艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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呉鎮守府で見つかった誰かの書記


とある艦娘の書記

某月某日

 

 

深海棲艦とは何か、艦娘とは何か。

それは誰にも解らない事です。

 

これらを探求するということは何故宇宙は生まれたのか、

何故人類はここまで進化する事が出来たのかという、超自然的現象と言える事象に、

科学や論理と言った所謂『人間にとって解りやすい理由付け』をするのと同じ事です。

今でも相変わらず論者や科学者はそう言った書籍を出版しています。

 

しかし私はある方から教わりました。

理由などいらない。そこにある物をあるがままに受け止めて初めて幸せになるのだと。

私も思います。出ない答えを追い求めるのは良いことかもしれないが、

それが過ぎると毒になり自分を蝕むのだと。

特に世界に対する問いかけはその世界に住まう人々を毒で犯し、

やがて世界さえも疲労させてしまうのではないかと思います。

 

ですから私は、自らの考えを自らがしっかり持つ意志の強い人が、

人々に必要なのだと思います。

自らの意見を発表することは悪ではありません。

ただその意見の相違によって発生する『事象』がまさに悪なのです。

 

なので私はこの意見をこの書記にまとめる事にしました。

これが誰かの目に入ったのであれば、

その人はただ参考程度か、何かを見た程度で止めて下さい。

これは私の、一人の艦娘の独り言なのですから。

 

 

私は、幾多の戦いを経て深海棲艦とは何かという物にぶつかって来たと思います。

否、自然とぶつからざるをえなかったのでしょう。

同じ海を渡り、同じ海で戦う私達と彼女達。同じ轟沈という物が死を意味する存在。

 

もしも私達艦娘が光なのだとすれば、彼女達は影なのかもしれません。

陰と陽。この世の理ともいえる事です。

対なる物があって初めて物事はその色を増すのですから。

 

私は、深海棲艦の声を聞きました。それは悲しみと憎しみに満ちた声。

その時は驚き恐怖して即座に撃破したのですが、今思えばあの出来事があったからこそ、

こういった見解を深められるのだと断言します。

 

彼女達は負の感情が憑依した存在。私達は正の感情が憑依した存在。

あの天城さんの例が解りやすいのだと思います。

とは言えどこれは最重要機密事項として、呉鎮守府の一部の人物のみの情報となるでしょう。

 

彼女達が高位の存在であればあるほど人の姿を模しているのか、

駆逐艦はともかく、軽巡・軽空母・潜水艦といった艦種は上半身と機械が合わさった形を取り、

雷巡・重巡・戦艦・空母・棲鬼・棲姫と呼ばれる存在は完全に人の姿を模しています。

 

それは人の抱く負の感情と喪われた艦の負の魂、つまり恐怖や憎悪や絶望が、

彼女達の元となっているからではないのでしょうか。

だからこそ人々に恐怖や絶望を与える為に海路を破壊し鎖国状態へと追いやり、

オカルトではなく科学にそって発展した現代兵装は太刀打ち出来なかった。

 

同じ人の抱く正の感情と喪われた艦の正の魂、つまり誇りや栄光や夢から生まれた、

我々の攻撃のみが有効だったのでしょう。

 

つまり私達の戦いは『過去の清算』なのかもしれません。

私達の負の感情を請け負った存在と向き合う事で、初めて我々が強くなるのかもしれません。

外見的な成長は見られない為、そうやって我々の魂が研ぎ澄まされて行くのでしょう。

それが、所謂練度と言うものなのかもしれません。

 

しかし先程既述したように、私達が光とすれば深海棲艦は影。

我々の光が強くなれば影は濃くなる。

逆にこちらが深海棲艦を全て殲滅すれば我々の『過去の清算』は果たされ、

元の少女達に戻るのかもしれません。

 

私には、まだまだ解らないことがたくさんあります。

ですがこういう事は自分なりの『決着』を付けておきたいのです。

私が艦娘故に。戦う理由を全て見失わない為にも。

 

私は、私を信じた人達と私の信じた物の為に戦い続けます。

私に希望を見た英霊達、私の希望であるあの人の為にも。

 

以前の夢に囚われていたように、

まだ見ぬ未来に恐怖して今生きる事を後悔することはしたくありませんから。





―――ここで手記は途絶えている―――

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