艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

50 / 97
半週一更新になりそうです。
多分これを更新してる間に第二期始まるって信じてる。(ぇ
外伝と言っても結構長いお話になります。(本編よりか短いけど)

今回はとんでもない人が出てきます。
涼月の為の報酬。


第二話『此の親にして此の子あり』

Side 涼月

 

 

赤城さんと加賀さんお手製のお弁当でお昼と夕飯を兼ねてお腹を満たしながらも、

完全に日が落ちた空を見つめる。

ここからでは月を見る事は叶わなかったが、月明かりが流れていく景色を眺める。

 

しかし転属とはあまりに急な話だと思う。当然ながら艤装を持ってきているわけがない。

今ある武器らしき武器は存在しない。

そもそもこの国には銃刀法と言うものが存在するから、

武器を携帯することは許されていない。

艦娘にはある程度の特例があるといえど、

そもそも艦娘という存在が機密である故に、

警察であっても誰が何の艦娘かと言うのは把握し切れていない。

 

一応そう言った事に巻き込まれた時の対処法として、

綾波さんが先程渡してくれた名刺が存在する。

これは所謂艦娘の身分証明書で、構造はお札の様に偽物が作られない仕様になっている。

普通は見せるだけであるが、艦娘同士での交流も兼ねてと交換できる様にもなっている。

 

当然私も持っているが先程は渡しそびれてしまった。

そもそも作られてはいるが使う機会が少なすぎるという所から、

どうしても意識が低下してしまう。

そう思うと呉やトラックは、艦娘にとっては理想の環境と言えるのかもしれない。

提督と艦娘だけで構成されそのほとんどがその場所で賄える。

まぁ、こういった世間知らずな状態に陥ってしまいそうだが。

 

『本日はご乗車誠にありがとうございました。次は終点大湊、大湊です。

 お忘れ物の無きようお願いいたします』

 

車内アナウンスが響き、現実へと引き戻される。

辺りを見れば私以外に乗客はいない。

流石にこんな夜遅くでは例え警備府があるという大湊に赴こうとはしないだろう。

 

荷物を纏めて駅へと降りる。

街の明かりがぽつぽつと見えるが、横須賀や呉の様な都会ではなく地方都市であった。

 

「くしゅん!」

 

予想以上に冷たい風が私を襲いくしゃみが出る。

流石は東北地方でもさらに北の青森県と言った所か。

こんなことなら上に何か着るものでも持ってきたら良かっただろうか。

そもそもトラック島と言う南国の島国にも近い気候から、

こんな北の大地にまで転属になるとは誰が予想できたことであろう。

 

「くしゅん!」

 

軽く秋を超える冷たい風に、私は二回目のくしゃみを放つ。

体が冷え切ってしまう前に駅舎に入ろう。

そう思って寒さから逃げ込む様に駅舎に入ると、

綺麗な黒髪を大和さんの様に後ろで髪を一纏めにしている、

一人の凛々しい少女がベンチに腰を掛けて小説と思わしき本を読んでいた。

少女と言うには結構背が高く、高校生程の背丈はあるだろうか。

真っ白なセーターにケープと二重で身を包んでおりとても暖かそうだ。

 

そういえば綾波さんからこの駅に向かえと言われたものの、

そこから先の事を教えてもらっていない。

恐らく大本営の事だから連絡はしていると思うのだが、生憎その迎えが見つからない。

暫く私は待つことにする。

 

私も何か読む物が無いだろうかと荷物を漁り止める。

睦月さんと如月さんの手紙やトラックの皆から貰った寄せ書きは全て、

艦娘としての名前が記述してある。

人が少ないといえどここで見るわけにはいかなかった。

 

特にすることも無い私はのんびりと迎えを待つことにするも、

読み物も無いこの状況ではこの沈黙は耐え辛かった。

多くの荷物に埋もれる様にして寒さをしのいでいると、

逆に温かくなってうとうとしてしまう。

今日は長旅ともいえる状況だったから、流石に艦娘である私でも疲れてしまっただろう。

何度か首が勢いよく下がる感覚に起こされながらも睡魔と闘う。

しかし今度は荷物が落ちてしまった。

落としたのは私の荷物。

皆からの貰い物は割れ物があるから全て別の袋などに入れてある。

 

その荷物が落ちた音で目を覚ましながらも私は迷惑の無い様にすぐ拾い上げる。

案の定、本を読んでいた少女はこちらに視線を向けていた。

 

すみませんと頭を軽く下げて私は再び席に着く。

眠気は覚めたものの、今度はその少女の視線が私に集中してしまい逆に戸惑ってしまう。

直ぐに下の本に視線を戻すかと思ったが、

逆にその本にしおりを挟んで私の方をまじまじと見つめ始めてしまった。

 

「あの、私の顔に何かついてますか?」

「いえ、ただ少し気になっただけで……

 と言っても顔に何かついているわけではありませんよ!」

「そ、そうですか」

 

両手を前に出して勢いよく振る彼女は、

決して私がおかしいという事ではない事を身をもって表していた。

しかし逆にそれだと私を見つめる理由がますます解らなくなる。

そう言って否定した彼女も再び本を開いて読み始めるも、

何かが気になるのかちらちらとこちらに対して視線を送っていた。

 

このままでは埒が明かない。逆に何が気になるのか聞いてみるのも一考だが、

いきなり尋ねては不審がられる。なので何気ない話題で斬りだしてみる。

 

「あの、それは何の本ですか?」

「え!? あっ、これは小説ですよ」

「小説、ですか」

「廃線間近になったある駅の駅長さんの、素敵な奇跡のお話です」

 

相当好きなのか、その本を優しく胸元で抱きしめる彼女。

小説と言うものは呼んだことが無いが、正確には読む暇がなかったというべきだろうか。

今回は慰安も兼ねての転属という事だろうし、私も何かに手を付けてみようか。

 

そんな会話で少しばかり距離感が近づいた気がする。

何故か解らないけれど、なんとなくそんな気しただけだ。

この人の言うようになんとなく相手の事が気になる。赤の他人ではない気がする。

 

「ところで貴女は観光目的でこの大湊に?」

「あ、いえ……実はこちらに転……校! してきたんです」

 

私は転属と言いかけた所で何とか止める。

一般人からすれば私の様な少女が転属など、

艦娘であるという事を自ら明かしているも同じ。

だからこそ転校という事にしたのだ。

手紙や寄せ書きのようなものもあるので、傍から見れば何ら違和感はないだろう。

 

「転校……こんな季節に珍しいですね」

「はい。私も急な話だったのであまり用意が出来ずにこちらに赴く形になって……」

 

多くの荷物に埋もれるもそれでは隙間が生まれる。

そこから入り込む冷たい空気が体を震わせた。

 

「ここで待ち合わせしていた筈なんですが、その人が見当たらなくて……

 と言っても私も相手も、お互いに顔を知らないのですが」

「奇遇ですね。私もですよ」

「貴女も、ですか?」

「はい。なんでも急にこちらに来ることになった人を待っているんですが、

 私もその人もお互いに名前も知らないので、どうしようもないなと……」

 

私とこの人がその場に居る理由がかみ合い、互いにハッとする。

もしかしてこの人が大湊警備府の……

 

「あ、あの、少しよろしいでしょうか!」

 

私はその人に手を引かれて駅を出る。

駅のホームでも感じた寒さで自然と体が震え上がった。

 

「もし、もし貴女がそうでなければ今から言う事は全部忘れてください」

 

彼女の目が私の目をしかと捉える。

先程いったことも相まって、彼女は何か賭けに出ようと思っているのだろう。

畏まった彼女は敬礼し、口を開いた。

 

「私は大湊提督府、第二艦隊に所属する秋月型駆逐艦一番艦『秋月』です」

 

これまたとんでもない賭けに出たのだと思う。

見ず知らずの相手に対して自らの所属と自らの『本当の名前』を教えるなんて。

本来ならば綾波さんの様に名刺を差し出すのが普通なのかもしれないが、

回りに他の人は居らず、名刺を見せるのも自らの事を相手に教える為、

実際のところ大差はない。

 

「……あの、すみません急に変な事言ってしまって。忘れてください」

 

彼女は予想が外れたのかばつが悪そうな顔をする。

 

秋月。彼女は確かにそう名乗った。秋月型駆逐艦一番艦、と。

いつか月の下で考えた、私の姉の事。その長女である彼女が今私の目の前に居る。

だから私は、彼女に対して敬礼で返す。

 

「私はトラック泊地から転属になった、秋月型駆逐艦三番艦『涼月』です」

「! なら、貴女が……私の!」

「お出迎えありがとうございます。秋月さん」

「涼月!」

 

互いに抱きしめ合う。彼女の、姉の温かさが私の体と心を満たす。

先程まで感じていた赤の他人と言う感じがしなかったのも、

これが姉妹艦と言うものなのだろうか。

 

「ごめんなさい、すぐに気付けなくて。寒かったでしょう?」

「いえ、ですが私もここまで飛ばされるとは思ってみなかったので……」

「とにかく早く提督府に行きましょう。これ以上体が冷えては体に悪いわ」

 

そう言ってケープを上から掛けてくれる。

態々そうしてくれるのはそれが彼女なりの優しさなんだろう。

 

「貴女の活躍は大湊警備府でも有名で、知らない艦娘はいない位なのよ?」

「有名になるといっても、それに対して尾ひれがつくのは回避したいものですが……」

「大丈夫、私の自慢の妹だもの虚無の事実は私が許さないわ。

 それで過度な期待をして貴女が参ってしまったら、元も子もないから」

 

何と言うか翔鶴さんと赤城さんを足して二で割った様な人だ。

それでもやはり今まで出会ってきた人達と違い、変わった親近感を感じる。

元々一緒だったような、そうでないような。これもまた私達の前世によるものなのだろうか。

 

「秋月さんは大湊の方では何を?」

「此処に配属されてからは遠征担当ね。偶に北方海域に駆り出されることもあるけど、

 遠征部隊の護衛が主かしら」

 

呉では第一艦隊から第四艦隊までほとんど出撃して居た為、

第二艦隊が遠征に出向いているという事を聞いて、

かなり境遇や戦況が違っているのだと察する。

 

「呉もトラックも激戦区だったって聞いたんだけれど……何事も無くて良かった」

「そう、ですね」

 

流石に私の姉である彼女に対して、

私が意識不明の重体に陥っていたという事を言うわけにもいかない。

姉妹艦と言うものを体感したことは無かったが、睦月さんと如月さんの例があるので、

いらぬ心配を掛けたくはなかった。

 

「涼月?」

 

しかし秋月さんはそれを許してはくれない。

彼女もいわば私の姉。私の変化には敏感なようだ。

彼女は私の顔を覗き込んで、心配そうな目をしている。

そんな顔をされると自分の良心がちくりと痛んだ。

 

「……少しだけ、お話しましょうか」

 

街の明かりが照らす街道で、私は小声でトラックでの事を話した。

トラック島が空襲に遭ったこと。それで私が瀕死の重傷を負ったこと。

そして妖精さんが私を生き返らせてくれたこと。

 

そんな信じられない話を、秋月さんは真剣に聞いてくれた。

 

「……妖精は英霊、ね。なんとなく解る気がするわ」

「秋月さんもそんなことがあったんですか?」

「実際そんなことは無いけれど、私達の為に尽くしてくれる子達だもの。

 そう考えてもおかしくはないわ」

 

秋月さんにも私の見張員の子達の様な子達が居るのだろうか。

 

「私にとっての英霊は、長10cm砲ちゃんかしら」

「長10cm砲ちゃん、ですか?」

「あらら? 涼月にも居ると思ったのだけれど、違った?」

「はい。私の艤装は普通の長10cm砲二基に25mm三連装機銃が二基で……」

 

そこまで言って気付く。私の艤装は呉に置いてあるのだ。

いくら呉よりも敵の襲撃が少ないであろう大湊であっても、

艤装が無ければ出撃できず遠征に行くことも出来ない。

 

「? どうかしたの涼月?」

「艤装……まだ呉に置いてあって……」

「それなら大丈夫。私の艤装の替えがあるからそれで。

 あ、でも長10cm砲の余りはあったかしら」

 

前途多難かと思ったがそう言うわけでもないらしい。

しかし私は秋月さんに対してそこまで尽くされて少し申し訳なかった。

 

「何も私の為にそこまでして頂かなくても」

「いいんですよ。私がやりたくてやっている事だから」

「なら私にも何か秋月さんの為に出来る事はありませんか」

 

いくら姉だからと言えど、ここまでされっぱなしというのも気分が悪い。

今まで皆の為に尽くしてきただけあって、逆に尽くされるという事に慣れていないからだ。

だからこそ私は彼女の為に何かできないか尋ねる。

 

「なら……少しだけお願いを」

「はい。私の出来る範囲であれば何でも仰ってください」

「二人きり、二人きりの時でいいんです。私を姉と呼んでくれませんか?」

 

そう言って照れくさそうに笑う秋月さん。

確かに彼女は私の姉妹艦であり姉ではあるが実際には違う。

だからこそ私は敷居を敷く様にこうやってさん付けで呼んでいる。

言われてみれば少し余所余所しい様な気もした。

 

以前鳳翔さんをお母さんと呼んだことがあった時のことを思い出す。

実際に口に出されるとなんだか恥ずかしい。

 

「お姉ちゃん、と呼ばれるのが一番の理想だけれど……涼月は真面目だから」

 

彼女の為に何かしてあげたいと望んだのは私の方だ。

私の事を考えてくれているのは解る、解るのだが。

しかし私からすればいきなり『お姉ちゃん』と呼ぶのは相当恥ずかしい。

秋月さんの為に何かしてあげたいという気持ちと、

恥ずかしさ故に言えない申し訳ない気持ちががが混じり合い複雑な感情になった。

これがいわゆるジレンマと言うものなのか。

……今はまだ、彼女の行為に縋らせてもらおう。

 

「……二人きりの時だけですよ。秋月姉さん」

「ふふっ、やっぱり難しい?」

「はい。やはり、姉妹と言うものは慣れません」

 

私は顔を染めながらも、何とか絞り出した一つの答え。

それを彼女は優しく受け取ってくれるのだった。

 

 

////////////////////////

 

 

「さあ着きましたよ、涼月」

 

眠い目をこすりながら辿り着いたのは、

警備府に着いたのは辺りの家屋が寝静まった深夜。

秋月さんが肩を叩いて目を覚ましてくれる。

門の傍に掛かっている名札にはこう書いてあった。

 

『大湊李提督府』と。

 




そもそも青森県行ったことが無いのでどんなところかは某MAPの写真使ってます。
プロットではナンパが登場する予定でしたがまず出そうにない場所だったので、
かの有名な小説の一節をちょこっと。
教科書に載っててめちゃくちゃ読み込んだ。

次回は来週になりそうです。
首を長くしてお待ちください。


サブタイ解説

此の親にして此の子あり

こんなに立派な親が居るからこそ、こんなにも立派な子に育つのだという事。
子は親の影響を受けて育つという事。
逆の場合の方が使われることが多いかもしれない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。