艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

61 / 97
日曜日には間に合いませんでしたが、
それっぽい時間帯に更新です。

第一艦隊のほとんどの人の紹介。
提督のお孫さんが結構出しゃばってますが、これも意味があります。



第十三話『袖触れ合うも多生の縁』後編

Side 涼月

 

 

叢雲さんの後ろには五人の艦娘が佇んでいた。

身長を比べてみても叢雲さんより高く、

艦種が軽巡や重巡クラスなのだという事を理解した。

 

「提督。第一主力艦隊只今帰投しました。作戦は無事成功です」

「ああ、長期の反復出撃ご苦労だった。幌筵(パラムシル)泊地の提督には私からお礼を言っておくよ」

 

幌筵(パラムシル)島。聞いたことも無い島の名前だ。

響きは日本語でも金剛さんが使う英語のようでも無い。もっと独特な響きだ。

私は隣に座っている秋月さんにこっそり尋ねてみる。

 

「あの、秋月さん。幌筵島とはどこですか?」

「幌筵島はここよりもっと北の、オホーツク海に浮かぶ島よ。

 主力艦隊はそこから北方の深海棲艦を叩く為に派遣されていたの」

 

オホーツク海と言えば確かロシアと言う国が面している海だ。

そんな北の島でも深海棲艦が現れているとなると、艦娘への負担は相当な物だろう。

だからそんな北の大地にも泊地が設けられているんだ。

 

「ちぇっ。もうちょっと飛ばしてりゃ観艦式に間に合ったかもしれねーのによ」

「摩耶はもう少し警戒心を持った方がいいわ。最近は潜水艦が増えてるから……」

「はぁ、活発な姉を持つと大変ね。私も昔を思い出すわ」

「五十鈴はどちらかと言うと姉の立場だろう」

「姉として言わせてもらうと、日向はもうちょっと活発になって欲しいかな」

 

提督への報告をひとまず終えたのか、各自が思い思いの言葉を口にしている。

殆どが姉妹艦なのか彼女達は仲睦まじく見える。

確かにその服装も似た物があり五人の内の四人、二人ずつが同じ衣装を着こんでいた。

 

「いやいや、こうして食事会に間に合っただけでも良しとしよう。席に座ってくれ」

「「「「「はい!」」」」」

 

提督が間を見て口をはさむと、空いた席に第一主力艦隊の皆が座る。

先程やってきた叢雲さんも、提督のお孫さんを提督と挟む様に隣に座った。

 

「さてこうして皆が揃ったわけだ。観艦式も今まで以上に盛り上がり、

 第一主力艦隊の皆も全員無事に帰投してくれた」

 

提督がコップを上げる。私達もそれに応じて自分のコップを上げた。

妖精さん達が大急ぎで第一艦隊の人達の飲み物を用意していて少し面白かった。

 

「今宵は無礼講。艦隊、艦種関係なく皆で騒いでもらっても構わない。

 ただし、羽目は外し過ぎないように。それでは、乾杯!」

『乾杯!!』

 

こうして宴が始まった。

 

 

 

最初こそみな席について乾杯したものの、

食事会はバイキング形式で机に複数の料理が並べられている。

座る席は自由で、知らない相手にも積極的に交流できる形になっていた。

第一主力艦隊の自己紹介を省いたのも私が交流することを見抜いたものなのか、それとも。

 

私は飲み物で少し喉を潤してから料理を取りに行く。

 

「(まず誰から話しかけてみましょうか。と言っても相手も私の事を知らないわけですし)」

 

料理を取りながらも私は頭の中で誰から話しかけようか考えていた。

先程の短い会話から見るに、

深雪さんの様に結構活発な人も居れば、榛名さんの様に誠実な人もいる。

呉やトラックでの経験が生きればそれでいいのだが。

 

とにかく今は深く考える前にお腹をある程度満たしてしまおう。

ヒーローショーでかなり動いた上に、軽食しか取れなかったのでお腹が空いていた。

 

「よぅ秋月!」

 

適当な椅子に座って料理に手を付けようとしたところで、

思いっきり背中を叩かれる。その衝撃たるや敵戦艦の砲撃と間違えそうになるほど。

まだ料理を頬張ってはいなかったので口から吹き出すことは無かった。

しかしあまりの衝撃で咳き込んでしまう。

活気のいい声で雰囲気は深雪さんに似ているが声がまるで違う。

何事かと思って振り返ると、先程観艦式について話していた一人の女性がいた。

 

「ゲホッ、ゲホッ……」

「って、秋月じゃねーじゃねーか」

「は、初めまして……秋月型三番艦の涼月と言います」

「おう、アタシは『摩耶』様ってんだ。よろしくな、新人!」

「よ、よろしくお願いします」

 

深雪さんを更に活発にしたような人。身長からして軽巡、重巡クラスの艦娘だろう。

咽ていたのと雰囲気に威圧感を覚えて、私は思わずたじろいでしまう。

 

「なんだか、深雪さんみたいな人ですね」

「当然だろ? アイツはアタシの妹分だからな!」

「深雪さんの方がずっと先輩ですけどね」

 

摩耶さんの後ろから現れたのは眼鏡をかけた摩耶さんと同じ服を着た女性。

風格から脳裏に榛名さんが横ぎった。

 

「始めまして。高雄型四番艦の『鳥海』と言います」

「ご丁寧にありがとうございます。秋月型三番艦涼月です。

 つい最近配属されたばかりですが、よろしくお願いします」

「貴女があの呉で大活躍されたという……貴女の活躍は秋月さんから聞き及んでますよ」

 

やはり秋月さんからか。

しかし私の姿を知らないという事は活躍だけが独り歩きしているのだろう。

写真などそういう物は入手し辛いだろうから、自然とそうなってしまったのかもしれない。

 

「私はそこまで活躍はしていませんよ。トラックと呉の皆さんのお蔭です」

「呉、か」

 

摩耶さんがそう呟いて苦虫を噛み潰したような顔をする。

何かわるいことでもあったのだろうか。

 

「あの、私、何か気に障る事でも言いましたか?」

「いんや、アンタは知らなくてもいい。あそこにはちょっと嫌な思い出があるんでね」

 

そう言って豪快に肉を頬張る彼女。

まるで未練があるような、後悔のあるような顔だ。その感情を食欲で満たしている。

それを見て鳥海さんが私に耳打ちするのか顔を耳の傍に近づけた。

 

「涼月さん。第三艦隊の子達や第二艦隊の人達はともかく、

 今だけは第一艦隊の艦娘さんの前では呉という単語を出さないで欲しいの」

「えっ……」

「今日は無礼講と言っても、あまり良くない話は聞きたくないだろうから、ね」

 

そう言って顔を離す鳥海さんは理解しましたか? と確認するかのように、

にっこりと笑みを私に向け、私は静かに首を縦に振った。

追及するのはあまり良くない事だろう。

そしてこれが恐らく叢雲さんにも関係することなのだろうと察知した。

 

私が居た呉と言う土地。鎮守府で過去に何かあった。

私が知らない何かが。当然だ。あの場所で一体何があったのか誰も口にしなかったし、

そもそもあんな素敵な場所で悲劇的な何かが起こったかなど考えたくもない。

 

どうして私はそのことを知らないのだろう。

それは私が艦娘として目覚めた時、既にその悲劇が終わっていたからに他ならない。

闇とは違う暗い過去。吹雪さんも睦月さんも夕立さんも如月さんも恐らく知らないだろう。

昔から居たであろう赤城さんや長門さんは知っているだろうが口にしなかった真実。

それによってここに居る艦娘のほとんどが影響を受けた。

探求も過ぎれば悩み自らの毒に成るというのを実感する。

 

 

 

別の席では由良さんと第一艦隊の人が何か話し合っていた。

 

「由良、長い間留守にして悪かったわね」

「ううん。敵襲もなかったし、敵偵察機もここの所飛んできてこなかったわ」

「なら良かった。ここの提督府は第一艦隊を除けば対空要員は秋月だけだから、

 気が気でなかったわよ」

「なら大丈夫よ。今は二人目の防空駆逐艦が配属されているから」

 

そう言って私の存在に最初から気付いていたように、私の方へと視線を向ける彼女。

隣に立っている第一艦隊の人もつられて私の方を見た。

 

「あら、秋月のそっくりさんと思ったらそうでもないのね」

「注意してみれば、だけど。私も初めて見た時は見間違えたし……」

「あの、秋月型駆逐艦三番艦の涼月と言います。宜しくお願いします」

 

私は先手必勝と言わんばかりに頭を下げる。

 

「なるほど。そこんところはしっかりしてるのね。面白いわ。

 私は長良型軽巡洋艦の二番艦、『五十鈴』よ。宜しくね」

 

その口調からまるで大きくなった叢雲さんのように思えてしまう。

しかし外見はまるで違い、黒みがかった紺色の髪をツインテールにしていて、

白い服にこげ茶色のスカーフ、真っ赤なスカートとなんとなくそれが巫女服の様にも見えた。

 

確か由良さんも長良型軽巡洋艦だったはずだ。

しかしここまで容姿や性格が違うと姉妹艦とは思えない。

それにその制服の統一性の無さがその違和感を加速させた。

 

「あの、五十鈴さんと由良さんは姉妹艦、なんですよね?」

「当然じゃない。まぁ流石に血は繋がってないけど、正真正銘の姉妹艦よ」

「ふふふ。でも始めて見た子は皆驚いていたから仕方ないと思うけど?」

「確か秋月が配属も同じ反応してたわね」

 

私の質問を摘みにさらに会話が盛り上がる二人。

こう仲睦まじいような、女友達の様なものを目の当たりにすると、

金剛さん達と一緒にお茶会をした時のことを思い出す。

確かに彼女達は正真正銘の姉妹艦のようだ。

 

「ところで貴女、叢雲とタイマンで演習したそうじゃない」

「はい。あと一歩のところで負けてしまいましたが」

 

そう言う私に向かって一歩踏み込み、息が掛かる距離まで顔を近づける彼女。

 

「気を落とさなくても大丈夫よ。あの子はこの提督府で最強の存在だから」

「最強……ですか?」

「そうそう。だから間違ってもあの子の事や提督絡みで怒らせたりしない事。

 秘書艦は伊達じゃないの。当然私もだけど」

 

五十鈴さんの警告。それは叢雲さんに対しての物であったが、

加えて五十鈴さんに対しての警告でもあった。

それは昔の瑞鶴さんの様に自らの立場を鼻にかけたようなものではない。

こちらの身を案じて言っている事。

そう思わせる風格から彼女も相当な実力の持ち主なのだろう。

 

顔を離してひらひらと手を振りながら由良さんの所に戻っていく彼女。

マイペースなのか真面目なのか、良く解らない人ではあったが悪い人ではない。

実感するまで教えてくれない人もいるが、彼女の場合は事前に警告しておく人なのだろう。

またはそうなってしまわない為の抑止力なのかもしれない。

それが一体何を意味するのかは、今の私では当然解る筈がない。

 

そんな悩みが晴れないまま時は過ぎ、食事会は終わりを告げるのであった。

 

 

/////////////////////////

 

 

食事会が終わり私は一人浴場に来てシャワーを浴びていた。

鎮守府の入渠ドックと同じ役割を離しているが、

全面タイル張りで大きな浴槽が一つあるだけの造りであった。

 

当然バスタオルなどは纏っていない。

一々シャワーなどで濡れていては取り換えるのが大変で、

浴槽にタオルを付けるなどもってのほかであった。

 

第一艦隊の人達と交流する事が出来たが、

特に体格の大きい二人の艦娘には話をする事が出来なかった。

彼女達は提督と何か話していたり、

叢雲さんと話していたりと割り込む隙が全く無かったのだ。

 

髪を電さんの様に後ろで括っている人はまるで宴会の様に上機嫌であったが、

おかっぱ頭の人は落ち着いた物腰で、まるで長門さんと加賀さんを合わせたような雰囲気であった。

体格や身長からして重巡クラス、いや戦艦クラスだろう。

服装も巫女服の様な上衣に茶色のスカートと少し質素な物であったが、

逆にそれが彼女達の風格や威厳を増させていたようにも思える。

 

「……あの人達も、呉に何か思う所があるのでしょうか」

 

どれだけ大型の艦種であっても元をたどれば戦いを知らない少女や女性である。

 

『今日は無礼講と言っても、あまり良くない話は聞きたくないだろうから、ね』

 

鳥海さんの言葉が脳裏を駆け抜ける。

つまり今日くらいは忘れたい出来事なのだろう。

そんな悲劇を喜劇と捉える事が出来るのであれば、その人は狂っていると思う。

機転が利くという話ですらない。

 

そして呉の提督も一切そのことについて公言することは無かった。

私と一対一で話をする時ですらその話題に触れることは無かった。

つまり教える必要性どころか私達に悪影響を及ぼしかねない事件なのだ。

 

「私は……それでも……知りたい、ですね」

 

無知は罪。知らぬが仏と言うがそれは私は言い方の問題だと思う。

私は前者の方が強い物だと思っている。

こうやって赤城さんの『定めの軛』を理解し、妖精さん達を知って、

私の考え方や思いは大きく変わった。

だからこそもっともっと、悲劇でもいいから知りたかった。

それによって何かを打開する事が出来るのであれば、喜んで力になりたい。

自分だけで悩むという苦悩は他の何よりも辛いから。

 

あの月の下で大和さんに打ち明けた時、共に強くなろうといわれた時、

私御心がどれだけ晴れたか。

その開放感を皆に知らせたい。声を大にして言いたい。

苦悩も越える事が出来れば最高の幸せともなるのだと。

 

「しかし今の私では足りませんね。まず自分の問題から片付けなければいけません」

 

『もう少し大局的に考えてみて。私達が何の為に戦っているかを』

 

あの時の秋月さんは少し辛そうな顔をしていた。

私が何か、別の者に見えてしまったのかもしれない。

艦娘ではない何か。そう、戦闘を欲する狂戦士の様に。

守る物は仲間だけ。仲間を救う為なら自らを捨てる自己犠牲の心。

 

なら仲間が失われた時私には何が残るのか? 何も残らないのではないのだろうか。

戦う理由も生きる理由も、仲間に依存している私では。

私の信じている者は共に命を預けられる仲間だけ。

なら秋月さんを含めるあの人達は何を信じて戦っているのだろうか。

提督? 仲間? 帰る場所? 私には解らない。

 

「私には解りません……命を預ける相手以外に信じることなど……」

 

大湊という環境が私を縛り付けている。

いつも通りに自由に動いていると思っていたが、何か後ろで手引きされているようだ。

今までの私が間違っていたと言わんばかりに。

 

「考えても仕方ありませんね……まだまだ、判断材料が少なすぎます」

 

私はそう呟いて浴槽に浸かる。

全身を優しい温かさが包み込む。私の悩みすら溶かしてしまいそうだ。

誰もいない事をいいことに大の字になって浮かび上がる。

目を開けばあるのは大空ではなく天井。

防空駆逐艦なだけあって戦場の空は常に敵襲の危険がある空は、私を逆に緊張させていた。

それと違って天井はその圧迫感が『私を守ってくれている』という安心感につながる。

 

その安心感とお湯の温かさに身を委ねていると、勢いよく浴場の引き戸が開かれた。

 

「あれ? 誰も入っていないの?」

 

聞き覚えのある声。私はその声に体を翻すように元の体勢に戻した。

勿論入口から背を向ける様に、だ。

 

声こそ高いがこの声は提督のお孫さんの声。つまり少年とは言えど男性だ。つまり異性そのもの。

私は恐る恐る振り返りながら彼の方へと視線を向け、即座に戻す。

その理由は簡単だ。彼も私と同じでタオルなど体に巻いてはいない。

それを瞬間的に察知した私は色々見てしまう前に視線を壁の方へと戻したのだ。

 

「あれ、涼月お風呂入ってたの?」

「ど、どうして私の名前を……」

「おじいちゃんが港で涼月って呼んでたから」

 

その一瞬を聞き逃さなかっただけでも相当凄いと思う。

まるで私が瑞鶴さんの名前を当てたように見せかけて、翔鶴さんの発言を覚えていた時の様に。

 

彼は大きくなれば恐らく立派な提督になるだろう。

艦娘から愛され、また彼女らの名前をすぐに憶えこういった発言も聞き取る事が出来る。

素質としては十分。十分、なのだが……

 

「あの、明、さんでしたか。すぐ上がりますので外で待っていてくれませんか?」

「えー、折角だから一緒に入ろうよー」

「で、ですが私は艦娘で貴方は男なんですよ?」

「別にここ混浴だし、おじいちゃんも使ってるよ?」

 

混浴という事を今はじめて知った。

今まで入っていたが誰もそれを教えてくれなかった。

 

「で、でも提督とは一度も出会ったことは……」

「当たり前じゃない。アイツは意図的に時間をずらしているんだから」

「む、叢雲さん!?」

 

提督のお孫さんの後ろに現れたのは、バスタオルを纏った叢雲さんだった。




第一主力艦隊:『勝利の乙女達』
旗艦:?? 構成:伊勢改・日向改・摩耶改二・鳥海改二・五十鈴改二

深雪と摩耶がすごく性格似ていますが、それを少し利用させてもらいました。
後輩なのに姉貴分と言うのも中々面白い物です。
鳥海は一体誰と仲がいいのか……そしてあんまり出てこないであろう五十鈴。
服装全然違いますが由良さんとは姉妹艦の関係にあります。

そして風呂&無知シチュ(涼月が)。涼月はタオルを纏っていません。
何気にアニメ編外伝の16.5話のネタを使っています。
この大ピンチを切り抜ける事が出来るのか!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。