艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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※こんなサブタイですが朧は出てきません。

今回は第四話から少しだけ時間がたったお話。
クラスの人達との交流、そして遠くで吹雪く雪。

ここ辺りからアニメの時系列に改変が入りますのでご注意ください。


第五話『揺らぐ朧月』

金剛さんや比叡さん、夕張さんと言った独特の特徴を持つ人達と同じ艦隊になり、

振り回されながらもなんとかしがみついていく感覚で艦隊に馴染んできた。

 

艦隊に馴染むだけでなく、演習の授業でもかなり良い結果を残せている。

これでこの鎮守府での生活にも慣れた、と言いたいところだがそうはいかない。

 

「………」

 

授業が始まったのは良い物の、言っている言葉の意味が良く解らない。

トラックでは哨戒・実戦・演習と言った物ばかりで、全ては感覚による物。

 

一応教科書と呼ばれる書物は配布されたが、生憎今日は忘れてしまった。

それも運が悪いことに授業が始まってしまってから気付く。

 

何とかこのまま乗り切るという事はほぼ不可能。

クラスの人が少ないだけあって万遍なく当てられる。それは私も例外ではなかった。

暁さんや響さん、睦月さんや夕立さんに借りようと思っても、

案外横の間隔が広いこの席の配置だとこっそり頼むという事も出来ない。

 

「ではここを涼月に読んでもらおう」

 

ついに自分の番が回ってくる。

仕方ない、正直に言おう。席を立つ。

 

「すみません那智さん。教科書を忘れてしまいました」

「む、そうか。だがそれをどうにかするのも大切な事だぞ」

「面目有りません」

「まぁ、無いなら仕方ないか……だれか別の者に」

「はい、那智先生」

 

罪悪感を残しつつ席に座ると、前に座っていた如月さんが手を上げた。

 

「私が涼月ちゃんに教科書を貸すというのはどうでしょうか」

 

独特の喋り方故にか、それとも存在感があるのか皆の視線が如月さんに集中する。

 

「む、それでもいいが如月はどうするんだ」

「睦月ちゃんに見せてもらいます。いいでしょ? 睦月ちゃん」

「え? あ、うん! いいよ!」

「という事だから……」

 

如月さんに教科書を渡してもらう。

しかも丁寧なことに教科書のどこから読むのか印が付けてあった。

 

「あ、ありがとうございます」

「いいのよ。同じクラスの仲間だもの。困ってる時はお互い様」

 

笑みをこぼして再び前を向く彼女。心から感謝してもしきれなかった。

 

 

////////////////

 

 

何とか授業を乗り越えて休み時間。

 

「如月さん、教科書ありがとうございました」

「あら、もういいの?」

「はい。この教科書だけ抜けてたみたいで」

「そうだったの……」

「このお礼は、間宮さんのメニューを一回奢るという事で代えさせてください」

 

このまま恩を売られたままでは後味が悪い。

自己満足の為かもしれないけれど、何らかの形で返したかった。

なので皆が良く行く人気の甘味所間宮で驕ろうと考えたのだ。

 

如月さんは少しだけ考えた後、少し悪戯に笑う。

その裏に何が潜んでいたか、それは到底私の解る範疇ではなかった。

 

 

 

甘味所間宮。

そこでは八つの特盛餡蜜が並んでいた。

 

「「「「「「「「涼月ちゃん(さん)、ご馳走になりまーす(!)」」」」」」」」

 

当然全て私の奢り。

どうしてこうなったかといえば、私の発言なのだが。

 

『一回奢る』

 

その言葉は如月さんの小悪魔的な何かを擽り、最初は睦月さんにこの話をしたらしい。

その時の彼女の解釈が、『一回だから、一緒に頼めば大丈夫よね』と言うもの。

 

そして本来ならばそこで止まる筈だった。でもそうはいかないのが現実。

睦月さんが嬉しさのあまり同じ部屋に居る夕立さんにその事を漏らしてしまい、

夕立さんが暁型の子達と島風さんにまでその話を広げてしまったのだ。

 

『一回』という言葉を自己解釈した如月さんは悪くない。

そのことを漏らしてしまった睦月さんも悪くない。

そのことを勘違いして皆に広げた夕立さんも悪くない。

夕立さんの広めた話に何の疑いも無く信じた暁型の子達や島風さんも悪くない。

 

そう。全ては私が生んだ『語弊』という悪魔が原因なのだ。

 

そして今に至る。

因みに席割りは私が壁際で隣が夕立さん、正面が睦月さんでその隣が如月さん。

別の席では暁さんと響さん、雷さん、電さんが座っていた。

そして別の席では島風さんと連装砲さん達が座っている。

 

「涼月ちゃんは食べないっぽい?」

「そんな……こんな、所で……うぅ……」

 

机に突っ伏してただただ袖を濡らす。懐が寂しい。

お財布と一緒に付いてきた見張員の妖精さんが慰める様に頭を撫でてくれる。

その同情が有りがたいのだがさらに虚しさを悪化させた。

 

皆がおいしそうに食べる中、私は何も食べていない。

皆おいしそうに食べるなぁ……

 

「ほら、涼月ちゃんも一緒に食べようよ! 皆で食べたほうがおいしいよ!」

「そ、そうそう! そう言うときこそ、特盛餡蜜っぽい!」

 

フォローするように二人が声をかけてくれるものの、

それだけの物を頼むだけの資金力が今の私には無い。

先程まで頭を撫でてくれていた見張員の子達も指をくわえて見ている。

 

「はーい。追加注文分の特盛餡蜜、お待たせ~」

 

間宮さんの声を聞いて反射的に起き上ると、私の目の前に特盛餡蜜が置かれた。

おかしい。私の分は頼んでいない。注文が終わって伝票も貰った。

でも私の前には確かに置いてある。伝票に訂正も入っていない。

不思議に思って周りを見ると、如月さんが軽くウィンクを飛ばしてきた。

私は妖精さんと特盛餡蜜を二度と味わえないという気持ちで味わい、完食した。

 

 

 

その帰り道、如月さんと二人で夕焼けに染まった道を歩く。

睦月さんや夕立さん、暁さんや響さん、雷さんや電さんには先に行ってもらった。

島風さんは特盛餡蜜をすぐに食べ終えてどこかに行ってしまった。

 

先を歩く如月さんの背中に向かって口を開く。

 

「今日は本当に」

 

そこまで言ったところで唇に人差し指を当てられた。

そしてその指はそのまま如月さんの口元へ。

 

「涼月ちゃんったらお礼を言ってばっかりで。むしろ私の方が言いたいくらいなのに」

 

逆光の中、悪戯気な笑みを浮かべる如月さん。

お礼を言いたい? 私は彼女に何かしただろうか。

思い当たる節はないか探ってみるも、一向に見つからない。

真剣に悩む私を見て彼女は笑っていた。

 

「何もお礼を言いたいのは、私の事だけじゃないのよ」

 

そう言って如月さんはまた歩き始めた。

見当もつかなかった私だが、その言葉を聞いてひとつだけ心当たりを思い出す。

 

『睦月ちゃんと同じ艦隊なんですってね。私の代わりに面倒を見てくれると嬉しいわ』

 

「もしかして、睦月さんの事ですか」

「ええ。ちゃんと覚えててくれたみたいで嬉しいわ」

 

如月さんの隣に駆け寄る。彼女の顔が良く見える様に。

 

「実は睦月ちゃん、貴女の歓迎会が終わってから私に貴女の事を話に来てね」

 

「初めて戦果を挙げた時の話をする、嬉しそうな自信にあふれた顔は今でも忘れないわ」

 

思い出すように空を見上げる彼女は、嬉しそうながらも儚げな表情をしていた。

彼女が私にお礼を言いたいのは解る。

でも儚げな表情を浮かべるという事は、未練や口惜しさ、悲しさがあるという事。

 

「ただ、『せっかく同じ艦隊にすぐ離れ離れになって寂しい』って言ってたわ」

「そうですか」

「それでも、私から言わせてほしいの。

 あんなに素敵に笑う睦月ちゃんは見たことが無かったから。

 それを作り上げたのは他でもない貴女だから」

 

「だから」

 

そこまで言いかけた如月さんの唇に人差し指で触れる。

そして同じようにその指を私の口元まで持っていった。

 

「まだそのお礼はお預け、という事でいいですか?」

「……どうして?」

「如月さんが睦月さんを支え、私が整えた。後は彼女を補ってあげるだけです。

 ですが残念な事に私がその補うべき穴を増やしたにも関わらず補う事が出来ません。

 この穴を補うには、睦月さんとそれ相応の関わりを持つ方でなければ補えません。

 さて、そんな都合のいいような方はいらっしゃるでしょうか」

 

彼女の前に躍り出て悪戯に笑みを浮かべる。今度は私が日を背にしていた。

それを見た如月さんは少しだけ笑いをこぼす。

 

「涼月ちゃんったら……もう、解ってるくせに」

「ふふふ。特盛餡蜜を奢ってくれたお礼は、これで返したという事でいいですか?」

「ええ♪」

 

彼女の笑顔は、どんな空よりも澄んだ笑顔だった。

 

 

/////////////////////

 

 

それからというもの授業や宿題で解らない事があると、

睦月さんと如月さんが率先して教えてくれた。

夕立さんに聞いてみたこともあったが、

彼女は勉強が苦手らしく一緒に勉強する事になる程だった。

 

「あうう~、解んないっぽい~」

「夕立さん頑張りましょう。これが終われば後はゆっくり出来るんですから」

「でもよりにもよって日曜日にこれはないっぽい~!」

 

日曜日という日であっても睦月さん達の部屋では勉強会がある。

と言っても私がお願いする形で開かれるのである日はかなりまちまちなのだが。

今日はあいにく如月さんは利根さんの走り込みに付き合っているので、

睦月さん一人に教えてもらっている。

夕立さんはかなりだれてしまっているが、肝心の宿題は出来ていない。

私はほとんど終わっているのだが夕立さんは何かと話題を切り替えて誤魔化している為、

ほとんど終わっていない。

 

「ねー睦月ちゃーん、お腹空いた~間宮さんの所行こうよ~」

「ダメって言ったらダメ! この宿題が終わってから!」

 

ずっとこんな調子で一向に進まないのだ。

机にひたすらへばりついたまま動こうともしない夕立ちゃんと、

それを必死に剥がそうとする睦月さん。それを遠くから眺める私。

 

私が三水戦に残っていれば、こんな光景が毎日続いたのかもしれない。

思わず感傷に浸ってしまうがそれは叶わない。

いずれこの三水戦にも新しい駆逐艦の人が配備されて、

本当の意味で三水戦の中に私の居場所は無くなってしまう。

そんな感情を振り払うように部屋を見渡す。今ある光景をしっかり目に焼き付ける為に。

 

睦月さんの机の前の壁には、以前私が書いていた鎮守府の地図が丁寧に張ってあった。

まだ大切にしてくれている様で嬉しい。

元々は私の机だった場所も綺麗に掃除してある。来る駆逐艦の人を歓迎するように。

 

「そう言えば新しく三水戦に配属される駆逐艦の人はいつ頃こちらに?」

「え? 確か日曜日のお昼過ぎぐらいだったかな?」

「って、日曜日って今日っぽい!?」

 

夕立さんの声で三人で同時に時計を見る。針は正午を回ったところ。

 

「ふえっ?! もうこんな時間!?」

「や、やばいっぽい! もう少しで来ちゃうっぽい!?」

「と、とにかく夕立ちゃんは部屋片付けておいて!

 涼月ちゃん、勉強会ここまででいいかな?!」

「は、はい! それより早く睦月さんは迎えに行ってあげてください!」

「ありがとう! 行ってくるね!」

 

そんなドタバタ騒ぎになりながらも今日の勉強会は終わったのだった。

 

 

/////////////////////

 

 

今日は勉強会で一日が潰れると思ったので、他に予定など入れているはずもなく。

演習しようにも利根さんは走り込みを行っているので許可を取りに行こうにも、

追いつける自信がない。

 

他に何か当てがあるというわけでもないので演習場の方を歩くことにしたのだが、

そこで思わぬ人を見つける。

濃い目の灰色の髪をしていて頭の両端で髪をくくっている独特の髪型。

弓道着の胸当てには片仮名で『ス』の文字が書いてある。間違いない瑞鶴さんだ。

彼女は艤装を装備してまで心配そうに遠くの水平線を見つめている。

方角的には最近深海棲艦の動きが活発な海域だったはずだ。何かあったのだろうか。

 

 

「瑞鶴さん」

「何……って確かアンタはあの時の」

「『涼月』です」

「解ってるわよ、あんな事があったんだもん。忘れたくても忘れられないわ」

 

言いたいことを言い終えたのか彼女は視線を戻す。

隣に立って何か見えないか見つめてみるも何も見えない。

 

「なんで隣に立ってんのよ」

「駄目ですか?」

「いや、駄目とは言ってないけど」

 

居てもいい許可も貰ったのでそろそろ本題に入ろう。

彼女が何故ここに居るのか。何故心配そうにあの水平線を見つめるのかを。

話を聞くことでその苦悩が少しでも軽く出来るのであればと思って。

 

「瑞鶴さんはここで何をしてるんですか」

「いいじゃない、私がどこで何してても」

「それに艤装を装備してまで、何が不安なんですか?」

「どうでもいいじゃない! アンタには関係ない事よ! しつこいと爆撃するわよ!」

 

爆撃。トラックでは経験したことは無い。

遭遇戦で稀に敵の偵察機を迎撃する程度で、攻撃機に対して戦闘を行ったことは無い。

 

すると瑞鶴さんは何か思いついたのか不敵な笑みを浮かべる。

 

「そういえばあんた、秋月型って言ってたわよね」

 

確かに二人に自己紹介した時、私は秋月型と口にした。

それが一体何か関係しているのだろうか。

 

「長門秘書艦から聞いたんだけど、

 防空駆逐艦って名前が付くぐらい対空に特化した駆逐艦なんでしょ?」

「ええ、はい」

 

どうやら雲行きが怪しくなってきた。

言動が荒いという事は彼女はあまり良い気分ではないという事。

私の長所の羅列、瑞鶴さんの挑戦的な姿勢。

そしてその話題を切り出してきたのは紛れもない正規空母である瑞鶴さん自身。

 

「だったらこの『五航戦』である私が『防空駆逐艦』の名前に相応しいかどうか、

 直々に判断してあげるわ!」

「お断りします」

 

勢いや情に任せた軽率な行動は隊と言う大きな組織の中では規律を乱す。

私が言えたことではないが、ただ瑞鶴さんは熱くなりすぎている。

一度の失敗でも止まることなく突き進むような、そんな雰囲気。

その失敗の規模にもよるが、その失敗自体が取り返しのつかない結果を生む事もある。

 

そう。私がトラック泊地まで単艦で向かっていた時の様に。

 

 

Side 瑞鶴

 

 

「それでは失礼します」

 

軽く頭を下げて私から離れていく涼月。

その後ろ姿が、あの一航戦の『加賀』さんに似ていて。

 

「へぇ、そう。あんたはそうやって逃げるのね。

 言いたいことだけ言って用が無くなったらいなくなる」

 

こいつは第三水雷戦隊に編入してすぐに戦果を挙げ、今は第二支援艦隊に居るらしい。

いわゆる『天才』。でもこのタイプはタチの悪いタイプの奴だ。

私達の様な才能のない者がどれだけ努力しても、素質で物を言わせ鼻で笑っている様な。

どれだけこちらが頑張っても、たった一言で一蹴する様な。

 

「自分の都合が悪くなった時もそう! 適当な理由を付けていつも逃げてばっかり!」

 

日頃の鬱憤を込めてぶちまける。

今言わないと、言えるタイミングを見失ってしまう。

なによりも私のプライドがそれを許さなかった。

 

いつの間にか足を止めている涼月。

言ってやった。この『才能を鼻にかけた天才』に全部。

 

「……わかりました」

 

ゆっくりと振り返る彼女。重なる視線。

 

「秋月型の本当の力、お見せしましょう」

 

駆逐艦である筈の彼女の眼光は、あの加賀さんを思わせた。




叢雲改二おめでとー!
4/10のアップデートで叢雲が改二になりました。
因みに私は割と関係ないのでスルーです。

初期艦叢雲提督の皆さんおめでとうございます!
……しかし、随分と面影無くなっちゃったなぁ……

今回は特に自問自答コーナーは有りませんが、この小説の路線について。

如月の誘いでテンション上がったり、夕立がその事を広めるというのは第二話基準。
瑞鶴の性格は主に第七話を基準にしてます。
また、吹雪がやってくる裏ではこんなことしてましたよー、って感じの描写入れてます。
夕立が勉強しないのはやはり第二話基準。

さて、次の話は意外な人物が現れます。
まだ書き貯めがあるので、アニメ第一話終了までの話は毎日投稿したいと思います。
こんな見切り発車ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

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