艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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やあ (´・ω・`)
ようこそ、空貫月光へ。
この第一話はサービスだから、まず読まずに落ち着いて欲しい。

うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、このタイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この話を書いたんだ。

じゃあ、開幕といこうか。


最終章 私という存在
第一話『集結』


 

夜のとばりが下り闇に覆われた海域を、6人の艦娘が単縦陣で進んでいる。

その名は鉄底海峡。アイアンボトムサウンドと呼ばれる、

幾多の艦娘と深海棲艦が海底に沈んだとされる海域。

 

白い髪を靡かせながらその艦隊の先頭を行くのは小柄な少女。

手には槍を携え背中の艤装からは二本のアームが伸びている。

その先についているのは12.7cm連装高角砲。その後期型と呼ばれる物。

 

「ずいぶん久しぶりに持ったわね、これ」

 

自分の持つ槍の先を見つめ感触を確かめるかのように軽く振る。

空を切る音を数回立てて納得したように再び持ち直した。

 

「あんまり振り回すと後ろの私に当たるから気を付けてねー」

「はいはい。そんなヘマはしないわよ」

 

白い髪の少女のすぐ後ろには全身が艤装で覆われた女性。

35.6cm連装砲を4門も構え、その腕には飛行甲板、腰には刀を携えており、

一見しただけでも威圧感を与えるだろう。

しかし威圧感を感じるのは外見だけで、

先ほどの発言から見るにそこまで怖い人間ではないようだ。

 

「もうすぐ敵地の最深部なんだ。気分が高揚しているんだろう。そっとしておくといい」

「私は狂戦士か何かか!」

 

女性の後ろに続く、もう一人の同型とも思える艦娘が少し笑みを零しながら口を開く。

その発言には少女も黙っていられなかったのか、両手を挙げて抗議する。

 

「私よりも狂戦士してるやつがあんたの後ろにいるじゃない。そいつに言いなさいよ」

「おう! どんな敵が来てもこのあたしがぶっ殺してやるよ!」

 

威勢のいい女性の背中には対空火器が針山のように装備された艤装がある。

それでも主砲である20.3cm(2号)連装砲は健在で、

今も獲物を探すかのようにせわしなく動いていた。

 

「まったく、教え子もすっかりその影響を受けっちゃってるし……」

「それはその子と波長があったから、じゃないかしら。無理はしないで欲しいけれど」

 

呆れ口調でため息を吐くのにつられたのか。

さらにその後ろ、こちらは対空火器は見受けられず逆に主砲が4門に増設されている、

これまた同じ艤装を付けた艦娘。

 

「無理するなっていう方が無理ね。誰かがしっかり手綱を握ってなきゃ」

「それをするのは本来アンタの仕事のはずなんだけど……」

 

まるで他人事のように流そうとする少女に対してジト目で反論する少女。

ツインテールの髪型を揺らしながらも、その艤装から覗くのは大量の爆雷。

おそらく対潜を想定された艦娘なのだろう。

 

「私はそもそも艦隊が違うでしょ。型は同じだけど」

 

「さて、おしゃべりは終わりよ。もうすぐ敵棲地、輸送船団のいる場所だからね」

 

その言葉に先ほどまで様々な表情を浮かべていた彼女達が、

途端に真剣な目で前を見つめる。

その視線の先にあるのは幾多の黒い影がうごめく小島。その港と呼べる場所。

 

「全艦、機関全速! 『大湊勝利の乙女達』の力を見せつけるわよ!」

「「「「「「おう!!」」」」」

 

 

//////////////////////

 

 

敵棲地では多数の輸送船だけでなく、

駆逐艦や軽巡洋艦といった防衛能力も多少ながら配備されており、

多少の防衛能力を備えていた。

 

しかし問題はそこではない。

この輸送船団の撃滅が真の目的であれば駆逐1・航戦2・重巡2・軽巡1という、

念入りな艦隊が夜戦で編成されるわけがない。

夜戦であるから空母がいないのは当たり前ともいえるが、

それでもそれ以外はすべて出来るといわんばかりの編成。

 

それは敵棲地で動く白い影がすべて語っていた。

完全に人の姿をとっており、両脇には滑走路を持つ深海棲艦。

赤く光る目の周りはくまができているかのような黒くなっており、

一層その目を特徴づけていた。

 

飛行場姫。

その名の通り多数の航空機を配備しており圧倒的な航空戦力を誇る存在。

だからこそこの編成であり夜戦による奇襲作戦が敢行された。

 

6人全員が主砲を構え、旗艦である叢雲が合図する。

すると艦隊の最後尾にいる艦娘、五十鈴が空に向かって何かを放った。

打ち出されたそれは、空中で真っ赤に染まり敵棲地を明るく照らす。

照明弾。夜戦で自分達が戦いやすくするようにと開発された装備。

探照灯でも問題ないように思えるが、

暗闇で一人光源を持った者がいればどれだけ目立つかは想像に難くない。

ましてや敵地の中心でなど自殺行為に近い。

 

暗い所で目が慣れた所を、急に光で照らされると目の前が見えなくなるように、

また明るい外から暗い洞窟の中が見えづらいように。

何が起こったのか理解できない深海棲艦はただふらふらと戸惑うのみ。

それは輸送船団も飛行場姫も同じであった。

 

そこに伊勢・日向・摩耶・鳥海が砲撃を行う。

宙で砲弾が散布し無数の弾丸が港を襲った。弾着し、爆音と共に火の手が上がる。

本来なら防空のために使うそれを陸上基地型の深海棲艦に向かって使用したのは、

過去の戦いでとある巡洋戦艦の二番艦が空母を炎上させた時の光景に似ていた。

燃えさかる火の手は瞬く間に飛行場姫の周辺を炎の海に変え、航空機を誘爆させる。

その爆発と炎、そして飛び散る航空機の破片が飛行場姫に容赦なく襲い掛かった。

 

「――――――!!!!」

 

声にならない悲鳴を上げるそれに対して、4人の艦娘は絶えることなく砲撃を続ける。

反撃の余地など与えるものか、と。

 

一方で1人の駆逐艦と軽巡洋艦が前線を務めていた。

頭から食いつこうと水中から飛び出す敵駆逐艦の口の中へ爆雷を放り投げ、

腹部に砲撃して突き放し体内で爆発四散させる。

 

敵軽巡の砲撃をかいくぐりながら体勢を低く構え交差する瞬間に振り抜き、

その切っ先で首の部分だけを切り飛ばす。その後主砲が火を噴き、背後から撃破。

 

先ほどまで和むような会話をしていた者とは思えない、

修羅のごとき動きと連携によって敵は瞬く間に数を減らしていった。

 

 

 

 

暁の光が海を照らす頃。

戦いは敵の輸送艦の胸部に叢雲が深々と槍を突き刺し、決着となった。

敵であったものが漂う海。夜戦による奇襲は成功といえるだろう。

だが彼女達は浮かない顔をしている。特に、叢雲は。

 

「これで過去の仲間に顔向けできるか」

 

日向が何かを思い出すかのように言葉をもらす。

 

「そんなのアンタの考え次第よ。私達は進むしかないんだから。

 生きるって、そういうことよ」

 

叢雲が自分に言い聞かせるかのように口にした直後のことであった。

 

暁の光に染められるように、海が赤くなっていく。

それも濁る、といった表現では弱い。浸食されている、といった方が適切であった。

その速度も速く、前線に出ていた叢雲と五十鈴がそれに巻き込まれる。

 

「何、新種の敵!?」

 

初めて見る光景に五十鈴が驚きの声を上げる。

他の5人もそれぞれ驚きや戸惑いを隠し切れず表情に出ていた。

 

「全艦、直ちに泊地に戻るわよ! 主目的は達成できたから長居する必要もないわ!」

 

旗艦である叢雲の鶴の一声で皆が隊列を組みなおし、その海域から離脱する。

興味本位などで赤い海に突っ込む者は誰一人いなかった。

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

一方、別の海域で別の艦娘6人が複縦陣を組んである場所に向かっていた。

空母3・駆逐艦3という極端な編成ではあったものの、

その目的は敵地に攻撃を仕掛けるものではなかった。

 

「偵察部隊から入電、大湊第一艦隊は敵飛行場姫と停泊中の輸送船団を撃滅!

 被害はほぼ皆無とのこと!」

 

緑色の弓道着を身にまとい、ハチマキを風に揺らす空母。

蒼龍の言葉にその場にいた者達が喜び、また安堵の表情を浮かべる。

 

「凄い、としか言いようがないですね。

 涼月さんのいた鎮守府はこんな人達ばかりだったんですか?」

「鎮守府、というより提督府ですが。さすがにそんなことはないと思いますよ」

 

ボウガンの構えを解き、隣で航行をしている長身の駆逐艦に質問を飛ばす空母。

その駆逐艦は苦笑いしながらも軽く答えていた。大鳳と涼月である。

 

「ほぇええ~……睦月達じゃ到底できないことをこんなにあっさり」

「確か大湊の第一艦隊って駆逐艦がいるって涼月さんから聞いたような」

「偵察部隊からの情報だと、駆逐1・航戦2・重巡2・軽巡1だね」

 

涼月と大鳳の後ろに続く駆逐艦は睦月と吹雪。

そして吹雪の疑問にさらりと答えたのは飛龍であった。

 

「その一人の駆逐艦が、ほかでもない叢雲さんですよ」

「あっ! スノーシルバーだよね!」

 

どうやら吹雪の中では『叢雲=スノーシルバー』という印象が強いらしい。

そうなるのは無理もない。大湊から帰ってきた涼月から聞かされた話が、

スノーバスターの話だったのだから。

 

「! 皆ちょっと静かに!」

 

先ほどから偵察部隊からの連絡を受けていた蒼龍が声をあげた。

和んだ空気が一気に張り詰め、視線が集中する。

 

「アイアンボトムサウンド近郊の海が急速に赤く染まってる? そんなことが」

「? 蒼龍、何言ってるの?」

「私も解らない。けど、偵察部隊の子達が口をそろえて言ってるの。

 海が赤くなってるって」

 

その言葉の意味を理解できない面々。そして別の異変が起こり始める。

 

「―――タイ ―――タイ」

 

どこからともなく響いてくる音。それは何かの声のようにも聞こえる。

突然の異変の連続に戸惑う面々。しかし―――――

 

「ううん、大丈夫」

「今はただ、静かに」

 

二人の駆逐艦は、落ち着いた様子でそれに答えていた。

 

 

////////////////////////

 

 

涼月達が目指していた場所。それはショートランド泊地。

『大湊勝利の乙女達』がアイアンボトムサウンドにて行った作戦を含めて、

これから行われる『鉄底海域解放作戦』のために、続々と艦娘達が集結している。

涼月達が到着したのは夕方頃であった。

 

そんなショートランド泊地の一角に佇む建物の中で、とある会議が行われていた。

その面々はそれぞれが『重鎮』とも言える面々である。

 

呉鎮守府で秘書官を務める長門とその補佐である陸奥、

トラック泊地の最高責任者である大和とその補佐である明石、

大湊提督府の秘書官を務める叢雲。

 

「まず現状を確認したい。叢雲秘書官、聞かせてくれないか」

「叢雲でいいわよ。貴方の方が年齢的には年上なんだから」

 

やりづらそうにため息をつきながら、叢雲は現状を説明し始める。

 

「まず私達の任務、アイアンボトムサウンドでの飛行場姫と輸送船団の撃滅は完了。

 被弾した艦はいなかったわ。でも一つ問題が発生した」

 

浸食海域。そう名付けられた真っ赤な海は、そこを中心として段々と広がっているらしい。

それは叢雲達の報告とつい先ほど到着した、

護衛艦隊の偵察部隊からの報告を照らし合わせた結果によるもの。

 

「それに厄介なのがその浸食海域の特性よ」

「あ、それについては私が」

 

叢雲の言葉を遮るように明石がすっと右手を上げる。

その反応に叢雲も納得したのか明石に発言を譲った。

 

「叢雲さんの報告では被弾なし、とのことでしたがそれは本当です。

 艤装のどこにも砲撃で受けた傷は見当たりませんでした。ですが……」

 

そこまで言って言葉を濁す明石。それに対して続けてくれ、と合図する長門。

 

「急速な老朽化があったかのような損傷が艤装の各部に見られました。

 それが浸食海域に呑まれたという報告を受けている叢雲さんと五十鈴さんの艤装です」

「急速な老朽化か……」

 

頭を悩ませる長門。アイアンボトムサウンドの作戦は成功したとはいえ、

原因不明の赤い海は艦娘の艤装を破損させる。これでは逆に侵略されているようなものだ。

液体、しかも海という地球の7割を占める物体の一部を切り取るなど出来ない。

 

「悩んでいても仕方のないことなのかもしれない、が」

 

この作戦は更なる海域の解放による、一般的な輸送路を確保するためのものだ。

しいては物資の少ない国同士の架け橋を作るための作戦であり、

自らを故郷とする国を存続させるためには絶対に必要な作戦である。

 

だからこそ成功を確実にするために、

呉鎮守府の提督と大湊提督府の提督が共同で立案され、

実に3つの基地から艦娘がこのショートランド泊地に集結している。

当然大本営からも承認を受けており、

その間の呉や大湊は横須賀や舞鶴の鎮守府に所属している艦娘を割いて配備されている。

そもそもこの作戦にこれだけの戦力を投入することを承認した大本営も、

かなりの期待をしているとみていいだろう。

 

だからこそ退くわけにはいかず、かといって進むこともできない。

浸食海域の特性上、何もしていないのに沈没という事態があり得るからだ。

それに原因究明の為には既に浸食されている、

アイアンボトムサウンドに向かわなければならない。

そんな任務、いったい誰が請け負ってくれるというのか。

長門の頭の中に『捨て艦戦法』などという文字は初めから存在しない。

 

静寂の中、扉がノックされる。

この空気を換えるにはいいだろうと、皆の同意の元長門は中に入ることを許可した。

 

入ってきたのは、地につきそうな程長いポニーテールを垂らした、一人の少女。

本来ならそこにいないはずの者の姿に、叢雲が驚愕する。

 

「綾波型駆逐艦一番艦、綾波です。この度、大本営代理として参りました」





遅くなりましたが、年内に間に合った、といえば間に合った程度でございます。

今回を含めた最終章からは、文章の書き方ががらりと変わってます。
(主に一人称視点の撤廃)

前置きはこの程度にして。

久々でお忘れかも、ですが、
この作品では如月が轟沈していません。

詳しくは第一章 第十話『風に揺らぐ彼岸花』を参照。
自問自答も終わり。のんびり、楽しんでいってね。

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