艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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涼月着任編。

前回のあとがきでも書きましたがアニメ開始の時系列前になるので、
吹雪は暫く出てきません。初期艦『吹雪』提督様にはお詫び申し上げます。


第一話『秋に浮かぶ澄んだ月』

目の前にそびえる扉を数回ノックし、返事を待ってから扉を開ける。

 

「失礼します。駆逐艦『涼月』、着任致しました」

 

右手で敬礼。目の前では白い海軍将校の軍服に身を包んだ男性が鎮座していた。

 

 

 

「失礼しました」

 

提督室を出て周りを見渡す。

 

提督曰く案内が居るらしいのだが、見渡しても誰もいない様子なので暫く待つことにする。

しかしただ待つというのも少し酷なものなので窓から見える景色を楽しむことにした。

 

いつまでも続いていると錯覚しそうになるほど立ち並ぶ建物の数々。

私が以前居たトラックよりもはるかに大きい。

 

「やはり、本土の鎮守府は驚かされますね」

「そうでしょう? 私もここに配属された時には驚いたわ」

「っ?!」

 

背後から突然声を掛けられて驚きながら振り返ると、

一人の女性が先程の私と同じように外の景色を見ていた。

 

橙色を主としたセーラー服を身に纏い、

腰部分では上着が水仙の花弁のように広がっていて、軽いフリルがあしらってある。

スカートは短く、腿の辺り程までしかない。

 

「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったの」

 

そんな服を身にまとった女性は私の視線に気付くと苦笑しながら謝った。

もしかすると、彼女が提督の言っていた案内なのだろうか。

 

「トラック泊地から転属になり本日着任いたしました、駆逐艦『涼月』です」

「第三水雷戦隊旗艦を勤める、軽巡洋艦『神通』です。提督からお話は伺っています。

 鎮守府内の案内をするから、付いてきてくれるかしら」

「はい」

 

非常に大人びた人だ。フランクな人よりもこういった人の方が私としてはありがたい。

そう思いながら、私は彼女の後ろに付いていくのだった。

 

 

 

「ここが私達第三水雷戦隊の部屋よ。とは言っても貴女と私は別々の部屋なのだけれど」

「そうなんですか」

 

第三水雷戦隊と大きく書かれた看板が貼られた部屋。

その一つの扉の前に案内される。

 

「ここが貴女達の部屋」

「私達、ですか」

「そう。この部屋は3人で一部屋だから、ね?」

 

そう言って彼女は笑みを零しドアノブに手を掛けた。

 

開かれたドアの先。中に居た二人の視線が自ずと私に集中する。

 

「睦月さん、夕立さん。この子が提督の言っていた駆逐艦の『涼月』さんよ」

「ご紹介に預かりました、涼月です。よろしくお願いします」

「あっ……! 第三水雷戦隊に所属している『睦月』と言います! ほら夕立ちゃんも」

「し、白露型駆逐艦『夕立』です! よろしくお願いしますっぽい!」

 

神通さんに紹介されながらも挨拶だけは礼儀の一つなので、

後に続く形で自分でも名前を口にして敬礼。

すると机に向かって居た赤茶色で短髪の子や、

のんびり寝転がって本を読んでいたブロンド髪の子が慌てて自己紹介と敬礼を返した。

 

睦月と言った子はしっかりしていてそうだが、

夕立と言った子は少し抜けているようだ。

 

「そんなに畏まらなくてもいいのよ。今日から私達は同じ艦隊の仲間だから」

「申し訳ありません。ですが第一印象は大切なので」

「そう。では睦月さん、夕立さん。後の案内はお願いしますね」

 

そう言って神通さんは部屋を出ていってしまった。

この後何か用事でも入っていたのだろうか。

 

 

Side 睦月

 

 

「「「………」」」

 

扉が閉まった後、何とも言えない重い空気が流れていた。

確かに神通さんからもうすぐ新しい駆逐艦の人が来るという話を聞いていたけど……

 

身長は私達より頭一つ分ぐらい高くて神通さんや川内さんぐらいある。

駆逐艦と言われないと解らない程。

涼月っていう名前からして私と同じタイプの人なのかなとも思ったけど、

実際は制服も雰囲気もまるで違う人。それに額に鉢巻を締めている。

なんというか気合が入っているっていうか、長身もあって威圧感を覚えてしまう。

だ、だって最後に月って付くからもしかして同じでしょ!

って、私何に向かって言ってるんだろう……

 

「涼月ちゃんは睦月ちゃんとは違うっぽい?」

 

自分が悩んでいたことをあっさりと聞いてしまう夕立ちゃん。

マイペースなのか、この空気に耐えかねて絞り出したのかは私には解らなかったけど、

今の空気を打開出来るなら私も大いに乗っておこう。

ここぞとばかりに首を縦に振る。

 

「私は秋月型駆逐艦の三番艦であって、睦月型である睦月さん達とは違うんです」

「具体的にどう違うっぽい?」

「睦月型の皆さんの名前は暦の月。月日を表す月なんですが、

 私達秋月型は空に浮かぶ月。つまり時と衛星の違いですね」

「あっ、そうなんだ……」

 

ここまで解りやすくはっきり言ってくれるとは思わなかった。

理解して少しがっかりしてしまう。同型の人だったらそれで話題を広げられるかもって

思っていたけど……

 

「あの、そこまでがっかりしないでください睦月さん。神通さんも言ってましたが、

 今日から同じ艦隊の仲間なんですし」

「そ、そうだよね! ごめんね涼月ちゃん」

「いえ。私も少し硬すぎたかと思います。すみません」

 

互いに互いが頭を下げ、同時に上げる。

それが面白くて思わず笑みをこぼしてしまった。

涼月ちゃんも面白かったのか貰い笑いしていた。

 

「むー! 二人だけ楽しそうで夕立つまんないっぽい! 私も混ぜて!」

 

そんな中、我慢できなくなった夕立ちゃんが声を上げて、

二人で笑ってしまうのだった。

 

 

//////////////////

 

 

荷物を置いてもらってから、夕立ちゃんと二人で鎮守府の案内。

入渠ドッグや提督の部屋、食堂や出撃用の施設や工廠まで。

真剣な眼差しで聴いてくれるからかなり説明もしやすい。

ただメモを持って辺りを見ながら何かを書き込んでいたのが少し気になったけど。

そして今は案内と小休憩を兼ねて間宮さんの甘味所に向かっている。

 

「涼月ちゃん、何か気になる事でもあった?」

「いえ。流石は鎮守府と呼ばれるだけあって施設が充実しているなと」

「そうっぽいよねー。ほとんどの事この鎮守府でできちゃうっぽい」

 

ただひたすらにメモに何か書き込んでいる涼月ちゃん。

質問にしっかり答えているというのもあって完全に上の空ではないみたいだけど、

 

「あの、涼月ちゃん……?」

「はい」

 

答えてくれるんだけど、答えてくれるんだけど! そうじゃないの!

 

「えっと、熱心なのは解るけど少しはこっち向いてくれないかな……」

「あっ、すみません! 私としたことが」

 

我に返ったように顔を上げて手にしていた鉛筆の動きを止める涼月ちゃん。

流石にここまで熱心に何かをしていると気になる。

 

「ところで何書いてたの?」

「私も気になるっぽい!」

「はい。この鎮守府の簡単な地図を制作しようかと思いまして」

 

そう言ってメモの中を見せてくれる。

そこには案内した所の名前や場所はもちろんの事、

まだ案内していない場所の位置までしっかりとメモしてあった。

しかも別のページには部屋の見取り図まできちんと描いてある。

 

「どうしても性の様なものなので……お気に触ったならすぐに消しますし」

「「涼月ちゃんこれ凄いよ(っぽい)!」」

 

これだけの短時間で今まで案内したところ全てが正確にメモされた地図の制作。

その技量は図り切れない物だし、凄いことだと確信する。

 

「この地図完成したら、間宮さんの所までの近道探しとかにも使えるっぽい!」

「夕立ちゃんはそういう事ばっかり! でも凄いよね。

 鎮守府の地図ってしっかり見た事なかったから、新鮮味があって……」

「あの、あの……」

「「あっ」」

 

思わず見入ってしまうほどの完成度に色々言っていると、

不安そうな声を漏らす涼月ちゃん。

二人だけで盛り上がって描いた本人が置いてきぼりだった。

 

「ごめんね、なんだか舞い上がっちゃって」

「い、いえ。ここまで言っていただけるというのも作った甲斐があったといいますか」

「涼月ちゃん! これ私に頂戴!」

「駄目だよ夕立ちゃん! これは涼月ちゃんの描いた地図だから涼風ちゃんのだよ!」

「え~、でも夕立、涼月ちゃんの描いた地図が欲しいっぽい~」

「では夕立さんにはこれを模写した物を後日お渡しします。それでいいですか?」

「え、いいの? やったぁ!」

 

両手を上げて喜ぶ夕立ちゃん。少し羨ましいと思ってしまう。

 

「睦月さんも、宜しければ後日お渡ししますよ」

「え、良いんですか?」

「はい。私も地図を書く練習になりますので。それに、少しでもお近づきの印にとでも」

「あ、ありがとう!」

 

最初は生真面目でお堅い人なのかなと思ったけど、全然そんなことは無い。

ただ切り替えが上手いんだ。初めての場所で失礼が無いように振舞ってるだけで、

実際は他の人と解らない馴染みやすい人。

 

そんな事を思っていたら、間宮さんの甘味所が見えてきた。

 

「涼月ちゃん、ちょっとお腹空いてない?」

「そうですね。気を張っていたのもあって、少し」

「ならなら、すっごく良い所があるの! 付いてきて!」

 

彼女の手を引いて走り出す。新しく入って来た彼女を心の底から歓迎するように。

 

「夕立ちゃんに涼月ちゃんも、はりきって行きましょー!」




サブタイはまんま『涼月』の言葉の意味です。
日本語と漢字の組み合わせによる名前の多さには本当に圧巻。昔の賢者は凄かった。

更新ペースが一日ごとになっています。
現在は小説の方の話にして第10話目を執筆中。(プロローグ含めて12話目)
第五話ぐらいまでは連日投稿、それからは1週間のペースになると思います。

読んで頂いてる方々本当にありがとうございます。
誤字・脱字などご指摘があれば気軽にお願いします。


簡易的な自問自答コーナー

Q.秋月型って背が高いの?
A.排水量が軽巡洋艦クラス(プロローグのあとがきやWikipedia参照)なので、
 その関係上高いです。公式四コマ漫画71話の方でもそう書いて(描いて)ある。

Q.涼月が地図……?
A.史実ネタで最も有りえそうなキャラ設定。
 場合によっては四コマとかで秋雲との絡みが見れそうで楽しみです。
 (実装されたら白髪とかブロンド髪とかで全然髪型違うんだろうなぁ……
  後性格……(雪風と天津風と磯風と浜風を見ながら))
 
Q.何故第三水雷戦隊? 吹雪どうするのよ。
A.主人公は遅れてやってくる。後は言ってしまうとフラグ建築。

Q.提督喋らねぇ! 
A.アニメでも喋ってねぇ!(白目)

Q.川内と那珂はどうした!
A.次回登場予定

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