艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

57 / 97
意味

起こったことを後から後悔しても、取り戻す事が出来ないという事。


第九話『後悔先に立たず』

 

Side 涼月

 

 

数日後、深雪さんの案を由良さんがまとめ仕上げた台本が届いた。

当然私達は深海棲艦役。しかし駆逐艦の規格でありながら、

人の姿を持ち、それなりに強い敵がいいという事で、

人型の深海棲艦の名前に肖り秋月さんは『駆逐棲鬼』、

私は新しい強敵として『第二の駆逐棲鬼』と名付けられた。

 

そう言えば何故そんな名前が付いているのだろうかと思い質問してみると、

完全に近い人型の形を取った深海棲艦は、ある時を境に現れた比較的新しい種であり、

基地の様に陸上に構える者から、あのMI作戦で確認された艦の者まで確認された為、

今後戦いが激化する中で必ず共有しなければならないと大本営が判断し名付けたのだ。

 

その基地又は艦種に、深海棲艦の棲、つまり動物が棲むという言葉を引用し、

他を圧倒する非常に強い個体である故に伝説上の存在である『鬼』を。

それを超える者はその外見が女性であり、それらの上に立つ者、

つまり『姫』という名が並べられた名前となっている。

なおそれよりも更の強さを持つ者は『水鬼』と呼ばれ、

こちらは『船幽霊』という的確な意味を持つ言葉が用いられる。

 

何故幽霊なのかは疑問だが、艦娘以外の兵装の攻撃を全く受け付けないので、

人々から見れば深海棲艦が幽霊の様な存在だと言っても、

あながち間違いではないのかもしれない。

 

そして色々と用事を終わらせてから、私達は外で朝から繰り返し練習に励んでいた。

 

「ではもう一度行きますね。秋月姉さん、お願いします」

「ええ。『さーて。今日はスノーバスターの姿も見えないし、

 会場の子供達に思う存分悪戯が出来るわね。

 さあ、どの子から悪戯してあげましょうか』」

「ここで深雪さん達が現れます。『そこまでだ! 駆逐棲鬼!』」

「『何っ!?』」

「それで深雪さん達の名乗りですね。……長いので省略します」

「『現れたわね、スノーバスター!

 今度という今度はコテンパンに叩きのめしてやるわ!』」

 

因みに深雪さん達はいない。

それ故に深海棲艦側の台詞だけで少しばかり違和感があった為、

私が登場するまでは代わりにそういう空気を作っていた。

普段と随分口調が違うのは台本に書いてあっただけでなく、

悪役っぽい言い回しがあるらしく、秋月さんの場合は年が若い事もあって、

叢雲さんの様な口調になっている。

 

「では戦闘シーンはアドリブですから、丸まる飛ばしますね」

「じゃあ次は、私が涼月を呼ぶ所ね」

「はい」

「『くぅ、流石は私の宿敵。でも、今回の私には奥の手があるのよ!』」

 

「『来なさい! 私の仲間!』」

「えっと、ここで深雪さん達が驚く台詞が入って……『私を呼びましたか。姉上』」

 

対照的に私の口調はクールな方になっていて、熱い姉を抑制する形になった。

 

「ここで深雪さん達が驚くシーン、それから私の自己紹介ですね。

 『お初にお目にかかります。駆逐棲鬼、その妹で同じく駆逐棲鬼と申します』」

「そこで三人が驚くところが入って私の台詞ね。

 『さあ我が妹よ! 私と一緒にスノウバスターを倒すのよ!』」

「『はい、姉上』。ここから先は戦闘シーンです。

 で、戦況が私達の有利になり、深雪さん達の台詞が入ります」

「それが終わって私の台詞ね。『見たかスノウバスター! これが私達姉妹の実力だ!』」

「『1+1が2でない事は私達も同じです。お解かり頂けましたか』。

 ここから暫く深雪さん達の台詞が続きます」

「ねぇ涼月?」

「はい秋月姉さん」

 

そこまで演じたところで秋月さんが少し心配そうに、

はたまた不安そうに話しかけてきた。

何かおかしなところでもあったのだろうか。

 

「私の演技に何か問題がありましたか?」

「そう言うわけじゃないけれど……なんていうか、実感がわかないって言うか……」

 

確かに深雪さん達が居ないのを理由に戦闘シーン等を丸飛ばし、

彼女達の台詞も大体飛ばしている為本当にこれは特撮物なのだろうかと不安になる。

演じる自らとその相手が居なければそれは舞台とは呼べない。

今は敵側だけで集合して練習しているがこれは特撮物。

言ってしまえば私達は脇役でしかなく、本当の主人公は深雪さん達なのだ。

なのでどうしても序盤や終盤では深雪さん達の台詞が多くなり、

私達の台詞が抑え目になるのは仕方のない事。

私達の台詞が増えるのも、先程演じた私の登場する所と私達が一時的に優勢になった時。

 

この後は私達が観客の子供を適当に選出し舞台に連れてくるという、

観客参加型のヒーローショーになっている。

因みにこれは毎年恒例でそれがあってそこも一種の楽しみではあるのだが、

展開上悪役が先にあの手この手で必ず有利になる上に悪役は一人なので、

どうしても参加者は一人になってしまい最近マンネリとしていたらしい。

それからは深雪さん達【スノーバスター】が逆転して観客の子供を取り返し、

無事に終わるといった展開が行われる為、殆どの台詞が続く。

だからこそ、メインである深雪さん達が居ないこの状態ではどうも実感が湧かなかった。

 

「そうですね。では深雪さん達を呼んで合同練習にしませんか?」

「そうね。やっぱりそれが一番ね」

 

そこまで言って私と秋月さんのお腹が鳴る。

繰り返し練習していたからか時間を忘れてしまっていたらしい。

私達はお腹を満たす為に食堂へ向かう事にした。

 

 

 

 

「嫌よ。そもそもなんで私がそんなお子ちゃまの遊びに付きあわなきゃなんないのよ」

「なんだよ、こっちがこれだけ頼んでんのにそんな言い方ないだろ!」

「それは悪かったわね」

 

何事かと思えば深雪さんと叢雲さんが向き合っている。

どうやら叢雲さんへのお願いが難航している様子だ。

押しの強い深雪さんだが叢雲さんも叢雲さんで引き下がることは無く、

そこには険悪な空気が漂っていた。

 

そこで私からもお願いしてみる事にした。

 

「叢雲さん、私からもお願いします」

「何よ涼月、アンタまで出しゃばってくるわけ?」

「確かに私も今回の特撮物の役者として抜擢されています。

 ですが私以上に叢雲さんは必要な存在なんです」

「それは台本に私の役もしっかり入ってるからでしょ。

 そもそも本人の許可が取れないまま台本に組み込んで、

 それから頼むなんてお門違いもいい所よ」

 

彼女の言う通り確かにこちらが相手の承諾なしに役者に組み込み、

台本も作ってからお願いするなど、参加する気のない人からすればお門違いであり、

また迷惑甚だしい事でもある。

 

「あーあー! 解ったよ! こっちが悪うございました!」

「解ればいいのよ」

「また由良さんに言って台本変えてもらわなきゃなぁ」

 

がっくりと肩を落とした様子で食堂から出ていく深雪さん。

あんな彼女を見るのは私も初めてだ。

 

「叢雲さん。実は参加したいんじゃないですか?」

 

秋月さんが何かを見据えたようにそんな事を口にした。

確かに彼女は提督の秘書艦であり側近の様な存在だ。

駆逐艦の身でありながらかなり長い時間を過ごしているように見えるから、

もしかしたら自らのやりたいことを我慢してまでその任に付いているのではないだろうか。

 

「まさか叢雲さん、秘書艦の顔を立てる為に……」

「それは無いわ。確かに私はアイツに選ばれて秘書艦になったけど、

 今は私の意志でアイツの傍に居る。だから何も我慢しているわけでもないし、

 もしそんなことをする秘書艦が居たらそいつは秘書艦失格よ」

 

どうやら彼女は私達の考えるよりもずっと前から秘書艦と言うものに就いているようで、

そこまで言われた私達は何も言う事が出来なくなる。

 

「それにいつまでも人は子供のままじゃいられないのよ。生きるって、そういう事よ」

 

遠くを見つめる彼女の瞳の奥底には、深い深い何かが隠されているようだった。

 

 

///////////////////////

 

 

叢雲さんの承諾を得られ無かった私達は、

由良さんがもしもの為に作っていた台本を使って練習を始めていた。

内容は当然の様に修正され叢雲さんの介入によって指揮が向上するのではなく、

不屈の闘志によって何とか立ち上がり、対抗するという形になった。

 

私達は深雪さん達と約束を取り付け、何度も五人で練習を行っていた。

 

「さーて。今日はスノーバスターの姿も見えないし、

 会場の子供達に思う存分悪戯が出来るわね。

 さあ、どの子から悪戯してあげましょうか」

「そこまでだ! 駆逐棲鬼!」

 

主役である彼女達が加わり活気が出て演技の質も向上していた。していたのだが……

 

「畜生、このスノウレッド様がたった一人増えた程度でここまで苦戦するとは……」

「見たかスノウバスター! これが私達姉妹の実力だ!」

「1+1が2でない事は私達も同じです。お解かり頂けましたか」

「な、何をぉ! 私達だって3人だ! もっと本気を出せばなぁ!」

「深雪ちゃん、それは前の台本の台詞だよ」

「あっ……」

「これで三回連続……」

「し、仕方ないだろ! 一度覚えた台詞は忘れらんねーんだよ!」

 

こんな感じで深雪さんのテンションが上がると、

どうしても前の台本の台詞を言ってしまうという事態が発生し、

スムーズに通す事が出来なくなっていった。

私達も最初の方は確かに間違えはしたものの、

段々と気持ちを切り替えたり独自の覚え方などを使ったりして何とか対処はしていた。

 

しかしどうしても主人公格である深雪さんを始めとする三人の台詞改変は、

後半になるにつれて激しくなり終盤においてはもはや原型をとどめていない。

大雑把なプロットで言えば戦闘、苦戦、逆転とそこまで変わらないのだが、

細部で見ると大きな改変である為演じる側はたまった物ではない。

 

こうして皆が最初の台本をしっかり覚える事が出来たのも、

艦娘としての任を全うする為に作戦内容を熟知、記憶することが多いからだ。

それに公演までの時間が短いというのもその記憶能力を加速させていた。

 

「しかし……叢雲さんも随分と冷たかったですね」

「だよな! あいつ昔はそんなに堅物じゃなかったのによ」

「堅物じゃなかった?」

 

深雪さんの口振りから、どうやら彼女は昔の叢雲さんを知ってるようだった。

 

「深雪さんは昔の叢雲さんをご存知なんですか?」

「あれ? 言ってなかったっけ? 私達叢雲とほぼ同期だよ」

「えっ!?」

 

深雪さんと叢雲さんがほぼ同期。

水と油の様に違う彼女達がそんな関係だったという事に私は思わず声を上げる。

それも私達、という事はここに居るほとんどの人が……

 

「いえ、私と秋月さんは提督が大湊を離れている時に配属されたので違いますよ?」

 

私の考えていたことを見抜かれたのか、由良さんが補足する。

そうなれば白雪さん・初雪さん・深雪さんの三人は同期という事になる。

 

「私と白雪ちゃん、深雪ちゃんは提督が此処に着任してから暫く後に配属されたんです。

 そこまで時間は開いてないので、同期と言っても変わりありませんね」

「割と古参勢……」

 

少し誇らしげに笑顔で説明する白雪さんと、

流し目ながらも軽くピースサインを送る初雪さん。

しかしここである程度の疑問点が浮かんでくる。

となるとこの提督府は元々駆逐艦四人だけで機能していたのだろうか。

それではあまりにも戦力が心もとないのではないだろうか。

 

「では、元々この提督府は四人の駆逐艦娘で機能していたということですか?」

「そんなことねーよ。自衛隊のおっちゃん達と連携してたさ。

 言っちゃ辺境の提督府だから深海棲艦の侵攻も少なくて楽だったけどよ。

 戦艦や空母なんかは全部横須賀とか呉とかに回されて少なかったさ」

「それにまだそこまで艦娘の数も多くなかったこともありますし」

「特型駆逐艦って言ってもそこまで強くないし。戦艦と撃ち合ったらオワタ式だし」

 

確かに私も防空駆逐艦であり他の駆逐艦とは違って長身で力もあり、

重武装が可能だが戦艦と撃ち合えるほどの火力と装甲は持っていない。

だからこそ私は呉でもトラックでもひたすらに防空駆逐艦、または駆逐艦として、

出来る事に専念し戦艦などの大型の艦種は全て同じ艦隊の人に任せていた。

戦闘だけではない。偵察なども同じように、だ。閑話休題。

 

「少し話が反れましたが、叢雲さんは昔はあんな感じではなかったんですね」

「そうさ。そうだな……変わったのは呉から戻ってきた時ぐらいか」

「呉……ですか」

「ああ。言っても涼月が呉に行くよりもずっと前だぞ?」

 

確かに私の居た時に叢雲という人物がそこに居たことは知らないし、

提督もここの提督よりもずっと若い。それだけは紛れもない事実であったから、

私が配属される以前の話だという事はある程度理解する事が出来た。

 

「あれは……うん、ひどかったよね」

「あれがあってから、叢雲は大分固くなった」

「あれ……?」

 

その事を聞こうと思っても彼女達は口を閉ざしてしまい、

それが何なのか聞くことは出来なかった。




恐らく間に合った。(間に合ってない)

艦これの夏イベントは8月10日から! そして秋月型二番艦、『照月』が先行実装されます!
さあ涼月のキャラ崩壊が秒読み。(未所持1ドロ限定での登場の可能性)

練習、練習、また練習。
しかしあまり書きすぎてもいつか来る公演の楽しみが減っちゃうので……
という意向によりあまり特撮の台詞は出しませんでした。

少しずつ見えてくるこの提督府の内情。
叢雲・白雪・初雪・深雪がほぼ同期だったという事実。
提督と叢雲が呉に行っていた時に起こったという悲劇とは。
無知は罪と言うが、本当に知らないことはその人の力ではどうしようもない事。
果たして涼月はそんな隠された事実に迫れるのか。

次回はついに観艦式。
展開早すぎるだろうと思う人は、一旦落ち着いてキルラキル16話の、
アバン(オープニング前の導入部分)だけでも見てほしい。
アバンだけで15話分の総集編が終わるから。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。