艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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意味

普通の人でも三人揃えば良い知恵という意味。


第八話『三人寄れば文殊の知恵』

Side 涼月

 

 

「観艦式……とは?」

 

深雪さんの言葉を問いで返す。

提督府上げての一大イベントと言われても、

聞いたことも無い物であれば、漢字も解らずどういったことをするのかも想像し難い。

そして何よりトラック泊地でも呉鎮守府でも、

その様な行事は行われいないというのも大きかった。

 

「観艦式は、所謂艦のお披露目の式のようなものですよ」

 

厨房に行っていた由良さんが鍋焼きうどんを持ちながら食堂にやってきた。

どうやら彼女達の分の料理が出来上がったらしい。

料理を置いてはまた厨房へ戻っていく。

 

「そうそう。まぁここの観艦式はちょっとと言うかかなり変わってるけどな」

 

にしし、と八重歯を見せつけながら悪戯に笑う深雪さん。

活発で明るい彼女が見て解るほどに楽しそうな雰囲気を出しているので、

どちらかというとお祭りごとに近い行事のようだ。

となるとさっきまで彼女が秋月さんに向かって頭を下げていたのも若干納得がいく。

でもこの一大イベントである行事に関するお願いごとを断る理由が解らなかった。

 

「秋月さんは観艦式が嫌いなのですか?」

「そんな! むしろ好きですよ。ですが……」

 

そこまで言って彼女の表情に影が入る。何か嫌な事でも思い出したのだろうか。

 

「別にやらなくてもいいじゃん……」

「初雪もそう言うなって。でも秋月が了解してくれないと『あれ』が出来ないんだよ」

「『あれ』?」

 

こそあど言葉を使われては私も理解に苦しむので、おうむ返しの様に問いかけた。

 

「そういや涼月も秋月型駆逐艦だよな……?」

 

その問いに対して何か気付いたのか、私と秋月さんを交互に見つめ再び悪戯に笑った。

 

「なぁ涼月、私達と観艦式の出し物に出ようぜ!」

「出し物、ですか?」

「おう! 名付けて『艦娘戦隊スノーバスター』!」

「す、スノーバスター……」

「一聴すると遊びの様に聞こえますが、これでも深雪さんは考えているんですよ」

「深海棲艦と戦う艦娘を正しく認識してもらおう、という出し物なんです」

 

再び厨房から現れた由良さんが鍋焼きうどんを置きつつ、深雪さんの隣に座る。

白雪さんも他の人の分の鍋焼きうどんを持って秋月さんの隣に座った。

真面目な二人に言われてしまうとどうも納得せざるを得ない。

でも正しく認識してもらう為なら猶更断る理由などないのではないだろうか。

 

「秋月さん、私も貴女の姉妹艦です。そこまで嫌でしたら私と一緒にやりませんか?」

「す、涼月!? で、でも貴女がそこまでするという必要は」

「よっし決まったな! なら詳しい説明するからしっかり聞いてくれよ!」

「はい」

「めんどくさい……」

 

深雪さんの隣で白雪さんがけだるそうに返事したが、

彼女の嬉しそうな表情を見る限り説明を止める気はそうそうないようだ。

 

「まず配役だけど、私がスノーレッド、白雪がスノーブルー、初雪がスノーイエロー、

 そんでもって由良さんが司令官、みたいな感じだ」

「私と秋月さんは……?」

「問題がそこなんだよ。今まで秋月が深海棲艦役として登場してたから、

 ちょっとマンネリが続いててよー」

 

秋月さんが深海棲艦側? 何を言っているのだろうか。

秋月さんも艦娘なのだから普通に考えれば正義の側に付くのではないのだろうか。

 

「涼月、こういう特撮っていう物にはどうしても悪役が必要なの。

 だからと言って本物の深海棲艦を使うわけにはいかないでしょ?」

「そう、ですね」

「だから私が今まで深海棲艦役、つまり敵役として抜擢されてたの」

 

そこまで言われて、やっと深雪さんが秋月さんに対してお願いしていた理由が解った。

一年に一回のお願いと言っていたので、一年に一回行われるこの行事。

それで毎回敵役、つまりやられ役として登場していては気分も悪くなる。

それを彼女は断っていたんだ。

私の安直な発言によって秋月さんはまたも敵役として、やられ役として、

この行事に参加することが強いられてしまった。

 

「なぁ涼月よぉ。このマンネリを吹っ飛ばす斬新なアイディア持ってないかー?」

 

深雪さんの質問。

生憎私はそういう特撮物を知らないので、良い答えが思いつきそうになかった。

しかしこうなってしまった以上秋月さんの為にも責任は取らなくてはいけない。

 

呉鎮守府でも、如月さんに助けてもらった時のお礼をした時、

奢ってもらった分以外は全て私の所持金で返した。今はそういう状況に似ている。

 

「私も一緒に、と言ったので、私も深海棲艦側になりますよ」

「ん~、でも敵が二体に増えたところでなぁ」

 

更に頭を悩ましてしまう深雪さん。

その隣ではそんな彼女をお構いなしで、初雪さんが鍋焼きうどんを啜っていた。

由良さんはそんな深雪さんを見て優しく微笑んでいる。

白雪さんの方へ視線を送ると、彼女も頭を悩ませていた。

 

由良さんはともかく、同じ吹雪型と言ってもこれ程までに性格が違うのかと思う。

金剛さん達四人に吹雪さんを含めた艦隊で南西諸島海域に出撃する前、

ティータイムで姉妹艦による違いを半ば思い知った。

しかし戦闘になればそんなことを忘れさせるほどに凄い人達だったので、

どうしてもそんな記憶が霞んでいた。

と、関係のない事だがどうしても気になる事が一つ浮かんでくる。

 

「叢雲さんは吹雪型なんですか?」

「ああ、吹雪型駆逐艦五番艦だよ。何かおかしい事でもあった?」

「いえ。叢雲さんは名前に雪がないのにどうして吹雪型なのかなと」

「さーなー。でもそんなこと今は関係ないだろー?」

 

いや、これは使えるのかもしれない。

叢雲という名前を持ちながらも吹雪型。

あの時絶望を拭い去る支援艦隊の希望。そんな形で途中から救援が入れば、

見ている人にも希望を与えられるのではないだろうか。

 

「叢雲さんを支援艦として途中から参入させるというのはどうでしょうか?」

「途中参戦! それだ!」

 

深雪さんはそれを聞いて何かをぶつぶつとつぶやいている。

どうやら展開を頭の中で組み立てているようだ。

 

「まず私達と秋月で戦闘させて、涼月が乱入して私達がピンチに、

 そのピンチに颯爽と叢雲が現れる……よし! 行ける行ける!」

「でも叢雲ちゃんだよ? 難しいと思うけどなぁ」

「大丈夫だって! 今回だって秋月は結局参加してくれただろ。それで行けるって」

「ふふふ。なら私はいつも通りその台本制作かな?」

「由良さん、お願いしまーす!」

 

どうやら何とか話はまとまった様子。

それを見て秋月さんも度事無く安心したようだった。

 

「じゃあ台本が出来次第渡すから、そこから練習な!」

「解りました。ではよろしくお願いします」

「おう! 頑張ろうな!」

 

そこまで言って深雪さんは自分のうどんがない事に気付き、

慌てて厨房まで駆け込んでいくのだった。

 

 

 

場所は変わって私の部屋。

フローリングにベッドが一つ、箪笥が一つと質素な部屋。

 

第二艦隊の皆と別れて私は一人ベッドの上で、

大和さんから貰った桜の髪飾りを眺めていた。

この髪飾りは実を言えば普段付けていない。

万一壊れてしまってはいけないというのもあるし、

そして何よりこれは約束の品だからだ。

 

考えるのは自分の事。今までトラックや呉に居た時の事とこの大湊という場所に居る事。

呉に居た時は私のいう事全てが基本的に通っていった。好転することが多かった。

それは相手が大和さんや睦月さんの様に親しい人達だけでなく、

提督に対しての進言も同じ。

しかしこの大湊と言う地ではそう簡単に私のいう事は通らない。

通らないどころか私の言動で事態が悪化してしまう場合も多い。

安直という言葉が、今の私にはお似合いであった。

 

ちょっとばかり気分が憂鬱になる。

しかしあまり気を落とし過ぎては、妖精さんを巻き込んで負の輪廻に囚われてしまう。

だから私はあまり深く考えないようにしていた。

 

「はぁ……」

 

と、その溜息を遮る様に扉がノックされる。

 

「涼月、まだ起きてる?」

 

扉の向こうから優しい声が聞こえてくる。他でもない秋月さんの声だ。

 

「あ、はい。今開けますね」

 

もう随分と遅い時間と言うのにどうしたのだろうか。

しかし折角の来客、それも私の姉ともいえる存在をこのまま放置するのは気が引ける。

私は飛び起きる形でベッドから降り、机の上に髪飾りを置き扉を開いた。

流石に寝る前だからか髪は下ろしていて、ペンネイトも外されていた。

かくいう私も同じく髪留めもペンネイトも外しているのだが。

 

「ごめんなさい。今寝るところだった?」

 

部屋を少しばかり見渡す彼女。

机の上や床の上にそれらしき物が何も置かれてないからか、

特に何か作業していたわけでもないのを瞬時に察知したのだろう。

 

「いえ。少しばかり考え事をしていたんです」

「ああ、お邪魔して悪かったかしら……」

「構いませんよ。むしろ相談相手がやってきて嬉しい位です」

「ふふふ、涼月ったら都合がいいんだから」

 

上手い事を言うなと言わんばかりに笑顔でおでこを小突く彼女。

私はそんな彼女の笑顔に釣られて笑った。

部屋に来てもらったというのに立ち話も何なので、ベッドに座る様に勧める。

 

「しかし秋月姉さん、どうしてこんな時間に?」

「深雪さんの特撮物の事で気に病んでないかと思って来てみたの。

 日が落ちると気が滅入りやすいっていうから」

 

そして案の定私は考え事をしていたわけだ。

なるほど、流石は姉と言うべきか。ここまで心配してくれなくてもいいと思うも、

人の好意は有りがたく受け取らせてもらおう。

 

「でもそれだと半分当たりで半分外れですね」

「そう?」

「私の考えていたことはもう少し大局的な事です」

 

確かに秋月さんの言う通り、深雪さんの件も全く持って無関係ではない。

安直な発言が返って最初は反対していた秋月さんの意見を捻じ曲げる形になったのだ。

確かに当たっているといえるが、的を射たものではない。

 

私は簡単に説明した。

トラックや呉で上手く動く事が出来たのは、

皆が私の発言に賛同し動いてくれたからだと。

当然トラックの皆も呉も皆も、何の根拠も無しに私の意見など聞き入れなかっただろう。

思う所、説得力を増させる裏付けとなる証拠があったからこそ動いてくれたのだと思う。

 

しかしこの大湊と言う地に来てからは、対して功績を上げているわけでも、

信頼を築いているわけでもないのに今まで通りに振舞っている。

これが結果として私の予想外を生み、食い違いで憂鬱になっているのだ。

 

「確かに今まであったものが無くなって戸惑う事はよくあるけれど、

 この場合は涼月が一歩引いたところから見てみるといいんじゃないかしら?」

「そうですね……」

 

正論を言われてしまい同意することしか出来ない。

 

「だから一度ゆっくり考え直した方が楽になれるわ」

「でも、それをすると私ではなくなってしまいそうな気がするんです」

 

トラック・呉という地で育んだ信頼を経て出来上がった私という自分は、

どうしても関係を一度戻すという事が出来なかった。

何故か。そうするとあのトラックに単艦で向かっていた時の様な、

強引で何も考えない私に戻ってしまいそうだったからだ。

それだけは秋月さんには言えない。あの私は本当に私の汚点でしかないからだ。

 

「ならこういうのはどうかしら」

 

良い事を思いついたように両手を合わせる彼女。

 

「対象を転換させる」

「対象を、ですか?」

「そう。今の涼月が信頼の上に成り立っているのなら、

 その信頼の対象を転換すればいいと思うわ」

 

「呉の艦娘を守りたい。だったら大湊の艦娘を守りたいと。

 トラックの艦娘と同じ艦隊になりたい。だったら大湊の艦娘と同じ艦隊になりたいと。

 別に艦娘に限定しなくてもいいのよ」

「でも私は艦娘の信頼は艦娘以外に築けるとは思いません」

 

艦娘との信頼を築けるのは艦娘だと思う。

同じ戦場に立ち同じ場所で生活する。それはトラックでも呉でも大湊でも同じだ。

そんな限りなく近い存在だからこそ信頼する事が出来るのではないのだろうか。

 

「……なるほど。それが涼月の考えよ」

「秋月姉さん?」

 

ベッドから立ち上がりまっすぐ扉へ向かっていく彼女。

思いのほかその背中からは少しばかりの悲しみを感じる事が出来た。

 

「もう少し大局的に考えてみて。私達が何の為に戦っているかを」

 

おやすみ、と付け加えて秋月さんは部屋から出ていってしまった。

そんな事を言われてはますます眠れなくなってしまうではないか。

それも姉ともいえる存在である秋月姉さんに、だ。

 

「はぁ……」

 

やっぱり、この大湊という場所は今までの私にとって、とても難しい場所。

一人部屋に残された私の中に、しこりが出来るのであった。




というわけで、観艦式という名の文化祭に近いイベントでした。
なお現在は特撮戦隊ものの台詞回し等で大苦戦しております。
しかしまぁ、新しい趣きなのでここばかりは譲れない。
そして涼月にとっても……

最初は『スノーイレブン』って名前でしたが11人もいないので、
急遽没にしてスノーバスターにしました。駆逐だとデストロイとかそこら辺ですが、
ヒーローの名前じゃないし……となってストライク等そっち路線にチェンジしてます。

久々の秋月との二人きりの会話。
部屋はストライクウィッチーズ(第一期)の部屋を想像して
(または見て)もらうと解りやすいかなと。

次回は特撮練習回。平穏がしばらく続きます。

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