

 

 御坂美琴の超電磁砲(レールガン)が、コアを寸分違わず貫いた。

 




誰かを助けたいという気持ち。

例え、怪物を倒す力がなくても。誰より強くなんてなくとも。

大切な人を助けたい――その願いの為に振り絞った勇気こそが、ヒーローの証。

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