艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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後編と言いながらも1週間開く事もあります。
先週期待されていた方々すみません。


第十七話『闇夜に烏雪に鷺』後編

Side 涼月

 

 

私達は幌筵泊地で渡してもらった救難用の船『大発』をけん引しつつ、

濃霧の中を突き進んでいく。なおこの船はもしもの時に廃棄してもいいという事を聞いていた。

海の水とは別に艤装や服が濡れて不快感を覚える。霧もいわば水の粒。

防水加工がしっかりしてあるとはいえど濡れれば体温と合わさって蒸し暑さも感じる。

 

第一艦隊の人達とは既に分れており、警戒態勢に入っていた。

幌筵泊地からの情報によれば、キス島は無人島で管轄外でもあり施設も特にない為、

今では完全に放置されているらしい。

そんな島から旧式の暗号による救難信号とは、出来た話である。

因みに私達が出撃することになった大きな理由の一つとして、

幌筵泊地の戦力があまりに不十分という事があった。

あの場所は大湊提督府よりも深海棲艦の出現率が低く、

言ってしまえば深海棲艦の動向を探る為に、

少数の駆逐艦と揚陸艦で構成された場所らしい。

 

その分泊地の施設も同じ泊地であるトラックとは全く違って、

民家を改造した簡易的な旅館の様な施設であった。

防寒には優れた設計だそうで生活には不自由がないとそこの提督は言っていた。

 

「さぁもうすぐ上陸よ。発信地はもう特定済みだから少し歩く事になるわ」

 

長い槍を持った叢雲さんが皆の気を引き締めるかのように皆に伝達する。

情報漏えいを避けてか、泊地の提督は叢雲さんにしかそういった情報を渡さなかった。

その時私達は別行動でその泊地の揚陸艦であるあきつ丸さんから、

大発の扱いなどについて説明を受けていたのだ。

 

この作戦が吉と出るか凶と出るか。私には解る筈もなかった。

 

 

 

浜辺について海沿いに歩く。どうやら発信源は浜辺のどこからしい。

大発は上陸させて隠しておいた。引き摺った跡があるので見つかるのも時間の問題だろう。

相変わらず濃い霧が視界を悪くする。辺りを見渡しても遠くまで見通すことは出来ない。

ただ、赤茶色に錆びて廃棄された船を偶に発見することが出来た。

いつの頃に使用された物かは解らないが、深海棲艦が現れてから海路が封鎖された為、

それ以前の船だろうという事は予測する事が出来た。

 

「それにしても濃い霧ですね……」

「無駄口叩くなら歩きなさい。ここはいわば敵地も同然なんだから」

「すみません」

 

口を開けば体温を奪わんと冷たい霧が流れ込んでくる。

時折顔を拭いながらも前進を続ける私達。

 

「見つけたわよ」

 

濃い霧の先。一隻の真新しい船が見えた。

薄い灰色の船体の艦首部分には『117』の数字が記されていた。

小口径の単装砲が一つ。

他には白い円柱状の物体がくっついたミニガンとも見て取れる銃が付いている。

艦橋は低く、その上にはレーダーとも思える装置が高々とそびえていた。

威厳すら感じるその姿だが、船体の一部には大きな穴が開いており、

所々錆ついていて誰かが管理しているわけではないようだ。

 

「なんだこれ、イージス艦じゃねーか」

「随分と時間が経ってるみたいですね」

「………」

 

深雪さんや白雪さんがその船体を見て思っていることを口にする。

 

「どうしてこんな所にイージス艦が」

「……大分前に逸れて難破したとか」

「でもそんな、特に今は深海棲艦によって海路は塞がれて」

「秋月の言う通りよ。でも初雪のいう事にも一理あるわ」

 

秋月さんと初雪さんの言葉を纏める叢雲さん。

確かこのイージス艦の装備を持ってしても、深海棲艦を撃破することは不可能だった筈。

それは歴史が証明してくれた。私も実際に海自の人達と行動を共にしたわけではないが、

足柄さんの授業で何回か聞いた事がある。

人類は当初、自分達が保有していた兵器で深海棲艦を排除しようとしたと。

しかしそれは大敗に終わり海路を明け渡すことになったという事を。

 

もしかしてこの船はその時に流れ着いた物なのだろうか。

そしてこの艦には本当に生存者が居て、救難信号を送ったのではないだろうか。

 

「叢雲さん、ここで間違いないんですね」

「ええ。つまりまぁ、機関が生きてるってことでしょうね」

「ならもしかして人が」

「……そうとは限らないわ。念には念を入れて行きましょ。

 私と白雪はここで見張りをするから、深雪と初雪、秋月と涼月で分れて捜索しなさい」

 

確かに水上電探も装備している彼女達が外で待ち敵の動向を探るのは得策だと思う。

それに狭いであろう船内を4人でぞろぞろと移動するよりも二手に分かれた方が、

効率もいいだろう。

 

「初雪達は発信装置の捜索、秋月達は生存者の捜索を行いなさい」

「解ったよ」「はーい」「「解りました」」

「30分後にここで合流。報告はその時聞くわ。遅れたら置いていくから。

 いい? 何度も言うけどここは敵地よ。気を引き締めなさい」

 

艤装を装備したまま入ろうとした私達。しかしそこで一つ目の困難に遭遇する。

 

「あ、あらら?」

 

先行した初雪さんと深雪さんは難なく入っていったものの、

秋月さんの艤装が船体にぶつかり非常に動き辛そうだ。

私の艤装も彼女と同型なので同じような目にあってしまうだろう。

しかしもしもの事を考えては提督に貰った拳銃だけでは不安な事もある。

だからこそ初雪さんと深雪さんは艤装を装備していったのだ。

 

因みに艤装を装備していても陸上での行動が大きく低下するということはない。

寧ろ手に持つタイプの装備が多い場合は通常の拳銃よりも、

口径の大きな銃を使っているのも同じ。それにいつも使っているものと同じなので、

扱いも心得ている為心強いのだ。

 

「何してるのよ。艤装が邪魔なら置いて行けばいいじゃない」

「で、でも武器が」

 

手に持つタイプは艤装に引き金が付いているので当然ながら単体でも使用可能だ。

しかし艤装に装着されている連動式の物は取り外す事が出来ても発射は不可能。

このままではまずい。

 

「なら大丈夫よ涼月」

 

そう秋月さんは笑顔で答えると、艤装を外して手ごろなところに置く。

すると彼女の長10cm砲がひとりでに動き出し、秋月さんの傍まで歩み寄った。

その光景はまるで島風さんと共に島の調査をした時の……

 

『私にとっての英霊は、長10cm砲ちゃんかしら』

 

そこで私は提督府に向かう道中で秋月さんが言った言葉を思い出す。

そうか。この子達が彼女のいう『長10cm砲ちゃん』なんだ。

 

「思い出した?」

「はい。まさかこんなところで見受けるとは思いませんでしたが」

「ほらほら早く行きなさい。時間ないんだから」

「「はい!」」

 

叢雲さんに急かされて私は急いで艤装を外し、秋月さんと船内に入った。

 

 

Out side

 

 

「……さて、私達は」

「敵艦が来ないか警戒することと、第一艦隊からの連絡待ち、だよね?」

「まったく、アンタは理解が早くて助かるわ」

 

叢雲の言葉を遮るように白雪が答える。それを怒ることなくむしろ有難がる彼女。

 

「私と叢雲ちゃんの仲でしょ?」

「そうね。随分時間が経っちゃったけど。

 あの頃の身勝手で我儘な私とは違うのよ。色々と」

 

あの頃。

それは叢雲が提督と共に大湊に着任した頃の事。

まだ艦娘という存在が世間一般に認知されていない頃の事。

 

白雪は知っている。いや、白雪も知っていると言うべきか。

初期艦とも呼べる役目を担い提督と共に大湊にやってきた彼女の事を。

まだ呉から戻ってくる前の叢雲を。

 

「過去を引きずっても何にもならないよ?」

「枷になるならね。でもどうしようもないのよ。失敗は成功の母って言うでしょ」

「………」

 

目を閉じて呉の事を思い出す叢雲。

その『失敗』と言うものがどれだけ彼女と言うものを変えたのかは想像に難くない。

結果として彼女がその『失敗』をバネにしてまでこの実力にまで上り詰めた。

 

哀しみを背負う、とでも言うべきか。

叢雲の背中は非常に大きな物であったが、常にその背中は泣いているように見える。

白雪にとってはそれが心配な事であった。

 

「……でも、あんまり失敗もするもんじゃないわ」

「……うん。そうだよね」

 

吐き出された小さな声は濃い霧に消える。

しかしその言葉を聞き逃すことなく白雪は答えるのであった。

 

 

Side 初雪

 

 

めんどくさい。今日は部屋でゆっくり布団に入ってゲームでもしようと思っていたのに。

意気揚々と走る深雪の背を追って艦内を静かに走る。

 

緊急出撃で第一艦隊、第二艦隊まで酷使されての大規模出撃。

最近は遠征続きだったりスノーバスターの練習だったりと、

全然二次元に入る事ができなかった。

今日こそはと思って電子マネーの準備までしたのにこの有り様だ。

 

「……はぁ」

 

常日頃から引き籠ってるっちゃ引き籠っているけど、

出撃とかで体力が無くなって動けなくなったりするとそれこそめんどくさいから、

部屋で適度にトレーニングはしている。って言ってもゲームだけど。

 

「なんだよ初雪、久々の実戦投入だぜ?」

「……別に私達が戦わなくても第一艦隊だけでいいんじゃ」

「甘いなぁ。駆逐艦には駆逐艦しか出来ない仕事があるんだよ。

 戦艦とか重巡じゃこんなに走れねーし」

 

確かにゲームでも力の強いのは大抵動きが鈍い。

MMOだと案外そうでもない場合があるけど、ターン性とかのゲームなら顕著に出てくる。

たまに火力と速度を合わせたのもあるけど、その場合装備できる物が軽装備とかで、

どうしても防御力が弱くなる。

 

駆逐艦なんて言う名前だけど戦艦級とまともにやり合えば軽くムリゲーだ。

重巡ぐらいだったらそれなりで落とせるかもしれないけど。

 

そういえばと、叢雲が涼月と演習してた時のことを思い出す。

確かあの時はギリギリ叢雲が勝ったっけ。艦娘同士の演習は見る分なら面白い。

特にうちの演習はペイント弾で直接当てるから、

TPSとかMMOのPvPを観戦してるようなものだ。

 

そんなことを考えていると深雪がある扉の前で足を止めた。

イージス艦には私達も乗ったことがあるから、大体の位置は把握できる。

寧ろ船の中枢機関が集中してるから馬鹿でも探せばすぐ見つかるだろう。

 

床は何故か黒い液体で汚れている。一瞬オイルかと思ったけどそうじゃない。

深雪も気付いている。これは深海棲艦独特の体液というか粘液。

言うなら魚の体表粘液みたいなものって言われてる。

 

「乗り込むぞ」

「……はぁ」

 

今の彼女はさながらスパイか警察かそんな気分なんだろう。

深雪は特撮物とかヒーロー物が好きだから、そう言うのにも興味があるんだろうか。

 

ドアを勢いよく開けて部屋に乗り込み連装砲を構える。

しかしそこには人っ子一人いなかった。

 

「なんだよ生存者すらいねーのか」

「……とにかく捜索」

 

何かと物が多いから影に隠れてる可能性もある。

深海棲艦が此処を利用したのはほぼ確実。つまりこれは罠。

それでも捜索しなくちゃいけないことはある。

暗号表。今こそ暗号は変ってるけど今後利用されて同じ事が無いとも限らない。

それこそ私の自由時間が減る。それは嫌だ。

再度警戒しながら私達は床に付着した跡を二人で辿る。

 

その先には、粘液で汚れてしまった暗号表が落ちていた。

 

「深海棲艦はいねぇな。全く、変な事しでかすぜあいつらも」

「……早く戻ろう。叢雲に報告」

「おぅよ。さて、出くわさないように願いますかね」

 

私達は急いできた道を戻るのだった。

 

 

Side 涼月

 

 

私達の前をゆっくりと二人(?)の連装砲ちゃんが先行する。

手に持つ事も出来るのだがその場合は抱きかかえる形になる為、

自分の持つ武器である銃を持つ事が出来ない。

 

直ぐに撃てるように構えながらも、足音を立てない様に船内を進んでいく。

秋月さんも同じようにオートマチック式の銃を手にしていた。

 

深海棲艦は重巡以上になると人型を取り陸上での活動も可能になる。

それを見越して叢雲さんは警告していたのだ。

いくら軍事用の船とは言えど部屋の数も多く見通しも悪い。

敵が潜伏している可能性もある為、警戒するに越したことは無い。

 

一つ一つ部屋を調査するも生存者は愚か、

私室などと思われる場所にすら生活感は見られなかった。

 

そんな中、内装が豪華な一つの広い部屋に辿り着く。

 

「ここは艦長室でしょうか」

「そう、みたいね」

 

ハンガーにかけてある服を見て秋月さんは答える。

確か海自や提督には階級と言うものがある。

詳しい事は解らないが、提督の来ている服によく似た白い服がそこにかけてあった。

 

「一応、何かないか探してみましょう。乗組員の名簿があるかもしれないし」

「解りました」

 

いかんせん情報が少なすぎる。

確かに何かメモの様なものが残っていれば何かしらの手掛かりになるかもしれない。

そう思い置いてあった机の引き出しを開ける。そこには一冊の手帳があった。

 

「手帳、ですか」

 

さっと中を見ると、日付の下に文章が続いていた。日によって長さはまちまち。

恐らくこれはこの船の船長、いや艦長の日記だろう。

試しに最も長い文章を読んでみる事にする。

 

『 12月8日

 

  制空権すら失った我々の空を取り戻したのは、

  運命と言うべきか、あの忌まわしき大戦の火蓋を切った艦と同じ名前を持つ、

  『艦娘』と呼ばれる少女達……いや、女性と言うべきか。

  彼女達は弓を引き絞り艦載機を発艦させ、迫り来る敵を打ち落とし、

  我々の科学力を持ってしても太刀打ち出来なかった深海棲艦を水底へ沈めていった。

  それも数隻などではない。数十隻もの数をだ。

 

  その時の光景を見て誰かが呟いた。「一航戦の再臨だ」と。

  大戦の火蓋を切った艦と同じ名を背負い、今度は英雄として我々の前に舞い降り、

  共に戦ってくれたのだ。これを伝説として語らずしてなんと語ろうか。

 

  暁の水平線作戦と称された、艦娘と海上自衛隊による共同作戦は成功をおさめた。

  しかし、この作戦の成功は単なる始まりに過ぎないだろう。

  ようやく我々が深海棲艦と同じ壇上に上がる事が出来た。

  それが彼女達と深海棲艦にとってどういった意味を持つのかは、私にはまだ解らない。

  ただ願わくば、共に競い合い互いが破滅を呼ぶ兵器と成らぬように。        』

 

一航戦。恐らく赤城さん達のことだろう。

しかし忌まわしき大戦とは何のことだろうか。

この世界は既に深海棲艦と戦っていたのだろうか。それとも……

 

「何か見つかった?」

 

秋月さんに声を掛けられて思考を閉ざす。

 

「はい。艦長の日記が」

「御手柄ね。……他に何もないようだし、戻りましょうか」

 

長居は無用。生活感が全く見られない今、生存者がいる事はほぼ有りえない。

それにもうすぐ叢雲さんが言っていた時間だ。私達は来た道を即座に戻るのだった。

 

 

 

私達が艦の外に出ると、既に初雪さんと深雪さんが居た。

 

「時間ギリギリよ。まぁいいわ。罠だと解ったし早く撤退しましょ」

「やはり、ですか」

「深雪たちが深海棲艦の粘液と思われる付着物を見つけたのよ。

 解ったらさっさと艤装を付けて」

「今はまだ電探に反応はありません。今のうちに早く脱出しましょう」

「「はい!」」

 

案の定罠と解り、大発は廃棄する事になった。

艤装を装備し直した私達は最大船速で島から離れる。

出来れば、敵と遭遇しないように願いながら。

 

 

Side ???

 

 

「暗号解読シテパラムシルゴト征圧シヨウト思ッテタンダケドナァ」

 

やっぱり小規模な所を潰しても何の面白みも無い。

あの時みたいに大規模な艦隊で突っ込んできて虱潰しに叩き潰すのも楽しいけど、

私としては対等に殴り合いたい。その方が『戦争』って感じがするから。

 

「マァデモ面白イ物ガ釣レタネェ……吟味シテミマスカァ。

 逃ガスモ殺スモサジ加減ッテネ」

 

そう言って私は誰も居なくなったイージス艦で一人、

面白そうな『それ』が去るのを眺める。

 

さてどうやって突破するのかな。この見え見えの罠を。




正直イージス艦の艦内など解るわけもなく……と思いつつ、
TRPGとかでよくある捜索系です。
真面目に艦これRPGでも使えるようなシナリオにしています。

調査中は特に何も起きず、長10cm砲砲ちゃんの活躍もありませんでしたが、
調べる事は調べたのでさっさと撤退する6人。大発は犠牲になったのだ……

色々と捜索に関してバラバラに行動してたので視点はバラバラ。
深海棲艦の粘液については鈴谷の発言やらアニメ12話の大井を参考にしています。
そしてとある艦長の日記。縦書きとかは有りません。むしろ作ってみたい。

思いっきりアニメで無視された、『伝説の艦娘』設定。
吹雪曰く、
「たった一艦隊で数十の深海棲艦に立ち向かい、完全勝利したと言われる伝説の艦娘達」
と言われる存在。
暁の水平線作戦とは一体何なのか、まだそれを知らぬ者。

イージス艦から眺める一人の影。こいつは一体何者なんだ……

PS 照月獲得の為にE-7必死でやっている提督です

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