艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~ 作:kasyopa
第三水雷戦隊、出撃回。そして……
アニメの出撃する場所の名前解らんぜよ。
第三話『花鳥風月』
翌日、私達は出撃の準備を整えていた。
任務の内容は鎮守府近海の哨戒。敵と遭遇した場合出来るなら撃滅すること。
「それにしても提督も着任の翌日に出撃なんて無茶言うっぽい」
「あはは……そうだよね」
「私は構いませんよ。ただ皆さんに迷惑を掛けないように出来るかどうか」
「そんなことないよ! 寧ろ私の方が足引っ張っちゃいそうで不安なんだから!」
「そうそう! 昨日の演習でも私達よりずっと腕前は上だったし!」
出撃の為カタパルトに移動しながらも話していると、
既に配置に着いた三人の艦娘の姿があった。
「遅いぞー三人とも」
「あ、川内さん、神通さん、那珂ちゃんも」
一番遠い所に神通さんの姿があり、その隣には瑞鶴さんと同じ髪型をした人が。
更にその隣にはお団子を二つ作った髪型の人が立っていた。
「初めまして。私は川内型軽巡洋艦の『川内』。よろしくね」
「よろしくお願いします。川内さん」
「私は、皆のアイドル『那珂』ちゃんだよ~! よっろしくぅ!」
「は、はい。よろしくお願いします」
前に進み出て手を差し出したのは川内さん。
なるほど、ネームシップという事は神通さんのお姉さんなのだろう。
差し出された手を取り、軽く頭を下げる。
そして那珂さん。軽快にウィンクを飛ばしてくるので、対応に困り苦笑い。
「それでは皆さん揃いましたね。第三水雷戦隊、出撃です!」
各自が進み出て、艤装を装着し勢いよく射出されていく。
「防空駆逐艦『涼月』、参ります!!」
最後に飛び出した私は艤装の装着後5人を追いかける様に速力を上げたが、
出たところで陣形を組むために速力を落として待ってくれていた。
「へぇ、それが秋月型の装備ね。中々カッコいいじゃん」
「長10cm連装高角砲です。高射装置も内蔵しているので対空防御であればお任せ下さい」
「うんうん。心強い子が入ってきて良かったよ」
陣形を組む前に私の装備に目を通して、ぽんぽんと肩を叩く川内さん。
彼女なりの緊張をほぐす為の思いやりなのだろうが、
哨戒任務とはいえ気が少し緩んでいないだろうかと心配になる。
「うわぁ、近くで見たけどやっぱり凄い装備っぽい!」
「ほんとだね。あ、魚雷四連装なんだ!」
「あの、夕立さん、睦月さん。艤装なら哨戒が後でも見せられますから」
「二人とも。今は哨戒任務の途中ですから集中して」
「「はーい」」
真新しいものが気になるのは解るが、今は哨戒任務中。敵との遭遇戦も考えられる。
辺りを見渡しながらも空にも気を配り敵艦載機や偵察機が居ないか探す。
こんな鎮守府近海で敵機が居たらそれこそ危ないどころの騒ぎじゃない。
本土空襲もあり得るから警戒しないと。
「12時の方向、敵艦発見! 駆逐艦3、軽巡1!」
「っ!」
神通さんの声で皆に緊張が走る。
「涼月さん、敵艦載機は大丈夫?」
「はい! 敵水上機、艦載機ともに確認できません!」
「解りました。皆さん単縦陣を取って、砲雷撃戦始めぇ!」
全員が深海棲艦に対して主砲を構え、砲弾を放つ。
砲弾は敵駆逐艦に直撃。続いて背部の魚雷を取り外し腰部の艤装と連結させ魚雷を放つ。
魚雷を放ち終わった後は発射管を再び背部に戻して砲撃。
昔は手間取っていたが今では慣れたものだ。
こちらの砲撃の合間を狙って敵艦も砲撃を行ってくる。
現在の陣形は単縦陣。敵の殲滅を優先した陣形故回避も難しい。
因みに私は最後尾に居る。
「きゃぁっ!」
「睦月さん!」
睦月さんの傍で水柱が立つ。もしかしたら魚雷かもしれない。
「大丈夫、至近弾だから」
至近弾という事は魚雷ではない。損傷も少ないようで胸を撫で下ろす。
そんな私を見て心配させまいと笑顔を作る睦月さん。その顔は少し引きつっていた。
いつも陸だと明るい彼女も怖いのだ。ここは生きるか死ぬかの瀬戸際なのだから。
「艦隊戦でも、守って見せます!」
こちらの気を引かせるように連装砲を連射させる。
その性能は多少と言えど睦月さんや夕立さんの装備する12.7cm砲よりも高い物。
敵深海棲艦はこちらを驚異に思ったのか徐々に砲撃を集中させてきた。
多くの水柱が上がるも先行する神通さんがうまく艦隊を誘導し、かわしていく。
「まだまだやれます、次発、てぇー!」
「涼月さん!」
「大丈夫です! 神通さん達は今のうちに魚雷を!」
最後尾である私に砲撃が集中すればその分他の人に余裕が出来る。
当然と言っては何だがこの10cm砲では決定打に欠ける。
駆逐艦や軽巡洋艦の決定打と成る兵装は魚雷なのだ。
敵軽巡を狙って更に砲撃。その放たれた弾丸は相手の艤装を抉る。
「今です!」
「ええ! 魚雷、今!」
五人の放った魚雷は隙だらけの軽巡洋艦と随伴艦である駆逐艦を狙い直撃。
弾着の水柱よりも大きな爆発を上げながら水底に沈んでいった。
再び空に注意を向け敵艦載機を探るも見当たらない。
辺りを見渡すも他の敵艦の影はなかった。
「今回も生き残れましたね。良かった……」
「涼月ちゃーん!!」
「うわぁっ?!」
本当の意味で胸を撫で下ろしていると、睦月さんがいきなり胸に飛び込んできた。
海上なので倒れるわけにはいかず、何とか足を引くことで体勢を立て直す。
何事かと思いそこには満面の笑みでこちらを見ていた。
「私やったよ! 初戦果だよー!」
初戦果。その言葉を聞いて理解する。睦月さんは実戦経験がほとんどないのだと。
その意味を噛み締めながら私は彼女の頭を優しく撫でる。随分と先輩である筈の彼女を。
「むー! 睦月ちゃんばっかりずるいっぽいー!!」
「きゃぁっ?!」
横から飛び込んで来る夕立さん。後一歩で倒れるところで踏ん張った。
長身であることに感謝しながらも、二人の体温を感じる。
ふと視線を前に戻すと微笑んでいる神通さん、やれやれと表情を浮かべる川内さん、
少し不機嫌そうな那珂さんの顔があった。
「さあ皆さん、母港に帰りましょうか」
「そうですね。睦月さんの初戦果のお祝いもありますし」
「何言ってんの」
川内さんの言葉に少しばかり気が緩み過ぎたかと反省する。
謝罪の言葉を述べる為に頭を下げようとすると、睦月さんがこちらを向いていた。
「涼月ちゃんの歓迎会、まだやってないもんね!」
「そうそう!」
再び顔上げる。今度は皆が私に向けて笑顔を飛ばしていた。
「……はい!」
ここでも同じように素敵な人達が居る。そして私もその中に居るのだと理解した。
・
・
「「「「「「カンパーイ!」」」」」」
甘味所間宮で、第三水雷戦隊の面々の声とコップ同士が鳴り響く。
私達以外には誰もおらず、いわゆる貸切状態だ。
そして私を含めた全員が食べているのはもちろん特盛餡蜜。
「改めまして呉鎮守府及び第三水雷戦隊にようこそ!
那珂ちゃんから歓迎の歌を歌っちゃうよ!」
司会の様な役割を請け負っているのは那珂さん。
かなりテンションが上がっており、そう言う性格なのだろうと解釈する。
「ごめんなさい、妹が……」
「いえ。慣れてますから。泊地でもこんな人が一人いたので」
誰とは言いませんが。
「まぁ那珂はこういう子だから勘弁してやってよ」
川内さんが悪戯に笑顔を浮かべる。
横に視線を送ると割と乗っている夕立さんと、苦笑を浮かべる睦月さんがいた。
この艦隊ならうまくやっていけそうだ。
そう思ってグラスに口を付けた時、引き戸が開き誰かが入って来る。
長い綺麗な黒髪。長身で頭には電探と思わしき刺々しい装備。
肩出し、へそ出しと露出の激しい服装だが、どことなく大和さんの服装と似ていた。
「な、長門秘書艦!?」
彼女の姿を見た皆は空気が一変したかのように敬礼し、私も遅れながらも敬礼をする。
秘書艦。提督の側近である存在で提督からの言葉や作戦を伝達する、
重要な役割を持っている艦娘の事。
私達の泊地では提督は居らず大和さんが基本的な伝令を下しており、
明石さんがその補佐を行っていた為秘書艦は存在しない。
「すまないな、折角の歓迎会を邪魔してしまって」
「いえ。それより何かありましたか」
「ああ。言い辛い事なのだが……」
辺りを見渡してから謝罪を述べる彼女は、
神通さんと軽い会話をした後私に視線を合わせた。
「駆逐艦『涼月』だな」
「はい。秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』です」
「転属の書類に誤りがあってな。提督曰く正確には『第二支援艦隊』だったそうだ」
「第二、支援艦隊ですか」
「今すぐにとは言わない。ただ出来るだけ早く移ってくれると助かる」
「待ってください!」
要件だけ伝えに来たのか立ち去ろうとする長門さんに睦月さんが制止の声をかける。
その目には涙が少し浮かんでいた。
「『ここ』じゃ駄目なんですか!? 今からでも間に合わないんですか!」
「……駄目だ」
「どうして! 提督に言えばまだ……!」
「それが提督の意思だ。第三水雷戦隊には既に新たな駆逐艦が配備予定になっている。
涼月はそれまでに第二艦隊へ移って貰わないといけない」
「「「「「……………」」」」」
ぴしゃりと閉められた扉。
空気は先ほどとは打って変わって重苦しい物へと変質していた。
それを見かねた私は大きくため息を吐き、皆の注意を引く。
「皆さん何か勘違いしてませんか? 私は別の艦隊に行くだけ。
特に睦月さんと夕立さんなら毎日の授業で当たり前のように会えるじゃないですか。
それなのに今生の別れの様に事を重く捉えないでください」
「さぁ皆さん頂きましょう。私の『着任祝い』はまだ始まったばかりです」
「そ、そうだね! なんかごめんね。変なこと言っちゃって」
涙をぬぐい特盛餡蜜にがっつく睦月さん。
「アイドルはこんなことでめげない! しょげない! へこたれない!!
続きいっくよー!」
再び鳴り響く那珂さんの歌声。なるほど、確かに舞風さんに似ている。
こうして私の歓迎会は晩御飯前まで続くのであった。
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月明かりが眩しい夜。
私は眠れず部屋から抜け出し、港の端で月を眺める。
秋月型三番艦。
つまり私には少なくとも二人の姉が居て、
長女の名前はネームシップに当たる『秋月』姉さんなのだろう。
「第六十一驅逐隊……」
月明かりに照らされながら目を落とし、持ってきたペンネントの文字を読み上げた。
これが一体何を明確に意味しているかが未だに解らない。
ただ、解るとすればこれと同じ物をした艦娘がどこかに居るかもしれないという事。
そして私はこの艦隊の名を背負っているという事。
「(磯風さん。少しだけ解った気がします)」
両手で頬を叩きペンネントを締める。
私は強くならなければいけない。今よりもずっと。
あの時決めたんだ。私は強くなって大和さんの護衛艦として彼女を守ると。
「辛気臭い顔してると思ったら、急にかっこよくなっちゃって」
隣に気配と足音。
視線を上げるとそこには川内さんの姿があった。
「川内さん、トレーニングですか?」
「ま、そんな所かな。夜になるとテンション上がっちゃってさー!
なんていうの? こう体の内から湧き上がってくる情熱みたいな?」
夜こそ私の生きる場所と言わんばかりの彼女の話に思わず笑いがこぼれてしまう。
しっかりしてる人かと思ったけど、こんな一面を見られるとは思ってもみなかった。
彼女は視線を落として私と目を合わせる。
「ねぇ、涼月はさ。夜って好き?」
「好きですよ。特に秋の夜は」
「それって、名前から来てるでしょ」
「まったくその通りです」
言葉を交わし笑い合う。
最初は抵抗を覚えたけど、こんな気軽に話せる人もいいかもしれない。
と、川内さんが月を見上げる。
私も座ったままでは失礼なので立ち上がることにした。
「一度だけ聞かれた事があってね。『どうしてそんなに夜が好きなんだ』って」
「……それで、どう答えたんですか?」
「好きな物は好きでいいじゃんって。
好きなことに理由はいらないって言ってやったのさ」
予想外の回答にきょとんとする。
もしかしたら凄い答えが返ってくるのではないかと身構えてしまうほどだったのに。
「何鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるの。
あ、もしかしてもっと真剣な答えが返ってくるって思ったでしょ」
「ええ。まぁ、はい」
「ないないない! そう言うのは私の性に合わないし」
「でも実際の所、それが正しい答えだとも思ってない私が居るんだよね」
「………」
「ごめん、今の無し。忘れて」
じれったいかのように頭をかく川内さん。
なんというか、うまい答えを導き出せずにいるようなそんな様子。
私はそんな彼女に向かって口を開く。
「私は嫌いじゃありませんよ。好きな事に理由はいらないって」
「へぇ、意外。真面目なアンタなら嫌いだと思ったのに」
「楽しい事、好きな事、それらは考えるよりも感じる事の方が大事だと思います。
その点では川内さんの回答は非常に的を射てるかと」
「嬉しい事言ってくれるじゃん」
嬉しそうに笑う彼女は、ふと思いついたように握り拳を出してきた。
「短い間だったけど、ありがとう。涼月のお蔭であの子達にも自信が付いただろうし」
「いえ。全てはそれまで支えてくれた皆さんのお蔭です。ありがとうございました」
拳同士を軽く当てる。
こうして第三水雷戦隊としての私の役目は終わりを告げ、
新たに第二支援艦隊として新たな一歩を踏み出すのであった。
アニメでは若干夜戦仮面してたけど、こちらではかっこいい川内さんが書きたかった。
そして那珂ちゃんはアイドル路線だったけど、アイドル気質からの明るさが書きたかった。
神通がしっかりと教え、陰で川内がカバーし、全体をムードメーカーである那珂が整える。
素晴らしい艦隊だと思いますよ、アニメの第三水雷戦隊。(第二話参照)
で、当の主人公、第二支援艦隊に異動。
誰が居なくなるかは……次の話で分かります。
簡易的な自問自答コーナー
Q.長10cm砲って12.7cm連装砲より性能高いの?
A.比較すると、ほとんどの性能が1.4倍という記録があるのですが、
砲身の耐久が低く3分の1ほどしか持ちません。
なので砲身自体を取り換え出来るわけです。
Q.魚雷って真面目に強いのです?
A.戦艦の主砲の作薬量普通に超えてる。当たれば強いとはまさにこれ。
Q.軽巡1に駆逐3? この編成って何?
A.ゲームをやると解るのですが、1-1(最初のステージ)のボスの最強編成です。
単艦キラ付でこれが出ると割と萎えます。
Q.正直転属させるなら第三水雷戦隊に居る必要性ってある?
A.睦月と夕立の下地作りと、今後の展開に関わる部分ですので伏せます。
Q.誰とは言いませんが、って誰?
A.プロローグ・プロローグ2を読めば大体解りますが『舞風』さんです。
Q.アイエエ! 川内ダケッテナンデ!
A.他の人達は全員寝てます。アニメ第二話の導入部分な状態。