艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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Pixie≪よう 相棒 まだ生きてるか?≫


第二章 私が信じる物
第一話『塞翁が馬』


Side 涼月

 

 

まだまだ夏の強い日差しが止まないこの季節。

朝早くに私は今大量の荷物を抱え、新幹線と言うものに乗って横須賀に向かっていた。

乗客は点々としかおらず、それも光物を纏っていたりと裕福層の人達であろう。

 

どれだけ海路が解放されても、深海棲艦という驚異は消えない。

私が初めてトラック泊地に異動した時もそうであったように、

単艦での航行は非常に危険である。

 

その為呉に向かう時はしっかりと艦隊を組んで向かったのだが今回は訳が違った。

大本営から横須賀鎮守府へ、私一人が召集を掛けられたのだ。

 

 

************

 

 

そんな報が届いたのは大和さんの秘書艦として、

呉鎮守府で皆と過ごして一週間の時が流れていたある日の事であった。

 

「私が横須賀鎮守府に、ですか?」

「はい。転属ではなくあくまで本部に召集が掛かっただけですのでご心配なく」

 

あまりに突然の出来事であった。

何故本部、つまり大本営が私に対して召集を掛けるたのだろうか。

呉の提督やその秘書艦である長門秘書艦、

トラック泊地で実質提督の身分にある大和さんならまだ解るが、

よりにもよって一駆逐艦である私なのだ。

 

因みに私の『大和さんの秘書艦』というのはそこまで大層な物ではなく、

主にトラック泊地復旧に必要な資源の申請等々数多くの書類の処理を手伝ったり、

大和さんの話し相手をしたりと『仕事仲間』の様な存在であった。

それでも私は何の不満も無かったし、大和さんと共に過ごせる時間が増えて嬉しかった。

 

しかしそんなことを知らない大本営が、態々私を呼び寄せる理由が解らない。

もしかしてMI作戦の報告書に何か不備でもあったのだろうか。

それでも態々本人を呼び出すというのもおかしな話だ。

 

 

 

私は提督に何かの手違いではないかと直談判に向かった。

 

「提督。どうして私が横須賀鎮守府に、大本営に召集されたのでしょうか」

「大本営も言ってしまえば人間の作った軍事組織だ。

 英雄である君をこの目で見てみたいとでも思っているんだろう」

 

窓の外を眺める提督がそう言った。

私にはその意図が解らない。その目で実物を、

いや。人物を見てなんになるというのだろうか。

 

私の活躍が英雄そのものかどうかは、そもそも私自身にあるのではないのだろうか。

 

「私は、私のやるべき事をしたに過ぎません。

 バシー島も、オリョール海も、暗号解読の疑念報告も、MI作戦であっても」

「確かに君は君のやるべき事、出来る事をしたに過ぎないというのは、

 私が一番理解しているつもりだよ。

 しかし君の出来た事は、既に英雄と言っても差支えない事なのさ」

 

提督は私の我儘をずっと許してくれた。

まるで未熟な子供を見守る親の様に。

だからこそ私は自らの身分を棒に振ってでも他の人に尽くす事が出来たのだ。

 

「まぁ、今の君にそれを解れとは言わない。むしろ比喩表現するのは他人の勝手さ。

 それでも、他人から見ればそんな存在であることを頭の片隅には置いておいてくれ」

 

 

************

 

 

提督の言ってくれた言葉の意味は解らない。

他人から見てそんな存在であったとして、なんだというのだ。

私は私であり、その人はその人である。その人にはなれない。

 

……どうやら強情な何かがあるようだ。もう少し柔軟に考えなければ。

 

そう思って私はふと視線を窓の方へと移した。

海を駆けるのとは全く違う景色がとてつもない速度で流れていく。

こんな光景はそもそも海上では見る事すら叶わない。

私達がこんな速度を出せないのもあるが遮蔽物がほとんど存在しない水平線の上では、

自らの速さを目で見る事はほぼ不可能なのだ。

 

島風さんが居たら「私ってやっぱりはっやーい!」と言っていただろう。

この乗り物に乗っているのだから、

拡大解釈すれば私達も同じ速度で移動しているも同意という解釈で。

……しかし自らが動いていないのにこんな速度で動いているとなると、

何か平行感覚がおかしくなりそうだ。

 

急いで窓の外から視線を外して大量の荷物へと向けた。

これらの大半は私の荷物ではない。

横須賀へ向かうとのことで呉やトラックの皆が持たせてくれたものだ。

大小さまざまな物で食べ物やそうでない物まで。

 

睦月さんと如月さんは短い手紙を書いてくれた。

静かに封を開けて読ませてもらう事にする。

 

『涼月ちゃんへ

 

 今でも涼月ちゃんが呉鎮守府にやってきた事、昨日の事の様に思い出せるよ。

 第三水雷戦隊に間違って入ってきちゃった事とか、鎮守府を案内してる時に、

 二回目の出撃で私達を守ってくれた事とか、如月ちゃんを守ってくれた事とか、

 いっぱいいっぱい色んなことがあって時々頭が混乱しそうになるけど、

 やっぱり言葉でも手紙でも言いたいことは同じ。

 

 『ありがとう。大好きだよ。これからもずっと一緒に居ようね!』

 

 時間が無くて、ここまでしか書けなくてごめんね。

 でも呉に戻ってきたらまた一緒に間宮さんの所、行こうよ! 約束!   

 

                               睦月より』

 

『涼月ちゃんへ

 

 睦月ちゃんの事、ずっと見てくれててありがとう。

 それに私の事も見ていてくれてたのね。

 ちょっと悲しげな始まりになっちゃったけど、

 それでもあの戦闘は忘れられないわ。

 悲劇を越えてしまえば喜劇になるって、私はそう思うの。

 涼月ちゃんもこれから色々と辛いことがあるかもしれないけど、

 貴女なら乗り越えられるわ。

 だって私達を変えてくれた、かけがえのない友達なんですから。

 

 あの日の夕焼けの約束、今も覚えてるわ。

 だから貴女も信じた一つの約束を守り続けてね。

 

                               如月より』

 

睦月さんはいつまでも幼さが取れないような、でも一途に信じ通す素直さが。

如月さんは何かを悟ったような、信念にも似た大人の風格が。

丸みを帯びた文字で書かれたその手紙は違った温かさがあった。

 

他にも呉やトラックの皆から何か貰ったがまだ開封していないので何かは解らない。

転属になったわけでもないのに大げさだなと思う。

いや、寧ろこれは所謂虫の知らせというやつではないだろうか。

私がトラック泊地に戻り皆が呉へと駆り出した時に似たそれ。

 

『まもなく新横浜、新横浜です。お降りのお客様は忘れ物の無きようお願いいたします』

 

鼻声交じりの独特な車内アナウンスが響く。

私は乗り過ごす事が無い様に回りの荷物を纏めるのであった。

 

 

///////////////////////

 

 

新幹線を降りて改札を出る。

結構な量の荷物だからか観光客に見えるかもしれない。

 

提督曰く、新横浜駅に着けばそこに居る使いの者が案内してくれるらしい。

私に関する資料は既に向こうに行っているそうで、何も気にせず待てばよいとのこと。

 

因みにいつもの制服であり戦闘服であるあの服装でだと流石に目立つ為、

野分さん達に選んでもらった私服に着替えている。

白地の半袖ブラウスに薄青色のスカーフ、黒地のミニスカートと、

パッと見ればどこかの制服の様に見える。

私としてはきっちりとした服装である為嬉しい。

無論いつもの制服もしっかりと持って来てある。

 

駅から出ると強い日差しが降り注ぐ。日傘か何かを持ってきた方が良かっただろうか。

 

「(しかし、迎えの者が来るという事ですが一体誰が来るのでしょうか)」

 

恐らく海自の人だろうが私はその人の事を何も知らない。

呉の提督も流石に横須賀まで人脈という名のパイプは持ってはいないだろう。

 

ハンカチで汗を拭きながら待っていると、一人の少女が私に近づいてきた。

今にも地面に付きそうな長いサイドテールが特徴的だった。

 

「『結月涼花』さん。ですね?」

 

『結月涼花』。私の偽名だ。

涼月という艦の名前をそのまま使っては、

艦娘という存在が知れ渡ったこの世界で色々と不自由になる。

そこで提督が即行で作り上げ、大本営に連絡したのだ。

しかしここまで特異な偽名を使えば寧ろ有名になるのではないかと思うのだが。

 

というわけで、どうであれ私の偽名を知っているのは使いの者であることは確実だろう。

 

「涼花です。貴女がお迎えの方ですか?」

「はい」

 

彼女は懐から一枚の名刺を差し出す。

確かにこれならば偽名を考える必要も無い。

その名刺には、『綾波型駆逐艦一番艦 綾波』と書いてあった。

 

「お出迎え態々ありがとうございます」

「いえ、お待たせしてすみません。車を用意してますから、こちらにどうぞ」

 

私は綾波という一人の少女に連れられて、大本営へと向かうのだった。

 

 

////////////////////

 

 

荷物を一室に置かせてもらい、制服に着替えて一人扉の前に立つ。

呉の提督室とは全く違う風格と、何倍にも増した緊張がこの扉からも感じられた。

数回ノックして自分の名を名乗る。

 

「秋月型駆逐艦、涼月です」

「入りたまえ」

 

静かに扉を開き、敬礼する。そこには白い軍服を身に纏った男達が、

長机に身を置いていた。

 

「噂はかねがね聞いていたが、

 まさか君の様な幼い少女が此処までの戦果を上げて来たとは」

「意見具申、よろしいでしょうか」

「君の聞きたいことは解っている。態々君を呼び寄せた理由、だろう?」

「はい」

 

ある男性が少しだけ溜息を吐く。

 

「君には呉から更に転属してもらいたい」

 

なるほどそれが横須賀まで読んだ本来の目的なのか。

しかし口が過ぎれば自分の首が飛びかねない。口を閉ざして私は指示を待つことにした。

 

「何、君にもっと戦ってくれと言う話ではない。

 むしろここまで良く戦ってくれたと我々も評価しているのだよ」

「ただ君ばかりに無理をさせているのではないかと懸念の声が上がってね。

 その為の転属だ」

「ですが私はまだ呉で……」

「だが一度沈めば取り返しのつかない艦娘、それもここまで活躍してくれた一個人を、

 我々としては失うわけにもいかないのでね」

 

気の利く人たちなのか、それともただのお節介なのか。

私の身を案じていってくれているのかは解らない。

そもそもこの人達が艦娘という存在をどれ程までに理解しているのかは解らない。

呉やトラックでは自由に動けた分、私は少し窮屈に思ってしまう。

それでも上からの命令であらば聴かざるを得ないのが軍人というものだ。

 

「解りました。駆逐艦涼月、大本営からの命とあらばそれに従います」

「いい返事だ。ではすぐに大湊警備府に向かってもらいたい」

 

大湊警備府。確か青森県の方にある警備府だ。授業で習ったからよく覚えている。

 

「行き方は先ほどの駆逐艦に伝えてあるから尋ねるといい。話は以上だ、下がりたまえ」

「はい。失礼致しました」

 

退室して一人私は部屋に戻る。

荷物置き場として利用しているだけであり、すぐに向かって欲しいとのことなので、

長居する必要はない。

私服に着替えて荷物を纏めそのまま玄関へと向かうと、

綾波さんがその長い髪を風に靡かせながら私を待っていた。

 

「お待ちしてました。涼月さん」

 

律儀に敬礼を飛ばしてくる彼女に敬礼で返す。

 

「横須賀駅まで車で案内しますので、まずはこちらへ」

「ありがとうございます」

 

律儀というか、礼儀正しいというか、

暖かな雰囲気をしているのにとてもしっかりした人だ。

車に乗り込んで目的地である横須賀駅に向かう。

 

「横須賀駅に着いた後はまず東京駅まで向かってください。

 その後東北新幹線で八戸駅に、そこから大湊駅に向かってください」

「解りました。片道はどれくらいかかりますか?」

「7時間ですね……向こうに付くのは日が落ちる頃になりそうです」

 

呉を出たのは朝方で、こちらに着いたのは昼である。

ここからさらに7時間となると流石に日没になりそうだ。

それだけではない。

大湊に転属が正式に決まった今、私は呉やトラックの艦娘達と切り離されてしまった。

そう思うと憂鬱になり、今までの疲れも相まってため息が漏れた。

 

「すみません。涼月さんの慰安のためとはいえここまで振り回してしまって」

「いえ、綾波さんが謝る事ではありませんよ。

 寧ろこういう事になるという予測を立てられなかった私の気の持ちようの問題です」

 

しかし自分で言いながらこのような事になると誰が予測出来る事であろうか。

大本営直々の転属など普通ではないのは承知している。

単純に大湊に向かわせるという目的でその中継地点として私を呼んだのだろうか。

考えれば謎が深まるばかり。

 

私はその何かに対して悩ませながらも、大湊へ向けて出発するのであった。




第二部(外伝)はっじまーるよー!(殴

というわけでだいぶ遅くなりました。
ここから外伝スタートになります。
毎日更新と言うわけにはいきませんが、温かい目で見守って頂けると幸いです。

プロットは全部出来てるんだ……!


サブタイ解説

『塞翁が馬』

人生の幸不幸は予測する事が出来ない。
幸福が不幸に、不幸が幸福に転ずるかは解らないから、
安易に喜んだり悲しんだりしてはいけないという意味。
『人間万事塞翁が馬』という場合もある。

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